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第六幕
診療所
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「君の名前を訊いてもいいかい?」
少女を伴って家から出ると、エルビスは改めてそう問い掛けた。それに対して彼女は、顔を上げることなく、
「エイスネ……」
呟くように応える。
「エイスネか。私はエルビス。アメリカ合衆国から来た医師だ。もっとも、医師になったのはヨーロッパに渡ってからだけどね」
穏やかに自己紹介した彼に、エイスネは俯いたままだった。そんな彼女に対しても彼は柔和な態度を崩さず、
「まずは診療所に向かおう。君の家族については改めて弔うことになる」
と告げた。これもまた、数多くの悲劇を目の当たりにしてきたがゆえのそれだっただろう。ここで感情的になっても誰も救われない。
そうしてエルビスは自身が乗ってきた馬に彼女と一緒に跨り、まずは仲間達が準備している診療所がある町へと戻った。
そこでは、まだ準備も終えていないというのに診療を希望する者達ですでに溢れかえっていた。しかもそのほとんどは最下層と言っていい貧しい者達だった。普通の医者にはかかれないからだ。
とは言え、疾病の原因は極度の栄養失調によるものであるのが明白で、<治療>など結局は栄養のあるものを摂取する他にない状態だった。なので、診療所の脇で<炊き出し>も行う。診療よりもそちらを目当てにしている者も多いだろう。
「エルビス!」
集まってくる者達の整理をしていた女性が、馬に乗った彼を見て声を上げる。
「ここをお願い」
他のスタッフにそう声を掛けてエルビスの方に駆け寄り、
「どうだった?」
問い掛けた。けれどエルビスは、馬から下りて沈痛な面持ちで首を横に振り、
「完全に壊滅していた。生存者はこの子だけだ……」
エイスネを抱き下ろしつつ告げる。すると女性の方も、
「そう……でも、たとえ一人でも生存者がいたのは喜ぶべきね」
悲し気に微笑みながら、
「私はドロレス。エスパーニャから来たの。あなた、お名前は?」
その場に膝をついて視線を合わせる。これにエイスネも、
「エイスネ……」
少し怯えた様子ながらも自分で応えられた。そこに、
「この子は僕のクランだ」
エルビスが口にすると、ドロレスと名乗った女性は、
「分かった。じゃあ<V>ね。準備はできてる。こっちよ」
すべて察したように立ち上がり、歩き出す。それにエイスネを伴ったエルビスが続く。
ドロレスが案内したのは、多くの診療希望者が集まっていたのとは別の、少し離れたところにあった建物だった。そこにも何人かの人間が集まっている。しかし皆、関係者のようであった。
少女を伴って家から出ると、エルビスは改めてそう問い掛けた。それに対して彼女は、顔を上げることなく、
「エイスネ……」
呟くように応える。
「エイスネか。私はエルビス。アメリカ合衆国から来た医師だ。もっとも、医師になったのはヨーロッパに渡ってからだけどね」
穏やかに自己紹介した彼に、エイスネは俯いたままだった。そんな彼女に対しても彼は柔和な態度を崩さず、
「まずは診療所に向かおう。君の家族については改めて弔うことになる」
と告げた。これもまた、数多くの悲劇を目の当たりにしてきたがゆえのそれだっただろう。ここで感情的になっても誰も救われない。
そうしてエルビスは自身が乗ってきた馬に彼女と一緒に跨り、まずは仲間達が準備している診療所がある町へと戻った。
そこでは、まだ準備も終えていないというのに診療を希望する者達ですでに溢れかえっていた。しかもそのほとんどは最下層と言っていい貧しい者達だった。普通の医者にはかかれないからだ。
とは言え、疾病の原因は極度の栄養失調によるものであるのが明白で、<治療>など結局は栄養のあるものを摂取する他にない状態だった。なので、診療所の脇で<炊き出し>も行う。診療よりもそちらを目当てにしている者も多いだろう。
「エルビス!」
集まってくる者達の整理をしていた女性が、馬に乗った彼を見て声を上げる。
「ここをお願い」
他のスタッフにそう声を掛けてエルビスの方に駆け寄り、
「どうだった?」
問い掛けた。けれどエルビスは、馬から下りて沈痛な面持ちで首を横に振り、
「完全に壊滅していた。生存者はこの子だけだ……」
エイスネを抱き下ろしつつ告げる。すると女性の方も、
「そう……でも、たとえ一人でも生存者がいたのは喜ぶべきね」
悲し気に微笑みながら、
「私はドロレス。エスパーニャから来たの。あなた、お名前は?」
その場に膝をついて視線を合わせる。これにエイスネも、
「エイスネ……」
少し怯えた様子ながらも自分で応えられた。そこに、
「この子は僕のクランだ」
エルビスが口にすると、ドロレスと名乗った女性は、
「分かった。じゃあ<V>ね。準備はできてる。こっちよ」
すべて察したように立ち上がり、歩き出す。それにエイスネを伴ったエルビスが続く。
ドロレスが案内したのは、多くの診療希望者が集まっていたのとは別の、少し離れたところにあった建物だった。そこにも何人かの人間が集まっている。しかし皆、関係者のようであった。
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