愛しのアリシア

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
254 / 804
ロボット勇者、アリシアの電脳異世界冒険記

尻を叩かれなければ

しおりを挟む
あれほどアリシアに稽古をつけてもらっていたというのにあまりに不甲斐ない自分自身が悔しくて情けなくて、ナニーニは、

「えぐっ……えぐっ…!」

としゃくりあげて声を殺して泣いていた。けれど、アリシアはそんな彼女を叱責することもない。アリシアにはそんなことをする理由もないからだ。

代わりに、

「ナニーニ。悔しいと思うのでしたら、何が自分に足りなかったのかを考えてください。

ただ、一つ、申し上げておきます。今回の結果は、私から見れば当然のものでした。今のあなたに足りない部分があることが確認できたことは僥倖と言えます。ですから、今後は稽古の内容をさらに実戦に向いたものに変えていきましょう。

今回のことは、あなたに責任はありません。あくまで私の判断ミスです。とは言え、あなた自身にとっても大きな経験になったと思います。あなたに足りないものをあなた自身でもよく考え、意識してください」

とだけ告げた。

そんなアリシアに、ナニーニは、

「私は……! 私は……っ!」

涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら縋るように声を上げた。不甲斐ない自分を叱ってほしくて。

こういう時は、

『何をやってるんだ! もっと稽古に励め!!』

的に叱責されるものだと彼女は考えていた。叱ってくれないのは、自分に見込みがないからだと思ってしまった。見込みがないから叱る価値さえないと思われたのだと感じてしまったのである。

けれどそれはまったくの思い違いだった。アリシアは彼女を甘やかすために叱らなかったのでも、彼女の才能のなさに呆れたのでもなかった。これはむしろ<厳しさ>である。

『尻を叩かれなければ自覚もできないような者に<才能>などない』

ということだ。

ナニーニの<才能>は、確かに歴史に名を残す<英雄>となれるほどのものでないのは分かっている。元々そのように設定されているし、彼女のアルゴリズムの設計そのものを解析できるアリシアにとっては、『凡人の域を出ない』ものであることも分かってしまった。

しかしだからこそ、愚直なまでの努力が必要であり、尻を叩かれなければその努力ができないような者では到底成し遂げられるものではないのだ。

叱り飛ばさないのは、『優しい』からじゃない。これはナニーニ自身が自覚するべきことであり、自覚できないのなら早々に諦めるのが本人のためでもあるのだ。

ここでフィクションに出てくるような<熱血指導>や<しごき>をしてナニーニの人格を歪ませたとしても、本人に自覚がなければ芽は出ないし、芽が出なければただの<歪んだ人間>が出来上がってしまうだけである。

アリシアが引き継いだ歴代のメイトギア達が蓄えた膨大なデータは、それについても示していたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

処理中です...