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第三幕

ジョージア

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こうしてモスクワマスクヴァーでの四日間はあっという間に過ぎて、僕達は次の目的地へと移動する準備を始めた。

ヒグマの密猟者の拠点を<エコテロリスト>が襲撃した事件については、地方の出来事を紹介する時間に小さく報じられただけで、大きなニュースにはならなかった。そこは観光地だったこともあり、政府が大きく扱わないようにテレビ局や新聞社に申し入れたのかもしれない。

けれど僕達にはもう関係のない話だから、気にしても始まらないけどね。



「それじゃ、出発しようか」

そう言って号令を掛けたのは、セルゲイじゃなくてルドルフだった。

と言うのも、彼も僕達の次の目的地である<ジョージア>にちょうど出張することになっていて、同行することになったんだ。実はその方がいろいろ都合がいいというのもあった。彼の知人がジョージアには多くて、そのつてが使えるから。

<ジョージア>という国は、日本だと、<グルジア>と言った方が聞き覚えのある人間が多いかもしれない。現在、正式には、<ジョージア>と呼ばれているけれど、隣国アゼルバイジャンと共にソ連の一部だった当時は、日本では<グルジア>として紹介されていたそうだ。相撲の力士にも、<グルジア(ジョージア)>出身者がいるそうだね。

ただ、現在では、ロシアとの関係は、ソ連崩壊に伴い独立してからも戦争が起こったりと特にジョージア側の感情としてはすごく険悪な状態だった。対するロシアとしては、地理的にいろいろと価値がある国でもあることから、国益の面からなるべく穏当な関係を築きたいとは思ってる面もありつつ、国家としての面子の問題もあってか強硬な姿勢なのは否めない。

国というのは、個人ではなく多くの人間の集合体なので、国を構成する人間達それぞれの思惑もあって、単純な感情論だけでは動かない。特定の国に対する考え方でも国内で対立することがあるのも普通だからね。

そういう諸々もあり、ロシア側から直接入国するのは避けて、いくつもの経由地を経てアゼルバイジャン側から入国することになった。

「めんどくさ~……」

ダンピールだから体力的にはそれほど辛くなくても、とにかく何度も飛行機や鉄道を乗り換えての移動に、安和アンナはうんざりした様子だった。

「ごめんね。どうしても確認したいことがあったから」

セルゲイが彼女をなだめようとする。

そう。今回のジョージアへの入国も、セルゲイが希望したものだった。

「今、ジョージアは深刻な環境破壊が続いていてね。貴重な動植物が危機的な状況にあるんだ。その確認をしたくて……」

悲しそうな表情で、彼は呟いたのだった。

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