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第六幕

その後のことも

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「……ということがあったんだよ」

ホテルの一室で寛ぎながら、セルゲイはイゴールに語って聞かせた。セルゲイ自身が経験し、見てきたこと耳にしてきたことを。

そう、<医師エルビス>は、当時のセルゲイが公的に名乗っていた名前であり身分である。医師としてアイルランドに渡り、仲間と共に救援活動を行っていたのがエルビスなのだ。

「それで、エイスネって子と、エドマンドはどうなったんだ……?」

イゴールとしては当然、その後のことも気になったのだろう。これに対してセルゲイは、

「エイスネは今でも、ここアイルランドで暮らしているよ。今は確か雑貨屋をやっていたはずだ。人間よりもずっとゆっくり歳を取るから今でもまだ三十代くらいにしか見えないけれど、長く一所ひとところにいられないからね。場所を転々と移しながらも小さな店などを始めて、それが軌道に乗ったところで売って、それで収入を得ている。今では立派な淑女だ」

と応え、さらに、

「一方、エドマンドは、先にも触れた<森の中で土に埋もれて生きている吸血鬼>となった。メアリーと共にね」

とも付け足す。

「マジか……」

まさかの結末に、イゴールが言葉を失う。エドマンドは話の流れ的に分からなくもないものの、メアリーも一緒とは。

「エドマンドとメアリーは、見た目こそ親子のようでありつつも、幼い頃は一緒の村で過ごした仲で、決して不仲だったわけじゃない。再開してお互いをより知ることで距離が縮まっていったんだろう。そしてエドマンドは人間と関わることを避けて森に入り、メアリーもそれについていった。メアリー自身、いろいろ思うところもあったようだ」

それを耳にして、今度は、

「じゃあ、メイヴは? ドロレスは?」

話の中で出てきた名前を口にする。

これに対してもセルゲイは淡々と、

「ドロレスは普通の人間だったからね。その後も看護師としてヨーロッパ中を転々として、九十歳でノルウェーで家族に看取られながら生涯を終えたと聞いている。そしてメイヴは……」

そこまで言ったところで、コンコンと部屋のドアがノックされた。食事のデリバリーサービスだった。

僕がドアを開けると、

「ご注文の品、お届けに上がりました」

と、女性のスタッフが丁寧に挨拶をしつつ、食事を載せたワゴンを押して部屋に入ってきた。それを見たセルゲイが、

「やあ、メイヴ、久しぶりだね」

手を上げながら声を掛けた。それに対して女性も、

「久しぶりね、エルビス…じゃなかった、今はセルゲイか」

笑顔を浮かべたんだ。

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