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第六幕
あなたと同じ身の上だよ
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その建物の周りにいた関係者達は、ドロレスとエルビスが連れている少女を見ると、
「どうぞ」
と何も問い掛けることさえなく中へと促した。そして三人が建物に入ると、そこには、粗末な身なりの者が二人、それぞれ会話をするでもなく項垂れたまま椅子に座っていて、ちらりとわずかに視線を向けただけだ。
二人は、中年男性と、エイスネよりは歳は上だろうがまだ成人とは言い難い若い女性だった。
「……」
エイスネはそんな二人の重苦しい様子に怯えたように、エルビスの後ろに隠れてしまう。
するとドロレスが、
「この人達もあなたと同じ身の上だよ。だから今は顔を上げることができない。それを理解してあげてほしい」
諭すように口にした。
「……」
そう言われてもエイスネにはすぐには納得できなかったようだが、それについてはドロレスもわきまえたもののようだ。感情的になったりもしない。
『あなたと同じ身の上だよ』ということは、まさしくエイスネと変わらない状況にいたということなのだろう。そのような者が陽気に朗らかに振る舞えるはずもない。
「ここに座るといい」
エルビスがエスコートし、彼女を椅子に座らせる。
そこに、
「これ、どうぞ」
スタッフらしきエプロンを着けた女性がスープを差し出してくれた。けれどそれはほとんど具のない透き通ったものだった。これは、決して具をケチったとかいうものではない。エイスネが経験したであろう状況を承知しているからこそのものである。特に肉は避けている。
「……」
だから彼女もそのスープを口にすることができた。ここで肉などが入ったそれなど出されていたらまた嘔吐していたりしたかもしれない。具のほとんどない透明なスープだからこそだっただろう。
透明ではあってもさまざまな栄養素が溶け込んだものの上澄み部分なので、味はしっかりとついているし、胃に負担もかけずに最低限の栄養は摂取できるという考えられたものであった。
そうしてエイスネもスープを飲み切る。その彼女が飲んだものと同じスープをエルビスも口にしていた。
スープを飲んだエイスネは、幾分かホッとした様子だった。多少、顔色も良くなったように見える。それなのに、
「う……ううぅ……」
また嗚咽を漏らし始める。肩を震わせ涙がこぼれ落ちていく。
「パパ……ママ……」
両親のことを思い出してたまらなくなってしまったのだろう。無理もない。
だからエルビスも、敢えて何も言わなかった。
すでに一度、詭弁で気持ちを切り替えさせている。今はもう、言葉で慰める段階ではないということなのかもしれない。
「どうぞ」
と何も問い掛けることさえなく中へと促した。そして三人が建物に入ると、そこには、粗末な身なりの者が二人、それぞれ会話をするでもなく項垂れたまま椅子に座っていて、ちらりとわずかに視線を向けただけだ。
二人は、中年男性と、エイスネよりは歳は上だろうがまだ成人とは言い難い若い女性だった。
「……」
エイスネはそんな二人の重苦しい様子に怯えたように、エルビスの後ろに隠れてしまう。
するとドロレスが、
「この人達もあなたと同じ身の上だよ。だから今は顔を上げることができない。それを理解してあげてほしい」
諭すように口にした。
「……」
そう言われてもエイスネにはすぐには納得できなかったようだが、それについてはドロレスもわきまえたもののようだ。感情的になったりもしない。
『あなたと同じ身の上だよ』ということは、まさしくエイスネと変わらない状況にいたということなのだろう。そのような者が陽気に朗らかに振る舞えるはずもない。
「ここに座るといい」
エルビスがエスコートし、彼女を椅子に座らせる。
そこに、
「これ、どうぞ」
スタッフらしきエプロンを着けた女性がスープを差し出してくれた。けれどそれはほとんど具のない透き通ったものだった。これは、決して具をケチったとかいうものではない。エイスネが経験したであろう状況を承知しているからこそのものである。特に肉は避けている。
「……」
だから彼女もそのスープを口にすることができた。ここで肉などが入ったそれなど出されていたらまた嘔吐していたりしたかもしれない。具のほとんどない透明なスープだからこそだっただろう。
透明ではあってもさまざまな栄養素が溶け込んだものの上澄み部分なので、味はしっかりとついているし、胃に負担もかけずに最低限の栄養は摂取できるという考えられたものであった。
そうしてエイスネもスープを飲み切る。その彼女が飲んだものと同じスープをエルビスも口にしていた。
スープを飲んだエイスネは、幾分かホッとした様子だった。多少、顔色も良くなったように見える。それなのに、
「う……ううぅ……」
また嗚咽を漏らし始める。肩を震わせ涙がこぼれ落ちていく。
「パパ……ママ……」
両親のことを思い出してたまらなくなってしまったのだろう。無理もない。
だからエルビスも、敢えて何も言わなかった。
すでに一度、詭弁で気持ちを切り替えさせている。今はもう、言葉で慰める段階ではないということなのかもしれない。
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