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第四幕
日本へ
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そして僕達は西ヨーロッパ各地を巡り、改めて、
『人間の価値観はすべてが一致するわけじゃない』
という事実に触れて、日本への帰路に就いた。
新たな<身元>と共に。
人間の感覚からすればまったく成長していない僕達が、半年前と同じ<人物>だとおかしいからね。
もっともそれはあくまで日本に入国するために用意する<偽りの身元>。入国してからの管理は互助組織に任せることになる。次に日本を発つ半年後までを。
こういうシステムが作られたことで、ずいぶんと移動や滞在が楽になった。
「椿は大きくなったみたいだね」
「そうね。カメラ越しだとどうしても実感しにくいけど」
日本に向かう機内で、悠里と安和がそんなことを口にする。でもその時、
「おい! エンジンから煙出てないか……!」
誰かが窓の外を見ながらそう声を上げた。すると乗客達が一斉に窓の外を見る。しかも反対側の席に座っていた乗客まで立ち上がってそちらへ移動して。
「お客様、どうか落ち着いてください。現在、状況を確認中です。席に戻り、機長からの説明があるまでお待ちください」
キャビンアテンダントが告げる。確かに、飛行機の中ではできることは何もない。大人数が一度に畿内を移動するとバランスが崩れ操縦の感覚が変わってしまうことさえあるそうだ。だからかえって状況を悪くすることさえあるだろう。無事に着陸できる可能性を高めるためにもむしろ何もしないことの方が大事だったりするんだ。
もっとも、そうやって落ち着いていられるのは、僕達が<吸血鬼>だからというのもあるけれど。
吸血鬼は飛行機事故程度ではまず死なない。高度一万メートルで空中分解し放り出されても、そのまま地面に叩きつけられても、肉体は破壊されても死んでしまうことはない。地球の大気圏内での落下速度は、一般的な人間の体だと、最も空気抵抗が少ない状態、つまり頭や足を真下にして落ちたとしても、空気抵抗があることで時速三百キロ程度。それで地上に衝突したくらいでは吸血鬼は死なない。
ましてや、スカイダイバーが行っているような腹這いの状態なら時速二百キロ程度、空気抵抗の大きい格好をしていればそれこそ時速百キロ程度まで落ちることもあるそうだから、何事もなかったかのように地上に降り立つ吸血鬼さえいるだろう。
正直、僕やセルゲイなら、それすら可能だと思う。飛行機から落ちたことはまだないけど、時速百キロを大きく超えた列車から飛び降りたことはあるからね。
「大丈夫、なるようになるし、なるようにしかならない」
さすがに少し不安そうにしてる悠里と安和に、僕は穏やかにそう声を掛けたのだった。
『人間の価値観はすべてが一致するわけじゃない』
という事実に触れて、日本への帰路に就いた。
新たな<身元>と共に。
人間の感覚からすればまったく成長していない僕達が、半年前と同じ<人物>だとおかしいからね。
もっともそれはあくまで日本に入国するために用意する<偽りの身元>。入国してからの管理は互助組織に任せることになる。次に日本を発つ半年後までを。
こういうシステムが作られたことで、ずいぶんと移動や滞在が楽になった。
「椿は大きくなったみたいだね」
「そうね。カメラ越しだとどうしても実感しにくいけど」
日本に向かう機内で、悠里と安和がそんなことを口にする。でもその時、
「おい! エンジンから煙出てないか……!」
誰かが窓の外を見ながらそう声を上げた。すると乗客達が一斉に窓の外を見る。しかも反対側の席に座っていた乗客まで立ち上がってそちらへ移動して。
「お客様、どうか落ち着いてください。現在、状況を確認中です。席に戻り、機長からの説明があるまでお待ちください」
キャビンアテンダントが告げる。確かに、飛行機の中ではできることは何もない。大人数が一度に畿内を移動するとバランスが崩れ操縦の感覚が変わってしまうことさえあるそうだ。だからかえって状況を悪くすることさえあるだろう。無事に着陸できる可能性を高めるためにもむしろ何もしないことの方が大事だったりするんだ。
もっとも、そうやって落ち着いていられるのは、僕達が<吸血鬼>だからというのもあるけれど。
吸血鬼は飛行機事故程度ではまず死なない。高度一万メートルで空中分解し放り出されても、そのまま地面に叩きつけられても、肉体は破壊されても死んでしまうことはない。地球の大気圏内での落下速度は、一般的な人間の体だと、最も空気抵抗が少ない状態、つまり頭や足を真下にして落ちたとしても、空気抵抗があることで時速三百キロ程度。それで地上に衝突したくらいでは吸血鬼は死なない。
ましてや、スカイダイバーが行っているような腹這いの状態なら時速二百キロ程度、空気抵抗の大きい格好をしていればそれこそ時速百キロ程度まで落ちることもあるそうだから、何事もなかったかのように地上に降り立つ吸血鬼さえいるだろう。
正直、僕やセルゲイなら、それすら可能だと思う。飛行機から落ちたことはまだないけど、時速百キロを大きく超えた列車から飛び降りたことはあるからね。
「大丈夫、なるようになるし、なるようにしかならない」
さすがに少し不安そうにしてる悠里と安和に、僕は穏やかにそう声を掛けたのだった。
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