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第六幕

ビジネスパーソンとしての手腕

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僕は、<ビジネスパーソンとしての手腕>は決して優れていない。そもそも今の外見じゃ、成人とは思ってもらえないだろうからね。だから、人間の法の外で利益を得る形になってしまう。だけどこれはあくまで、僕が人間の法の外の存在である<吸血鬼>だからという前提があってのことだけど。

人間の法律では守ってもらえないから自分で何とかするしかない。何度も言うことだけど結局そうなんだよね。

ただしこれは人間の場合、

『法律を守らない者は法律で守ってもらえない』

ということでもある。

よく、

『犯罪者にも人権はある』

とは言われるけど、これはもう本当に最低限の、<人間としての権利>であって、例えば刑務所にでも入れられればもう本来の権利の多くは制限されていて、まったく『守られて』なんかいないんだよ。本来守られるべきところが大きく損なわれている。

けれどそこについては、犯罪という形で他者の権利を蔑ろにしたわけだから、<当然の報い>だよね。

僕も報いがあること自体を否定するつもりはないんだ。

これについては普段、『法によって守られている』ことの代償だからね。

それでも敢えて人間のやり方により寄せて行こうとする吸血鬼もいる。サンドラはかつて、<エイスネ>という名前の人間だったから余計に人間としての在り方を意識してしまうのかもしれない。

だけどやっぱり人間とまったく同じように生きることはできないから、何度も名前を変えて、偽の身分を作って、その上で、

<偽の人間としての人生>

を送るんだ。今日はそこに至るまでの経験についてイゴールに語ってもらうことになる。

そうして彼女に招き入れられた応接室は、重要な商談などを話すこともあるからということで、防音仕様かつ内側から鍵が掛けられるようになっているようだ。

たださすがに、今回の客は<子供>だからそこまで用心するというのはかえって不自然だし、鍵は掛けずにそのままで話をすることになる。

たとえ部屋の外で聞き耳を立てられても僕達にはその気配が分かってしまうからね。近付いてきただけでも察知することはできる。

となれば盗み聞きされることもない。そしてもし僕達の話を盗み聞きできるような者がいたとしても、それは同じ吸血鬼だから、心配する必要もない。

だけどその上でサンドラは、

「ちゃんと人払いはしてあるから、気楽にしててくれていい」

言いながら冷蔵庫を開けて、

「ドリンクは何がいいかな? さすがにここには全血パックは置いてないが、牛乳ならあるよ」

僕達に尋ねてくれたのだった。

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