377 / 697
第三幕
じっくりと考えることもできる
しおりを挟む
『とてもダンピールとは思えねえ!』
受付の男性がそう口にしたのも、当然だろうな。吸血鬼を激しく憎んでいるダンピールは、嫌悪感や敵愾心を隠そうともしないからね。自分がダンピールであることを悟られて攻撃を受けることも厭わない。むしろ、そうやって吸血鬼をおびき寄せようともしてるくらいだから。
けれど、ダンピールの吸血鬼への激しい憎悪は、所詮、過酷な境遇からくる後天的なものであることが、悠里と安和の事例で実際に確認された。悠里も安和も、吸血鬼を憎む理由がない。それだけでもう、普通の吸血鬼と変わらないんだ。
長らく信じられていたものがただの迷信に過ぎなかったことを喜ぶ吸血鬼も多い。これによって、自身が実はダンピールであったことをカミングアウトする吸血鬼も何人も現れたそうだ。
「いやあ、実は、俺の百年来のダチもよ、実は自分がダンピールだったことを打ち明けてくれたんだ。そりゃ、最初は驚いたさ。だが、百年も付き合ってきて気付かなかったくらいだ。ダンピールは確かに吸血鬼と変わらねえ」
受付の男性のその言葉に、セルゲイも表情が和らいだ。悠里と安和の事例が良い形に動いてることを実感できたからだろう。だけど、
「でも、受け入れられない奴には受け入れられないみたいだけどな……」
男性は険しい表情になって、そう付け加えた。その上で、
「俺とは違って、古い付き合いがあった相手がダンピールだとカミングアウトした後、姿を消した吸血鬼もいる。関係が壊れたと思ったんだろうな」
とも。
「そうか……予測はしていたが、やはりそういう事例も出るか……」
セルゲイからも、笑みが消えていた。そして……
「おっと、お前さん達がそんな表情する必要はねえ」
男性が言ったとおり、悠里と安和が悲しそうな表情をしていた。自分達のことで不幸になった者がいたことにショックを受けているんだろう。それに対して、男性は、
「それまで信じられていたものが覆る時には、必ず、それを受け入れられない奴が出てくるもんだ。そういうものなんだよ。お前さん達には何の責任もない。悲しむ必要もない。これは、正しくねえ考えに囚われてきた俺達大人の側の問題なんだ。だから俺達大人自身が解決しなきゃいけねえんだ」
まっすぐに悠里と安和を見つめて丁寧に話す男性に、二人も少しだけホッとした様子だった。
受付の男性の言うとおり、自分が信じてきたことが正しくないものであったとしても『正しくない』と認めるのを拒む者もいる。それは、人間も吸血鬼も変わらない。
ただ僕達吸血鬼には時間的な余裕があるから、じっくりと考えることもできるというだけなんだ。
受付の男性がそう口にしたのも、当然だろうな。吸血鬼を激しく憎んでいるダンピールは、嫌悪感や敵愾心を隠そうともしないからね。自分がダンピールであることを悟られて攻撃を受けることも厭わない。むしろ、そうやって吸血鬼をおびき寄せようともしてるくらいだから。
けれど、ダンピールの吸血鬼への激しい憎悪は、所詮、過酷な境遇からくる後天的なものであることが、悠里と安和の事例で実際に確認された。悠里も安和も、吸血鬼を憎む理由がない。それだけでもう、普通の吸血鬼と変わらないんだ。
長らく信じられていたものがただの迷信に過ぎなかったことを喜ぶ吸血鬼も多い。これによって、自身が実はダンピールであったことをカミングアウトする吸血鬼も何人も現れたそうだ。
「いやあ、実は、俺の百年来のダチもよ、実は自分がダンピールだったことを打ち明けてくれたんだ。そりゃ、最初は驚いたさ。だが、百年も付き合ってきて気付かなかったくらいだ。ダンピールは確かに吸血鬼と変わらねえ」
受付の男性のその言葉に、セルゲイも表情が和らいだ。悠里と安和の事例が良い形に動いてることを実感できたからだろう。だけど、
「でも、受け入れられない奴には受け入れられないみたいだけどな……」
男性は険しい表情になって、そう付け加えた。その上で、
「俺とは違って、古い付き合いがあった相手がダンピールだとカミングアウトした後、姿を消した吸血鬼もいる。関係が壊れたと思ったんだろうな」
とも。
「そうか……予測はしていたが、やはりそういう事例も出るか……」
セルゲイからも、笑みが消えていた。そして……
「おっと、お前さん達がそんな表情する必要はねえ」
男性が言ったとおり、悠里と安和が悲しそうな表情をしていた。自分達のことで不幸になった者がいたことにショックを受けているんだろう。それに対して、男性は、
「それまで信じられていたものが覆る時には、必ず、それを受け入れられない奴が出てくるもんだ。そういうものなんだよ。お前さん達には何の責任もない。悲しむ必要もない。これは、正しくねえ考えに囚われてきた俺達大人の側の問題なんだ。だから俺達大人自身が解決しなきゃいけねえんだ」
まっすぐに悠里と安和を見つめて丁寧に話す男性に、二人も少しだけホッとした様子だった。
受付の男性の言うとおり、自分が信じてきたことが正しくないものであったとしても『正しくない』と認めるのを拒む者もいる。それは、人間も吸血鬼も変わらない。
ただ僕達吸血鬼には時間的な余裕があるから、じっくりと考えることもできるというだけなんだ。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
甘灯の思いつき短編集
甘灯
キャラ文芸
作者の思いつきで書き上げている短編集です。 (現在16作品を掲載しております)
※本編は現実世界が舞台になっていることがありますが、あくまで架空のお話です。フィクションとして楽しんでくださると幸いです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
毒小町、宮中にめぐり逢ふ
鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。
生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。
しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
全日本霊体連合組合
釜瑪 秋摩
キャラ文芸
こんにちは!
新しい住人さんですね?
こちらは全日本霊体連合組合です。
急に環境が変わって、なにかとお困りですよね?
そんなとき、組合に加入していれば、我々、組合員一同が、サポートしますよ。
どうでしょう?
この機会に、是非、加入してみませんか?
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
日本全体で活動している霊体が集う組合。
各県に支部があり、心霊スポットや事故物件などに定住している霊体たちを取りまとめている。
霊たちの仕事は、そういった場所に来る人たちを驚かせ、怖がらせること。
本来、人が足を踏み入れるべきでない場所(禁足地)を、事実上、守っている形になっている。
全国の霊体たちが、健やかに(?)過ごせるように
今日も全連は頑張っています。
※ホラーではありません
【完結】神様と縁結び~え、神様って女子高生?~
愛早さくら
キャラ文芸
「私はあなたの神様です」
突然訪ねてきた見覚えのない女子高生が、俺にそんなことを言い始めた。
それ以降、何を言っているのかさあっぱり意味が分からないまま、俺は自称神様に振り回されることになる。
普通のサラリーマン・咲真と自称神様な女子高生・幸凪のちょっと変わった日常と交流のお話。
「誰もがみんな誰かの神様なのです」
「それって意味違うくない?」
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる