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第7章 魔王
03 戦友のために
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「な、名に?!あっ、ハンス副団長?」
びっくりしてそちらを見ると傷だらけのハンスが立っていた。
「どうしたの?」
「ああ」
そう一言ため息を吐くと凄まじい衝撃波を出して戦う功助とゼドンを見る。
「戦況はどうだ?」
「うん。見てのとおり今は互角のようだけど……」
「そうか。なあ、シャリーナ隊長」
「何?」
「さっきミュゼリアに接触念話をしたとき、ミュゼリアの体内魔力にコースケの魔力を感じたんだがどう思う?」
「へっ?どういうこと?」
ハンスはさっきミュゼリアにしがみつき接触念話を使った時の違和感を話した。
「……そう……。うーん。そうねえ……。可能性としてだけどおそらくずっとダーリンと一緒にいるからダーリンの魔力を少しずつ浴びてたからと考えるのが自然かしらね」
「ふむ、そうか。そうかもしれんな」
そう言ってミュゼリアの頭のツノをじっと見る。
「そうか!」
「な、何よ?」
「あの頭のツノ、眉間の上にあるツノな、あれは最近生えてきたツノだ。………そうか、そうだったのか。ミュゼリアが成長してると思ってたんだが、ずっとコースケの近くにいるからコースケの魔力の影響であのツノが生えてきたんだな」
「そうなの?あたしは竜化したミュゼちゃんを知らなかったからあのツノは…、そう…、ダーリンの魔力……」
青い竜たちに抑え込まれ身動きのできなくなっているミュゼリアを見るシャリーナ。
「あっ!」
と言って手を叩く。
「そっか!それならもしかして!」
「ど、どうした?」
「あなたは双子の魔力がどうなってるか知ってる?」
「な、なんだ唐突に」
「いいからいいから。双子の魔力がどうお互いを影響してるか知ってる?」
「いや」
うれしそうに、でも真剣なシャリーナにハンスも真剣になる。
「いざとなった時、共鳴するのよ」
「共鳴?どういうことだ?」
不思議そうなハンス。
「双子の魔力ってとっても似てるのよ。まあ、ほぼ同じと考えてくれていいわ。詳しい説明は端折るけど、双子はどちらかがケガや大病をした時、相手を癒すのよ。えと、こんな話があるの」
と話したのは、ある双子の話だった。
かつてある女の双子が子供の時に大きな自然災害があった。大地震と津波が双子の村を襲いその双子は分かれ分かれになった。
双子の妹の方が行方不明になり十数年後。残された双子の姉が遠い町に嫁に行った。その嫁入り先で行方不明になった妹と出会った。
姉は一目で妹とわかったが妹は姉をまったく覚えていなかった。だが姉が妹に抱き着いた瞬間、妹の体内に姉の魔力が沁み込んだ。すると妹は姉のことを思い出したのだった。
「二人の同じ魔力が共鳴を起こして失くした妹の記憶を呼び覚ましたってことよ」
「双子にそんな話が……。だがそれがミュゼリアとなんの関係が?」
「ダーリンと同じ魔力を体内に流しているのはだあれ?」
「……あっ!もしかして……」
「そう、シオンベール王女様。姫様は人竜球にダーリンの魔力を移植してるのよ」
「だ、だが……」
真剣にハンスを見てシャリーナは言った。
「姫様とミュゼちゃんが接触すれば、契約の紋章が消えると思う」
「……うっ……!」
白竜城とミュゼリアを交互に診て複雑な表情を浮かべるハンス。
「ダ、ダメだ…。そんな危険なことを姫様に頼めるはずがない。下手すれば姫様を傷つけることになる。もしかしたらミュゼリアのブレスで姫様が危険な目に合うかもしれない。ダメだ……」
悲壮な顔で青い竜たちに抑え込まれているミュゼリアを見た。
「……、あたしにまかせて」
「えっ、シャリーナ隊長…?いや、ダメだ、姫様を危険な……」
「大丈夫!あたしにまかせて」
シャリーナはそういうと風を纏い宙に浮いた。
「おいっ!ちょっと待てっ!シャリーナ隊長!おいこら!」
あわてて追いかけるがシャリーナはあっという間に白竜城に向かって飛んでいった。
「シャリーナ隊長……、頼んだぞ……」
ハンスはそう呟くと再び我が妹ミュゼリアの拘束に向かった。
「くそっ!なんてヤツだ。さすがはゼドンと言うことか。俺の攻撃を余裕で交わしてる」
今もゼドンは功助の蹴りを身体を少しずらすだけで交わした。
「そんなに悲観せずとも良いぞ。俺の力を五十パーセントも出させたのは数万年ぶりなのだからな。ぐわははは」
「くそっ、笑ってろ!」
構えをとる功助。
「では行くぞ!」
ゼドンは再び一瞬で間合いを詰めると功助の左顔面に拳を見舞う。
「何っ?」
だが今度はさっきのようにならず、その拳は宙を切った。それどころかがら空きになったゼドンの左側頭部に功助の右フックが炸裂した。
「うぐぉあ!」
ゼドンは横に吹っ飛び地面に激突し大きなクレーターを作る。
「はあ、はあ、はあ」
息を切らす功助。
「ほお」
と感心しながら起き上がるゼドン。
「今のを交わし反撃までするとはな。ではこれではどうだ!」
ゼドンはふうと息を吐くと今度は手の仲に魔力の球を生み出した。
「喰らえ!」
手の仲の黒い魔力球を功助に向けて射出する。
ズバババババ!
次から次と掌から打ち出される魔力球。
「うわっ!くそっ!おっと!うぐっ!畜生!」
功助は右に左に回避するが数多くの魔力球をすべて交わすことはできない。何発もその身体に受けてしまう。
「あっ、そうか」
功助は身体の周囲にようやく障壁を張った。それと同時にゼドンの魔力球も止まった。
「なんだ、せっかく障壁張ったのにもう終わるのか?」
「ああ。なかなか立派な障壁を見て感心してしまっただけだ。さあ、その障壁、いつまでもつかな?」
ゼドンはニヤリと笑むと今度は身体の周囲に無数の魔力球を浮かべると一斉に放った。
「うわっ!なんて数だ。百や二百ですまないぞ」
と障壁に魔力を追加供給した。
ガガガガガガガッ!
障壁に当たり炸裂する黒い魔力球。
「こりゃすぐに突破されるぞ。よしっ」
功助はひとまず上空に退避する。
「ふふふ」
上空に逃げた功助を見てゼドンは薄く笑った。
「いけません!そんなことはできません!そんな危険なめに姫様を合わせるわけにはまいりません!」
鬼の形相でライラ副侍女長が片膝を付き叩頭するシャリーナに詰め寄る。
「でもライラ副侍女長!姫様の力がなくてはミュゼちゃんの、ミュゼリア・デルフレックの命が危険なの!わかってよ!」
ライラを睨むように見て声を張り上げるシャリーナ。
戦場から飛翔の魔法で白竜城に戻ったシャリーナは窓から戦況を見ているシオンベールを見つけると今の状況を説明した
。そしてシオンベールの仲に流れる功助の魔力と、同じくミュゼリアの仲に流れる功助の魔力を共鳴させてミュゼリアの契約の紋章を消し去ることができるかもしれないことを説明した。
「うっ、…でも姫様を危険な目に合わせることはできません!ミュゼリアは気の毒ですが姫様のお命がおびやかされてはなりません!」
「ラ、ライラ…」
だがシオンベールが口を開く前にライラが怒りをシャリーナに向けた。
「黙っていてください姫様!いいですかシャリーナ隊長!姫様はここ白竜城の王女様なのですよ!男児のおられないここ竜帝国の時期女王様になられるお方なのです!そのようなお方の命を危険に合わせるわけにはまいりません!」
「それはわかってる!だからあたしが、あたしたち魔法師隊全員の命を賭けて姫様をお守りします!だから、だから姫様の力を……」
「なりません!なりませんなりませんなりませんなりませんなりません!あなたたちの命をいくら賭けても姫様の命とは釣り合いません!」
「このわからずや!」
「んまあ!なんて口の利き方でしょ!はしたない!恥を知りなさい恥を!」
その時、言い争いをしているシャリーナとライラを呆然と見ていたシオンベールの肩を誰かが叩いた。
「えっ、あっ、はい?あれ、お父様とお母様、それにバスティーア?」
振り向いた先には国王トパークスとルルサ王妃、そして家令のバスティーアがいた。そしてその周囲には護衛の金の騎士と銀の騎士がいた。
「どうしたのだ?早く避難しろ」
「あ、はい。でも……」
シオンベールがまだ言い争いをしているシャリーナとライラに顔を向けた。
「おい、二人とも、どうしたのだ?」
国王が二人の間に入って言い争いを止めさせた。
「「あっ、陛下!実はですね」」
シャリーナとライラが状況を説明した。
「ふむ。ミュゼリアがな……」
顎に手をやり窓の向こうを見るトパークス。
「そうねえ……」
ルルサも窓の向こうを見る。
窓の向こうには青い竜に抑え込まれ身動きのできない竜化したミュゼリアが見えた。
「それでシオンはどうしたいのだ?」
「わた……、私は……」
少し俯きライラとシャリーナをチラチラと見る。
「まあいい……。なあ、どう思うバスティーアよ?」
なかなか返事をしないシオンベールから目を離し黒づくめの家令を見るトパークス国王。
「そうですな。非常に残念ですが。ふむ、私も心苦しいがライラ副侍女長の言われるのもわかりますな」
バスティーアがライラに賛同する。
「むむっ!バスティーアさんもそう思うのね!」
真っ赤になるシャリーナ。
「陛下は、陛下はどうなんですか!ミュゼちゃんを見殺しにするんですか!姫様と一緒にダーリンを、コースケ魔法師隊名誉隊長を救うためにフェンリルに立ち向かったミュゼちゃんを!姫様の戦友を!」
シャリーナはトパークスに向かい声を荒げる。
「シャリーナ隊長!なんて口の利き方でしょ!不敬罪に処しますよ!」
ライラも真っ赤な顔でシャリーナに怒声をあげる。
「まあまあライラ副侍女長」
と冷静なトパークス国王。
そしてトパークス国王は一度ルルサ王妃と目を合わせるとため息交じりに言った。
「ふむ。俺としてはやはりシオンの方が大切だな。いくらシオンの戦友だとしてもな」
「そうよね。あたしもシオンの方が大切だわ。ミュゼリアさんに申し訳ないけどね」
ルルサ王妃もシオンベールを見つめる。
「で、でも!私は……、私……」
一度床を見つめそしてゆっくりと顔を上げて父トパークスの目を見た。交わる黄金の瞳とアイスブルーの瞳。
「私…、行きます。ミュゼリアを助けられるのは私しかいないようです。お父様、お母様……。ミュゼリアを、私の友を助けさせてください」
「……」
何も言わないトパークス国王。
「困ったわね。ほんとあたしたちがどれだけあなたのことを心配しているのかわからないの?お願いよシオン、危険なマネはしないでちょうだい」
胸の前で手を組みシオンベールを見つめるルルサ王妃。
「……でも、お母様……」
「そうですよ姫様!姫様が危険なことをせずともよいのです。ミュゼリアも姫様を危険なめに合わせたくないはずです」
ライラが腰に手を当ててそう言った。
「そうだな。ここはミュゼリアにはどうにか己の力で逃れてほしいな。な、ルーよ」
「そうですね。ミュゼリアさんには悪いですけどシオンの方が大切ですからね」
トパークス国王もルルサ王妃も窓の向こうでブレスを吐きまくるミュゼリアを見てそう言う。
「そうですな。姫様を危険な目に合わせられませんからな」
家令のバスティーアも二人に賛同している。
「そ、そんな……」
両膝をつき呆然となるシャリーナ。
「……」
無言で両親とライラ、そしてバスティーアを見るシオンベール。
「さあ、そうと決まればシオンよ、早く非難するのだ」
「そうよシオン。一緒に避難しましょう」
「姫様、ご一緒に避難いたしましょう」
「さあさあ、姫様こちらへ。シャリーナ隊長は早く戦場にお戻りになってくださいな」
国王が、王妃が、家令が、副侍女長がシオンベールを見殺しにしろと言う。
「なぜです……。何故ミュゼリアを助けてくださらないのですか……?」
寂しそうにつぶやくシオンベール。
「ん?なんだシオン。早く非難……」
トパークス国王が避難するのだと言い終わる前にシオンベールの怒声が白竜城の廊下に響いた。
「うるさい!うるさいうるさいうるさい!なんで!なんでミュゼリアを助けてやれと言ってくださらないの!逃げるならどうぞ逃げてください!私はミュゼリアを、友を見殺しにはできません!」
一歩後退る国王たち。
「シャリーナ隊長!」
「は、はい姫様!」
シャリーナも突然怒りを露わにしたシオンベールにおどおどする。
「ミュゼリアの許に行きますよ!」
「は、はい!」
シャリーナが立ち上がり窓に向かう。その後に着いて行くシオンベール。
「いけません!姫様!」
ライラがシオンベールの腕をつかむ。
「離して!離しなさい!」
ライラの腕を振り切りシオンベールはシャリーナの後に続いた。
「姫様!行きますよ!」
シャリーナは身体に風を纏うと窓の外に飛び出した。
「ミュゼリア、待っててください!」
シオンベールは窓から身を躍らせると俊二に白い光に包まれて一気に巨大な黄金の竜と化した。
「ピギャパギャーーー!」
地面に着く前に翼を大きくはばたかせるとその身を空に舞い上がらせた。
「姫様ぁ!」
二人が飛び出した窓から身体を乗り出し叫ぶライラ。
「ふむ。度胸は座っているな」
「そうですね」
とトパークス国王とルルサ王妃。
「そうですな」
と苦笑するバスティーア。
「陛下…?」
ライラはトパークスたちを一度見ると飛び去る黄金の竜を見上げた。
「悪いわねライラ副侍女長。シオンのやりたいようにやらせてやって」
ルルサが呆然としているライラの肩にそっと手を置いた。
「王妃様……?」
「心配するなライラ。シオンは俺の、俺たちの娘だ。簡単にやられるようなことはない。なあ、バスティーア」
「はい。姫様はとてもお強く、そしてとてもお優しいお方。。友のためなら本来の竜としての力を発揮されることでしょう」
と言うと一礼した。
「……あの……?」
何かを聞きたそうなライラ。
「まあ、なんだ。シオンが少し悩んでるようだったのでな。後押しをしたまでだ」
「大切な友を見捨てるようならこの白竜城を後々任せることはできないですからね」
ルルサも微笑むとミュゼリアの許に飛んで行く愛娘を見つめた。
びっくりしてそちらを見ると傷だらけのハンスが立っていた。
「どうしたの?」
「ああ」
そう一言ため息を吐くと凄まじい衝撃波を出して戦う功助とゼドンを見る。
「戦況はどうだ?」
「うん。見てのとおり今は互角のようだけど……」
「そうか。なあ、シャリーナ隊長」
「何?」
「さっきミュゼリアに接触念話をしたとき、ミュゼリアの体内魔力にコースケの魔力を感じたんだがどう思う?」
「へっ?どういうこと?」
ハンスはさっきミュゼリアにしがみつき接触念話を使った時の違和感を話した。
「……そう……。うーん。そうねえ……。可能性としてだけどおそらくずっとダーリンと一緒にいるからダーリンの魔力を少しずつ浴びてたからと考えるのが自然かしらね」
「ふむ、そうか。そうかもしれんな」
そう言ってミュゼリアの頭のツノをじっと見る。
「そうか!」
「な、何よ?」
「あの頭のツノ、眉間の上にあるツノな、あれは最近生えてきたツノだ。………そうか、そうだったのか。ミュゼリアが成長してると思ってたんだが、ずっとコースケの近くにいるからコースケの魔力の影響であのツノが生えてきたんだな」
「そうなの?あたしは竜化したミュゼちゃんを知らなかったからあのツノは…、そう…、ダーリンの魔力……」
青い竜たちに抑え込まれ身動きのできなくなっているミュゼリアを見るシャリーナ。
「あっ!」
と言って手を叩く。
「そっか!それならもしかして!」
「ど、どうした?」
「あなたは双子の魔力がどうなってるか知ってる?」
「な、なんだ唐突に」
「いいからいいから。双子の魔力がどうお互いを影響してるか知ってる?」
「いや」
うれしそうに、でも真剣なシャリーナにハンスも真剣になる。
「いざとなった時、共鳴するのよ」
「共鳴?どういうことだ?」
不思議そうなハンス。
「双子の魔力ってとっても似てるのよ。まあ、ほぼ同じと考えてくれていいわ。詳しい説明は端折るけど、双子はどちらかがケガや大病をした時、相手を癒すのよ。えと、こんな話があるの」
と話したのは、ある双子の話だった。
かつてある女の双子が子供の時に大きな自然災害があった。大地震と津波が双子の村を襲いその双子は分かれ分かれになった。
双子の妹の方が行方不明になり十数年後。残された双子の姉が遠い町に嫁に行った。その嫁入り先で行方不明になった妹と出会った。
姉は一目で妹とわかったが妹は姉をまったく覚えていなかった。だが姉が妹に抱き着いた瞬間、妹の体内に姉の魔力が沁み込んだ。すると妹は姉のことを思い出したのだった。
「二人の同じ魔力が共鳴を起こして失くした妹の記憶を呼び覚ましたってことよ」
「双子にそんな話が……。だがそれがミュゼリアとなんの関係が?」
「ダーリンと同じ魔力を体内に流しているのはだあれ?」
「……あっ!もしかして……」
「そう、シオンベール王女様。姫様は人竜球にダーリンの魔力を移植してるのよ」
「だ、だが……」
真剣にハンスを見てシャリーナは言った。
「姫様とミュゼちゃんが接触すれば、契約の紋章が消えると思う」
「……うっ……!」
白竜城とミュゼリアを交互に診て複雑な表情を浮かべるハンス。
「ダ、ダメだ…。そんな危険なことを姫様に頼めるはずがない。下手すれば姫様を傷つけることになる。もしかしたらミュゼリアのブレスで姫様が危険な目に合うかもしれない。ダメだ……」
悲壮な顔で青い竜たちに抑え込まれているミュゼリアを見た。
「……、あたしにまかせて」
「えっ、シャリーナ隊長…?いや、ダメだ、姫様を危険な……」
「大丈夫!あたしにまかせて」
シャリーナはそういうと風を纏い宙に浮いた。
「おいっ!ちょっと待てっ!シャリーナ隊長!おいこら!」
あわてて追いかけるがシャリーナはあっという間に白竜城に向かって飛んでいった。
「シャリーナ隊長……、頼んだぞ……」
ハンスはそう呟くと再び我が妹ミュゼリアの拘束に向かった。
「くそっ!なんてヤツだ。さすがはゼドンと言うことか。俺の攻撃を余裕で交わしてる」
今もゼドンは功助の蹴りを身体を少しずらすだけで交わした。
「そんなに悲観せずとも良いぞ。俺の力を五十パーセントも出させたのは数万年ぶりなのだからな。ぐわははは」
「くそっ、笑ってろ!」
構えをとる功助。
「では行くぞ!」
ゼドンは再び一瞬で間合いを詰めると功助の左顔面に拳を見舞う。
「何っ?」
だが今度はさっきのようにならず、その拳は宙を切った。それどころかがら空きになったゼドンの左側頭部に功助の右フックが炸裂した。
「うぐぉあ!」
ゼドンは横に吹っ飛び地面に激突し大きなクレーターを作る。
「はあ、はあ、はあ」
息を切らす功助。
「ほお」
と感心しながら起き上がるゼドン。
「今のを交わし反撃までするとはな。ではこれではどうだ!」
ゼドンはふうと息を吐くと今度は手の仲に魔力の球を生み出した。
「喰らえ!」
手の仲の黒い魔力球を功助に向けて射出する。
ズバババババ!
次から次と掌から打ち出される魔力球。
「うわっ!くそっ!おっと!うぐっ!畜生!」
功助は右に左に回避するが数多くの魔力球をすべて交わすことはできない。何発もその身体に受けてしまう。
「あっ、そうか」
功助は身体の周囲にようやく障壁を張った。それと同時にゼドンの魔力球も止まった。
「なんだ、せっかく障壁張ったのにもう終わるのか?」
「ああ。なかなか立派な障壁を見て感心してしまっただけだ。さあ、その障壁、いつまでもつかな?」
ゼドンはニヤリと笑むと今度は身体の周囲に無数の魔力球を浮かべると一斉に放った。
「うわっ!なんて数だ。百や二百ですまないぞ」
と障壁に魔力を追加供給した。
ガガガガガガガッ!
障壁に当たり炸裂する黒い魔力球。
「こりゃすぐに突破されるぞ。よしっ」
功助はひとまず上空に退避する。
「ふふふ」
上空に逃げた功助を見てゼドンは薄く笑った。
「いけません!そんなことはできません!そんな危険なめに姫様を合わせるわけにはまいりません!」
鬼の形相でライラ副侍女長が片膝を付き叩頭するシャリーナに詰め寄る。
「でもライラ副侍女長!姫様の力がなくてはミュゼちゃんの、ミュゼリア・デルフレックの命が危険なの!わかってよ!」
ライラを睨むように見て声を張り上げるシャリーナ。
戦場から飛翔の魔法で白竜城に戻ったシャリーナは窓から戦況を見ているシオンベールを見つけると今の状況を説明した
。そしてシオンベールの仲に流れる功助の魔力と、同じくミュゼリアの仲に流れる功助の魔力を共鳴させてミュゼリアの契約の紋章を消し去ることができるかもしれないことを説明した。
「うっ、…でも姫様を危険な目に合わせることはできません!ミュゼリアは気の毒ですが姫様のお命がおびやかされてはなりません!」
「ラ、ライラ…」
だがシオンベールが口を開く前にライラが怒りをシャリーナに向けた。
「黙っていてください姫様!いいですかシャリーナ隊長!姫様はここ白竜城の王女様なのですよ!男児のおられないここ竜帝国の時期女王様になられるお方なのです!そのようなお方の命を危険に合わせるわけにはまいりません!」
「それはわかってる!だからあたしが、あたしたち魔法師隊全員の命を賭けて姫様をお守りします!だから、だから姫様の力を……」
「なりません!なりませんなりませんなりませんなりませんなりません!あなたたちの命をいくら賭けても姫様の命とは釣り合いません!」
「このわからずや!」
「んまあ!なんて口の利き方でしょ!はしたない!恥を知りなさい恥を!」
その時、言い争いをしているシャリーナとライラを呆然と見ていたシオンベールの肩を誰かが叩いた。
「えっ、あっ、はい?あれ、お父様とお母様、それにバスティーア?」
振り向いた先には国王トパークスとルルサ王妃、そして家令のバスティーアがいた。そしてその周囲には護衛の金の騎士と銀の騎士がいた。
「どうしたのだ?早く避難しろ」
「あ、はい。でも……」
シオンベールがまだ言い争いをしているシャリーナとライラに顔を向けた。
「おい、二人とも、どうしたのだ?」
国王が二人の間に入って言い争いを止めさせた。
「「あっ、陛下!実はですね」」
シャリーナとライラが状況を説明した。
「ふむ。ミュゼリアがな……」
顎に手をやり窓の向こうを見るトパークス。
「そうねえ……」
ルルサも窓の向こうを見る。
窓の向こうには青い竜に抑え込まれ身動きのできない竜化したミュゼリアが見えた。
「それでシオンはどうしたいのだ?」
「わた……、私は……」
少し俯きライラとシャリーナをチラチラと見る。
「まあいい……。なあ、どう思うバスティーアよ?」
なかなか返事をしないシオンベールから目を離し黒づくめの家令を見るトパークス国王。
「そうですな。非常に残念ですが。ふむ、私も心苦しいがライラ副侍女長の言われるのもわかりますな」
バスティーアがライラに賛同する。
「むむっ!バスティーアさんもそう思うのね!」
真っ赤になるシャリーナ。
「陛下は、陛下はどうなんですか!ミュゼちゃんを見殺しにするんですか!姫様と一緒にダーリンを、コースケ魔法師隊名誉隊長を救うためにフェンリルに立ち向かったミュゼちゃんを!姫様の戦友を!」
シャリーナはトパークスに向かい声を荒げる。
「シャリーナ隊長!なんて口の利き方でしょ!不敬罪に処しますよ!」
ライラも真っ赤な顔でシャリーナに怒声をあげる。
「まあまあライラ副侍女長」
と冷静なトパークス国王。
そしてトパークス国王は一度ルルサ王妃と目を合わせるとため息交じりに言った。
「ふむ。俺としてはやはりシオンの方が大切だな。いくらシオンの戦友だとしてもな」
「そうよね。あたしもシオンの方が大切だわ。ミュゼリアさんに申し訳ないけどね」
ルルサ王妃もシオンベールを見つめる。
「で、でも!私は……、私……」
一度床を見つめそしてゆっくりと顔を上げて父トパークスの目を見た。交わる黄金の瞳とアイスブルーの瞳。
「私…、行きます。ミュゼリアを助けられるのは私しかいないようです。お父様、お母様……。ミュゼリアを、私の友を助けさせてください」
「……」
何も言わないトパークス国王。
「困ったわね。ほんとあたしたちがどれだけあなたのことを心配しているのかわからないの?お願いよシオン、危険なマネはしないでちょうだい」
胸の前で手を組みシオンベールを見つめるルルサ王妃。
「……でも、お母様……」
「そうですよ姫様!姫様が危険なことをせずともよいのです。ミュゼリアも姫様を危険なめに合わせたくないはずです」
ライラが腰に手を当ててそう言った。
「そうだな。ここはミュゼリアにはどうにか己の力で逃れてほしいな。な、ルーよ」
「そうですね。ミュゼリアさんには悪いですけどシオンの方が大切ですからね」
トパークス国王もルルサ王妃も窓の向こうでブレスを吐きまくるミュゼリアを見てそう言う。
「そうですな。姫様を危険な目に合わせられませんからな」
家令のバスティーアも二人に賛同している。
「そ、そんな……」
両膝をつき呆然となるシャリーナ。
「……」
無言で両親とライラ、そしてバスティーアを見るシオンベール。
「さあ、そうと決まればシオンよ、早く非難するのだ」
「そうよシオン。一緒に避難しましょう」
「姫様、ご一緒に避難いたしましょう」
「さあさあ、姫様こちらへ。シャリーナ隊長は早く戦場にお戻りになってくださいな」
国王が、王妃が、家令が、副侍女長がシオンベールを見殺しにしろと言う。
「なぜです……。何故ミュゼリアを助けてくださらないのですか……?」
寂しそうにつぶやくシオンベール。
「ん?なんだシオン。早く非難……」
トパークス国王が避難するのだと言い終わる前にシオンベールの怒声が白竜城の廊下に響いた。
「うるさい!うるさいうるさいうるさい!なんで!なんでミュゼリアを助けてやれと言ってくださらないの!逃げるならどうぞ逃げてください!私はミュゼリアを、友を見殺しにはできません!」
一歩後退る国王たち。
「シャリーナ隊長!」
「は、はい姫様!」
シャリーナも突然怒りを露わにしたシオンベールにおどおどする。
「ミュゼリアの許に行きますよ!」
「は、はい!」
シャリーナが立ち上がり窓に向かう。その後に着いて行くシオンベール。
「いけません!姫様!」
ライラがシオンベールの腕をつかむ。
「離して!離しなさい!」
ライラの腕を振り切りシオンベールはシャリーナの後に続いた。
「姫様!行きますよ!」
シャリーナは身体に風を纏うと窓の外に飛び出した。
「ミュゼリア、待っててください!」
シオンベールは窓から身を躍らせると俊二に白い光に包まれて一気に巨大な黄金の竜と化した。
「ピギャパギャーーー!」
地面に着く前に翼を大きくはばたかせるとその身を空に舞い上がらせた。
「姫様ぁ!」
二人が飛び出した窓から身体を乗り出し叫ぶライラ。
「ふむ。度胸は座っているな」
「そうですね」
とトパークス国王とルルサ王妃。
「そうですな」
と苦笑するバスティーア。
「陛下…?」
ライラはトパークスたちを一度見ると飛び去る黄金の竜を見上げた。
「悪いわねライラ副侍女長。シオンのやりたいようにやらせてやって」
ルルサが呆然としているライラの肩にそっと手を置いた。
「王妃様……?」
「心配するなライラ。シオンは俺の、俺たちの娘だ。簡単にやられるようなことはない。なあ、バスティーア」
「はい。姫様はとてもお強く、そしてとてもお優しいお方。。友のためなら本来の竜としての力を発揮されることでしょう」
と言うと一礼した。
「……あの……?」
何かを聞きたそうなライラ。
「まあ、なんだ。シオンが少し悩んでるようだったのでな。後押しをしたまでだ」
「大切な友を見捨てるようならこの白竜城を後々任せることはできないですからね」
ルルサも微笑むとミュゼリアの許に飛んで行く愛娘を見つめた。
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そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
私のお父様とパパ様
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非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
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「じゃ!!」
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ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
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