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第三幕
椿と紫音 その13
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危うく紫音を撥ねそうになった運転手は、
『どこ見てんだクソガキ!!』
と、事故を彼の所為にしようとした。
けれど、さすがにこれに対しては、後ろを走っていた自動車の運転手が下りてきて、
「何言ってんだあんた! その子は青信号で渡ってただけだぞ! 赤信号で突っ込んで行ったのはあんただ!! ドライブレコーダーにもばっちり映ってる! 警察に証拠として提出するからな!!」
と叱責する。こちらも五十代くらいの男性だった。
自動車に轢かれそうになり、しかも恫喝されて、紫音は青褪めてその場に固まってしまっていた。
すると、会社員らしき三十代くらいの女性が駆け寄ってきて、
「ぼく、大丈夫? 痛いところない?」
紫音を歩道まで誘導しながら声を掛けてくれる。さらには、自分のスマホで警察に通報。なのに、当の事故を起こした運転手は、自分の自動車に乗り込んで、強引にバック。バキバキガリガリと破壊音をさせながら中央分離帯から下し、信号が変わったのを見計らって急発進させて走り去ってしまった。
こんなことをすれば自動車がますます傷むのに。
それ以上に、事故を起こして逃げれば余計に罪が重くなるのに。
いくら紫音には接触しなかったといっても、中央分離帯に設置されていた<反射板>の支柱が折れ曲がってしまっているから、<当て逃げ>が成立してしまうね。
周囲に止まっていた自動車が激しくクラクションを鳴らす。『止まれ!』『逃げるな!』っていう抗議のそれだった。
取り敢えず紫音の安全は確保されたから僕は敢えて手を出さずに見守るだけにした。人間のことは人間自身で対処するのが原則だから。
やがて警察が駆け付け、事故処理が始まる。
紫音については応援で駆け付けた婦人警官が付いてくれて、最初に声を掛けてくれた女性は仕事があるからと立ち去った。
さらに、念の為にということで救急車も呼ばれたのに、紫音は乗ることを拒んだ。集団登校の待ち合わせの時に嘔吐して搬送されたことで母親に叱責されたことが蘇ったんだろうな。
そんな彼に、救急隊員も戸惑うんだけど、婦人警官は何か察するものがあったみたいで、
「お父さんやお母さんには、お巡りさんからちゃんと言ってあげる。だからお巡りさんと一緒に行こ?」
と諭されると、婦人警官の顔を見詰めて、
「……」
黙ったまま頷いてようやく救急車に乗った。
この時の彼の反応で、その場にいた人間達は察してしまったようだ。
こうして、紫音は搬送されていった。
事故現場については警察に任せ、僕は救急車の屋根に乗ってついていったんだ。
『どこ見てんだクソガキ!!』
と、事故を彼の所為にしようとした。
けれど、さすがにこれに対しては、後ろを走っていた自動車の運転手が下りてきて、
「何言ってんだあんた! その子は青信号で渡ってただけだぞ! 赤信号で突っ込んで行ったのはあんただ!! ドライブレコーダーにもばっちり映ってる! 警察に証拠として提出するからな!!」
と叱責する。こちらも五十代くらいの男性だった。
自動車に轢かれそうになり、しかも恫喝されて、紫音は青褪めてその場に固まってしまっていた。
すると、会社員らしき三十代くらいの女性が駆け寄ってきて、
「ぼく、大丈夫? 痛いところない?」
紫音を歩道まで誘導しながら声を掛けてくれる。さらには、自分のスマホで警察に通報。なのに、当の事故を起こした運転手は、自分の自動車に乗り込んで、強引にバック。バキバキガリガリと破壊音をさせながら中央分離帯から下し、信号が変わったのを見計らって急発進させて走り去ってしまった。
こんなことをすれば自動車がますます傷むのに。
それ以上に、事故を起こして逃げれば余計に罪が重くなるのに。
いくら紫音には接触しなかったといっても、中央分離帯に設置されていた<反射板>の支柱が折れ曲がってしまっているから、<当て逃げ>が成立してしまうね。
周囲に止まっていた自動車が激しくクラクションを鳴らす。『止まれ!』『逃げるな!』っていう抗議のそれだった。
取り敢えず紫音の安全は確保されたから僕は敢えて手を出さずに見守るだけにした。人間のことは人間自身で対処するのが原則だから。
やがて警察が駆け付け、事故処理が始まる。
紫音については応援で駆け付けた婦人警官が付いてくれて、最初に声を掛けてくれた女性は仕事があるからと立ち去った。
さらに、念の為にということで救急車も呼ばれたのに、紫音は乗ることを拒んだ。集団登校の待ち合わせの時に嘔吐して搬送されたことで母親に叱責されたことが蘇ったんだろうな。
そんな彼に、救急隊員も戸惑うんだけど、婦人警官は何か察するものがあったみたいで、
「お父さんやお母さんには、お巡りさんからちゃんと言ってあげる。だからお巡りさんと一緒に行こ?」
と諭されると、婦人警官の顔を見詰めて、
「……」
黙ったまま頷いてようやく救急車に乗った。
この時の彼の反応で、その場にいた人間達は察してしまったようだ。
こうして、紫音は搬送されていった。
事故現場については警察に任せ、僕は救急車の屋根に乗ってついていったんだ。
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