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第六幕

ヘルメス

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十三歳になったヘレナは、見た目こそ成長しているような印象もありつつも、必要以上のことは口にせず、笑わず、泣かず、いつも冷たい視線で前を見据えているだけの、いわゆる<可愛げ>というものを欠片も持たないまま大きくなっていた、

けれど父親のライリーは、そんな娘をむしろ頼もしく思っていたようだ。それこそ冷淡に与えられた役目は確実にこなしてくれるのだから。

「ヘレナ、お前は本当に素晴らしい娘だ。お父さんにとってお前は誇りだよ。きっと母さんも天国でお前の活躍を喜んでくれている」

と褒め称え、労った。

わずか十三歳の子供がすでに十数人もの人間の命を奪い、血に塗れてしまったことさえ考えることもなく。その意味に気付くこともなく。

そんなヘレナの活躍により、<反魔女狩り派>の活動を支援していた商人は大変な勢いで力を伸ばしたものの、当然、それを快く思わない者達もいた。そしてその商人に敵対していた者達の不自然な死についてももちろん疑問を抱き、力を合わせてその解明に乗り出したのである。

「よく来てくれた、ヘルメス」

魔女狩りを推進し疫病を根絶、社会の平穏を願うある貴族の前に現れたのは、<雄弁と計略の神>であり<商人の神>としても知られる青年神の名を冠された男だった。

身長百八十五センチ強。かっちりとした印象のスーツを着こなし、痩躯のようにも見えつつも身のこなしはまるでネコ科の大型獣のような隙のなさを感じさせるその男は、美麗と言っていい容姿をしつつも、若いのかそれともある程度は年齢がいっているのかも判然としない不思議な気配を放ってもいた。それでいて、

「ご依頼とあらば、どこへでも参ります」

柔和な笑顔を浮かべながら手を差し出し、しっかりと握手を交わす。

そうして貴族とヘルメスは共にソファーに腰を掛け、本題へと移った。

「……というわけで、君には今回の不審な死の真相を解明してもらいたい」

貴族から概要を告げられ、依頼の内容を確認し、ヘルメスは、

「なるほど、それは看過できない事態ですね」

何かを思案しつつそう口にした。その上で、

「分かりました。この依頼、私にお任せください、必ずや謎を解き明かし、不逞の輩に誅を下してみせましょう」

と不敵な笑みを浮かべて告げ、すっと立ち上がる。それがまた美しいまでの所作であり、貴族はそんなヘルメスに見惚れながらも、

「おお、それはありがたい。よろしく頼む。神に背く行いに神罰が下ることを強く期待する……!」

声を上げたのだった。

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