キツネつきのお殿さま

唯純 楽

文字の大きさ
上 下
48 / 159

兄と弟 2

しおりを挟む
「なんだ、春之助か。かまわないから、入って来るといい」

 異母弟とは公の行事などで何度か顔を合わせたことはあるが、遠くから一瞥した程度で、まともに面と向かって言葉を交わすのは初めてだ。

 それでも、血の繋がった弟だというだけで、秋弦の警戒心は霧散する。

「失礼します」

 ごそごそと潜り込んで来た春之助に、抱いていた子猫を押し付けるようにして渡してやると、おっかなびっくりといった様子で受け止める。

「……随分と、小さいものなのですね」

「母親があれなのだから、そんなものだろう」

 母体の大きさを考えれば、子どもの大きさは妥当なものだ。

 もしかして、春之助は猫自体を見たことがないのかと、秋弦は思った。

「初めて見るのか?」

「母が、動物嫌いなので……近くで見たことはありません」

「ふうん。だったら、母上のいないところで会えばいいだろう?」

 何も、四六時中母親と一緒にいる必要はないだろうと秋弦が言えば、春之助は驚いたように目を丸くする。

「父上が、男子たるものいつまでも女子の後ろに隠れているようでは、情けないと言っていたぞ」

 秋弦が父の受け売りで諭すと、春之助はしゅんとして俯いた。

「……はい」

 その様子から、はきはき喋る春之助は大人びて見えるけれども、自分より五つも年下だったということを思い出し、秋弦は逃げ道を付け足してやった。

「でも、母上という生き物は時々鬼のように怖いからな。見たくなったら、私に会いに行くと言えばいい。兄弟なのだし、会って話をしてはいけないなんてことは、ないだろう」

「あの、あにう……惣一朗様も、母上が怖いのですか?」

 兄ではなく幼名で秋弦を呼び直した春之助は、五歳にしては礼儀正しすぎるようだ。

 自分が同じ年頃だったときは、さんざんばあやとじいを困らせていたことを思い返し、春之助を気の毒に思った。

「兄弟で、惣一朗様は変だ。兄上がいい。ちなみに、俺の母上は鬼というより狼だな。油断するとがぶりと噛みつかれる。まぁ、春之助の母上も同じくらい怖いみたいだな」

 時折聞こえてくる女中たちの噂では、春之助の母お遊の方は気が強くて癇癪かんしゃく持ちとのことだった
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件

百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。 そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。 いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。) それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる! いいんだけど触りすぎ。 お母様も呆れからの憎しみも・・・ 溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。 デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。 アリサはの気持ちは・・・。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

【R18】義弟ディルドで処女喪失したらブチギレた義弟に襲われました

春瀬湖子
恋愛
伯爵令嬢でありながら魔法研究室の研究員として日々魔道具を作っていたフラヴィの集大成。 大きく反り返り、凶悪なサイズと浮き出る血管。全てが想像以上だったその魔道具、名付けて『大好き義弟パトリスの魔道ディルド』を作り上げたフラヴィは、早速その魔道具でうきうきと処女を散らした。 ――ことがディルドの大元、義弟のパトリスにバレちゃった!? 「その男のどこがいいんですか」 「どこって……おちんちん、かしら」 (だって貴方のモノだもの) そんな会話をした晩、フラヴィの寝室へパトリスが夜這いにやってきて――!? 拗らせ義弟と魔道具で義弟のディルドを作って楽しんでいた義姉の両片想いラブコメです。 ※他サイト様でも公開しております。

処理中です...