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第二幕

秋生の日常 その6

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美登菜みとなの両親は、かつて、<ある伝染病>が蔓延して世界中が大変になったという事態があったことを知りながら、

美登菜みとなの元気パワーで熱なんて吹っ飛ばせ!』

などという、まったく根拠のない、

<前向きさ>

を信条としている人間だった。

『それで自分達は成功してきた!!』

と考えている人間だった。

確かにこれまでは上手くいってきた(表向きは)のだろう。だからそうすることが正しいと、正解であると、本人達は間違いなく信じている。

けれど、両親とは<違う人間>である美登菜みとなには、そういう実感がまったくなかった。

実際、両親を見倣ってただひたすら前向きで楽天的に振舞ってきた小学生時代、その底抜けな前向きさ楽天さが、

『ウザい!』

『メンドクサイ!!』

『暑苦しい!』

『頭悪そう!!』

と顰蹙を買い、疎まれた。

なのに両親は、そのことについて相談しようとした娘に、

「そんなこと気にする必要ない!」

「そんなの、美登菜みとなの可愛さに嫉妬してるだけよ! 気にしちゃ負け!!」

と言うばかりで、具体的な対処法については何一つアドバイスしてくれなかった。

だから彼女は、そんな両親を見限った。

表面上は、

<両親にとって可愛らしい良い子>

を演じながら、内心では早々に、

『こんな人達のトコにはいたくない。さっさと家を出たい!』

と思うようになっていた。

そして、高校生になったことを機に、自分の体で金を稼いで、自分で生活する計画まで立てていたりもした。

『女子高生で、しかも小学生にさえ見られる幼い自分の体が金になる』

ことに気付いてしまったからだった。

けれどそれは、決して<自立心>などではないだろう。むしろ、ただ単に、

『嫌な場所から逃げ出したい』

という<逃避>でしかないと思われる。

そんな時、中学の時からなんとなく『いいな』と思っていた月城つきしろ秋生あきおと思いがけず親しくなれるチャンスが転がり込んできた。

表面上は人懐っこくて誰とでもすぐに親しくなれそうな彼女だったものの、秋生だけは、可愛らしい自分に話し掛けられても浮ついたりせず、他の男子生徒のように明らかに下心が透けて見えるような態度にもならなかったので、何度かアプローチをしただけでそこから先にどう進んでいいのか分からなかったのだった。

けれど、麗美阿れみあが秋生に上手く取り入っていると見るや、ラブコメ系の漫画などでよくある、

<ハーレム>

を築くことでまんまと尻馬に乗ることができたということだ。



けれど、最初はかなり不純な思い付きで始めた関係でありながら、秋生の、とても高校生とは思えない<器>に触れ、彼の気遣いを受けているうちに、両親のこととかも割とどうでもよくなってきたのは事実なのだった。

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