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第六幕

怖い夢

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「おはよう、エイスネ」

「ママ……?」

目が覚めたエイスネは、自分を覗き込んでいたのが母親だと気付いてハッとなった。呆然と自分を見つめる娘に、母親は、

「どうしたの? そんな顔して。怖い夢でも見た?」

尋ねると、エイスネも、

「あ……うん、すっごい怖い夢だった……」

思わずそう応える。いや、そう思った。自分は悪夢を見ていたのだと。こちらが現実なのだと。

「まあ、可哀想に。でも、大丈夫。それは夢だから、本当のことじゃないから」

母親に優しく声を掛けられて、ホッとする。その上で、

『だよね……あんなのがホントのわけないよね……』

改めて自分に言い聞かせた。と言っても、夢の内容のほとんどは覚えていなかったが。覚えていないものの、本当に悲しくてつらくて苦しくて恐ろしい夢だったというのだけは分かった。

でも、<夢>なのだ。ただの悪い夢。

「うん、そうだよね。ありがとう、ママ」

言いながら体を起こす。夢なんかに構っていられない。今日も仕事はたくさんあるのだから。

エイスネは働き者の子供だった。家は貧しい小作農だったが、母親も父親も働き者で、朝早くから日暮れまで毎日毎日休むことなく働き続けていた。そんな両親を見ていたから彼女もそれを普通のことだと思っていた。何も不自然だとは思わなかった。

「おはよう、パパ。ごめんなさい、寝坊しちゃった」

「おう、待ってたぞ。ねぼすけ。今日もバリバリ働くぞ」

畑に出て父親ともそう言葉を交わす。いつもと変わらない光景。そう。それが現実なのだ。現実のはずなのだ。

「……」

何とも言えない違和感も覚えるものの、エイスネは頭を振ってそれを追い払おうとした。

「どうした?」

彼女の奇妙な振る舞いに、父親が問い掛けてくる。けれどエイスネ自身、自分がなぜそんな違和感を覚えているのかが理解できなくて、

「あ、うん。大丈夫。まだちょっと眠かっただけ」

そう誤魔化す。いや、そうとしか答えられなかったと言った方がいいだろうか。とにかく彼女自身にも分からないのだから。まだ寝惚けているのかもしれないとエイスネ自身が思ってしまったのだから。

それでも、日々の仕事は待ってくれない。少しサボればたちまち畑は荒れてしまって収穫が落ちる。そういう仕事なのだ。まだ子供と言ってもいい年齢のエイスネにもそれは分かっている。となれば、あれこれ考える前に体を動かさなければいけない。

なのに、畑仕事を始めようとした彼女が改めて両親に振り返った時、そこにいたのは変わり果てて地面に横たわった二人の姿だった。

「ママ…!? パパ……!?」

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