上 下
313 / 697
第三幕

回想録 その5 「初めての日本の友達」

しおりを挟む
ここからしばらく、僕が日本を意識するようになった最初のきっかけについて語っていこうと思う。

僕にとって初めての<日本人の友達、宗十郎>について、ね。



彼の名前は、吉祥きっしょう宗十郎そうじゅうろう。旧日本陸軍の軍人。それ以外の詳細な身分とかについては、彼は一切口にしなかったから分からない。軍人として話せないというのを貫いていたみたいだね。

第二次世界大戦末期、おそらく樺太でソ連軍に捕らえられてシベリアへと移送されたらしい。この辺りの詳細も彼は口にしなかったから、僕は知らない。もしかすると、彼は、公にできない特殊な任務に就いていたのかもしれない。今から思うと、それを窺わせるような独特の雰囲気が彼にはあった気がする。

でも、普段の彼は、とても温厚で人懐っこい性格で、情に厚く、義理堅かった。それもあって、多くの仲間や友人達が亡くなって日本への帰還が永久に果たせなくなったのに自分だけが生き残ったことに強い後悔の念を抱いてしまい、日本への帰還を望まなかったのかもね。

加えて、もしかすると彼が就いていた任務のことも影響していた可能性もあるのかな。

いずれにせよ、彼は、僕の母に命を救われて、母と僕に看取られて命を終えるまで、『日本に帰りたい』と口にすることはなかったし、日本への帰還のために何か行動を起こすこともなかった。

ただただ、命を救ってくれた恩を返すためだけに、母の下で働いていたんだ。



その日は、朝はとても穏やかに晴れていたのに、昼過ぎから突然天気が崩れて、大変な吹雪になった。

母と僕は、争いを続ける人間達とは関わらないようにするために、<タイガ>と呼ばれるシベリアの森の中に隠れるようにして住んでいた。

それでも、時折、遊牧民らから、日用品の類を手に入れるために彼らの集落を訪ねることがあった。そしてこの時も、母は、そのために出掛けてた。

僕は一人留守番をしていたんだけど、吹雪いてきたことで、暖炉の火を絶やさないように、番を続けてた。吸血鬼である母は吹雪程度じゃ心配する必要もなかったけど、帰ってきた時に部屋が十分に温まっていた方がきっとホッとするだろうなと思ったんだ。

だけど、母が帰ってきた時、一人じゃなかった。背中に誰かを背負っていて。

「ミハエル。スープの残りを温めて。それとお湯。凍傷になってるから」

母の言葉に、僕も、

『人間……』

と察してしまった。吸血鬼は凍傷なんてまずならないし、万が一なったとしても自力で治せるからね。

それよりも、どうして母が人間なんか連れ帰ってきたのかが気になったんだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘灯の思いつき短編集

甘灯
キャラ文芸
 作者の思いつきで書き上げている短編集です。 (現在16作品を掲載しております)                              ※本編は現実世界が舞台になっていることがありますが、あくまで架空のお話です。フィクションとして楽しんでくださると幸いです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

毒小町、宮中にめぐり逢ふ

鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。 生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。 しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

全日本霊体連合組合

釜瑪 秋摩
キャラ文芸
こんにちは! 新しい住人さんですね? こちらは全日本霊体連合組合です。 急に環境が変わって、なにかとお困りですよね? そんなとき、組合に加入していれば、我々、組合員一同が、サポートしますよ。 どうでしょう? この機会に、是非、加入してみませんか? ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ 日本全体で活動している霊体が集う組合。 各県に支部があり、心霊スポットや事故物件などに定住している霊体たちを取りまとめている。 霊たちの仕事は、そういった場所に来る人たちを驚かせ、怖がらせること。 本来、人が足を踏み入れるべきでない場所(禁足地)を、事実上、守っている形になっている。 全国の霊体たちが、健やかに(?)過ごせるように 今日も全連は頑張っています。 ※ホラーではありません

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

下宿屋 東風荘 5

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*゜☆.。.:*゚☆ 下宿屋を営む天狐の養子となった雪翔。 車椅子生活を送りながらも、みんなに助けられながらリハビリを続け、少しだけ掴まりながら歩けるようにまでなった。 そんな雪翔と新しい下宿屋で再開した幼馴染の航平。 彼にも何かの能力が? そんな幼馴染に狐の養子になったことを気づかれ、一緒に狐の国に行くが、そこで思わぬハプニングが__ 雪翔にのんびり学生生活は戻ってくるのか!? ☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*☆.。.:*゚☆ イラストの無断使用は固くお断りさせて頂いております。

処理中です...