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(18) 悩みの種

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獣の雄叫びに眠りを破られてヘルミーナは枕から頭を起こした。あの声は、ドラゴンだ。どうして、ここに居るの?

寝室の天外付き寝台から出て窓の外を眺めた彼女は驚く。


「まあ、どうしましょうー!」


慌ててガウンを羽織り部屋から飛び出す。庭に走り出て声を張り上げた。


「ライアンさん、駄目よ。こんな処に連れて来ては!」


隣りの家の敷地の庭に緑色のドラゴンが居るのだ。起きたらしく寝起きの体操をやっているではないか。3メートルくらいの大きさという事は子供。まあ、大変。親が探しに来るわ。

その足元で林檎を投げ与えている若者。日に焼けた顔に白い歯を見せて笑った。


「ヘルミーナ様、迷子なんです。保護してるだけですから。」

 
笑ってる場合か。そのドラゴンの母親が探しに来たら大変なのだ。母親ドラゴンは狂暴になるのに。子供の事になると怒り狂って大暴れしてしまう。

ヘルミーナは冷静になろうと務めた。ライアンは知らないから私が代わりにやらなくては。とにかく、元いた場所へ連れて行こう。それからだ。










その後、昼食時間のテーブルに疲れ果てたヘルミーナの姿があった。


「つ、疲れたー(ドラゴンのお守りさせられて)」


その前で、山盛りのお昼御飯を平らげてく婚約者のライアン。疲労困憊のヘルミーナは罵る事も出来ないでいるのに。

子供ドラゴンを連れて空間移動をし、ドラゴン地帯で身の危険を感じながら母親を探しました。怒って襲ってくる母親ドラゴンを必死で説得したんです。


「助かりましたよ。付いてきてしまうから困ってたんです。母親の元に返してくれるなんて頼りになるなー。」

「うー!(回し蹴りしたい)」

「愛してますよ、僕の婚約者。」

「うー!(口だけ男)」


この国へ来て半年。すっかり気を許してるのか、今では馴れなれしい第3王子様。ヘルミーナが動けないのを良い事に立ち上がると肩を抱いて頬に口付けた。チュッー。


「ひっー!(許可なしキス反対)」

「怒った顔も可愛いですよ。じゃ、私は仕事に戻りますから。」


男っぼい逞しくなった身体が遠ざかって行く。婚約した時は大人しかったのに変わってしまった。
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