上 下
334 / 697
第三幕

将来の夢

しおりを挟む
安和アンナはそれからも、自分のサイトの管理をしてた。

そして……

「小説を書き始めたの?」

何気なく目に入ったタブレットの画面に、サイトの管理画面じゃない、テキストがびっしりと並んだそれが表示されてたから、つい、そんな風に問い掛けてた。

「うん。まあ、今はまだ<小説>なんて呼べるものじゃないけどさ。落書きだよ。落書き。でも、いつかは、ママみたいに小説を書けるようになれたらな。って、思ってる……」

「そうか。なら、頑張らないとね。応援してる」

「ありがとう、パパ」

僕は敢えてそれ以上画面を覗き込まないようにして、ただ安和を励まそうと言葉にした。小説の良し悪しは、僕にはよく分からない。いわゆる<文学作品>については著名なものならだいたい読んだことはあっても、アオが書いているようなエンターテイメントに大きく寄せたジャンルのものは、僕にはピンとこないんだ。

僅かに見えた安和のそれも、明らかにアオが書いているものをなぞった文体だったから、それの価値が分からない僕が口を出してもただの<雑音>にしかならないだろうな。

『読者の目線も必要』

と言う人もいるかもしれないけど、そもそもその<読者>にならない僕が見ても、

『文学作品に比べてどうか?』

的な視点でしか見られないし。両方のジャンルを読んだことがあって造詣の深い人間ならまだしも、偏った視点しか僕は持ってないからね。

『<別の視点>で見る』

にしても、もっと適した人がいるだろう。アオの担当であるさくらなんか、それこそ現役の編集者だから、はるかに的確なアドバイスをくれると思う。

「自分で納得のいくものが書けたら、さくらに見てもらうといいだろうね」

「うん。そのつもり。だけど、今は無理かな。今のこれを見てもらってそれでダメ出しされたらやる気失せそうだし」

「なるほど」

確かに、やり始めたばかりの頃にあまり厳しいことを言われたら、やる気がそがれてしまうというのはあると思う。

最初は楽しくできればそれでいい。そして、さらに上の段階を目指すとなれば、その時は覚悟を持って臨むべきだろうな。

安和が本気で小説を書き、アオと同じ道を歩むのなら、厳しい現実に直面することもあるはずだ。それを、一つ一つ、じっくりと乗り越えていけばいい。そうやって実際に挑んでいった経験が、人生には活きると思う。

悠里ユーリは、セルゲイと同じく生き物の研究の道を目指そうとしているようだし、安和にもそれが芽生え始めてきたのかもしれない。

<将来の夢>

と称するにも頼りない、おぼろげなただの<憧れ>に過ぎなくても、最初はたいていそんなものなんだろうね。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘灯の思いつき短編集

甘灯
キャラ文芸
 作者の思いつきで書き上げている短編集です。 (現在16作品を掲載しております)                              ※本編は現実世界が舞台になっていることがありますが、あくまで架空のお話です。フィクションとして楽しんでくださると幸いです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

貸本屋七本三八の譚めぐり ~実井寧々子の墓標~

茶柱まちこ
キャラ文芸
時は大昌十年、東端の大国・大陽本帝国(おおひのもとていこく)屈指の商人の町・『棚葉町』。 人の想い、思想、経験、空想を核とした書物・『譚本』だけを扱い続ける異端の貸本屋・七本屋を中心に巻き起こる譚たちの記録――第二弾。 七本屋で働く19歳の青年・菜摘芽唯助(なつめいすけ)は作家でもある店主・七本三八(ななもとみや)の弟子として、日々成長していた。 国をも巻き込んだ大騒動も落ち着き、平穏に過ごしていたある日、 七本屋の看板娘である音音(おとね)の前に菅谷という謎の男が現れたことから、六年もの間封じられていた彼女の譚は動き出す――!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

素晴らしい世界に終わりを告げる

桜桃-サクランボ-
キャラ文芸
自分の気持ちを素直に言えず、悩んでいた女子高生、心和愛実は、ある日子供を庇い事故に遭ってしまった。 次に目を覚ましたのは、見覚えのない屋敷。そこには、世話係と名乗る、コウヨウという男性が部屋に入る。 コウセンという世界で、コウヨウに世話されながら愛実は、自分の弱い所と、この世界の実態を見て、悩む。 コウヨウとは別にいる世話係。その人達の苦しみを目の当たりにした愛実は、自分に出来る事なら何でもしたいと思い、決意した。 言葉だけで、終わらせたくない。 言葉が出せないのなら、伝えられないのなら、行動すればいい。 その先に待ち受けていたのは、愛実が待ちに待っていた初恋相手だった。 ※カクヨムでも公開中

下宿屋 東風荘 5

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*゜☆.。.:*゚☆ 下宿屋を営む天狐の養子となった雪翔。 車椅子生活を送りながらも、みんなに助けられながらリハビリを続け、少しだけ掴まりながら歩けるようにまでなった。 そんな雪翔と新しい下宿屋で再開した幼馴染の航平。 彼にも何かの能力が? そんな幼馴染に狐の養子になったことを気づかれ、一緒に狐の国に行くが、そこで思わぬハプニングが__ 雪翔にのんびり学生生活は戻ってくるのか!? ☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*☆.。.:*゚☆ イラストの無断使用は固くお断りさせて頂いております。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...