キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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キツネのお殿さま 2

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 あの夢が――恐ろしく淫猥な夢が本当の記憶だとは……思いたくない。思いたくないが……本当だったとしたら、あれ以上の女子がこの先現れるかどうか。何せ、あんなに……。

「と、殿?」

 怪訝な声で問いかけられ、我に返った秋弦は斜め後ろに目をやり、説明した。

「安心しろ。幻覚ではない。正真正銘、本物の白狐だ。伊奈利山の神使、『楓』だ」

「伊奈利山……では、お狐さまの?」

 普請奉行の太い眉が跳ねあがる。
 秋弦は大きく頷いて、誰もが納得できる、差し障りのなさそうな事情を語った。

「十年前、私がかどわかしに遭ったとき、世話になった。その縁で、私が照葉の国をつつがなく治めているか、様子を見るために山から下りて来てくれたのだ」

 我ながらうまい説明だと悦に入ったが、いきなり背中を「ドンッ」と小突かれた。

 振り返れば、じっと金色の目で睨んでいる。

 言いたいことはなんとなくわかるが、ここで「実はつがいになりたいと迫られて、何もかもが好みだったので、狐と知りながら同衾してしまった」などと口にしようものなら、「殿、ご乱心!」という噂が瞬く間に駆け巡るに違いない。

 今は言えないと目で訴えると、楓は再び背中を「ドン」と小突いた。

 かなりの力で、秋弦はあやうく転げそうになって脇息に掴まる。

「か、楓っ!」

「言い訳がましいですよ、殿」

 言い訳しなければ何をしろと言うのだと睨む秋弦に、「ごまかせばごまかすほど、ドツボにハマりますよ」と春之助は言い返す。

「しかし……」

 なおも食い下がろうとした秋弦に、今度は楓が体当たりしてきた。
 楓は秋弦の膝の上に乗っかって、そのまま押し倒そうとする。

「なっ! やめっ……やめないか、楓っ!」

 狼ほどもある狐の体を抱きかかえて胡坐の上に納めると、楓は気が済んだのか、くるんと丸くなった。
 ゆらゆらと尾を揺らし、満足だと示している。

 広間にいる者たちの視線が突き刺さり、そこに色んな疑問や懸念、好奇心などが含まれていることをひしひしと感じながら、秋弦は今できる最大限の言い訳を口にした。

「と、とにかく、楓は私にとって大事な狐だ。せっかくはるばる訪れてくれたのだし、しばらく城に留まってもらおうと思っている。その方らも、楓をそこかしこで見かけても……私の傍にくっついていても…………時々押し倒していたとしても、気にしないように」
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