愛しのアリシア

京衛武百十

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ロボット主任、アリシアの細腕奮戦記

千堂アリシア、ジョン・牧紫栗を憐れむ

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「なんだったんだ、あれ?」

「酔っ払いってヤだよね」

向こうが一方的に知っていただけのまったくの見ず知らずに絡まれることになったエリナ・バーンズの部下達が、眉を顰めて、警察に連れて行かれるジョン・牧紫栗まきしぐりの姿を見送った。

そして絡まれた当人のエリナと、彼女を庇うために立ち塞がった千堂アリシアは、共に悲しそうな表情をしていた。

決して牧紫栗のことを馬鹿にはせず、ただ上手く生きられない彼のことが憐れに思えただけだった。

そういう人物だからこそ今のJAPAN-2ジャパンセカンドでは才覚を活かすことができる。メイトギアによって対人関係をフォローしてもらっているとその情報は確実に残るので、査定の際に活用されるのだ。

その種の日常的なあれこれと、本人の実績とを勘案して評価がなされるということである。

しかしだからこそメイトギアを嫌う人間も中にはいる。メイトギアに監視されているような気がするからだろう。ジョン・牧紫栗もそういう人間の一人だった。

だが、これもまた人間の社会の現実。アリシアはそれも含めて改めて学んでいかなければいけない。

ただのロボットであれば<心>を持たないので、目の前の事象についてもただのデータとしか扱われない。牧紫栗のことも単に<反社会性が一定水準を上回っている要注意人物>としか認識しない。千堂アリシアのように悲しげに見ることもないし、憐れむこともない。

そういうものだった。

けれど、千堂アリシアは、人間であるエリナ・バーンズと同じく彼のことを憐れんでしまう。

だからこそ、こういう事態に遭遇した時に自分はどう対処するべきかを学ばねばならないということだ。

「千堂様を迎えないといけないので、私は会社に戻ります」

唐突な出来事からようやく気持ちを切り替えられたエリナ達に向かって、アリシアは頭を下げつつそう告げた。

「そう、じゃあ、千堂さんによろしくね」

エリナも笑顔で手を振った。千堂に対する自身の想いは想いとして抱きつつも、諍いの種にはしない。それを彼女はわきまえていた。

そのようなことをする人間を千堂は選ばないという現実を彼女も知っているのだろう。

世の中には、他人を口汚く罵っておきながらそんな自分を良く評価しない人間に対して悪感情を抱く者がいる。他人を罵るような行為が評価に値するとでも思っているのだろうか。

確かにその時の発言に同調する者もいるだろう。賞賛を浴びることもあるかもしれない。しかし、別の事例では、さっきまで同調し賞賛してくれていた者が手の平を返すのもよくある話だ。

人間の価値観はそれぞれ違う。すべてにおいて同調してくれる者など、世界中を探しても数えるほどしかいないだろう。

それが分からないから、他人を罵るような自分が評価されるべきなどという思い違いをするのかもしれない。

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