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第六幕

クラン

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<クラン>

エルビスが口にしたそれは、彼らの間でのいわば暗号だった。スコットランドでの<一族>や<一門>といったニュアンスの<clan>という単語をあてはめたものである。ヴァンパイアにとっても<眷属>というものに正式な呼称はなく、地域によって様々な呼び方がされていたという。

しかもかつては<奴隷>というニュアンスが強かったようだ。だからそのまま<奴隷>を意味する言葉で呼ばれていたこともあったとも。

しかしエルビス達はあくまで、後天的な形ではあっても自分達の親族であるというニュアンスで<クラン>と仮称していた。

だがその辺りの背景はエドマンドには関係ないだろう。彼にとっては自分がヴァンパイアになってしまったという事実だけが問題なのだ。

「でも、ヴァンパイアって日の光に当たったら灰になって死んじまうんじゃないのか?」

もっともなことを口にする。その彼にもマフラー代わりの布と鍔広の麦わら帽子が渡され身に着けていた。それに対してメアリーは、

「そんなものは人間が勝手に想像して面白おかしく作り上げた<おとぎ話>だっての。確かに強い太陽の光を浴びてると少なからずダメージを受けるし、一日中浴びてると大火傷みたいな有様にもなるけど、めったに死んだりしない。夜になれば回復するしね。だからこうやって直接日の光を浴びないようにすれば問題ない」

エドマンドと共に荷馬車の荷台に座ってやはり腕を組んだまま、憮然とした様子で応えた。

「そうなのか?」

彼女の言葉だけでは納得できずにエルビスにも問い掛けるものの、

「そうだね。彼女の言うとおりだ」

とのこと。そして実際、その通りだった。ただ、エドマンドにはまた他にも腑に落ちないことが。

「それにしてもメアリー、お前はなんであそこにいたんだ? なんか仕事してる様子でもねえのに」

素直な問い掛けだった。彼の言うとおり、メアリーは特段、救護活動をするでもなく、ただエドマンドに悪態を吐いていただけだ。今も、荷台に寝かされた者達の看護をする様子もない。これに対して、

「もしかして、自分の故郷の村がどうなってるのか見に来ただけか?」

ふと思ったことを口にする。すると彼女は、ギリッと歯を嚙み鳴らして、

「ああそうよ。悪い?」

これまでで最も不機嫌そうに口にした。その彼女に、エドマンドは、

「お前の親なら、お前が村からいなくなってすぐに出ていったぞ。どこに行ったかは知らない。お前を売った金で街に家を買ったとかそんな話もあったけどよ、家なんか買えるような金じゃねえって話もあったし……」

告げたのだった。

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