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プロローグ

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私、アグアニエベという名前の悪魔でございます。悪魔ですが天使の役目を果たしているのです。


「私は日本という国でサラリーマンをしておりました。真面目に務め上げて(ご機嫌とりと陰口をされましたが)定年を待つ歳になって不慮の事故死。そこから要領よく這い上がって悪魔へ転生したという身の上」


そんな話は、聞きたくない?お前は、天使になって何をやってるんだ?

勿論、人助けですよ。仕事は早いので並の天使の数倍は処理能力があります。なので、癒しが欲しいのですよ。


「あったー!」


私は、とある都の裏通りにある下町の商店街に来ております。そして、1人が通る通路しかない小さな書店で本を手に取る。

高価な書物は手に入らない庶民に流通している安価な出来の悪い半紙にガリバン刷りの本。インクはカスれて読みにくいが値段を考えたら文句は言えない。


「あー、私の好きな「悪役令嬢ストーリー」です!」


今、あちこちの国で「乙女ゲーム」というジャンルの小説が人気で直ぐに売り切れる。品切れで増産状態だそうです。

かくいう私の城の書斎には、買い集めた本が山積みでございまして。ふと、考える。


「そうだ、私は悪魔なのです。現実の悪役令嬢の断罪の場面を目にできるではありませんか!」


私とした事が、今になって気がつくとは。悪魔の職権乱用で大好きな場面を観覧できるのに。

あれが、大好きなので。「婚約破棄」の場面が。








そこは、メンドラという小国。その王城では、舞踏会が開かれていた。貴族達が集い溢れている。


「あら、あれは王子様のアンジェラ・エドウィン公爵令嬢婚約者ではないでしょうか。」

「そうでございますね。今夜もお供を連れて賑やかですこと。」

「先程、あの男爵令嬢を見ましたわ。」

「イレーヌ・ボンド男爵令嬢ですか?今夜の舞踏会の招待状は出ていないはずですけど。下級貴族には。」

「それは、王子様が招待されて。」

「まあ、面白くなりそうですこと!」


側で聞いていたアグアニエベは、その会話を聞いてほくそ笑む。ドキドキものです。さあ、これから何が起きる事やら。

燃えるような赤毛の貴族令嬢が、お供の令嬢たちを引き連れて現れる。すると、会場の人々の視線が集中した。皆が同じ事を思っているらしい。


「ほら、次期王妃が男爵令嬢へ向かっていく!」
「これから、修羅場だわ!」


明日は、貴族達の間で話題になるだろう。1つも見逃すまいと目をこらす者ばかり。王子の婚約者は、会場の隅に居る美少女の前に立った。美少女は、ビクッとする。


「イレーヌ・ボンド男爵令嬢さま、ごきげんよう。」


イレーヌは、青ざめて震える。自分のドレスを見回す相手の視線が刺さるようだ。それが、王子からの贈り物と分かったのだろう。


「あなたは、私の忠告を無視なさいましたわね。」


アンジェラは、その扇で金髪の令嬢を打ち据えた。その様に、周りに居る貴族達が離れていく。王宮の舞踏会のホールに残された2人の令嬢。


「公爵令嬢として、私、アンジェラ・エドウィンがご忠告いたしますわ。あなたは、ここに相応しくない。元の平民の暮らしに戻りなさいませな!」

「待て、アンジェラ・エドウィン公爵令嬢。この王宮での彼女に対する侮辱を私が許さないぞ。ここに、宣言する。君との婚約は破棄だ!」


この国の次期王に決定しているステファン・シェフィールドであった。
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