愛しのアリシア

京衛武百十

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ロボット探偵、アリシアの路地裏探検記

千堂アリシア、人質に取られる

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「ピュイッ! ピュイッ! ピュイッ!」

新京区の駅を出た途端、けたたましい警報音が辺りに鳴り響いた。緊急事態を告げるものだった。

でも、アリシアは慌てない。と言うのも、銀行強盗を想定した<防犯訓練>が行われるという情報は、駅に到着した時にはすでに得ていたからである。ただし、それに自分が組み込まれていて巻き込まれることになるというのは、もちろん知らされていない。

「動くな! おとなしくしろ!!」

銀行から出てきたいかにもな覆面姿の二人組に拳銃を突きつけられ、アリシアは捕らえられた。邪魔にならないように遠巻きに通り過ぎようとしていたにも関わらずだ。

『あ、そういうことですか』

これによりようやく、アリシアも、自分がこの訓練に組み込まれていたことを察する。

まあもっとも、本来、<要人警護仕様>と呼ばれる、要人をテロなどの犯罪から守るために特殊な仕様を与えられたアリシアにとっては、人間が使う拳銃など、それこそ子供の玩具おもちゃ以下のものでしかないが。なのでこれは、彼女の要人警護仕様メイトギアとしての能力を見るためのものではない。こういう咄嗟の事態にも<暴走>などを起こさないかというのを探るのが目的なのだ。

ロボットに課せられた大原則の中でも最も重要なものの一つに、

『決して人間を傷付けてはいけない』

というものがある。テロなどから要人を守るために<戦闘モード>と呼ばれるモードを起動することでその大原則を一時的に無効化できるものの、それもあくまで、

『保護対象の身体生命を守るため』

という大前提があってこその例外的な対応でしかなく、それ以外の場合にはたとえ自分が破壊されようとも人間を傷付けてはいけないのだ。それこそ、相手が犯罪者であっても。

そもそもロボットは、データは常にバックアップがとられ、もしボディが破壊されたとしてもバックアップデータを基に復旧することができるため、人間のように<死ぬ>ことがない。

その一方で、彼女、千堂アリシア(アリシア2234-LMN-UNIQUE000)は、<心|(のようなもの)>を持つ唯一無二の存在であり、再現は不可能と見られているが、それでも決して人間より優先されることはないのだ。

さりとて、要人警護仕様の彼女を、ただの強盗犯ごときが破壊などそうそうできるものでもないが。

なにしろ、至近距離から対物ライフルでも撃ち込まなければ、彼女の<装甲スキン>は破れない。ましてや生身の人間が使える程度の拳銃の弾丸などでは、傷も付かない。だから抵抗する必要さえないのである。

で、アリシアも、

「あ~れぇ~! お助けぇ~!」

と、つい、<おふざけ>に走ってしまった。これには、強盗役(実は所轄の警官)も、

「はあ?」

思わず呆気にとられる。

人質役としてメイトギアが派遣されることは聞かされていたものの、まさかメイトギアがそんな反応をするとは思っていなかったからだった。

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