上 下
622 / 697
第六幕

比較のしようがない

しおりを挟む
確かにエドマンドは、ここ数年、非常に偏った食事と過酷な農作業を続けていたことで体調が<普通>だったことがなかった。だから今、ヴァンパイアになってしまったことで非常に体調がいい感じがしていても、本来の自分の調子がどんなものであったのかが思い出せないので、比較のしようがないのだ。

その点、メアリーの方は、地下に閉じ込められてはいたものの、基本的には快適な部屋で食事もきちんと食べられていたことで体調がよくなり、それに比較する形で自身の変化を感じ取れてしまったのである。

「まあとにかく、二ヶ月くらいした頃にそうやって自分がヴァンパイアになっちゃったのに気付いたんだ。だけどそうしたら今度は私で実験してたヴァンパイアが来なくなっちゃってさ。だから当然、地下に閉じ込められたままで食事ももらえなくなって。三日目くらいに『これはヤバい』って思って、逃げようと思ったんだ。そしたら、それまではびくともしなかった上に出る扉を自分で開けられたんだよ。ヴァンパイアになったことですごい力を出せるようになったんだよね」

肩を竦めて『やれやれ』という感じでそう言った彼女に、エドマンドも、

「そうなんだ……」

唖然とした様子で口にする。その上で、

「でも、大丈夫だったのか? 他に見張りとかは?」

疑問を投げ掛けた。それに対しては、

「誰もいなかったよ。それまではヴァンパイア以外にも誰かいるような気配はあったけど、そっちもなくなってた。結果が出たから用なしになったってことかもね。で、そこに他のヴァンパイアがやってきてさ」

また腕を組んで憮然とした様子に。

「そいつの仲間か?」

「ううん、違う。逆に私を助けに来てくれたんだ。私をヴァンパイアにしたそいつはさ、他のヴァンパイアにとっても厄介者で、追われてたみたい。で、そん時に、私を買った貴族がヴァンパイアに殺されたってのも知った。たぶん、他のヴァンパイアに目を付けられたから消されたってことだろうね」

「それはまあ、自業自得だよな」

「そん時の私は、貴族に売られたことで親も恨んでたしさ、家に帰る気にもなれなくて、私を助けに来たヴァンパイアと行動を共にすることになった」

そこまでやり取りしたところでメアリーは険しい表情になり、

「でも、そこで助けられてなかったら、私はたぶん、ヴァンパイアハンターに殺されてたってさ」

と。その様子にエドマンドもギョッとなって、

「ヴァンパイアハンターって、ヴァンパイアを殺す奴ってことか……?」

恐る恐る尋ねたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘灯の思いつき短編集

甘灯
キャラ文芸
 作者の思いつきで書き上げている短編集です。 (現在16作品を掲載しております)                              ※本編は現実世界が舞台になっていることがありますが、あくまで架空のお話です。フィクションとして楽しんでくださると幸いです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

はじまりはいつもラブオール

フジノシキ
キャラ文芸
ごく平凡な卓球少女だった鈴原柚乃は、ある日カットマンという珍しい守備的な戦術の美しさに魅せられる。 高校で運命的な再会を果たした柚乃は、仲間と共に休部状態だった卓球部を復活させる。 ライバルとの出会いや高校での試合を通じ、柚乃はあの日魅せられた卓球を目指していく。 主人公たちの高校部活動青春ものです。 日常パートは人物たちの掛け合いを中心に、 卓球パートは卓球初心者の方にわかりやすく、経験者の方には戦術などを楽しんでいただけるようにしています。 pixivにも投稿しています。

宵風通り おもひで食堂

月ヶ瀬 杏
キャラ文芸
瑠璃色の空に辺りが包まれた宵の頃。 風のささやきに振り向いた先の通りに、人知れずそっと、その店はあるという。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

毒小町、宮中にめぐり逢ふ

鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。 生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。 しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

処理中です...