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第三幕

ダヴィトとケテヴァン

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「彼らは僕の友人で、ダヴィトとケテヴァン。夫婦だよ」

マイクロバスを止めて降りてきた、四十代後半くらいの黒髪の男女を、ルドルフはそう紹介した。

「僕はセルゲイ。生物学者だ。そして、僕の子供達のミハエル、ユーリ、アンナだ」

セルゲイは二人と握手しつつ、自己紹介をする。すると、ダヴィトが、

「君がセルゲイか。話はルドルフから聞いている。なるほど見た目にはすごく若いな。三十前に見える。子供達は君にそっくりだな」

笑顔で口にした。この辺りは一般的な社交辞令だから特には気にしない。

「長旅で疲れたでしょう。ここからは私達が同行するわ」

ケテヴァンの方は、さすがに幼い子供に見える僕達を気遣ってくれていた。二人はルドルフが吸血鬼だということを知らないのが分かる。一応、ここまではルドルフの別の友人が自動車で送ってくれたことになっている。

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

僕は姿勢を正して挨拶する。それに倣って、悠里と安和も、

「おねがいします!」

声を揃えて元気よく挨拶をした。いつも通りに『子供らしく』。

「まあ、礼儀正しい子供達ね。素晴らしいわ。どうぞ、小さな紳士淑女の皆さま」

マイクロバスのドアを開けつつ、ケテヴァンは感心したように笑顔になる。

「失礼します」

「しつれいしま~す」

僕達は声を上げつつ乗り込んだ。セルゲイとルドルフも同じく後部座席に座り、ダヴィトはルドルフと並んで後部座席に座った。ここからの運転はケテヴァンということだ。

全員が席に着くとマイクロバスが走り出す。舗装されていない道なので、それほどスピードは出ていないけれど結構揺れる。マイクロバス自体の年式も数十年前のものらしく、さすがに時代を感じさせる上に、日本の自動車に比べると快適性も格段に開きがあった。車内の騒音がかなりのものなんだ。

だから、

「これから行く場所は、クラ川の流域だ。正直、厳しい状態にあることを覚悟しておいてほしい」

セルゲイにそう話しかけるダヴィトの声も自然と大きくなる。

「ええ、覚悟しています。それを確認するために僕はここに来たんです」

ここ、ジョージアは現在、深刻な環境汚染が問題となってる国の一つだった。ソ連の一部だった頃からも重工業などが盛んで、それにともなう大気汚染や水質汚染があって、しかも、ソ連崩壊後に独立してから自国の産業を伸ばそうと躍起になり、環境対策が後回しになった結果、さらに深刻度が増したという経緯があったんだ。

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