ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

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第三幕

僕には判断が付かない

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<ベルリンの壁>が崩れ、<ソビエト社会主義共和国連邦>が消滅し、<東西冷戦>が事実上終結して数十年の時間が過ぎても、昨今のロシアの強硬な姿勢もあってか、ロシア人に対する必ずしも好意的とは言えない感情は、確かに西側諸国の人間達の中に残っている。

世代を超えても、親から何度も何度も悪感情を説かれてきたりすれば、そのままを自身の価値観として取り入れてしまうことも、珍しくない。

僕達が巻き込まれた<事件>を担当したミラノの警官は、調書を作りながら、

「俺の祖父さんは、イワン共になぶり殺しにされた。奴らは戦場で孤立した俺の祖父さんを、ハンティングのごとく体の端から撃ち抜いて、『死なせたら負け』という賭けをしてたんだ。奴らは人間じゃない。悪魔だ。悪魔はこの地球から消え失せろ」

などと、セルゲイに対して延々と恨み言を口にしていた。他にも、彼に同調してくる警官もいた。

だけど、彼の言ってることが本当だという証拠はどこにもない。何しろ彼は、

「俺の親父の枕元に祖父さんが立って、自分が死んだ時の話をしてくれたんだ」

と言っていたし。

僕は吸血鬼で、今の人間の常識だとオカルトの中だけの存在だけど、そんな僕でもいわゆる<幽霊>には遭遇したことはない。ううん、実際には、

<その地に焼き付いた強い思念の残滓>

なら感じ取れたりもするんだけど、そういうものも必ずしも正確な情報を伝えてくれるわけじゃない。なぜなら、

『その時点での非常に強い思念が焼き付いてる』

状態だから、その<思念>そのものがただの思い込みだったり妄執に過ぎなかったりという可能性を排除することは事実上不可能だから。

『肉親の夢枕に立つ』

という話にしても、それが実際に起こることかどうかについては僕は断言できないにしても、そこで告げられたことが事実か否かを判定することは、何らかの客観的事実と照らし合わせない限り不可能だからね。

なのに、人間というのは、根拠のない話でも、それが自分にとって信じるに値するものであれば事実だと思い込んでしまう癖がある。

今回のことも、そういうものの一種である可能性は極めて高い。

加えて、彼の祖父を殺害したのが事実ソ連兵だったとしても、そのソ連兵が<ロシア人>だったかどうかは分からないし、しかも、当時、同盟を結んでいたはずのドイツ軍は、自分達が撤退する際に、イタリア軍を<囮>に使ったこともあったそうだ。

つまり、殺害したのはソ連兵だったかもしれなくても、それはドイツ軍に囮に使われた結果だった可能性も否定できない。

戦争で祖父を亡くした事実には哀悼の意を表すけど、彼のロシア人への感情が果たして正当なものかどうかは、僕には判断が付かないな。

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