51 / 697
絵画
しおりを挟む
人間よりタフで我慢強く、かつ長命で時間の余裕がある吸血鬼やダンピールは、実はこの種の忍耐を求められる、かつ長時間じっくりと活動しなければいけない研究などについては適性があるといえるのかもしれない。
しかも、夜行性の生き物も多いので、人間のように照明や赤外線暗視装置のような機材を用いなくても視界が確保できるという点でも有利だろう。
加えて気配も消せるので、接近も容易い。
もっとも、その辺りは野生の生き物の方が人間よりも鋭敏なことも多いので、常に確実に接近できるわけではないけれど。
「こんな街の近くでも見られるんだね」
セルゲイにしか聞こえない小さな声で呟くように言った悠里に、セルゲイは穏やかに微笑みながら、
「そうだね。<生き物>はどこにだっている。僕はその場で見付けた生き物の生態を確かめる形で研究してるから、それこそ街中だってできるんだ。もちろん、特定の種の調査を目的にしてる時にはそれが生息している場所まで赴くこともあるけど」
と応えた。
セルゲイの言うとおりだった。彼は名声を得ることを目的に研究しているわけではないので、耳目を集めるような生き物に拘る必要がない。それこそ身近にいる害虫を研究対象にする事だってある。
ただ今回は、悠里に見せてあげたくてというのもあって、こういう形での調査になったというのもあった。
するとセルゲイはバックパックからスケッチブックを取り出し、寝ているオオルリオビアゲハをスケッチし始めた。映像による記録もいいけれど、セルゲイはこうしてスケッチするのが主だった。
そんなセルゲイに倣い、悠里も自分のスケッチブックでスケッチを始める。
「スケッチするためにはよく見ないといけない。僕はこれが必要だと思ってるんだ。よく見て、感じて、その生き物を理解する。生物学の醍醐味の一つだよ」
スケッチしながら囁くように語るセルゲイの言葉を耳にしながらも、悠里は夢中で蝶の姿を写し取った。
とは言え、さすがにまだ十三歳と若いこともあってか、その絵は若干、拙いところもある。まあそれでも年齢を思えば十分に巧みな絵だったけれども。
しかしセルゲイのそれに比べれば、やはり<子供の絵>だとも言えるだろうか。
何しろセルゲイが写し取った蝶の姿は、ただ写実的なだけでなく、それこそ今にも羽ばたいて飛んでいきそうなほど生き生きとしたものだったのだから。
明らかに美術的な才能も高いと思わせる<絵画>だった。
『さすがに巧いなぁ……!』
声には出さず悠里が感嘆する。そういう面でも、セルゲイのことを尊敬していたのだった。
しかも、夜行性の生き物も多いので、人間のように照明や赤外線暗視装置のような機材を用いなくても視界が確保できるという点でも有利だろう。
加えて気配も消せるので、接近も容易い。
もっとも、その辺りは野生の生き物の方が人間よりも鋭敏なことも多いので、常に確実に接近できるわけではないけれど。
「こんな街の近くでも見られるんだね」
セルゲイにしか聞こえない小さな声で呟くように言った悠里に、セルゲイは穏やかに微笑みながら、
「そうだね。<生き物>はどこにだっている。僕はその場で見付けた生き物の生態を確かめる形で研究してるから、それこそ街中だってできるんだ。もちろん、特定の種の調査を目的にしてる時にはそれが生息している場所まで赴くこともあるけど」
と応えた。
セルゲイの言うとおりだった。彼は名声を得ることを目的に研究しているわけではないので、耳目を集めるような生き物に拘る必要がない。それこそ身近にいる害虫を研究対象にする事だってある。
ただ今回は、悠里に見せてあげたくてというのもあって、こういう形での調査になったというのもあった。
するとセルゲイはバックパックからスケッチブックを取り出し、寝ているオオルリオビアゲハをスケッチし始めた。映像による記録もいいけれど、セルゲイはこうしてスケッチするのが主だった。
そんなセルゲイに倣い、悠里も自分のスケッチブックでスケッチを始める。
「スケッチするためにはよく見ないといけない。僕はこれが必要だと思ってるんだ。よく見て、感じて、その生き物を理解する。生物学の醍醐味の一つだよ」
スケッチしながら囁くように語るセルゲイの言葉を耳にしながらも、悠里は夢中で蝶の姿を写し取った。
とは言え、さすがにまだ十三歳と若いこともあってか、その絵は若干、拙いところもある。まあそれでも年齢を思えば十分に巧みな絵だったけれども。
しかしセルゲイのそれに比べれば、やはり<子供の絵>だとも言えるだろうか。
何しろセルゲイが写し取った蝶の姿は、ただ写実的なだけでなく、それこそ今にも羽ばたいて飛んでいきそうなほど生き生きとしたものだったのだから。
明らかに美術的な才能も高いと思わせる<絵画>だった。
『さすがに巧いなぁ……!』
声には出さず悠里が感嘆する。そういう面でも、セルゲイのことを尊敬していたのだった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
甘灯の思いつき短編集
甘灯
キャラ文芸
作者の思いつきで書き上げている短編集です。 (現在16作品を掲載しております)
※本編は現実世界が舞台になっていることがありますが、あくまで架空のお話です。フィクションとして楽しんでくださると幸いです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
乙女フラッグ!
月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。
それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。
ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。
拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。
しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった!
日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。
凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入……
敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。
そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変!
現代版・お伽活劇、ここに開幕です。
瑠菜の生活日記
白咲 神瑠
キャラ文芸
大好きで尊敬している師匠コムが急に蒸発して死んだのだと周りから言われる瑠菜。それを認めることはできず、コムは生きているんだと信じているが、見つけなければ信じ続けることもできない。
そんなことを考えていたある日、瑠菜の弟子になりたいという少女サクラが現れる。瑠菜は弟子を作ることを考えたこともなかったが、しつこいサクラを自分と重ねてしまいサクラを弟子にする。
サクラの失敗や、恋愛というより道をしながらも、コムを見つけるために瑠菜はコムがいなくなった裏側を探る。
毒小町、宮中にめぐり逢ふ
鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。
生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。
しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる