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第5章 黒い目玉
07 黒い目の正体
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「目よねえ」
「目ですね」
「目だよな」
「でも気持ち悪いです」
魔法師隊控室。シャリーナ、ラナーシア、功助、そしてミュゼリアはテーブルの上に置いた魔物ホイホイの中でガタガタギョロギョロとと動いている黒い一つ目を観察している。
「すなおに考えると監視の魔物かしらね」
「はい。私もそう思いますが…」
「誰が送り込んだかだけど。まあ、考えることもなく魔族ですよね」
腕を組む三人。ミュゼリアは首を傾げている。
「あの空間の裂け目、フェンリルが出てきた裂け目と同じだったわよね、ね、ダーリン」
「はい。まったく同種のものだと思いますよあれ」
「もし魔族だったとして、なぜこんなものを送り込んだんでしょう?」
ラナーシアが箱から出ようとガタガタ動いている一つ目を見る。
「わからないわねえ。わからなかったらこれを解剖すればわかるかも」
「解剖ですか?」
うん。でもその前に魔術的に調べてみるわ。ラナーシア」
「はい」
「地下室使うから用意して」
「わかりました」
ラナーシアは頷くと奥の部屋に入っていった。
「地下室?どこにあるんですか地下室」
「この部屋の奥よ。普段は隠蔽の魔法で見えなくしてあるけどね。それにここ白竜城にはた~くさんの地下室あるわよ。倉庫から監獄まで多種多様にね。ね、ミュゼちゃん」
「はい。特に食糧庫と武器庫は大きいですよ。一度見に行かれますかコースケ様」
「うん。一回見たいもんだな。でもそんなにたくさん地下室あるんだ」
いまだにガタガタと狭い箱の中で動いている黒い一つ目を見る三人。
「でも」
とミュゼリア。
「でも、なんだ?」
「見たかったです。コースケ様のコースケ砲。フェンリルに撃った時のあの神々しい光をもう一度見たかったです」
としょんぼりしている。
「ミュゼちゃんいなかったものね。いつもダーリンに付き従っているのにどうしたの?なんか用事があったの?」
「はい。コースケ様の下膳を厨房に持っていっている間だったもので。部屋に戻るとコースケ様がおられなくてあちこち探してました。林の方で何かがあったのを気付いた時にはもうみなさんがお戻りになっている時でした」
「あら残念だったわねえミュゼちゃん」
そんなことを話ししていると、
「シャリーナ隊長。用意できました」
「あっ、うん。それじゃラナーシアそれ持ってきてくれる」
とテーブルの上の魔物ホイホイを指さした。
「はい」
それを持つラナーシア。
「じゃあたしとラナーシアで検証してくるからね。地下室ってとっても狭くて二人が限度なの。だからダーリンはあの見習いの四人に話を聞いといてくれない?」
「四人にですか?」
「うん。実戦を経験したからさ。感想とか聞いといてくれない。特にイリスの変化について聞いといてくれるかしら」
「わかりました」
それじゃお願いねとシャリーナたちは奥の部屋に入っていった。
「それじゃ行こうかミュゼ」
「はい」
功助たちも控室を出て自主訓練している見習いたちの方に向かった。
「お疲れ様ですコースケ隊長!」
功助が訓練場に入るとあちこちから見習い魔法師たちが挨拶をしてくる。その周囲にいる精鋭の魔法師たちも敬礼をする。
「お疲れさん」
功助は周囲をぐるっと見渡し四人の見習い魔法師を捜す。すると一番隅の方で魔法の訓練をしているのを見つけた。
「あっ、あそこですよコースケ様」
ミュゼリアが指さした方に向かいながら他の見習いたちの訓練も確認していく。
「あっ、コースケ隊長、ミュゼリアさん。お疲れ様です」
最初に気付いたのはやはりモーザだった。そして他の三人も気付き敬礼をした。
「お疲れさん」
片手をひょいと上げる功助。
「お疲れさまですみなさん」
ミュゼリアはペコリと頭を下げる。
「四人とも無理しなくていいよ。さっきあんなに魔物と戦ったんだから」
目の前で整列している四人を見る功助。
「ありがとうございますコースケ隊長。でも我らはまだまだ訓練が必要なのじゃ。戦いと言ってもこちらが一方的に攻撃しただけじゃからのう。まだまだ訓練せねばならんのじゃ。のう、みんな」
とフランサ。
「そうですわよコースケ隊長。わたくしたちまだまだ未熟者ですので」
メリアも同意見のようだ。
「そうれす!私たちもっともっとも~っと強くなりゃないとなんです。この白竜城と竜帝国をまもるために強くなるんです!」
イリスが拳を天に向け突き出す。その強い意志を銀色の目に乗せて功助を見る。
「わ、わかった。その心意気、たいしたもんだ。頼むぞイリス。ところでイリス。ほっぺたにお菓子のクズがついてるぞ」
「ふぇ?」
あわててゴシゴシと頬を擦るイリス。
クスクス笑う三人娘と功助、ミュゼリア。
「あ、あはは、てへっ」
自分の頭をポカッと叩くイリスの頬は少し赤い。
「ところでイリス」
「はい?」
「その銀色の目、なぜそうなったんだ?」
功助が尋ねると腕を組み頭を右に左に傾けた。
「わっかりません!」
元気に返事をした。
「あ、ああ、そうなんだ。わからないんだ…はは…」
「あのコースケ隊長。一緒にいた私たちが説明します」
とモーザ。
「えっ?あ、ああそうか。イリスは自分の目のことはあまりわからないか。自分の目で自分の目は見れないもんな。それでモーザたちがイリスの目が銀色になったとこを見たのかな?」
「はい。でも変わる瞬間は見てませんがいつ変わったのかは覚えてます」
「そうか。それじゃ教えてくれるかな」
「はい」
モーザとフランサ、メリアがイリスの目が青紫の瞳から銀の瞳になったときのことを説明した。
黒い一つ目が出てきてイリスの恐怖がMAXになったようだ。その時急にイリスの瞳が突然銀色になったのだと言う。
「ふーん、そうか。こういうことだな。最初イリスはあの目玉の魔物をものすごく怖がってたのが銀色になったら恐怖をあまり感じなくなった。そして率先して攻撃を始めたってことでいいかな?」
「はい」
三人は大きく頷いた。イリスは誰の事?と他人事のように話を聞いていた。
「なあイリス」
「へいっ!」
急に名前を呼ばれ妙な返事をしてしまうイリス。苦笑する功助とミュゼリア。
「あの目玉の魔物を見た時どう思った?」
「は、はい。とても気持ち悪くて、とても怖かったです。でも、途中からなんでか怖くなくなったんですよねえ。なぜでしょう?不思議ですぅ~」
また腕を組んで頭を傾げた。
「そうか。なんでだろうな…。えーと、ところで他のみんな、あの目玉の魔物を攻撃して何かわかったことはないかな?あの目玉の魔物のことについてでもいいし、自分の魔法や攻撃についてでもいいから、何かないかな?」
「そうですねえ」
とモーザ。
「あの、コースケ隊長。我が攻撃した魔法なのですが、まだ我の魔法は威力も弱く命中率もあまりよくないのじゃがあの時はよく当たったのじゃ。なぜじゃろうか?」
「うーん。たぶん実践で使ったのは初めてじゃなかったかな?」
「はい。その通りですが…」
「それならたぶんイリスの攻撃を見て冷静になったんじゃないかな。たぶん無心で魔法を使ったんじゃないかフランサ」
「そうかもしれんのう…」
少し考えると小さく頷くフランサ。
「あのコースケ隊長」
「ん?何か気付いたメリア」
「あの、わたくし思ったんですが……」
「うん。思ったことを言ってくれていいよ」
「あの黒い一つ目ですが、あまりにも弱すぎたような気がいたします」
「弱すぎた?」
「はい。次から次と出てきて、そして不気味でしたけど、攻撃も単純な魔力砲でしたし威力もさほどではなかったです」
「ふむ。そういえばそうだな。出てきて一瞬でこちらから攻撃してたから気がつかなかったけど、言われてみればそうかもな。うん、いいとこに気付いたなメリア」
「は、はい」
メリアは褒められて少し頬を染めていた。
「ということは、あの目玉の目的はなんなんでしょう?」
とモーザの言葉にうんうんと頷くフランサとメリア。イリスはニコニコと功助を見ている。
「わからないな。わからないけど…何かが起こるような気がする」
腕を組み少し眉間を寄せる功助。それを不安そうに見るミュゼリア。
「コースケ様…。私もなんとなくそう思います…。思い過ごしであってほしいですが…」
「あ、うん。そうだよな」
心配そうなモーザたちには大丈夫だよと微笑む功助。
「いろいろ話してくれてありがとう。さあ、訓練を再開してくれ」
「はい」
四人娘が元気よく返事をした。功助とミュゼリアはまた別の見習いたちを指導しながら再び魔法師隊控室に戻った。
テーブルに座りミュゼリアと雑談をする功助。そうしていると奥の部屋からシャリーナとラナーシアが戻って来た。
「あらダーリン。お帰り」
「お疲れ様ですコースケ隊長」
「あっお疲れ様です。それで、終わりました?」
「うん。終わったわよ」
「はい」
ラナーシアは抱えていた黒い一つ目の入った魔物ホイホイをテーブルに置いた。
「ん?」
さっきとは違い身動き一つしない一つ目。
「あの、これ動かないですが…?」
「うん。そうでしょ。これ取り出したからね」
シャリーナは右手に持っていた袋を功助の目の前に置いた。
「開けてみて」
「はい」
功助がその袋から取り出した物、それは石だった。
「これは…?」
丁度拳大の黒い石。
「これ魔石ですか?」
「正解。魔石よ。それも闇魔法のかかった魔石よ」
「えっ、闇属性の魔石…」
驚きあわてその石を机の上に戻した。
「ふふふ。大丈夫よ。さっきちゃんと封印したから闇属性の魔力の影響はないわよ」
「あっ、そうですか。なあんだ、ちょっと驚きましたよ」
と苦笑する功助。
鈍く光るその黒い石は一見すると石炭のように見える。だがよく見るとなんとなくまがまがしい。魔力を封印してあるとはいえ闇属性の魔石だ、何かがあるのではとその石を見つめる。
「で、この一つ目の魔物は魔石が取り出されたから動かなくなったんですか?」
「うんそう。でもね厳密に言うとこの一つ目は魔物じゃなかったのよね」
「魔物じゃなかった?」
「うん。どちらかと言えば魔具に近いわね。この目玉はもともとサイクロプスの目玉だと思う」
動かない一つ目を見る。
「えっ、サイクロプス…。サイクロプスって確か一つ目の巨人…ですよね。かなり狂暴な」
「そう。この一つ目のサイズを考えると8メムから9メムってところね」
「9メム…、9メートルか。でかいな」
「そしてその9メム級のサイクロプスの目玉があの林の空間の裂け目から数多く出てきた。これをどう思う?」
とシャリーナ。
「そうですね。うーん、その狂暴なサイクロプスを数多く魔具にできるヤツがいると…」
「私もそう思うわ。かなり強敵だと思うわよそいつ」
一つ目を睨むシャリーナ。功助も同じように睨んだ。
「シャリーナさん、それでこれはどんな闇の魔法がかかっているんですか?」
「監視」
「へ?監視…」
「ええ。最初の推測どおり監視の機能があったわ。誰かが白竜城を盗み見するために送り込んだものみたいね。あと暗視機能も音声も盗み聞きすることもできるわ。もっとすごいのは、なんと透視もできるってことね」
「うわっ、嫌な魔石ですね。よっぽど盗撮がしたかった奴が送り込んだんでしょうね」
「そうそう。変態盗撮野郎が送り込んだと思う。それもあんなに大量に。何考えてんのかしら。ほんっと腹立つわ」
と魔物ホイホイの中でまったく動かなくなった一つ目を睨んだ。
「そう言えばシャリーナさん」
「なあに?」
「さっきメリアが言ってたんですがこの一つ目は攻撃力を持ってなかったんじゃないかって。今の話を聞くとこの一つ目はただの監視、除くことに特化したただの魔具ということになるけど」
「へえ、メリアがねえ。メリアの言うことは正しいかもね。よく観察してたわねあの娘。それと確かあの娘、土属性を持ってたわよね。うちじゃ土属性を持ってる魔法師がいないからメリアが伸びてくれればうれしいわね」
「はい」
と微笑する功助。
「えと、それで、盗撮の情報とかはもう相手のところに伝わってるんでしょうか?」
「うーん。たぶん伝わってるでしょうね。でもあの林での情報だけだからあまり機密性の高い情報じゃないからたいしたことないけど。ただ、ダーリンのコースケ砲が知られたかどうかでしょうね」
「そうですか。…って俺の魔力砲はどうでもいいんじゃないですか?」
と首を捻る。
「コースケ様…。ふう」
とミュゼリアが嘆息した。
「えっ!?何…かな?」
ミュゼリアを見る功助。
「ほんっとコースケ様には困ったものです。難度も何度も申しているのですが…。いいですかコースケ様。コースケ砲もそうですが、コースケ様ご自身のことを客観的にごらんくださいと難度言ったことか。ご自分を過小評価するのもいい加減にしてください。コースケ様の魔力砲’コースケ砲’はそんじょそこらの魔力砲とは訳が違うんです。あれほど凄まじい魔力砲は魔族と言えども使うことはできないのですよ。それから……」
「はいはい。ミュゼちゃんの言いたいことは物凄~くわかるからね。だからちょっと落ち着きましょうか、ね」
だんだんとヒートアップしてきているミュゼリアを手をパンパンと叩いて納めたのはシャリーナだった。
「えっ、あっ、はい。申し訳ございませんシャリーナ隊長。出過ぎたことを発言してしまいました。コースケ様、申し訳ございません」
ミュゼリアは少し蒼くなって叩頭した。
「いや、すまないのは俺の方だよ。そうだよな俺って自分を過小評価し過ぎてるのかもな。ごめんミュゼ」
頭を下げているミュゼに近づきその背中をポンポン叩いて身体を起こさせる功助。
「そうね、ミュゼちゃんの言うことも一理あるわよダーリン。自分で自分のことがわからなくなったらいつでもあたしに聞いて。あたしが客観的にダーリンを評価してあげるから。ね」
「えっ、…そうですね。まだ俺、こちらの世界の常識がわからないし。なんせ魔法の無い世界に住んでましたから」
と頭をかく功助。
「さてと。ところでシャリーナ隊長。これどうするのですか?」
と傍観していたラナーシアが苦笑しながら魔物ホイホイと黒い魔石を指さした。
「うん。陛下に報告するわ。ベルクリット隊長にも知らせないとね。ラナーシア」
「はい、了解しました」
ラナーシアはそう言うと控室を出て行った。
「失礼する」
そう言って魔法師隊控室に入ってきたのは青の騎士団団長ベルクリット・ラウディーだ。
「あらベルクリット団長?わざわざ来てもらわなくてもこっちから行ったのに」
コースケとお茶を飲んでるシャリーナが入ってきたベルクリットを見て苦笑する。
「いや、俺もけっこう忙しいんでな。で、どれが空間の裂け目から出てきた魔具だ?…ってこれか。なんとも不気味だな」
テーブルの端に置いてある魔物ホイホイの中で動かない目玉を見る。
「そう。それでその横にあるのが闇属性が付与された魔石よ。それよりお茶飲む?」
「いや、忙しいもんでな」
とコースケの横に座った。
「お忙しいのですかベルクリット様。残念ですが…、お話の間だけでもお茶くらいいかがですか?」
給湯室から出てきたミュゼリアが残念そうにベルクリットを見た。
「ミュ、ミュゼリア。そ、そうだなあ、お茶くらいいいかな。ももももらおうか」
背筋を伸ばしミュゼリアを見あげるベルクリット。
「そうですか。それではすぐにお持ちしますね」
ミュゼリアはうれしそうに給湯室に入っていった。
「あはは。ねえねえベルクリット団長、婚姻承諾の儀式が済んでるのにまだまだミュゼちゃんに会うときになんでそんなに緊張してるの?」
うれしそうにシャリーナが尋ねると顔を真っ赤にするベルクリット。
「う、うるさいっ!ほっとけ!」
と小さな声で反論するがニヤニヤの泊まらないシャリーナ。
「ウヒヒ。なんて初心なのかしらねえ。修羅のベルクリットと呼ばれてたはずなんだけどねえ。キャハハハ」
とついに笑い出した。
「ふんっ!」
とそっぽを向くベルクリット。
「お待たせいたしました」
給湯室から出てきたミュゼリアは大笑いをしているシャリーナとそっぽを向いてるベルクリット、そして苦笑いしている功助を見て小首をかしげていた。
「ふむ。誰がこれを白竜城に送ったかってことだが…」
シャリーナがこの一つ目を調べた結果をベルクリットに話をした。ベルクリットは眉間にしわを寄せてその一つ目を睨む。
「ええ。でもこんなことするのって」
「ああ、そうだな。ヤツしかおらん」
魔物ホイホイの中の一つ目を眼光鋭く再度睨むベルクリット。
「……ゼドン…」
シャリーナが低い声でそう言った。
「ああ…」
目を合わせるシャリーナとベルクリット。
「…ゼドン…。すべての魔を統べる魔族の中の魔族…か…」
ベルクリットが顔を顰める。
「ダンニンやデイコックを倒したんだもんねあたしたち。ゼドンも怒るってわけよね。あの三体の魔族みたいにはいかないわね今回は」
嘆息するシャリーナ。
「ああ。だがな、だが俺はおとなしく殺られたりはしない。返り討ちにしてやるさ。なあシャリーナ隊長」
「ええ、そうよ。なんせあたしたちにはダーリンがついてるんだから。ね、ダーリン」
と功助にニコリと微笑むシャリーナ。
「えっ、あ、はあ…」
「何よぉ、その気のない返事はぁ」
と口を尖らし頬をふくらませるシャリーナ。
「えっ、は、はあ…。そんなこと言われても…」
助けを求めるようにミュゼリアを見る功助。するとミュゼリアは胸を張り大きく頷いた。
「シャリーナ隊長のおっしゃられるとおりです!わが白竜城には今や伝説となることが約束されたお方がおられるのです!そうです!コースケ様その人です!たとえゼドンが束になってかかって来ても魔族が大群でかかってきてもコースケ様がおられる限りこの白竜城は難攻不落なのです!コースケ砲一発でゼドンなんてあっという間に駆逐です!」
両手を天に掲げまたも力説するミュゼリア。
シャリーナは苦笑し、ベルクリットは優しげな眼差しを、そして功助は頭を抱えてミュゼリアを見ている。
「ま、まあそれはそうとして…、ベルクリット団長。このことは陛下にもお伝えするんだけど、団長もご一緒しない?」
「ああ、かまわない。そのあとで青の騎士団、緑の騎士団、魔法師隊の長と副長で会議だな。それと」
そう言って功助を横目で見る。
「そうね。ダーリンも会議には出てね」
「えっ!俺もですか?」
と驚く功助。
「何を驚いているのだコースケ隊長。コースケも名誉職とはいえ魔法師隊の隊長なのだぞ」
と苦笑するベルクリット。
「あっ、そうでした。あはは。会議かぁ…、久しぶりだな」
と頭をかく功助。
「それじゃあとで陛下のとこに行ってくるから。たぶん対策会議は夜になると思うけど、よろしくねダーリン」
「はい。わかりました」
と頷く功助。
「さてと、ねえダーリン」
「はい?」
「悪いんだけどさ、イリスたちを呼んできてくれないかしら。話しときたいの」
「話?」
「うん。イリスの瞳のことでね」
「ああ、はい。わかりました」
「おい、そのイリスの瞳のことってなんだ?」
ついつい話に割って入ってしまうベルクリット。
「ん?こっちの話。まあ、ベルクリット団長には特には関係ないわよ」
「あ、悪い悪い。そうだな俺変に口をはさんでしまい申し訳ない」
「いいわよいいわよ。もしベルクリット団長にも関係するようになったら話するから」
「あ、ああ。なんのことかわからんがわかった」
と苦笑するベルクリット。
「じゃ俺、イリスを呼んできます」
「あっ、ちょっとお待ちください。イリスさんたちなら私が呼んできますのでコースケ様はここでお待ちください」
功助が立とうとしたがそれより早くミュゼリアが小走りでドアに向かう。
「えっ、俺行くけど…」
「私が行きますのでコースケ様はここでごゆっくりしていてください。それではしばらくお待ちください」
と元気よく出て行くミュゼリア。
「あ、うん。ありがとう、頼むよミュゼ」
もう一度座り直す功助。
「いつでもミュゼちゃんはダーリンの役に立とうと一生懸命ね」
シャリーナが優しい微笑みを浮かべる。
「ああ。俺もそう思う。ミュゼリアと婚姻承諾してなかったらコースケに嫉妬するところだ。ははは」
苦笑するベルクリット。
「はい。よく気が付くいい侍女です。そんなミュゼをものにしたベルクリットさんを少しうらやましく思いますよ」
微笑みながらベルクリットを見るとやはり少し頬が赤くなっていた。
「さてと、俺一旦詰所に戻るわ。陛下のとこ行く時呼びに来てくれるか?」
席を立つベルクリット。
「うんわかったわ。外出たらミュゼちゃんには声かけて行きなさいよ」
「ああ」
ベルクリットはそう言うと部屋を出て行った。
「目ですね」
「目だよな」
「でも気持ち悪いです」
魔法師隊控室。シャリーナ、ラナーシア、功助、そしてミュゼリアはテーブルの上に置いた魔物ホイホイの中でガタガタギョロギョロとと動いている黒い一つ目を観察している。
「すなおに考えると監視の魔物かしらね」
「はい。私もそう思いますが…」
「誰が送り込んだかだけど。まあ、考えることもなく魔族ですよね」
腕を組む三人。ミュゼリアは首を傾げている。
「あの空間の裂け目、フェンリルが出てきた裂け目と同じだったわよね、ね、ダーリン」
「はい。まったく同種のものだと思いますよあれ」
「もし魔族だったとして、なぜこんなものを送り込んだんでしょう?」
ラナーシアが箱から出ようとガタガタ動いている一つ目を見る。
「わからないわねえ。わからなかったらこれを解剖すればわかるかも」
「解剖ですか?」
うん。でもその前に魔術的に調べてみるわ。ラナーシア」
「はい」
「地下室使うから用意して」
「わかりました」
ラナーシアは頷くと奥の部屋に入っていった。
「地下室?どこにあるんですか地下室」
「この部屋の奥よ。普段は隠蔽の魔法で見えなくしてあるけどね。それにここ白竜城にはた~くさんの地下室あるわよ。倉庫から監獄まで多種多様にね。ね、ミュゼちゃん」
「はい。特に食糧庫と武器庫は大きいですよ。一度見に行かれますかコースケ様」
「うん。一回見たいもんだな。でもそんなにたくさん地下室あるんだ」
いまだにガタガタと狭い箱の中で動いている黒い一つ目を見る三人。
「でも」
とミュゼリア。
「でも、なんだ?」
「見たかったです。コースケ様のコースケ砲。フェンリルに撃った時のあの神々しい光をもう一度見たかったです」
としょんぼりしている。
「ミュゼちゃんいなかったものね。いつもダーリンに付き従っているのにどうしたの?なんか用事があったの?」
「はい。コースケ様の下膳を厨房に持っていっている間だったもので。部屋に戻るとコースケ様がおられなくてあちこち探してました。林の方で何かがあったのを気付いた時にはもうみなさんがお戻りになっている時でした」
「あら残念だったわねえミュゼちゃん」
そんなことを話ししていると、
「シャリーナ隊長。用意できました」
「あっ、うん。それじゃラナーシアそれ持ってきてくれる」
とテーブルの上の魔物ホイホイを指さした。
「はい」
それを持つラナーシア。
「じゃあたしとラナーシアで検証してくるからね。地下室ってとっても狭くて二人が限度なの。だからダーリンはあの見習いの四人に話を聞いといてくれない?」
「四人にですか?」
「うん。実戦を経験したからさ。感想とか聞いといてくれない。特にイリスの変化について聞いといてくれるかしら」
「わかりました」
それじゃお願いねとシャリーナたちは奥の部屋に入っていった。
「それじゃ行こうかミュゼ」
「はい」
功助たちも控室を出て自主訓練している見習いたちの方に向かった。
「お疲れ様ですコースケ隊長!」
功助が訓練場に入るとあちこちから見習い魔法師たちが挨拶をしてくる。その周囲にいる精鋭の魔法師たちも敬礼をする。
「お疲れさん」
功助は周囲をぐるっと見渡し四人の見習い魔法師を捜す。すると一番隅の方で魔法の訓練をしているのを見つけた。
「あっ、あそこですよコースケ様」
ミュゼリアが指さした方に向かいながら他の見習いたちの訓練も確認していく。
「あっ、コースケ隊長、ミュゼリアさん。お疲れ様です」
最初に気付いたのはやはりモーザだった。そして他の三人も気付き敬礼をした。
「お疲れさん」
片手をひょいと上げる功助。
「お疲れさまですみなさん」
ミュゼリアはペコリと頭を下げる。
「四人とも無理しなくていいよ。さっきあんなに魔物と戦ったんだから」
目の前で整列している四人を見る功助。
「ありがとうございますコースケ隊長。でも我らはまだまだ訓練が必要なのじゃ。戦いと言ってもこちらが一方的に攻撃しただけじゃからのう。まだまだ訓練せねばならんのじゃ。のう、みんな」
とフランサ。
「そうですわよコースケ隊長。わたくしたちまだまだ未熟者ですので」
メリアも同意見のようだ。
「そうれす!私たちもっともっとも~っと強くなりゃないとなんです。この白竜城と竜帝国をまもるために強くなるんです!」
イリスが拳を天に向け突き出す。その強い意志を銀色の目に乗せて功助を見る。
「わ、わかった。その心意気、たいしたもんだ。頼むぞイリス。ところでイリス。ほっぺたにお菓子のクズがついてるぞ」
「ふぇ?」
あわててゴシゴシと頬を擦るイリス。
クスクス笑う三人娘と功助、ミュゼリア。
「あ、あはは、てへっ」
自分の頭をポカッと叩くイリスの頬は少し赤い。
「ところでイリス」
「はい?」
「その銀色の目、なぜそうなったんだ?」
功助が尋ねると腕を組み頭を右に左に傾けた。
「わっかりません!」
元気に返事をした。
「あ、ああ、そうなんだ。わからないんだ…はは…」
「あのコースケ隊長。一緒にいた私たちが説明します」
とモーザ。
「えっ?あ、ああそうか。イリスは自分の目のことはあまりわからないか。自分の目で自分の目は見れないもんな。それでモーザたちがイリスの目が銀色になったとこを見たのかな?」
「はい。でも変わる瞬間は見てませんがいつ変わったのかは覚えてます」
「そうか。それじゃ教えてくれるかな」
「はい」
モーザとフランサ、メリアがイリスの目が青紫の瞳から銀の瞳になったときのことを説明した。
黒い一つ目が出てきてイリスの恐怖がMAXになったようだ。その時急にイリスの瞳が突然銀色になったのだと言う。
「ふーん、そうか。こういうことだな。最初イリスはあの目玉の魔物をものすごく怖がってたのが銀色になったら恐怖をあまり感じなくなった。そして率先して攻撃を始めたってことでいいかな?」
「はい」
三人は大きく頷いた。イリスは誰の事?と他人事のように話を聞いていた。
「なあイリス」
「へいっ!」
急に名前を呼ばれ妙な返事をしてしまうイリス。苦笑する功助とミュゼリア。
「あの目玉の魔物を見た時どう思った?」
「は、はい。とても気持ち悪くて、とても怖かったです。でも、途中からなんでか怖くなくなったんですよねえ。なぜでしょう?不思議ですぅ~」
また腕を組んで頭を傾げた。
「そうか。なんでだろうな…。えーと、ところで他のみんな、あの目玉の魔物を攻撃して何かわかったことはないかな?あの目玉の魔物のことについてでもいいし、自分の魔法や攻撃についてでもいいから、何かないかな?」
「そうですねえ」
とモーザ。
「あの、コースケ隊長。我が攻撃した魔法なのですが、まだ我の魔法は威力も弱く命中率もあまりよくないのじゃがあの時はよく当たったのじゃ。なぜじゃろうか?」
「うーん。たぶん実践で使ったのは初めてじゃなかったかな?」
「はい。その通りですが…」
「それならたぶんイリスの攻撃を見て冷静になったんじゃないかな。たぶん無心で魔法を使ったんじゃないかフランサ」
「そうかもしれんのう…」
少し考えると小さく頷くフランサ。
「あのコースケ隊長」
「ん?何か気付いたメリア」
「あの、わたくし思ったんですが……」
「うん。思ったことを言ってくれていいよ」
「あの黒い一つ目ですが、あまりにも弱すぎたような気がいたします」
「弱すぎた?」
「はい。次から次と出てきて、そして不気味でしたけど、攻撃も単純な魔力砲でしたし威力もさほどではなかったです」
「ふむ。そういえばそうだな。出てきて一瞬でこちらから攻撃してたから気がつかなかったけど、言われてみればそうかもな。うん、いいとこに気付いたなメリア」
「は、はい」
メリアは褒められて少し頬を染めていた。
「ということは、あの目玉の目的はなんなんでしょう?」
とモーザの言葉にうんうんと頷くフランサとメリア。イリスはニコニコと功助を見ている。
「わからないな。わからないけど…何かが起こるような気がする」
腕を組み少し眉間を寄せる功助。それを不安そうに見るミュゼリア。
「コースケ様…。私もなんとなくそう思います…。思い過ごしであってほしいですが…」
「あ、うん。そうだよな」
心配そうなモーザたちには大丈夫だよと微笑む功助。
「いろいろ話してくれてありがとう。さあ、訓練を再開してくれ」
「はい」
四人娘が元気よく返事をした。功助とミュゼリアはまた別の見習いたちを指導しながら再び魔法師隊控室に戻った。
テーブルに座りミュゼリアと雑談をする功助。そうしていると奥の部屋からシャリーナとラナーシアが戻って来た。
「あらダーリン。お帰り」
「お疲れ様ですコースケ隊長」
「あっお疲れ様です。それで、終わりました?」
「うん。終わったわよ」
「はい」
ラナーシアは抱えていた黒い一つ目の入った魔物ホイホイをテーブルに置いた。
「ん?」
さっきとは違い身動き一つしない一つ目。
「あの、これ動かないですが…?」
「うん。そうでしょ。これ取り出したからね」
シャリーナは右手に持っていた袋を功助の目の前に置いた。
「開けてみて」
「はい」
功助がその袋から取り出した物、それは石だった。
「これは…?」
丁度拳大の黒い石。
「これ魔石ですか?」
「正解。魔石よ。それも闇魔法のかかった魔石よ」
「えっ、闇属性の魔石…」
驚きあわてその石を机の上に戻した。
「ふふふ。大丈夫よ。さっきちゃんと封印したから闇属性の魔力の影響はないわよ」
「あっ、そうですか。なあんだ、ちょっと驚きましたよ」
と苦笑する功助。
鈍く光るその黒い石は一見すると石炭のように見える。だがよく見るとなんとなくまがまがしい。魔力を封印してあるとはいえ闇属性の魔石だ、何かがあるのではとその石を見つめる。
「で、この一つ目の魔物は魔石が取り出されたから動かなくなったんですか?」
「うんそう。でもね厳密に言うとこの一つ目は魔物じゃなかったのよね」
「魔物じゃなかった?」
「うん。どちらかと言えば魔具に近いわね。この目玉はもともとサイクロプスの目玉だと思う」
動かない一つ目を見る。
「えっ、サイクロプス…。サイクロプスって確か一つ目の巨人…ですよね。かなり狂暴な」
「そう。この一つ目のサイズを考えると8メムから9メムってところね」
「9メム…、9メートルか。でかいな」
「そしてその9メム級のサイクロプスの目玉があの林の空間の裂け目から数多く出てきた。これをどう思う?」
とシャリーナ。
「そうですね。うーん、その狂暴なサイクロプスを数多く魔具にできるヤツがいると…」
「私もそう思うわ。かなり強敵だと思うわよそいつ」
一つ目を睨むシャリーナ。功助も同じように睨んだ。
「シャリーナさん、それでこれはどんな闇の魔法がかかっているんですか?」
「監視」
「へ?監視…」
「ええ。最初の推測どおり監視の機能があったわ。誰かが白竜城を盗み見するために送り込んだものみたいね。あと暗視機能も音声も盗み聞きすることもできるわ。もっとすごいのは、なんと透視もできるってことね」
「うわっ、嫌な魔石ですね。よっぽど盗撮がしたかった奴が送り込んだんでしょうね」
「そうそう。変態盗撮野郎が送り込んだと思う。それもあんなに大量に。何考えてんのかしら。ほんっと腹立つわ」
と魔物ホイホイの中でまったく動かなくなった一つ目を睨んだ。
「そう言えばシャリーナさん」
「なあに?」
「さっきメリアが言ってたんですがこの一つ目は攻撃力を持ってなかったんじゃないかって。今の話を聞くとこの一つ目はただの監視、除くことに特化したただの魔具ということになるけど」
「へえ、メリアがねえ。メリアの言うことは正しいかもね。よく観察してたわねあの娘。それと確かあの娘、土属性を持ってたわよね。うちじゃ土属性を持ってる魔法師がいないからメリアが伸びてくれればうれしいわね」
「はい」
と微笑する功助。
「えと、それで、盗撮の情報とかはもう相手のところに伝わってるんでしょうか?」
「うーん。たぶん伝わってるでしょうね。でもあの林での情報だけだからあまり機密性の高い情報じゃないからたいしたことないけど。ただ、ダーリンのコースケ砲が知られたかどうかでしょうね」
「そうですか。…って俺の魔力砲はどうでもいいんじゃないですか?」
と首を捻る。
「コースケ様…。ふう」
とミュゼリアが嘆息した。
「えっ!?何…かな?」
ミュゼリアを見る功助。
「ほんっとコースケ様には困ったものです。難度も何度も申しているのですが…。いいですかコースケ様。コースケ砲もそうですが、コースケ様ご自身のことを客観的にごらんくださいと難度言ったことか。ご自分を過小評価するのもいい加減にしてください。コースケ様の魔力砲’コースケ砲’はそんじょそこらの魔力砲とは訳が違うんです。あれほど凄まじい魔力砲は魔族と言えども使うことはできないのですよ。それから……」
「はいはい。ミュゼちゃんの言いたいことは物凄~くわかるからね。だからちょっと落ち着きましょうか、ね」
だんだんとヒートアップしてきているミュゼリアを手をパンパンと叩いて納めたのはシャリーナだった。
「えっ、あっ、はい。申し訳ございませんシャリーナ隊長。出過ぎたことを発言してしまいました。コースケ様、申し訳ございません」
ミュゼリアは少し蒼くなって叩頭した。
「いや、すまないのは俺の方だよ。そうだよな俺って自分を過小評価し過ぎてるのかもな。ごめんミュゼ」
頭を下げているミュゼに近づきその背中をポンポン叩いて身体を起こさせる功助。
「そうね、ミュゼちゃんの言うことも一理あるわよダーリン。自分で自分のことがわからなくなったらいつでもあたしに聞いて。あたしが客観的にダーリンを評価してあげるから。ね」
「えっ、…そうですね。まだ俺、こちらの世界の常識がわからないし。なんせ魔法の無い世界に住んでましたから」
と頭をかく功助。
「さてと。ところでシャリーナ隊長。これどうするのですか?」
と傍観していたラナーシアが苦笑しながら魔物ホイホイと黒い魔石を指さした。
「うん。陛下に報告するわ。ベルクリット隊長にも知らせないとね。ラナーシア」
「はい、了解しました」
ラナーシアはそう言うと控室を出て行った。
「失礼する」
そう言って魔法師隊控室に入ってきたのは青の騎士団団長ベルクリット・ラウディーだ。
「あらベルクリット団長?わざわざ来てもらわなくてもこっちから行ったのに」
コースケとお茶を飲んでるシャリーナが入ってきたベルクリットを見て苦笑する。
「いや、俺もけっこう忙しいんでな。で、どれが空間の裂け目から出てきた魔具だ?…ってこれか。なんとも不気味だな」
テーブルの端に置いてある魔物ホイホイの中で動かない目玉を見る。
「そう。それでその横にあるのが闇属性が付与された魔石よ。それよりお茶飲む?」
「いや、忙しいもんでな」
とコースケの横に座った。
「お忙しいのですかベルクリット様。残念ですが…、お話の間だけでもお茶くらいいかがですか?」
給湯室から出てきたミュゼリアが残念そうにベルクリットを見た。
「ミュ、ミュゼリア。そ、そうだなあ、お茶くらいいいかな。ももももらおうか」
背筋を伸ばしミュゼリアを見あげるベルクリット。
「そうですか。それではすぐにお持ちしますね」
ミュゼリアはうれしそうに給湯室に入っていった。
「あはは。ねえねえベルクリット団長、婚姻承諾の儀式が済んでるのにまだまだミュゼちゃんに会うときになんでそんなに緊張してるの?」
うれしそうにシャリーナが尋ねると顔を真っ赤にするベルクリット。
「う、うるさいっ!ほっとけ!」
と小さな声で反論するがニヤニヤの泊まらないシャリーナ。
「ウヒヒ。なんて初心なのかしらねえ。修羅のベルクリットと呼ばれてたはずなんだけどねえ。キャハハハ」
とついに笑い出した。
「ふんっ!」
とそっぽを向くベルクリット。
「お待たせいたしました」
給湯室から出てきたミュゼリアは大笑いをしているシャリーナとそっぽを向いてるベルクリット、そして苦笑いしている功助を見て小首をかしげていた。
「ふむ。誰がこれを白竜城に送ったかってことだが…」
シャリーナがこの一つ目を調べた結果をベルクリットに話をした。ベルクリットは眉間にしわを寄せてその一つ目を睨む。
「ええ。でもこんなことするのって」
「ああ、そうだな。ヤツしかおらん」
魔物ホイホイの中の一つ目を眼光鋭く再度睨むベルクリット。
「……ゼドン…」
シャリーナが低い声でそう言った。
「ああ…」
目を合わせるシャリーナとベルクリット。
「…ゼドン…。すべての魔を統べる魔族の中の魔族…か…」
ベルクリットが顔を顰める。
「ダンニンやデイコックを倒したんだもんねあたしたち。ゼドンも怒るってわけよね。あの三体の魔族みたいにはいかないわね今回は」
嘆息するシャリーナ。
「ああ。だがな、だが俺はおとなしく殺られたりはしない。返り討ちにしてやるさ。なあシャリーナ隊長」
「ええ、そうよ。なんせあたしたちにはダーリンがついてるんだから。ね、ダーリン」
と功助にニコリと微笑むシャリーナ。
「えっ、あ、はあ…」
「何よぉ、その気のない返事はぁ」
と口を尖らし頬をふくらませるシャリーナ。
「えっ、は、はあ…。そんなこと言われても…」
助けを求めるようにミュゼリアを見る功助。するとミュゼリアは胸を張り大きく頷いた。
「シャリーナ隊長のおっしゃられるとおりです!わが白竜城には今や伝説となることが約束されたお方がおられるのです!そうです!コースケ様その人です!たとえゼドンが束になってかかって来ても魔族が大群でかかってきてもコースケ様がおられる限りこの白竜城は難攻不落なのです!コースケ砲一発でゼドンなんてあっという間に駆逐です!」
両手を天に掲げまたも力説するミュゼリア。
シャリーナは苦笑し、ベルクリットは優しげな眼差しを、そして功助は頭を抱えてミュゼリアを見ている。
「ま、まあそれはそうとして…、ベルクリット団長。このことは陛下にもお伝えするんだけど、団長もご一緒しない?」
「ああ、かまわない。そのあとで青の騎士団、緑の騎士団、魔法師隊の長と副長で会議だな。それと」
そう言って功助を横目で見る。
「そうね。ダーリンも会議には出てね」
「えっ!俺もですか?」
と驚く功助。
「何を驚いているのだコースケ隊長。コースケも名誉職とはいえ魔法師隊の隊長なのだぞ」
と苦笑するベルクリット。
「あっ、そうでした。あはは。会議かぁ…、久しぶりだな」
と頭をかく功助。
「それじゃあとで陛下のとこに行ってくるから。たぶん対策会議は夜になると思うけど、よろしくねダーリン」
「はい。わかりました」
と頷く功助。
「さてと、ねえダーリン」
「はい?」
「悪いんだけどさ、イリスたちを呼んできてくれないかしら。話しときたいの」
「話?」
「うん。イリスの瞳のことでね」
「ああ、はい。わかりました」
「おい、そのイリスの瞳のことってなんだ?」
ついつい話に割って入ってしまうベルクリット。
「ん?こっちの話。まあ、ベルクリット団長には特には関係ないわよ」
「あ、悪い悪い。そうだな俺変に口をはさんでしまい申し訳ない」
「いいわよいいわよ。もしベルクリット団長にも関係するようになったら話するから」
「あ、ああ。なんのことかわからんがわかった」
と苦笑するベルクリット。
「じゃ俺、イリスを呼んできます」
「あっ、ちょっとお待ちください。イリスさんたちなら私が呼んできますのでコースケ様はここでお待ちください」
功助が立とうとしたがそれより早くミュゼリアが小走りでドアに向かう。
「えっ、俺行くけど…」
「私が行きますのでコースケ様はここでごゆっくりしていてください。それではしばらくお待ちください」
と元気よく出て行くミュゼリア。
「あ、うん。ありがとう、頼むよミュゼ」
もう一度座り直す功助。
「いつでもミュゼちゃんはダーリンの役に立とうと一生懸命ね」
シャリーナが優しい微笑みを浮かべる。
「ああ。俺もそう思う。ミュゼリアと婚姻承諾してなかったらコースケに嫉妬するところだ。ははは」
苦笑するベルクリット。
「はい。よく気が付くいい侍女です。そんなミュゼをものにしたベルクリットさんを少しうらやましく思いますよ」
微笑みながらベルクリットを見るとやはり少し頬が赤くなっていた。
「さてと、俺一旦詰所に戻るわ。陛下のとこ行く時呼びに来てくれるか?」
席を立つベルクリット。
「うんわかったわ。外出たらミュゼちゃんには声かけて行きなさいよ」
「ああ」
ベルクリットはそう言うと部屋を出て行った。
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