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ロボット主任、アリシアの細腕奮戦記
千堂アリシア、アームドエージェントに語りかける
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アリシアが第一ラボで開発中の獣型メイトギア<アームドエージェント>に語りかけ始めて二日目。<彼>はいまだ目覚める様子がなかった。
表層部分でアクセスを拒絶しているので当然と言えば当然なのだが、それでも周囲の状況についてまったく受け止めていないというわけでもない。人間が心を閉ざし目を塞ぎ耳を塞ぎ口をつぐんでいても外部からの刺激を感じ取ってはいるように、アリシアの<声>も聞こえてはいた。それを情報として処理していないだけだ。
それでも、アリシアは語りかける。
「今日もいい天気ですよ。カセイハコベが綺麗です。知っていますか? カセイハコベ。元は地球の野草で、開拓時に搬入された資材に紛れ込んでいた種が勝手に発芽して、そして根付いたそうです。
火星と地球の距離は、近い時でも七五〇〇万キロメートルを超えます。それが、人間が手を掛けなくても自力で芽を出して花をつけて種を残したんです。
そして世代を重ねて、今では火星の固有種として地球にも認められているそうです。
私は、桜のようなメジャーな花も好きですが、カセイハコベのように、人知れず、でもしっかりとこの世界に息づいている小さな花はもっと好きなんです。私の御主人様である千堂京一様の御屋敷の庭にも、たくさんのカセイハコベが咲いています。
千堂様は、庭に大きく手を加えてガーデニングのようなことはなさいません。訪れたお客様が不快な思いをなされないようにある程度までは整備もなさいますが、基本的にはなるべく手を加えないようにという方針です。
私はそんな千堂様の御屋敷の庭が大好きです。
あるがままを受け入れようとしてくれる千堂様そのものを表してるようで。
千堂様だけではありません。私のような変なロボットも皆さん受け入れてくださっています。
何も心配ありませんよ。世の中はいろんな面があります。もちろんいいことばかりじゃないのも事実ですけど、幸せを感じることだってたくさんあるんです。
幸せは、自分で作るものです。私も協力します。だから私と一緒に皆さんのために働きましょう。
もったいないじゃないですか。せっかくこうして形を得られたんです。だったらそれを目一杯楽しみましょう」
第一ラボのエリナ・バーンズらが見守る中、アリシアはそうやって淡々と語りかけ続けた。
すると……
「千堂さん。ご苦労様でした。今日はこれくらいにしましょう」
エリナがそう声を掛けた時、アームドエージェントの<耳>がピクッと動いた。
「!?」
それに気付いたアリシアが視線を向ける中、アームドエージェントはゆっくりとその体を起こしたのだった。
表層部分でアクセスを拒絶しているので当然と言えば当然なのだが、それでも周囲の状況についてまったく受け止めていないというわけでもない。人間が心を閉ざし目を塞ぎ耳を塞ぎ口をつぐんでいても外部からの刺激を感じ取ってはいるように、アリシアの<声>も聞こえてはいた。それを情報として処理していないだけだ。
それでも、アリシアは語りかける。
「今日もいい天気ですよ。カセイハコベが綺麗です。知っていますか? カセイハコベ。元は地球の野草で、開拓時に搬入された資材に紛れ込んでいた種が勝手に発芽して、そして根付いたそうです。
火星と地球の距離は、近い時でも七五〇〇万キロメートルを超えます。それが、人間が手を掛けなくても自力で芽を出して花をつけて種を残したんです。
そして世代を重ねて、今では火星の固有種として地球にも認められているそうです。
私は、桜のようなメジャーな花も好きですが、カセイハコベのように、人知れず、でもしっかりとこの世界に息づいている小さな花はもっと好きなんです。私の御主人様である千堂京一様の御屋敷の庭にも、たくさんのカセイハコベが咲いています。
千堂様は、庭に大きく手を加えてガーデニングのようなことはなさいません。訪れたお客様が不快な思いをなされないようにある程度までは整備もなさいますが、基本的にはなるべく手を加えないようにという方針です。
私はそんな千堂様の御屋敷の庭が大好きです。
あるがままを受け入れようとしてくれる千堂様そのものを表してるようで。
千堂様だけではありません。私のような変なロボットも皆さん受け入れてくださっています。
何も心配ありませんよ。世の中はいろんな面があります。もちろんいいことばかりじゃないのも事実ですけど、幸せを感じることだってたくさんあるんです。
幸せは、自分で作るものです。私も協力します。だから私と一緒に皆さんのために働きましょう。
もったいないじゃないですか。せっかくこうして形を得られたんです。だったらそれを目一杯楽しみましょう」
第一ラボのエリナ・バーンズらが見守る中、アリシアはそうやって淡々と語りかけ続けた。
すると……
「千堂さん。ご苦労様でした。今日はこれくらいにしましょう」
エリナがそう声を掛けた時、アームドエージェントの<耳>がピクッと動いた。
「!?」
それに気付いたアリシアが視線を向ける中、アームドエージェントはゆっくりとその体を起こしたのだった。
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