344 / 697
第三幕
ダヴィトとケテヴァン
しおりを挟む
「彼らは僕の友人で、ダヴィトとケテヴァン。夫婦だよ」
マイクロバスを止めて降りてきた、四十代後半くらいの黒髪の男女を、ルドルフはそう紹介した。
「僕はセルゲイ。生物学者だ。そして、僕の子供達のミハエル、ユーリ、アンナだ」
セルゲイは二人と握手しつつ、自己紹介をする。すると、ダヴィトが、
「君がセルゲイか。話はルドルフから聞いている。なるほど見た目にはすごく若いな。三十前に見える。子供達は君にそっくりだな」
笑顔で口にした。この辺りは一般的な社交辞令だから特には気にしない。
「長旅で疲れたでしょう。ここからは私達が同行するわ」
ケテヴァンの方は、さすがに幼い子供に見える僕達を気遣ってくれていた。二人はルドルフが吸血鬼だということを知らないのが分かる。一応、ここまではルドルフの別の友人が自動車で送ってくれたことになっている。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
僕は姿勢を正して挨拶する。それに倣って、悠里と安和も、
「おねがいします!」
声を揃えて元気よく挨拶をした。いつも通りに『子供らしく』。
「まあ、礼儀正しい子供達ね。素晴らしいわ。どうぞ、小さな紳士淑女の皆さま」
マイクロバスのドアを開けつつ、ケテヴァンは感心したように笑顔になる。
「失礼します」
「しつれいしま~す」
僕達は声を上げつつ乗り込んだ。セルゲイとルドルフも同じく後部座席に座り、ダヴィトはルドルフと並んで後部座席に座った。ここからの運転はケテヴァンということだ。
全員が席に着くとマイクロバスが走り出す。舗装されていない道なので、それほどスピードは出ていないけれど結構揺れる。マイクロバス自体の年式も数十年前のものらしく、さすがに時代を感じさせる上に、日本の自動車に比べると快適性も格段に開きがあった。車内の騒音がかなりのものなんだ。
だから、
「これから行く場所は、クラ川の流域だ。正直、厳しい状態にあることを覚悟しておいてほしい」
セルゲイにそう話しかけるダヴィトの声も自然と大きくなる。
「ええ、覚悟しています。それを確認するために僕はここに来たんです」
ここ、ジョージアは現在、深刻な環境汚染が問題となってる国の一つだった。ソ連の一部だった頃からも重工業などが盛んで、それにともなう大気汚染や水質汚染があって、しかも、ソ連崩壊後に独立してから自国の産業を伸ばそうと躍起になり、環境対策が後回しになった結果、さらに深刻度が増したという経緯があったんだ。
マイクロバスを止めて降りてきた、四十代後半くらいの黒髪の男女を、ルドルフはそう紹介した。
「僕はセルゲイ。生物学者だ。そして、僕の子供達のミハエル、ユーリ、アンナだ」
セルゲイは二人と握手しつつ、自己紹介をする。すると、ダヴィトが、
「君がセルゲイか。話はルドルフから聞いている。なるほど見た目にはすごく若いな。三十前に見える。子供達は君にそっくりだな」
笑顔で口にした。この辺りは一般的な社交辞令だから特には気にしない。
「長旅で疲れたでしょう。ここからは私達が同行するわ」
ケテヴァンの方は、さすがに幼い子供に見える僕達を気遣ってくれていた。二人はルドルフが吸血鬼だということを知らないのが分かる。一応、ここまではルドルフの別の友人が自動車で送ってくれたことになっている。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
僕は姿勢を正して挨拶する。それに倣って、悠里と安和も、
「おねがいします!」
声を揃えて元気よく挨拶をした。いつも通りに『子供らしく』。
「まあ、礼儀正しい子供達ね。素晴らしいわ。どうぞ、小さな紳士淑女の皆さま」
マイクロバスのドアを開けつつ、ケテヴァンは感心したように笑顔になる。
「失礼します」
「しつれいしま~す」
僕達は声を上げつつ乗り込んだ。セルゲイとルドルフも同じく後部座席に座り、ダヴィトはルドルフと並んで後部座席に座った。ここからの運転はケテヴァンということだ。
全員が席に着くとマイクロバスが走り出す。舗装されていない道なので、それほどスピードは出ていないけれど結構揺れる。マイクロバス自体の年式も数十年前のものらしく、さすがに時代を感じさせる上に、日本の自動車に比べると快適性も格段に開きがあった。車内の騒音がかなりのものなんだ。
だから、
「これから行く場所は、クラ川の流域だ。正直、厳しい状態にあることを覚悟しておいてほしい」
セルゲイにそう話しかけるダヴィトの声も自然と大きくなる。
「ええ、覚悟しています。それを確認するために僕はここに来たんです」
ここ、ジョージアは現在、深刻な環境汚染が問題となってる国の一つだった。ソ連の一部だった頃からも重工業などが盛んで、それにともなう大気汚染や水質汚染があって、しかも、ソ連崩壊後に独立してから自国の産業を伸ばそうと躍起になり、環境対策が後回しになった結果、さらに深刻度が増したという経緯があったんだ。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
はじまりはいつもラブオール
フジノシキ
キャラ文芸
ごく平凡な卓球少女だった鈴原柚乃は、ある日カットマンという珍しい守備的な戦術の美しさに魅せられる。
高校で運命的な再会を果たした柚乃は、仲間と共に休部状態だった卓球部を復活させる。
ライバルとの出会いや高校での試合を通じ、柚乃はあの日魅せられた卓球を目指していく。
主人公たちの高校部活動青春ものです。
日常パートは人物たちの掛け合いを中心に、
卓球パートは卓球初心者の方にわかりやすく、経験者の方には戦術などを楽しんでいただけるようにしています。
pixivにも投稿しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
毒小町、宮中にめぐり逢ふ
鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。
生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。
しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。
下っ端妃は逃げ出したい
都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー
庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。
そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。
しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……
未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます(Ver.02)
京衛武百十
ファンタジー
俺の名は錬是(れんぜ)。開拓や開発に適した惑星を探す惑星ハンターだ。
だが、宇宙船の故障である未開の惑星に不時着。宇宙船の頭脳体でもあるメイトギアのエレクシアYM10と共にサバイバル生活をすることになった。
と言っても、メイトギアのエレクシアYM10がいれば身の回りの世話は完璧にしてくれるし食料だってエレクシアが確保してくれるしで、存外、快適な生活をしてる。
しかもこの惑星、どうやらかつて人間がいたらしく、その成れの果てなのか何なのか、やけに人間っぽいクリーチャーが多数生息してたんだ。
地球人以外の知的生命体、しかも人類らしいものがいた惑星となれば歴史に残る大発見なんだが、いかんせん帰る当てもない俺は、そこのクリーチャー達と仲良くなることで残りの人生を楽しむことにしたのだった。
筆者より。
なろうで連載中の「未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます」に若干の手直しを加えたVer.02として連載します。
なお、連載も長くなりましたが、第五章の「幸せ」までで錬是を主人公とした物語自体はいったん完結しています。それ以降は<錬是視点の別の物語>と捉えていただいても間違いではないでしょう。
後宮の系譜
つくも茄子
キャラ文芸
故内大臣の姫君。
御年十八歳の姫は何故か五節の舞姫に選ばれ、その舞を気に入った帝から内裏への出仕を命じられた。
妃ではなく、尚侍として。
最高位とはいえ、女官。
ただし、帝の寵愛を得る可能性の高い地位。
さまざまな思惑が渦巻く後宮を舞台に女たちの争いが今、始まろうとしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる