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「シロー様。ここが魔族のいる森《ウインミクアギラの森》みたいです。とても奥深く最深部まで行った物は誰一人いないということです」
志郎と召喚師のイネリアは地図を頼りにたった二人で魔族の棲むという森までやってきた。
「けっこう暗いな」
木々が茂り森の中は日が当たらず薄暗い。
「なあイネリア」
「はい、シロー様」
「聞きたいことがあるんだけど。イネリアは国の人たちが攫われていることを知ってたのか?」
「はい?……えと、すみません。全然知りませんでした。私、生まれた時からアースラッガ城から出たことなかったので」
「ふーん。やっぱりそうなんだ」
「はい?」
「あ、いやなんでもない。さ、森ん中に入るぞ」
二人は薄暗いウインミクアギラの森の中に入っていった。
薄暗い森に入って約二時間。
太く大きな木の横を通り過ぎようとした時。
ガツッ!
「痛ぇっ!」
「あ痛っ!」
誰かとぶつかった。
とっさに後方にジャンプした志郎。ぶつかった相手も数歩後退した。
そして互いを見た。
「「あっ!」」
二人の声が重なった。
「魔族か!」
「あ、ああああ!もしかしてシローさん?」
「へ?」
ぶつかったのはなんとあの魔族だった。
「お前……、カンダールとスラーデで会った魔族だよな」
「はいそうですよシローさん。いやあ懐かしいなあ。お元気でしたか?」
ニコニコする魔族。
「あ、うん。元気だぞ。ってなんでお前がここにいるんだ?」
「あはは。世直しですよ世直し」
と苦笑する魔族の男。
「あ、あの……シロー様……」
魔族と親し気に話をしている志郎にイネリアがおずおずと尋ねた。
「ん?あ、ああ、こいつは魔族だけど悪い魔族じゃないぞ。なあ」
「あ、はい。えと、城の方ですか?」
魔族がイネリアに顔を向ける。
「ひっ!」
小さな悲鳴をあげて志郎の後ろに隠れるイネリア。
「あはは。お前怖がられてるぞ」
「あ、はあ。仕方ないですけど、けっこうめげます」
そう言うと肩を竦めた。
「あ、あの、シロー様……」
「大丈夫だって。この魔族は俺のダチだ。安心しろ。決してお前に不埒なことはしねえから。な」
「はい、そうですよ。って不埒ってシローさん」
と頭をかく魔族。
「ははは」
と笑う志郎。
「あ、あの……」
志郎の言葉を少しだけ信じたのだろうイネリアは志郎の背中から出てきて魔族を見つめた。
「あ、はい。すみません怖がらせてしまって」
とペコリと頭を下げる魔族。それを見てイネリアはあわあわ。
「えっ、あ、あの、いえ、こ、こちらこそすみません」
とこちらもペコペコ。
「まあ、そういうことだ。で、もしかして魔王のじいさんもいるのか?」
「はい。あちらにおられますよ。ぜひ会ってください。ささ、こっちです」
魔族はうれしそうにそして楽しそうに二人を森の奥に案内した。
「うわあ!もしかしてシロー様じゃないですかぁ!」
「ほんとだ、シロー様だシロー様だ!」
魔族の本陣に入るとどこからともなく自分を呼ぶ女性の声が聞こえてきた。
「ん?あっ!お前らは!」
一人は緑の神に緑の瞳、そしてもう一人は赤い髪と赤い瞳をした女性。
「もしかしてビスカとジオラか?久しぶりだなあ。二人とも元気だったか?」
「はい、私です、ビスカです。またお会いできてうれしいですシロー様」
「はい、覚えてくれてましたかシロー様。あたしジオラです。ほんと久しぶりです」
と二人は志郎の手を取ってとてもうれしそうだ。
「でも二人とも老け……、いや、熟女になったみたいだな」
「むう、シロー様。前に会ってから十年ですからね」
「そっか。俺の時間だと半年もたってないんだけどな」
「そうなんですか?なんか不思議です」
とビスカとジオラ。
「えと、シロー様?」
志郎の服の裾をクイッと引っ張る。
「ああ、この二人は俺の知り合いだ。安心しろイネリア」
志郎はイネリアに二人の女性を紹介した。
「そうだったのですか。シロー様は今回で三度目の勇者召喚だったのですね」
と驚いていた。
「シロー様、魔王様はこの先におられますよ。さ、どうぞ」
ビスカとジオラは志郎とイネリアを魔王のところに連れて行った。
「……えと、俺はどうしたら……」
それを見送る魔族の男。コンッと小石を蹴った。
「ふぉっふぉっふぉっ。久しぶりですなあシローさん。またもこのようなところでお会いできるとは思いませんでしたよ」
「ああ、久しぶりだな魔王のじいさん。ほんとこんなとこで会えるとはな。偶然もこんだけ続くと誰かの策略かと思ってしまうぞ」
にこやかに魔王と談笑する志郎。イネリアは横で志郎の服の裾を掴んでいた。ビスカとジオラはそれを見て懐かしい想いになった。
「それでそちらのお嬢さんがアースラッガ城のお方ですかな?」
優し気な目で少し震えているイネリアを見た。
「は、はい……」
少し顔を蒼ざめさせるが志郎がその背中を優しく叩いた。
「こいつはイネリア、召喚師の助手だそうだ。なあ、イネリア、そんなに怖がらなくてもいいって。この魔王のじいさんはいい魔族なんだぞ」
「ふぉっふぉっふぉっ」
魔王はニコリと微笑んだ。だが耳まで裂けた口は少し不気味に見えた。だがその口が少し寂しい。
「ところで、なあ魔王のじいさん」
「なんですかな?」
「なんで牙がそんなに短いんだ?」
「うっ……」
あわてて口を押える魔王。以前は五センチはあった立派な牙が今は一センチもない。
「あ、そ、それはですな……。バナリンゴをかじったら牙が二本とも欠けてしもうてな。ふぉっふぉっふぉっ。あまり見んでくだされ」
と少し顔を赤らめた。
「へ……?」
恥ずかしがる魔王を見てあっけにとられるイネリア。なぜかとても親近感を持ったようだ。それを見たビスカとジオラ、うんうんと頷いていた。
「あはははは」
と指を差して笑う志郎。
「シ、シロー様、失礼ですよ」
と志郎に注意するイネリア。
「あはは。でもなイネリア。バナリンゴ喰って牙折ってるんだぞ。あはははは」
「も、もうシロー様。ま、魔王様、シロー様が失礼いたしました」
なぜか急に魔王を見て頭を下げた。
「良いのですよイネリアさん。でも、ありがとうございますイネリアさん」
とニコリと微笑む魔王。
「い、いえ。はは」
今度はイネリアも微笑み返した。
「ところで魔王のじいさんさ、おれさ、またまた魔王を倒してくれってここの城の召喚師に頼まれたんだが……。なんかやったのか魔王のじいさん」
「ふふふ。そうでしたか。そのようなことを頼まれましたか。いやはや……」
苦笑して白い顎鬚を撫でる魔王。
「召喚師たちは魔族がこの国の民を攫い続けてるみたいなこと言ってたけど」
「うーむ。間違いではないのですが……。実はですな……」
と眉間を寄せながら話をした。
一年ほど前、魔王たちはこの世界にたどり着いた。平和そうなアースラッガ。しかし、穏やかそうに見えていたこの国は実はとんでもないことをしていたのだった。
アースラッガは無数の町や村で国を成している。その中の小さな村々が消えて言っていたのだ。そう、村人全員忽然と消えたのだった。
隠密部隊が調べたところ、消えた村人たちはアースラッガの者に攫われたことがわかった。そして攫われた人たちの大半は奴隷としてウートラアイの海の彼方にあるウラッスビーム国に売られていたことがわかった。そして一部の人たちは何かの儀式の犠牲となっていたこともわかった。
魔王軍はそれを知ると城に気づかれないように小さな村を中心に村人を保護このウインミクアギラの森の奥深くに避難させていったのだった。
「そうだったのか。なんてひどいことをするんだ。それで魔王のじいさん、攫われた人たちはどうなったんだ?」
「はい、助け出しましたよ。しかし、残念ながらすでに亡くなられていた者もいました」
魔王は悔しそうに目を伏せた。
「……そっか。……で、避難させる人たちはあととれくらいいるんだ?」
「もう避難させる必要はないでしょう」
意味ありげに志郎を見つめる魔王。
「へ?はは、そうだな。なんか腕が鳴るぜ」
志郎はポキポキと指を鳴らした。
それを見てうれしそうなビスカとジオラ。イネリアは複雑な顔をして志郎達を見つめていた。
志郎と召喚師のイネリアは地図を頼りにたった二人で魔族の棲むという森までやってきた。
「けっこう暗いな」
木々が茂り森の中は日が当たらず薄暗い。
「なあイネリア」
「はい、シロー様」
「聞きたいことがあるんだけど。イネリアは国の人たちが攫われていることを知ってたのか?」
「はい?……えと、すみません。全然知りませんでした。私、生まれた時からアースラッガ城から出たことなかったので」
「ふーん。やっぱりそうなんだ」
「はい?」
「あ、いやなんでもない。さ、森ん中に入るぞ」
二人は薄暗いウインミクアギラの森の中に入っていった。
薄暗い森に入って約二時間。
太く大きな木の横を通り過ぎようとした時。
ガツッ!
「痛ぇっ!」
「あ痛っ!」
誰かとぶつかった。
とっさに後方にジャンプした志郎。ぶつかった相手も数歩後退した。
そして互いを見た。
「「あっ!」」
二人の声が重なった。
「魔族か!」
「あ、ああああ!もしかしてシローさん?」
「へ?」
ぶつかったのはなんとあの魔族だった。
「お前……、カンダールとスラーデで会った魔族だよな」
「はいそうですよシローさん。いやあ懐かしいなあ。お元気でしたか?」
ニコニコする魔族。
「あ、うん。元気だぞ。ってなんでお前がここにいるんだ?」
「あはは。世直しですよ世直し」
と苦笑する魔族の男。
「あ、あの……シロー様……」
魔族と親し気に話をしている志郎にイネリアがおずおずと尋ねた。
「ん?あ、ああ、こいつは魔族だけど悪い魔族じゃないぞ。なあ」
「あ、はい。えと、城の方ですか?」
魔族がイネリアに顔を向ける。
「ひっ!」
小さな悲鳴をあげて志郎の後ろに隠れるイネリア。
「あはは。お前怖がられてるぞ」
「あ、はあ。仕方ないですけど、けっこうめげます」
そう言うと肩を竦めた。
「あ、あの、シロー様……」
「大丈夫だって。この魔族は俺のダチだ。安心しろ。決してお前に不埒なことはしねえから。な」
「はい、そうですよ。って不埒ってシローさん」
と頭をかく魔族。
「ははは」
と笑う志郎。
「あ、あの……」
志郎の言葉を少しだけ信じたのだろうイネリアは志郎の背中から出てきて魔族を見つめた。
「あ、はい。すみません怖がらせてしまって」
とペコリと頭を下げる魔族。それを見てイネリアはあわあわ。
「えっ、あ、あの、いえ、こ、こちらこそすみません」
とこちらもペコペコ。
「まあ、そういうことだ。で、もしかして魔王のじいさんもいるのか?」
「はい。あちらにおられますよ。ぜひ会ってください。ささ、こっちです」
魔族はうれしそうにそして楽しそうに二人を森の奥に案内した。
「うわあ!もしかしてシロー様じゃないですかぁ!」
「ほんとだ、シロー様だシロー様だ!」
魔族の本陣に入るとどこからともなく自分を呼ぶ女性の声が聞こえてきた。
「ん?あっ!お前らは!」
一人は緑の神に緑の瞳、そしてもう一人は赤い髪と赤い瞳をした女性。
「もしかしてビスカとジオラか?久しぶりだなあ。二人とも元気だったか?」
「はい、私です、ビスカです。またお会いできてうれしいですシロー様」
「はい、覚えてくれてましたかシロー様。あたしジオラです。ほんと久しぶりです」
と二人は志郎の手を取ってとてもうれしそうだ。
「でも二人とも老け……、いや、熟女になったみたいだな」
「むう、シロー様。前に会ってから十年ですからね」
「そっか。俺の時間だと半年もたってないんだけどな」
「そうなんですか?なんか不思議です」
とビスカとジオラ。
「えと、シロー様?」
志郎の服の裾をクイッと引っ張る。
「ああ、この二人は俺の知り合いだ。安心しろイネリア」
志郎はイネリアに二人の女性を紹介した。
「そうだったのですか。シロー様は今回で三度目の勇者召喚だったのですね」
と驚いていた。
「シロー様、魔王様はこの先におられますよ。さ、どうぞ」
ビスカとジオラは志郎とイネリアを魔王のところに連れて行った。
「……えと、俺はどうしたら……」
それを見送る魔族の男。コンッと小石を蹴った。
「ふぉっふぉっふぉっ。久しぶりですなあシローさん。またもこのようなところでお会いできるとは思いませんでしたよ」
「ああ、久しぶりだな魔王のじいさん。ほんとこんなとこで会えるとはな。偶然もこんだけ続くと誰かの策略かと思ってしまうぞ」
にこやかに魔王と談笑する志郎。イネリアは横で志郎の服の裾を掴んでいた。ビスカとジオラはそれを見て懐かしい想いになった。
「それでそちらのお嬢さんがアースラッガ城のお方ですかな?」
優し気な目で少し震えているイネリアを見た。
「は、はい……」
少し顔を蒼ざめさせるが志郎がその背中を優しく叩いた。
「こいつはイネリア、召喚師の助手だそうだ。なあ、イネリア、そんなに怖がらなくてもいいって。この魔王のじいさんはいい魔族なんだぞ」
「ふぉっふぉっふぉっ」
魔王はニコリと微笑んだ。だが耳まで裂けた口は少し不気味に見えた。だがその口が少し寂しい。
「ところで、なあ魔王のじいさん」
「なんですかな?」
「なんで牙がそんなに短いんだ?」
「うっ……」
あわてて口を押える魔王。以前は五センチはあった立派な牙が今は一センチもない。
「あ、そ、それはですな……。バナリンゴをかじったら牙が二本とも欠けてしもうてな。ふぉっふぉっふぉっ。あまり見んでくだされ」
と少し顔を赤らめた。
「へ……?」
恥ずかしがる魔王を見てあっけにとられるイネリア。なぜかとても親近感を持ったようだ。それを見たビスカとジオラ、うんうんと頷いていた。
「あはははは」
と指を差して笑う志郎。
「シ、シロー様、失礼ですよ」
と志郎に注意するイネリア。
「あはは。でもなイネリア。バナリンゴ喰って牙折ってるんだぞ。あはははは」
「も、もうシロー様。ま、魔王様、シロー様が失礼いたしました」
なぜか急に魔王を見て頭を下げた。
「良いのですよイネリアさん。でも、ありがとうございますイネリアさん」
とニコリと微笑む魔王。
「い、いえ。はは」
今度はイネリアも微笑み返した。
「ところで魔王のじいさんさ、おれさ、またまた魔王を倒してくれってここの城の召喚師に頼まれたんだが……。なんかやったのか魔王のじいさん」
「ふふふ。そうでしたか。そのようなことを頼まれましたか。いやはや……」
苦笑して白い顎鬚を撫でる魔王。
「召喚師たちは魔族がこの国の民を攫い続けてるみたいなこと言ってたけど」
「うーむ。間違いではないのですが……。実はですな……」
と眉間を寄せながら話をした。
一年ほど前、魔王たちはこの世界にたどり着いた。平和そうなアースラッガ。しかし、穏やかそうに見えていたこの国は実はとんでもないことをしていたのだった。
アースラッガは無数の町や村で国を成している。その中の小さな村々が消えて言っていたのだ。そう、村人全員忽然と消えたのだった。
隠密部隊が調べたところ、消えた村人たちはアースラッガの者に攫われたことがわかった。そして攫われた人たちの大半は奴隷としてウートラアイの海の彼方にあるウラッスビーム国に売られていたことがわかった。そして一部の人たちは何かの儀式の犠牲となっていたこともわかった。
魔王軍はそれを知ると城に気づかれないように小さな村を中心に村人を保護このウインミクアギラの森の奥深くに避難させていったのだった。
「そうだったのか。なんてひどいことをするんだ。それで魔王のじいさん、攫われた人たちはどうなったんだ?」
「はい、助け出しましたよ。しかし、残念ながらすでに亡くなられていた者もいました」
魔王は悔しそうに目を伏せた。
「……そっか。……で、避難させる人たちはあととれくらいいるんだ?」
「もう避難させる必要はないでしょう」
意味ありげに志郎を見つめる魔王。
「へ?はは、そうだな。なんか腕が鳴るぜ」
志郎はポキポキと指を鳴らした。
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