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( 6 )大人だったら良かったのに

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大人なのに子供に慰められてしまったエルザ。


(いけないわ、気を使わせてしまいました。私は奴隷なのに。さあ、しっかりしなくちゃ。)


溢れた涙を押し戻して、エルザは笑顔を作る。



「ありがたいございます。元気になりました。」
「そう、良かったね。」
「それで、「はつじょうき」って?」
「もう少し、大人になったら教えてあげる。」



大人とは?もう、大人ですが。誰が見ても大人ですが。ジョセフィンは背を向けて小屋を出て行ってしまった。









私は、買われた奴隷です。お仕事を下さい。


「あの、何をしたらいいのでしょうか?」


水瓶(みずがめ)の側で火を起こして料理している女性達に声をかけてみた。


「ああ、王子様の側室さんね。それを捌(さば)いておくれ。」


はーいと、言われた物を手に取る。これは何ですかと見た。


「えっ、、、?(悲鳴を上げる心の声)」


そのまま、後ろに倒れてしまう。後ろに薪(まき)が積まれていたので背中を打ち付けた。


「あんた、大丈夫かい。どうしたの!」


女達は、大騒ぎ。青ざめてエルザは震えた。手にした物が離れてくれない。いや、硬直して離せないのだ。



「こ、こ、こ、これーー!」
「これ?尺取(しゃくとり)モンスターかい?」
「これ、これ、食べるとか?(違うと言って)」
「そうだよ。だいたい、これだね。ちょっと、あんた。寝ちゃったのかい!」



手から伝わるモンスターの●●●した感触は、耐えられません。この際、現実逃避。意識を飛ばせて頂きます。






小屋に入って来たジョセフィン王子は、カーテンで仕切られただけのベッドルームに声をかける。


「エルザさん、大丈夫?」


エルザは、木の枝で造られているベッドに横になっていた。返事をして起き上がる。



「申し訳ありません。休ませて頂きました。」
「いいから、寝てて。神殿で育ったのなら、こんな山奥なんて知らないだろ。疲れるよね。」
「はい、世間知らずですから。」
「クスッ、気にしてるの?」
「いいえっ、世間知らず、で、す!」



ムキになって、繰り返す。こんな事やってるから、子供にもカラカワれてしまうのだけど。止められない大人です。
ずっと、大聖女として崇められて暮らしてたのですよ。信じないでしょうが。



「ちょっと、詰めてくれる?」
「はい?詰める、ですか。何処へ?」
「僕も、そこで寝るからだよ。」
「あー、寝る。えっ?」
「だって、しょうがないだろ。ベッドは、1つだけなんだから。」



少年は、服を脱いだ。ズボン姿になると靴を脱いでベッドへ入って来るではないか。

やっと、エルザは気がつく。この小屋(お屋敷)は、王子様の物。当然、1つしかないベッドは王子様の物。

大変、旦那様のベッドを奴隷が使ってましたわ。



「申し訳ありません!私は、下で寝ますから。失礼しました。」


慌てて、エルザはベッドから転がり出る。少年は、驚いた。



「エルザさん、一緒に寝ようよ。」
「いいえ、私は奴隷ですから。気を使わないで下さい。」
「でも、床で寝かせられないよ。」
「平気です。私は何時も祭壇の横のベンチで寝てましたから。」



そう、祭壇の裏に物置があり木のベンチがあった。祈りを捧げて自室へ戻る気力が失せると、そこで仮眠していたのだ。

駄目、思い出しては。また、泣いてしまいます。


「エルザさんは、意地っ張りだなあ。いいよ、床で寝て。その代わり、この毛皮を敷いて欲しい。痛くないだろ。」


ジョセフィン王子は、モンスターの毛皮を出してくれた。何て優しいのだろう。これが、大人の男なら好きになってしまいます。残念!
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