上 下
296 / 697
第二幕

椿の日常 その8

しおりを挟む
<普通の人間>から見れば、蒼井家は異様にも見えるのかもしれない。面倒臭い話を延々と子供の前で話す親は、<普通>ではないのかもしれない。

けれど、それは一部しか見ていないからそう思えるだけだろう。

子供達がアオやミハエルの話に耳を傾けるのは、

<話に耳を傾けるに値する親>

だからである。

単純に、それだけなのだ。

こういう<面倒臭い話>もするけれど、その十倍、他愛ないアニメや漫画やテレビ番組の話で盛り上がっている。

と同時に、子供達の話にも耳を傾けるから、子供達もその真似をしてくれているに過ぎない。

こうやって、大事なことを伝え、そして、それがきちんと伝わっているかどうかを確かめる。

親の前で<いい子のフリ>をしてるだけじゃないことが分かる。

月城つきしろ家で確認されたことが、蒼井家でも再現されているだけなのだ。

月城つきしろ家でも蒼井家でも、あからさまな<反抗期>はなかった。

それは結局、<反抗しなければならない理由>がなかったからである。

自分を愛してくれて、そして、自分の言葉に耳を傾けてくれて、<一個の独立した人格を持つ存在>として敬ってくれるのだから、反発する理由がない。

意見が対立して結果として聞き入れられることがないことも多いものの、聞けない時は何故聞けないのかを丁寧に説明してくれる。

だから納得はできなくても、理解はできる。

それは、社会に出て仕事をする上でも大事なことのはずである。きちんと話し合って理解してそして対処する。

この当たり前のことを家庭内でも実践している。ゆえに月城つきしろ家の長男であるあきらも、実年齢は二十歳にもなっていないにも関わらず、<実際には自分よりずっと年上の後輩>の指導すら任されるに至っていた。

しかも、

<話が丁寧で的確で分かりやすくて優しい先輩>

として慕われていたりもするそうだ。

本人としては、母親であるさくらや、自分の正体を知りつつ実の子のように接してくれたアオやミハエルにしてもらったことをほぼそのまま真似しているだけのつもりにも拘わらず。

そして椿つばきも、すでに真似をしつつある。

『ノリが悪い』

とか、

『真面目過ぎてつまらない』

とか、そういう風に言われることはあっても、それで嫌な思いをすることはあっても、家に帰れば笑顔になれる。ホッとする。そうしてリフレッシュして、また翌日、学校に行ける。

「ねえねえ、聞いて! 昨日、お母さんったらさ~!」

遊び部屋で一緒にモザイク模様を作っていた友達が<家庭の愚痴>をこぼしても、それに耳を傾けられる。

そんな椿と一緒にいると『家族といるよりホッとできる』からと、その子達は今も友達でいてくれる。

「そうなんだ。大変だったね」

穏やかに応えながら、椿はそれで満足していたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

はじまりはいつもラブオール

フジノシキ
キャラ文芸
ごく平凡な卓球少女だった鈴原柚乃は、ある日カットマンという珍しい守備的な戦術の美しさに魅せられる。 高校で運命的な再会を果たした柚乃は、仲間と共に休部状態だった卓球部を復活させる。 ライバルとの出会いや高校での試合を通じ、柚乃はあの日魅せられた卓球を目指していく。 主人公たちの高校部活動青春ものです。 日常パートは人物たちの掛け合いを中心に、 卓球パートは卓球初心者の方にわかりやすく、経験者の方には戦術などを楽しんでいただけるようにしています。 pixivにも投稿しています。

毒小町、宮中にめぐり逢ふ

鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。 生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。 しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます(Ver.02)

京衛武百十
ファンタジー
俺の名は錬是(れんぜ)。開拓や開発に適した惑星を探す惑星ハンターだ。 だが、宇宙船の故障である未開の惑星に不時着。宇宙船の頭脳体でもあるメイトギアのエレクシアYM10と共にサバイバル生活をすることになった。 と言っても、メイトギアのエレクシアYM10がいれば身の回りの世話は完璧にしてくれるし食料だってエレクシアが確保してくれるしで、存外、快適な生活をしてる。 しかもこの惑星、どうやらかつて人間がいたらしく、その成れの果てなのか何なのか、やけに人間っぽいクリーチャーが多数生息してたんだ。 地球人以外の知的生命体、しかも人類らしいものがいた惑星となれば歴史に残る大発見なんだが、いかんせん帰る当てもない俺は、そこのクリーチャー達と仲良くなることで残りの人生を楽しむことにしたのだった。     筆者より。 なろうで連載中の「未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます」に若干の手直しを加えたVer.02として連載します。 なお、連載も長くなりましたが、第五章の「幸せ」までで錬是を主人公とした物語自体はいったん完結しています。それ以降は<錬是視点の別の物語>と捉えていただいても間違いではないでしょう。

後宮の系譜

つくも茄子
キャラ文芸
故内大臣の姫君。 御年十八歳の姫は何故か五節の舞姫に選ばれ、その舞を気に入った帝から内裏への出仕を命じられた。 妃ではなく、尚侍として。 最高位とはいえ、女官。 ただし、帝の寵愛を得る可能性の高い地位。 さまざまな思惑が渦巻く後宮を舞台に女たちの争いが今、始まろうとしていた。

処理中です...