異世界人と竜の姫

アデュスタム

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第7章 魔王

04 友の声

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「うおりゃあああああ!」
「効かぬは!」
 功助とゼドンの攻防はいつしか暗い真夜中の空に移っていた。
 二人の拳がぶつかると、なんと衝撃波が光となり放たれる。
 功助は俊二にゼドンの背後に現れるとその背を蹴る。蹴られたゼドンは地面に激突し大きなクレーターを作る。だがすぐに飛び上がると今度は功助の腹に拳を叩きつけた。そして今度は功助が地面にクレーターを作る。
 お互い単純な攻撃だが着実に互いの魔力を減少させていった。
「はあ、はあはあはあ」
「ふう、はあはあはあ」
 功助もゼドンも息を切らす。
「(ん?)」
 功助は目の端に何かが光ったような気がしてそちらを向くと飛翔術を使い飛んでいるシャリーナと、その後ろからゆっくりと翼をはばたかせこっちに向かってくる黄金のドラゴンに気づいた。
「(あ、あれはシオン。な、なんで?)」
「よそ見をするとは舐められたものだ!」
 ゼドンの魔力弾が功助に当たる。
「うぐわっ!」
 地面に吹っ飛びゴロゴロ転がる功助。追いかけてくるゼドン。
「くそっ!」
 功助は転がる勢いの力を使い立ち上がるとゼドンに向かい走った。
「行くぞ!」
「小癪な!」
 一瞬の休息のあと二人は再び拳をぶつけた。

「ハンス副団長!」
「おう。あっ!姫様!」
 自分を呼ぶ声で夜空を見上げたハンスの目には風を纏い降りてくるシャリーナとゆっくりと翼をはばたかせる黄金の竜と化したシオンベールの姿があった。
「どう?ミュゼちゃんはかなり疲れてる?」
「ああ、さっきよりはな。ミュゼリアの攻撃で青の騎士団も緑の騎士団も負傷者だらけだ。それよりよく姫様を連れ出せたな?」
「だからまかしといてって言ったでしょ」
 とドヤ顔のシャリーナ。
「それで私はどうすればいいのですか?」
 ハンスとシャリーナの後ろから人化したシオンベールが尋ねた。
「姫様。このような危険な戦場に来ていただき……」
「それ以上言わないでくださいハンス副団長。私の判断でここに来たのです。それで私は何をすればよいのでしょう?」
「ありがとうございます姫様。これからミュゼリアを騎士団が全員で抑え込みます。姫様は竜化しミュゼリアの背後から抱き着くように覆いかぶさってください。そしてミュゼリアに話しかけてやってください。おそらくそれでミュゼリアの契約の紋章が消滅すると思います」
「わかりました。では始めましょう」
 シオンベールは少し二人から離れると黄金の竜へと変じた。
 竜化を確認したハンス。
「騎士団総員に告ぐ!ミュゼリアの動きを止めろ!」
 青の竜たちは「グワルルアアア!」と力強い返事をすると暴れ狂うミュゼリアの動きを止めるべく取り囲んだ。
 それを見たハンスは黄金の竜になったシオンベールに向くと叫んだ。
「姫様今だ!」
「パギャピギャーーー!」
 いつもの気の抜けるような声を出すとシオンベールはひとっ飛びにミュゼリアの背後を取るとそのまま覆いかぶさった。
「ギャワオオオオ!」
 覆いかぶさられたミュゼリアは身体を捩り、もがき暴れる。だがかまわずミュゼリアに密着したシオンベールは心の声でミュゼリアに叫んだ。
『ミュゼリア!落ち着いてください!私です!シオンベールです!ミュゼリア、ミュゼリア!』
『グワルアアア!』
 頭を振り長い首をくねらせ逃れようとしているミュゼリアのその耳には、シオンベールが贈った紫水晶のピアスが光っている。
『ミュゼリア!魔族の契約の紋章なんかに負けないで!いつもの優しいミュゼリアに、戻ってください!ミュゼリア!』
 何度も声をかけると次第にミュゼリアの動きが緩慢になってきた。
『そう!そうよミュゼリア!自分を取り戻して!』
『う、……うぅ……』
『あっ!ミュゼリア!ねえミュゼリア、私です、シオンベールです!目覚めてミュゼリア!』

「よしいいぞ姫様っ!身体の黒い斑模様も徐々にだが薄れていっている。それに人竜球の色も元に戻りそうだ!」
 動きの泊まったミュゼリアを見てハンスは拳を握る。
 ミュゼリアの額に描かれていた契約の紋章は徐々に薄れていっている。
「もうちょっとだミュゼリア。姫様お願いします!」
 じっと見つめるハンス。

『……シオン…ベール……?』
『そう、そうですシオンベールです、ミュゼリアの戦友の、ミュゼリアの友のシオンベールです!ミュゼリア!』
『……、友……?ひ、姫様……!』
「そうです!気がつきましたかミュゼリア!』
「あ、はい…。姫様、ここは……?私どうして……』
『話すると長くなりますが。あなたは昨日の早朝魔王ゼドンに攫われ契約の紋章で暴れさせられてたのです。でももう大丈夫。契約の紋章はほぼ消えています。あと少しであなたは契約の紋章に、魔族の支配から解放されます!』
『姫様……。私……、皆様にご迷惑を……』
『気にしないでください。すべてゼドンの仕業、あなたが悲観せずとも良いのですよ』
『でも……』
『すべてゼドンが悪いのです。あなたはただ操られていただけ。さあ、契約の紋章から自分を取り戻すのです』
『姫様……』
 そして数秒後、ミュゼリアの全身に浮かび上がっていた黒い斑模様も消え人竜球も元に戻った。
『さあミュゼリア、忌まわしい契約の紋章は消滅しました。あなたは魔の支配に打ち勝ったのです。さ、人化しましょう』
『……はい姫様』
 二人の身体を白い光が包み込むとそれは徐々に小さくなっていく。
 それを見た青い竜たちも「ギャフー」とほっとしたような声を上げると光に包まれやがて人に戻って行った。
そして光が消えるとそこには驚いた顔の騎士団と目を見開いて驚くシオンベール、そしてきょとんと周囲を見るミュゼリアがいた。
「ぜ、全員後ろを向きなさい!」
 シオンベールが叫ぶ。
「はっ!」
 と青の騎士団は全員回れ右をした。
「な、なんで、ミュ、ミュゼリア…!」
「はい?」
 シオンベールの視線となぜか肌寒いなと感じたミュゼリアは自分の身体を見て絶叫した。
「きゃっ…、きゃああああ!」
 あわててしゃがみこんだ。
「あわ、あわわわわ。な、なんで私裸なのぉぉぉぉぉ!」

「ほお、俺の描いた契約の紋章を無効化するだけではなく消失させるとはな」
「ああ、当然だ。ここにいる人たちは強いんだからな」
 魔族のいましめから解放され人化したミュゼリア。シャリーナのローブを借り目の前のベルクリットに抱き着きハンスがその背をトントンと叩いている。それを見て微笑んでいるシオンベール。
「(どうやったかわからないけどシオンがミュゼを助けてくれたみたいだ。それじゃ今度は俺がゼドンをなんとかしないとな。でも、できるだろうか。さっきゼドンは50パーセントの力だと言ってたけど、50パーセントのゼドン相手で俺は……。でも、やるしかない!)」
 ゼドンを睨むと功助は地を蹴った。
 再び炸裂する拳と拳、そして魔力と魔力。
「おりゃああああああ!」
「ぬわおおおおおおお!」
 功助の連打を確実にその手で受け止め、逆にその足を使い功助の横っ腹に何度も蹴りを見舞うゼドン。何度も功助を弾き飛ばすが同じように功助にもその蹴りで吹き飛ばされるゼドン。
 ゼドンは身体の周囲に魔力球を浮かべ一斉に放ってくる。功助は両手の指をゼドンに向けると十本の指からコースケ砲を撃ちだす。中央で互いの魔力弾はぶつかると大きな音と衝撃波が周囲に拡散する。
 そしてまた近づくと徒手空拳で戦った。
「(くそっ、なんてヤツだ。このままだと勝てないぞ。どうする……?!)」
「(人族にもこのような強さの者がいたとはな。だがこの程度ではな。くくく)」
 ゼドンは微小すると隙を見つけ後ろに跳び功助と距離をとった。
「何をする気だ?もしかして……」
「ほお、何をしようとしたかわかったのか?くくく。では教えてやろう。一気にお前を滅する。今は50パーセントの力だが……。一気に終わらせる。ただこの技は少し時間がかかるが、まあ、問題ないだろう。では行くぞ。俺の最大にして最強の技だ。魔総黒靄ファイナルヘルフォッグ!魔力100パーセントだ!」
 ゼドンは数十メートル後ろに跳び薄ら笑いを浮かべた。するとその周囲にうねうねと不気味にうごめく闇より暗い靄がゼドンにまとわりついてきた。
「させるか!これでも喰らえ!」
 十本の指から放たれる何十何百というコースケ弾を撃ちだすがことごとく黒い靄に弾かれる。
「やっぱり効かないか。これならどうだ!」
 そして右腕をゼドンに向けるとコースケ砲を放った。
 だがコースケ砲もゼドンの目の前でうねうねとうごめく靄に当たると反射し上空に弾かれていった。
「くそっ!あれ以上強くなられたら……」
 歯噛みする功助。
「魔法師隊!ゼドンに攻撃!」
 その時、シャリーナの命令が魔法師隊に下った。四大元素の多種多様な魔法攻撃が一斉にゼドン目掛け放たれた。
 魔法師隊の攻撃魔法はゼドンに当たると炎を吹上げ煙をあげる。だがそのゼドンを包み込んだ黒い靄は魔法師隊の攻撃をことごとく跳ね返したのだった。
「なんで、なんで効かないのよ!んもう、あきらめないわよ!ベルクリット団長!」
「了解!おい青の騎士団、全員竜化しブレスで一斉攻撃だ!」
「はっ!」
 再び青の騎士団は竜化しすぐさまブレスで攻撃を開始する。十本もの竜の口から放たれるブレス。ゼドンに当たると大爆発を起こした。
 燃え上がるゼドン。徐々に火の勢いは小さくなりやがて消えた。そしてそこにはゼドンの姿はなくまるでスライムのような黒い水たまりが地面に貼りついていた。
「やったか……?」
 竜化を解いたベルクリットがポツリと呟いた。
「いえ無駄だったようだわ……」
 シャリーナが黒い水たまりを睨み歯噛みした。
 そして突然黒い水たまりがはじけるように一気に膨らんだ。そこから放出される凄まじい魔力は瞬く間に広がり壁となり白竜軍に襲い掛かった。
「全員障壁張ってぇぇぇぇ!」
 シャリーナのその言葉に反応したのはたった五人だった。だがその五人で膨大な魔力の暴風をなんとか耐えた。
「な、なんて魔力なの。みんな大丈夫?!」
 シャリーナが障壁を張った四人を見る。
「はい。なんとか……」
 地面に片膝を付き荒い呼吸のラナーシア。
「はい、大丈夫です!」
 ミュゼリアがふらつきながらも立っている。
「私も大丈夫です。シャリーナ隊長は大丈夫ですか?」
 なんとシオンベールも魔力を込めて障壁を張った。
「そう。よかった。ありがとうございます姫様。私もなんとか大丈夫です」
 シャリーナは膝がガクガクしている。
「くそっ!これだけの障壁でやっとか。なんて力だ」
 しっかりと立っている功助が膨張した黒い靄を睨む。
 その靄は徐々に人型を取り霧散した。そしてそこには100パーセントの魔力を纏ったゼドンが立っていた。
「待たせたな」
 全身を暗黒の体毛が覆い、羊のようなツノは不気味に捩じれている。そして血よりも赤い目は真っ赤な炎のよう。耳まで避けた口からは鋭い牙が覗き腕を組み白竜軍を見て微小している。
「うっわあ、さっきより数段強くなったみたい。全身から感じる魔力に破滅を感じるわ。ほんっと腹立つわ!一発ぶんなぐってやるんだから!」
 憤慨を露わにして強気なことを言っているシャリーナだがその膝はガクガクと震えている。
 だがここにいるのは白竜城の精鋭だ。震える身体を魔力を高めることで落ち着かせると全員構えをとった。
「ほほう。俺に歯向かうのだな。では遠慮せずに行かせてもらおう」
 ゼドンはクククと笑むと右手を左から右に一振りした。
 そして一瞬にして襲ってくる暴風。全員がふらつき、小柄な者は立っていられず吹き飛ばされる。
「うわっ!」「きゃっ!」
 シャリーナは功助の左腕に、シオンベールは功助の右腕にしがみつく。
「なんて力だ。たった一度の素振りでこれほどの暴風を起こすなんて」
 と功助。ゼドンを見るとこちらに指を挿して笑っている。
「人を指さして笑うなんて嫌なヤツ!」
 とシャリーナは拳を握る。
「許さないんだから!魔法師隊攻撃開始よ!やっておしまい!」
 その言葉と同時に魔法師隊からすぐさま攻撃が開始された。
 ゼドンに次々と命中する魔法攻撃。だがゼドンは防御も何もせずただたっている。その身にはかすり傷一つ負わずに。
「ウキーー!なんで効かないのよ!ほんっと腹立つ!」
 と地団太を踏むシャリーナの肩をポンポン叩く功助。
「まあまあ、落ち着いて。深呼吸深呼吸」
「へっ?う、うん。すーはーすーはー、ふう」
 深呼吸をするシャリーナ。
「青の騎士団!ブレスで再度攻撃だ!ただしブレスは拡散させず一極集中させろ!攻撃開始!」
「グワルアアア!」
 再び十頭の青い竜の口から今度はまるでビームのような細いブレスがゼドンに放たれた。
「ふふふ」
 ゼドンは避けることなく両手を前に上げるとその掌ですべて受け止めた。
「くわはははははは!それごときで俺が倒せるとでも思ってるのか!ぐわはははは!滑稽よのう。ぐわはははは!」
 高笑いをするゼドン。
「では今度はこっちから行くぞ」
 ゼドンはニヤリとし、その指先が光ったかと思えば一本の黒い筋が一頭の青い竜に命中した。その竜は声をあげる間もなく内部から破裂し絶命した。
「ナナック!く、くそっ!」
 叫ぶベルクリット。
「ぐわはははは!もろい、もろいぞ竜よ。がはははは!」
 そしてゼドンはもう一度ニヤリとするとその指先をシオンベールに向けた。
「確かお前はこの城の王女だったな。さて、お前を撃てばどんな臓物が飛び出してくるのか楽しみだ」
 再びその指が光黒い筋が真っすぐにシオンベールに向かっていく。
「う……!」
 恐怖で身体がピクリとも動かないシオンベール。黒い魔力の筋がシオンベールに命中する直前。その前に一人の男が立ちはだかった。
「うぐっ!」
 胸を抑え片膝を着いたのはやはり功助だった。
「コ……、コースケ様ぁぁぁぁぁぁ!」
「ダーリーーン!」
 あわててしゃがみこむ功助に駆け寄るシオンベールとシャリーナ。
「コースケ様!コースケ様コースケ様!」
「大丈夫!ダーリン!」
「う、うぐぐぐっ……。はあ、はあはあはあ。シ、シオン……。無事か…?」
「私は……、私のことよりコースケ様のことです。大丈夫ですかコースケ様!」
「そうよ大丈夫ダーリン!」
「ははは、そんなに大きな声出さなくてもいいぞ二人とも。俺は大丈夫だ、ちょっと痛かったけどな。安心してくれ」
 功助はそう言うとゆっくりと立ち上がった。その右肩に顔をうずめるシオンベール。シャリーナは左腕に抱き着く。
「コースケ様……。私の、私のために……。……ご無事でよかった」
「ほんと、あたしたち心臓が止まるかと思ったわ」
「すまない。なんともないよ。ちょっと服に穴あいたけどな」
 功助の来ていたシャツの胸の部分は穴が空き黒く焦げていた。だが、その身体には傷はついていない。
「ゼドン……。許さない。シオンに危害を及ぼそうとしやがって」
 いつもはにこやかな功助。だが今は鬼の形相となってゼドンを睨みつける。
「ほう。やはりお前が阻止したか。さあ、今度はお前が攻撃してこい」
 ゼドンは再びあの嫌な笑みを浮かべると撃ってこいとばかりに両手をだらりと下げる。
「やってやろうじゃないか」
 功助は静かにそう言うと抱き着いているシオンベールとシャリーナの腕をそっと離した。
「コースケ様」
「ダーリン」
「ちょっと一発ぶっ放してくる。ちょっと待ってて」
 功助はそう言うとゼドンに向かっていった。
 ゼドンまで30メートルほどのところで停まると功助は右腕を上げゼドンに照準を合わせた。
「ご希望どおり俺の魔力砲を、コースケ砲を撃つ。行くぞゼドン!」
 その拳が光り功助の体内魔力が一気に放出される。
「発射!」
 ゼドンに向かい一直線に進んで行くコースケ砲。
 両手を下げたゼドンは口の端を上げるとコースケ砲をその身体で受けた。
 爆炎を上げるがその炎の中からゼドンの笑い声が聞こえてきた。
「ぐわはははははは!やはりこの程度だったか。期待外れもいいとこだな。あと何発でも受けてやるぞ。さあ、撃ってこい!…………な、名に!?」
 功助を挑発するゼドン。だがその時功助はコースケ砲がゼドンに当たる直前に地を蹴りゼドンの間合いに入っていた。
「うるせえ!」
 体内魔力で身体を強化させた功助は、その右拳に魔力を纏わせ通常よりも何百倍もの威力となった正拳突きをゼドンの顔面に叩き込んだ。
「うぐぉわああああ!」
 グシャッという音とともにゼドンは後方に飛んで行くと後頭部から地面にぶつかり大きなクレーターを作った。
 濛々と上がる土煙。
「はあ」
 それを見て息を吐く功助。
 やがて土煙はゆっくりと晴れていきそのクレーターの中心で横たわるゼドンの姿が浮かび上がった。
「やったわよダーリン!」
「さすがコースケ様!」
「やりましたコースケ様!これでゼドンは終わりです!」
 シャリーナが、シオンベールが、そしてミュゼリアが歓喜の言葉を叫ぶ。白竜軍からも歓喜の雄たけびが聞こえた。だが…。
「まだだ……」
 功助は横たわるゼドンをじっと睨むと両拳を握り構えをとる。
 するとゼドンはゆっくりと状態を起こした。
「うぐっ。い、痛かったぞ……!」
 陥没した顔面、こぼれ出た目玉、牙は折れ顔全体がぐしゃぐしゃに崩れていた。
「許さん!」
 そう言うとその顔全体をゆっくりと黒い靄が覆っていく。そして数秒後、黒い靄が消えるとそこには元通りのゼドンの顔があった。ただし真っ赤な目を血走らせ文字通り悪魔の形相で功助を睨んでいた。
 凄まじい威圧がゼドンから放出された。
  「きゃっ!」「な、なんだ…」「あがががが、身体が動かない」「うっ…」
 白竜軍にもその威圧は届き膝を地に着く者や身体を震わせる者、中には気絶するものまでいた。
「……」
 だが功助は無言でその威圧を受け止める。
「ゆっくりと立ち上がるゼドン。
「やはり遊んでやろうと思ったのは間違いだったようだ。お前たちをすぐに滅してやる」
 ゼドンは魔の形相で卑しく笑うと掌を白竜軍に向けた。
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