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第二幕
家、出てくつもりないし
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「お~、ウマウマ♡」
皆と一緒にカレーを食べたアオは嬉しそうに笑顔で堪能していた。
その姿がとてもあたたかい。
アオは何も『躾け』てくれなかった。
『我慢しろ』
とも、
『辛抱しろ』
とも言ってくれなかった。
言ってくれなかったけれども、悠里も安和も椿も洸も恵莉花も秋生も、無駄に他人と諍いを起こさずに済んでいる。
それが事実だ。
基本的に規則も破ったりしない。破る必要がないから。
しかも幼い頃から蒼井家の子供達も月城家の子供達も、他人を押し退けてまで何かを得ようとはしなかった。
子供向けのイベントなどでお菓子や玩具が配られる時も、強引に前に出ようとはせず、空くまでおとなしく待った。
児童施設などで自分が使おうとしてた玩具を他の子が強く欲しがれば、それを譲り、奪い合うこともしなかった。
他の子をイジメることも、意地悪することもなかった。
その必要がなかったからだ。
みんなでカレーを食べながら、さらに<話>は続く。
「最近さ、<こどおじ>とかって言葉が使われてんじゃん? 私、あれ、嫌いなんだよね」
やはり恵莉花が端緒を開く。
「ああ、あれ、確か元々は<子供部屋おじさん>とか言われてたんだっけ? いい歳して実家住まいで自分用の子供部屋にずっと居続けてるのを揶揄するための造語、だったかな」
安和が応えると、
「そう、それ!」
恵莉花が手にしたスプーンを立てる。
「いい歳して実家の自分の部屋に住んでるって話だったら、洸兄ぃも入っちゃうじゃん!
そりゃ洸兄ぃは実年齢じゃ二十歳にもなってないけど、書類上はもう三十過ぎの<おっさん>だよ。しかも部屋は自分用の子供部屋だったのを改装した部屋だよ。完璧に<こどおじ>に当てはまっちゃうよ」
その恵莉花の言葉に反応したのは椿だった。
「おかしいよね、それって! 洸っくんは普通にちゃんと働いて、家庭を守ってるじゃん! その洸っくんをバカにするのとか、許せない!」
両手を握り締めて力説する。
すると洸が、
「ありがとう、椿。君がそう言ってくれたら僕は他人が何を言ってても平気だよ」
と微笑む。
しかし椿は治まらない。
「洸っくんは優しいから平気かもだけど、私はイヤ! 洸っくんがバカにされるのはイヤ!!」
そこに、悠里が、
「だけどその<こどおじ>とかいう言葉って、最初は確かいわゆる<パラサイトシングル>を指した言葉じゃなかったっけ?」
と加わる。それを受けて秋生も、
「その手の<ネットスラング>の類なんて、意味も根拠も由来も、そもそもいい加減だから、<本来の意味>なんてあってないようなものだと思うけど、まあ一般的にはそう解釈できるのかな」
参加。続けて、
「それがだんだん拡大解釈されて、って言うか、他人を馬鹿にするためにいいように利用されて、成人しても実家住まいの人全般を指すみたいに使われてるよね」
とも。
すると恵莉花が、
「大人になっても実家住まいなのをバカにするとか、それって、
『結婚して子供作らなきゃ一人前の人間じゃない』
とかと同じ種類の話じゃん。
確かに、子供の頃と同じように生活のすべてを親に依存してるってんならそりゃ情けないとは私も思うよ? だけどさ、もう結婚だって必ずしなきゃいけないってわけじゃないんなら、『ちゃんと仕事もしつつ自分のことは自分でできるけど実家住まいで家庭を守ってる』っていうのはそれこそ個人の自由じゃん。
それに口出しするってんなら、『結婚して子供作らなきゃ一人前の人間じゃない』って話も認めなきゃおかしいだろ!
私は、今のところ結婚とかしようと思ってないから、洸兄ぃみたいな形で実家暮らししてる人のことはとやかく言うつもりないよ。
ってか、私も、家、出てくつもりないし。このまま<フラワーショップ・エリカ>を続けるつもりだし!」
と力説したのだった。
皆と一緒にカレーを食べたアオは嬉しそうに笑顔で堪能していた。
その姿がとてもあたたかい。
アオは何も『躾け』てくれなかった。
『我慢しろ』
とも、
『辛抱しろ』
とも言ってくれなかった。
言ってくれなかったけれども、悠里も安和も椿も洸も恵莉花も秋生も、無駄に他人と諍いを起こさずに済んでいる。
それが事実だ。
基本的に規則も破ったりしない。破る必要がないから。
しかも幼い頃から蒼井家の子供達も月城家の子供達も、他人を押し退けてまで何かを得ようとはしなかった。
子供向けのイベントなどでお菓子や玩具が配られる時も、強引に前に出ようとはせず、空くまでおとなしく待った。
児童施設などで自分が使おうとしてた玩具を他の子が強く欲しがれば、それを譲り、奪い合うこともしなかった。
他の子をイジメることも、意地悪することもなかった。
その必要がなかったからだ。
みんなでカレーを食べながら、さらに<話>は続く。
「最近さ、<こどおじ>とかって言葉が使われてんじゃん? 私、あれ、嫌いなんだよね」
やはり恵莉花が端緒を開く。
「ああ、あれ、確か元々は<子供部屋おじさん>とか言われてたんだっけ? いい歳して実家住まいで自分用の子供部屋にずっと居続けてるのを揶揄するための造語、だったかな」
安和が応えると、
「そう、それ!」
恵莉花が手にしたスプーンを立てる。
「いい歳して実家の自分の部屋に住んでるって話だったら、洸兄ぃも入っちゃうじゃん!
そりゃ洸兄ぃは実年齢じゃ二十歳にもなってないけど、書類上はもう三十過ぎの<おっさん>だよ。しかも部屋は自分用の子供部屋だったのを改装した部屋だよ。完璧に<こどおじ>に当てはまっちゃうよ」
その恵莉花の言葉に反応したのは椿だった。
「おかしいよね、それって! 洸っくんは普通にちゃんと働いて、家庭を守ってるじゃん! その洸っくんをバカにするのとか、許せない!」
両手を握り締めて力説する。
すると洸が、
「ありがとう、椿。君がそう言ってくれたら僕は他人が何を言ってても平気だよ」
と微笑む。
しかし椿は治まらない。
「洸っくんは優しいから平気かもだけど、私はイヤ! 洸っくんがバカにされるのはイヤ!!」
そこに、悠里が、
「だけどその<こどおじ>とかいう言葉って、最初は確かいわゆる<パラサイトシングル>を指した言葉じゃなかったっけ?」
と加わる。それを受けて秋生も、
「その手の<ネットスラング>の類なんて、意味も根拠も由来も、そもそもいい加減だから、<本来の意味>なんてあってないようなものだと思うけど、まあ一般的にはそう解釈できるのかな」
参加。続けて、
「それがだんだん拡大解釈されて、って言うか、他人を馬鹿にするためにいいように利用されて、成人しても実家住まいの人全般を指すみたいに使われてるよね」
とも。
すると恵莉花が、
「大人になっても実家住まいなのをバカにするとか、それって、
『結婚して子供作らなきゃ一人前の人間じゃない』
とかと同じ種類の話じゃん。
確かに、子供の頃と同じように生活のすべてを親に依存してるってんならそりゃ情けないとは私も思うよ? だけどさ、もう結婚だって必ずしなきゃいけないってわけじゃないんなら、『ちゃんと仕事もしつつ自分のことは自分でできるけど実家住まいで家庭を守ってる』っていうのはそれこそ個人の自由じゃん。
それに口出しするってんなら、『結婚して子供作らなきゃ一人前の人間じゃない』って話も認めなきゃおかしいだろ!
私は、今のところ結婚とかしようと思ってないから、洸兄ぃみたいな形で実家暮らししてる人のことはとやかく言うつもりないよ。
ってか、私も、家、出てくつもりないし。このまま<フラワーショップ・エリカ>を続けるつもりだし!」
と力説したのだった。
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