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第5章 黒い目玉
06 おつかいイリス
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「モーザ、フランサ、メリア!みんなもあいつを攻撃して!たぶん目玉に当てられたらドッカーンってなるから!それじゃいくじょ!」
「あはは。やっぱりイリスだわ。緊張したけど最後の’いくじょ’でなんか冷静になった。よしっ!行くわよ。くらいなさい水属性を持つ私の攻撃魔法!」
モーザは水属性を持っている。見習いの中にも水属性を持つ者はいるがモーザは特に水と相性がいい。
モーザがその右腕を頭上に掲げると周囲から水の魔力がその手の先に集まってきた。それはだんだんと密度が濃くなりやがて薄緑に輝いてきたのだった。
そしてその右腕を黒い一つ目の光る目に向け叫ぶ。
「水槍!」
モーザの右腕から水でできた槍が唸りながら高速で宙を飛んでいく。そしてさっきのイリスと同じように黒い目玉の中心に飛んでいき突き刺さる。
バシューッ!
「黒い一つ目は内部から破裂するように爆散した。
よしっと!」
「やりおるのモーザ。我も負けてはおらぬぞ!火属性の魔法くらうのじゃ!」
フランサはラナーシアと同じ火の属性を持っている。まだまだラナーシアの足下にも及ばないが見習いの中では上位にいる。
そのフランサが右手を前に突き出し半身となった。すると赤い火の魔力が徐々にその手に集まってきた。赤く輝く指を黒い一つ目に向け叫ぶ。
「|火炎矢《ファイヤーアロー)!」
右手の指からその指と同じ太さの炎の矢が五本射出された。空気を焦がしその矢はまっすぐ飛んで行き黒い一つ目に命中。黒い一つ目は木端微塵に爆散した。
「わたくしもみなさんに負けていられませんわ!自慢の土属性魔法をお見舞いいたします!」
メリアは見習いの中でも珍しい土属性を持っていた。小さな頃から土に親しんだメリアは土精霊ノームに愛されたのだと魔法師隊隊長シャリーナの御墨付をもらっていた。
「(ノーム、お願いいたします。わたくしに力をお貸しください)」
一瞬目を閉じノームに祈る。そしてカッと目を見開くと叫んだ。
(|岩槍(ロックランス)!」
メリアが黒い一つ目に向かって両手を突き出すとメリアの足下の地面から土でできた槍が射出された。それは一瞬のうちに強固な岩の槍と変じ高速で光る目玉にぶち当たった。
「すっごーいみんな。私も。っとその前に。フランサ」
「なんなのじゃイリス?」
「空に向かってシャリーナ隊長に救援の魔法球を打ち上げてくれにゃい?あれがなんなのか隊長たちに診てもらいてえから」
「わ、わかったのじゃ」
フランサは掌の上に炎球を作り出すとそれを空高く投げ上げた。数十メートル上がったところでそれは花火のようにドーンと音をさせると光を放った。
「ありがとフランシャ!」
「我の名はフランサじゃぞイリス。ふふふ」
「あっ、ごめんフランサ。それじゃみんな!続き行こう!」
「オーッ!」
さっきまでガタガタ震えていたのが嘘のように四人は裂け目から出て来る黒い一つ目に次々と自慢の魔法を叩きこむ。黒い目玉も魔力の束を射出してくるが四人はそれを華麗に回避。自慢の魔法で次々と爆散させていった。
「うーっ、なんかキリがないわね。どうしたもんかな?ねえイリス」
「そうねえ。たぶんあの穴をふさいだらいいと思うんだけど…。どうやればいいんだろ?」
イリスとモーザがいまだにわらわらと出て来る黒い一つ目を見る。
「おぉっ、隊長がきたようじゃぞ」
その時フランサが城の方からやってくる一団を確認した。
「あっ、あれはコースケ隊長とシャリーナ隊長。それに緑の騎士団ですわ!」
メリアから安堵の言葉が出た。
「やった!これで大丈夫よ。よかったわねイリス」
「うんモーザ。これで安心だにゃ」
イリスも笑みをこぼした。
「あんたたち!何があったの!って何あれ?魔物みたいね」
息を切らしおまけにユッサユッサと胸を揺らしてシャリーナが走ってきて四人に声をかける。
「大丈夫か!…ってあれなんだ?」
功助も四人の見習いの後ろまでくると林の方を見て驚いている。
「わかりましぇん!でもやっつけないとと思ってやっちゅけてます!」
イリスが噛みながら功助とシャリーナに状況を説明する。
「そう。それで四人で頑張ってやっつけてるのね。……ってイリス!あんた、その目!」
シャリーナがイリスの目を見て驚く。
「と、その前に緑の騎士団!」
「はっ!」
「わらわらと出て来るあの魔物を彼女たちと一緒に駆除してちょうだい」
「はっ!緑の騎士団かかれ!」
緑の騎士団は見習い魔法師たちとともに次から次と出て来る不気味な魔物に攻撃を開始した。
「で、イリス。あんたのその目、どうしたの?」
「わ、わかりません。さっきこうなっちゃって。でも、自分でわからないけど……。体調、本当に私の目、銀色になってるんでしゅか?」
「え、ええ。…あっ、そうかそうか。思い出したわ。私もむか~しのことですっかり忘れてたけど、ふーん。そうかそうか」
「わかったんでしゅかシャリーナ隊長!」
とイリスがシャリーナの目の前にニュウッと顔を突き出す。
「うおっ!びっくりした。まあ待ってちょうだい。あとでゆっくり説明してあげるから。その前にあのへんてこりんなのをどうにかしないと。それで、状況は?」
とシャリーナ。
「はい」
イリスたちが攻撃を続けながら準を追って説明した。
「空間の裂け目からか……。フェンリルを思い出すな。それであの不気味な奴はどれくらい出てきている?」
と功助。
「はい。数は最早わかりませんがだいたい3秒に一体の割合で出現してきていますわ」
「そんなに出てきてるのかあいつら。シャリーナさん」
「うん。どうにかしないとね。でも、あんなへんてこな魔物、あたしも見たことないし、一匹でもいいから捕えたいからあれを持ってきてもらおう。イリス!」
はいっ!?」
イリスが|風刃(ウインドカッター)で黒い一つ目の目玉をズタズタに切り刻んだ時シャリーナが声をかけた。
「うん。なかなかいい風刃だったわよイリス。それでねあんたに頼みたいことがあるんだけど」
「わ、私にでしゅか?」
「ええそう。あんた風を纏わせて飛べる?」
「へ?私が?へ?」
「だーかーらっ、フライよフライ」
「フライ?私エビが好きです。玉ねぎも甘くておいしいです」
と頬が緩むイリス。
「そうねえ、あたしは牡蠣が好きよ…って、違ーう!浮遊よ浮遊魔法!空飛べるかって聞いてるの!」
「ふぇっ…?……空を…?私が…?でででででできましぇん。そんなおとぎ話のようなこと…。飛ぶだなんて。飛べたらかっこいいなとは思いますし飛べたら雲まで行って食べてみたいなとは思いますけど…」
両手をブンブン首もブンブンと振るイリス。
「ふふふ。そう思うのはちょっと早いわよ。あんたようやく覚醒したの。飛べるわよイリス」
「覚醒…??なんでしゅかそれ?」
「まあまあいいからいいから。だからあなた飛べるようになってるのよ」
「ふえっ?わわわわ私がでしゅか!」
「そう。なぜできるようになったのか詳しくはちゃんとあとで教えてあげるから。あたしの言うとおりにしてごらんなさいな。きっと飛べるわよ。飛べたら気持ちいいのよぉ~。もうあんなとこがキュンってなってズキュンとなって、うふふふでそんでもって昇天しそうになるのよぉ~」
語尾にハートマークが付きそうにシャリーナは腰を揺らす。
「ちょっとシャリーナさん。ラナーシア副隊長がいたらまたスリッパでしばかれますよ」
苦笑する功助。
「おっと、それは願い下げね。こほん。だからあたしの言う通りやってみて」
とウインクをするシャリーナ。
「ふ、ふぁい!やってみます!私やってみます!だから、ご指導おにぇがいします!」
鎖骨の前でグーを作るイリス。
「オッケー!それじゃいくわよ。まず身体の周りに風を纏って。そう、ちゃんと渦を作って。そうそう、いい感じよ。で、次にその渦を下の方に持って行って。そうそう。いい感じじゃないイリス。そうしたらほんの少しジャンプしてみて。そしたら足の裏に風が入ってくるから一気に風の力を強めて!」
シャリーナの指導のもと、イリスは風を纏う。そして言われた通りに風を操るとイリスの身体はふわっと宙に浮いた。
「うわっ!たたたた隊長隊長!サリーナ隊長!わたわたわた私、うううう浮いてるぅぅぅ!」
「だからできるっていったでしょ。おまけにスカートめくれて花柄パンツが丸見えだけどね」
「きゃっ!」
あわててスカートを押さえるイリス。
「ふふふ。いろいろといい感じで浮いてるわよ。それとあたしの名前はシャリーナだからね」
「すすすすみましぇん。ああああの、それで、このあと私どうすれば?」
「あっ、そうそう。ちょっと用事頼まれてくれない?魔法師隊控室まで行ってちょうだい。今の控室にはラナーシアがいるから捕獲容器をもらってきて。四角い透明な箱。えーと、魔物ホイホイって言ったらラナーシアが出してきてくれるから。急いで!」
「ふぁ、ふぁい!わかりまちた!魔物ホイホイですねっ。それじゃイリス行きます!」
イリスが風に魔力を注いだ。そして勢いよく前に進むと…。
ボテッ!
「あ痛っ!」
飛ばずにただ前に倒れた。
「なあにやってんのあんた。もっとゆっくりと魔力を注ぎなさい!」
「は、はいぃ!しゅみません」
血のにじんだ額を摩りながら再びイリスは風を纏い空に浮かんだ。
「行ってきます!」
イリスは魔法師隊の控室に向かい飛び立った。
「うわあ、イリスかっこいい!」
「我も飛びたいもんじゃのう」
「わたくしも飛んでみたいですわ。ほんとうらやましいですわ」
三人の見習い魔法師はイリスに羨望のまなざしを送っていた。
「へえ。イリスにあんなことができたとは」
と感心する功助。
「うふふ。やろうと思ったらたぶんダーリンにもできるわよ。教えてあげよっか?」
「ほんとですか?うーん、いいかも」
「うふふ。手を取り足を取、ムフフをイヒヒしてグフフなことも。デヘヘヘ」
「……あの…シャリーナさん、妄想が暴走してますよ」
「おっ、うまいこというわねダーリン」
功助の腕にしがみつくシャリーナ。なんだかなあと功助。
「と、ところでシャリーナさん。あれってなんなんでしょうね。どう見ても目玉ですよね」
「そうよね。瞳はほんのり光ってるしけどあとは真っ黒。見た目は気持ち悪いけど戦闘力はほとんどないみたいだし」
「はい。本体もあまり頑丈じゃないみたいだし」
加勢しようかと思う二人だが、今またモーザの水矢が黒い一つ目を爆散させた。
「あの娘たちと緑の騎士団で殲滅できるでしょうけど…。でもあの数がねえ。どんどん出て来るわねあれ」
「はい。あの空間の裂け目…、あの中に攻撃したらどうなるんでしょう?」
「そうよねえ。あたしもそれ考えてた…。それで裂け目が閉じてくれればいいんだけど…」
見習い魔法師の三人と緑の騎士団の攻撃を見ながら話し合いをする功助とシャリーナ。そうしている間にも裂けめからはどんどんと黒い一つ目は出てきている。その時、誰も気付かないほんの一瞬。大きな黒い一つ目の後ろにゴルフボールほどの小さな黒い一つ目が一緒に出てきていたのを気付いた者は誰もいなかった。そしてそれは素早くコロコロと転がるとその場から離れた木の影に潜んだのだった。
「持ってきましたぁ~!」
功助とシャリーナが声の方を向くと透明な箱を持って駆け足で戻ってくるイリスの姿があった。
そう、イリスは足を前後させて走って戻って来た。だがちゃんと浮遊魔法を使っているのは確かだ。なんとイリスは地上一メートルほどのところをその足を前後に動かして空中を走るように戻って来たのだった。
「「ヘ?」」
功助もシャリーナも空中を走るイリスを見てあっけにとられている。それはそうだ。さっきはまるで地球を助けに来た銀色の巨大ヒーローのように、まるで青いコスチュームで赤いマントをひるがえす異星人のように両手を前に出してそれこそ飛んで行ったのが、今は空中を走って戻ってきたのだから。
「ただいま戻りましたっ!隊長、これですよね魔物ホイホイ!」
イリスは地上に降りるとシャリーナの目の前に魔物ホイホイを差し出しニコニコとしている。
「え、ええ。これよ…、ありがとう…。……ねえ、イリス…。なんで宙を走ってたの?」
「ふぇ?あっ、はい。こっちの方が速く移動できたんでしゅ!さっきビューンって手を前にして飛んだんですけど、あまり早く飛べなくて。それで途中から走った方が速いかもって思って空中を走ったらこれがもう早い早い。で、宙を走ってきまちた!」
とドヤ顔のイリス。
「ま、まあ、手段はどうであれ早く持って来てくれて感謝するわ。あはは。ありがとうイリス」
「いえいえ!いつでも行ってくだしゃい!」
とガッツポーズをするイリス。
「イリス。ご苦労さん。ちょっと休んでていいよ」
「へ?あ、ありがとうございますコーシュケ隊長。でも私またみんなとあの黒い目ん玉をバーンってしたいのでみんなのところに行きます。ではしちゅれいします!」
イリスは元気よく黒い一つ目を攻撃している三人の仲間のところに走っていった。
「なんか不思議な娘ねイリスって」
「そうですね。でも、将来が楽しみじゃないんですかシャリーナさん」
「うふふ」
ニコリとするシャリーナ。
「さあ、これにあのへんてこりんを捕獲しましょう。はい」
シャリーナは功助に魔物ホイホイをほいっと手渡した。思わず受け取る功助。
「へ?俺がするんですか?」
「そうよ。あんな気持ち悪いもんにあたし近づきたくないもん。だからお願いねダーリン。うふっ」
なんだかなあと功助。
そして数分後。
「これでいいですかシャリーナさん」
透明な魔物ホイホイの中には光る目玉をギョロギョロさせ中から出ようとガンガン壁に当たっている魔物らしきものが閉じ込められている。
「オッケーよ。って近くで見るとほんっと気持ち悪いわねえこれ」
「あのシャリーナさん。この箱大丈夫なんですか?こいつ、中から出てきません?」
「だぁいじょうぶ。安心して。この箱はねあたしとラナーシアとで一緒に作ったのよ。あたしの風塊を百回ぶつけても壊れなかったしラナーシアの|火炎矢《ファイヤーアロー)を百発打ち込んでも大丈夫だったしさ」
「ま、まあ。それなら大丈夫か。で、あの裂け目どうしましょう?」
いまだに黒い一つ目を吐き出している空間の穴。
「やっぱり中にあれをぶちこみましょう。ということでダーリン、ダーリンのコースケ砲をぶち込んでみて」
「やっぱり、そうですか。まあそうですよね。それじゃやってみます」
「お願い。ダーリンからピューッって出たのを穴の中にグニューって入れてグチュグチュにしてやって!ぐふふ」
内股を擦り合わせて上目遣いのシャリーナ。
「……シャリーナさん。めっちゃ卑猥に聞こえますよ。わざと言ってるでしょう」
功助がシャリーナを見るとニタリと笑っていた。
「ふう。それじゃ行ってきます」
功助は黒い一つ目を駆逐している四人娘と緑の騎士団のところに向かった。
「みなさん、今からあの空間の裂け目に魔力砲を一発ぶち込むので少し俺の前を空けてください」
それを聞くと緑の騎士団は敬礼をし功助に道をあけた。
「もしかしてもしかして、コースケ隊長の撃つ魔力砲ってコースケ砲よね!」
うれしそうなモーザ。
「おそらくそうじゃろうな。この目でコースケ砲が拝めるとはなんと運がいいのじゃ!」
フランサも興奮を隠しきれないようだ。
「なんかドキドキしますわ。噂ではものすごい威力のようですわよ」
いつも冷静なメリアもそわそわしている。
「ね、ねえねえ、そのコースケ砲って何?」
「へ?」
イリスのその言葉に驚く三人。
「へ?私変なこといった?」
「あんたねえ…。コースケ砲も知らないの?ほんと情報不足ねえあんたって」
と溜息をつくモーザ。
「まあまあモーザよ、そこまで言わんでもいいではないか。知らないことは誰にでもあるのじゃから。なあ」
「えっ、う、うん。酷いこと言ってごめんイリス」
「ううん。気にしてないよ。で、コースケ砲って何?」
と三人を見て首を傾げる。
「いいですかイリスさん。コースケ砲とはですね、あの神殺しと呼ばれるフェンリルを、そして魔族の一人であるダンニンをも倒したコースケ隊長最強の魔力砲なのですわ。空気を切り裂きまるで神の息吹のように白く輝くその魔力砲に逆らえるものなどありはしません」
メリアは胸の前で手を組むと功助を見つめた。
「へえ。そうなんだあ。すっごおい。それを今からみらりぇりゅんだね私たち!」
メリアの説明を聞いてわくわくするイリス。
「あっ、コースケ隊長が右手を突き出して構えたわ!」
興奮する魔法師見習いの四人。
功助は空間の裂け目から約十メートルほど離れた位置に立つとその右手を握り真っ直ぐに裂け目の穴に向け腕を突き出した。
功助は突き出した拳に意識を集中させる。体内の魔力が徐々に突き出した拳に集まってくるのを認識するとその拳がだんだんと光を放ってきている。白い光に包まれる功助の拳。
「よし、いいだろう」
功助はもう一度伸ばした腕の先にあるポッカリとあいた空間の穴を見ると光る自分の拳に意識を向けた。
「行くぞっ!コースケ砲発射!!」
瞬く間に膨張し爆発的な威力の光の束は功助の狙いどおり裂け目に向かい一直線に射出された。
空気を裂き紫電を纏ったその光の束は出てこようとしていた黒い目玉とともに空間の裂け目に吸い込まれるように入っていった。
グゴゴゴゴォォォ!
中からは何かがいくつも爆発する音が聞こえ裂け目からは黒く淀んだ煙が出てきた。するとその空間の裂け目は徐々にその大きさが小さくしぼんでいった。そして最後に細い一本の煙を立のボラスと何もなかったように消えたのだった。
「よし。終わった」
構えを解き後ろを見ると全員うれしそうに功助を見ていた。
「あはは。やっぱりイリスだわ。緊張したけど最後の’いくじょ’でなんか冷静になった。よしっ!行くわよ。くらいなさい水属性を持つ私の攻撃魔法!」
モーザは水属性を持っている。見習いの中にも水属性を持つ者はいるがモーザは特に水と相性がいい。
モーザがその右腕を頭上に掲げると周囲から水の魔力がその手の先に集まってきた。それはだんだんと密度が濃くなりやがて薄緑に輝いてきたのだった。
そしてその右腕を黒い一つ目の光る目に向け叫ぶ。
「水槍!」
モーザの右腕から水でできた槍が唸りながら高速で宙を飛んでいく。そしてさっきのイリスと同じように黒い目玉の中心に飛んでいき突き刺さる。
バシューッ!
「黒い一つ目は内部から破裂するように爆散した。
よしっと!」
「やりおるのモーザ。我も負けてはおらぬぞ!火属性の魔法くらうのじゃ!」
フランサはラナーシアと同じ火の属性を持っている。まだまだラナーシアの足下にも及ばないが見習いの中では上位にいる。
そのフランサが右手を前に突き出し半身となった。すると赤い火の魔力が徐々にその手に集まってきた。赤く輝く指を黒い一つ目に向け叫ぶ。
「|火炎矢《ファイヤーアロー)!」
右手の指からその指と同じ太さの炎の矢が五本射出された。空気を焦がしその矢はまっすぐ飛んで行き黒い一つ目に命中。黒い一つ目は木端微塵に爆散した。
「わたくしもみなさんに負けていられませんわ!自慢の土属性魔法をお見舞いいたします!」
メリアは見習いの中でも珍しい土属性を持っていた。小さな頃から土に親しんだメリアは土精霊ノームに愛されたのだと魔法師隊隊長シャリーナの御墨付をもらっていた。
「(ノーム、お願いいたします。わたくしに力をお貸しください)」
一瞬目を閉じノームに祈る。そしてカッと目を見開くと叫んだ。
(|岩槍(ロックランス)!」
メリアが黒い一つ目に向かって両手を突き出すとメリアの足下の地面から土でできた槍が射出された。それは一瞬のうちに強固な岩の槍と変じ高速で光る目玉にぶち当たった。
「すっごーいみんな。私も。っとその前に。フランサ」
「なんなのじゃイリス?」
「空に向かってシャリーナ隊長に救援の魔法球を打ち上げてくれにゃい?あれがなんなのか隊長たちに診てもらいてえから」
「わ、わかったのじゃ」
フランサは掌の上に炎球を作り出すとそれを空高く投げ上げた。数十メートル上がったところでそれは花火のようにドーンと音をさせると光を放った。
「ありがとフランシャ!」
「我の名はフランサじゃぞイリス。ふふふ」
「あっ、ごめんフランサ。それじゃみんな!続き行こう!」
「オーッ!」
さっきまでガタガタ震えていたのが嘘のように四人は裂け目から出て来る黒い一つ目に次々と自慢の魔法を叩きこむ。黒い目玉も魔力の束を射出してくるが四人はそれを華麗に回避。自慢の魔法で次々と爆散させていった。
「うーっ、なんかキリがないわね。どうしたもんかな?ねえイリス」
「そうねえ。たぶんあの穴をふさいだらいいと思うんだけど…。どうやればいいんだろ?」
イリスとモーザがいまだにわらわらと出て来る黒い一つ目を見る。
「おぉっ、隊長がきたようじゃぞ」
その時フランサが城の方からやってくる一団を確認した。
「あっ、あれはコースケ隊長とシャリーナ隊長。それに緑の騎士団ですわ!」
メリアから安堵の言葉が出た。
「やった!これで大丈夫よ。よかったわねイリス」
「うんモーザ。これで安心だにゃ」
イリスも笑みをこぼした。
「あんたたち!何があったの!って何あれ?魔物みたいね」
息を切らしおまけにユッサユッサと胸を揺らしてシャリーナが走ってきて四人に声をかける。
「大丈夫か!…ってあれなんだ?」
功助も四人の見習いの後ろまでくると林の方を見て驚いている。
「わかりましぇん!でもやっつけないとと思ってやっちゅけてます!」
イリスが噛みながら功助とシャリーナに状況を説明する。
「そう。それで四人で頑張ってやっつけてるのね。……ってイリス!あんた、その目!」
シャリーナがイリスの目を見て驚く。
「と、その前に緑の騎士団!」
「はっ!」
「わらわらと出て来るあの魔物を彼女たちと一緒に駆除してちょうだい」
「はっ!緑の騎士団かかれ!」
緑の騎士団は見習い魔法師たちとともに次から次と出て来る不気味な魔物に攻撃を開始した。
「で、イリス。あんたのその目、どうしたの?」
「わ、わかりません。さっきこうなっちゃって。でも、自分でわからないけど……。体調、本当に私の目、銀色になってるんでしゅか?」
「え、ええ。…あっ、そうかそうか。思い出したわ。私もむか~しのことですっかり忘れてたけど、ふーん。そうかそうか」
「わかったんでしゅかシャリーナ隊長!」
とイリスがシャリーナの目の前にニュウッと顔を突き出す。
「うおっ!びっくりした。まあ待ってちょうだい。あとでゆっくり説明してあげるから。その前にあのへんてこりんなのをどうにかしないと。それで、状況は?」
とシャリーナ。
「はい」
イリスたちが攻撃を続けながら準を追って説明した。
「空間の裂け目からか……。フェンリルを思い出すな。それであの不気味な奴はどれくらい出てきている?」
と功助。
「はい。数は最早わかりませんがだいたい3秒に一体の割合で出現してきていますわ」
「そんなに出てきてるのかあいつら。シャリーナさん」
「うん。どうにかしないとね。でも、あんなへんてこな魔物、あたしも見たことないし、一匹でもいいから捕えたいからあれを持ってきてもらおう。イリス!」
はいっ!?」
イリスが|風刃(ウインドカッター)で黒い一つ目の目玉をズタズタに切り刻んだ時シャリーナが声をかけた。
「うん。なかなかいい風刃だったわよイリス。それでねあんたに頼みたいことがあるんだけど」
「わ、私にでしゅか?」
「ええそう。あんた風を纏わせて飛べる?」
「へ?私が?へ?」
「だーかーらっ、フライよフライ」
「フライ?私エビが好きです。玉ねぎも甘くておいしいです」
と頬が緩むイリス。
「そうねえ、あたしは牡蠣が好きよ…って、違ーう!浮遊よ浮遊魔法!空飛べるかって聞いてるの!」
「ふぇっ…?……空を…?私が…?でででででできましぇん。そんなおとぎ話のようなこと…。飛ぶだなんて。飛べたらかっこいいなとは思いますし飛べたら雲まで行って食べてみたいなとは思いますけど…」
両手をブンブン首もブンブンと振るイリス。
「ふふふ。そう思うのはちょっと早いわよ。あんたようやく覚醒したの。飛べるわよイリス」
「覚醒…??なんでしゅかそれ?」
「まあまあいいからいいから。だからあなた飛べるようになってるのよ」
「ふえっ?わわわわ私がでしゅか!」
「そう。なぜできるようになったのか詳しくはちゃんとあとで教えてあげるから。あたしの言うとおりにしてごらんなさいな。きっと飛べるわよ。飛べたら気持ちいいのよぉ~。もうあんなとこがキュンってなってズキュンとなって、うふふふでそんでもって昇天しそうになるのよぉ~」
語尾にハートマークが付きそうにシャリーナは腰を揺らす。
「ちょっとシャリーナさん。ラナーシア副隊長がいたらまたスリッパでしばかれますよ」
苦笑する功助。
「おっと、それは願い下げね。こほん。だからあたしの言う通りやってみて」
とウインクをするシャリーナ。
「ふ、ふぁい!やってみます!私やってみます!だから、ご指導おにぇがいします!」
鎖骨の前でグーを作るイリス。
「オッケー!それじゃいくわよ。まず身体の周りに風を纏って。そう、ちゃんと渦を作って。そうそう、いい感じよ。で、次にその渦を下の方に持って行って。そうそう。いい感じじゃないイリス。そうしたらほんの少しジャンプしてみて。そしたら足の裏に風が入ってくるから一気に風の力を強めて!」
シャリーナの指導のもと、イリスは風を纏う。そして言われた通りに風を操るとイリスの身体はふわっと宙に浮いた。
「うわっ!たたたた隊長隊長!サリーナ隊長!わたわたわた私、うううう浮いてるぅぅぅ!」
「だからできるっていったでしょ。おまけにスカートめくれて花柄パンツが丸見えだけどね」
「きゃっ!」
あわててスカートを押さえるイリス。
「ふふふ。いろいろといい感じで浮いてるわよ。それとあたしの名前はシャリーナだからね」
「すすすすみましぇん。ああああの、それで、このあと私どうすれば?」
「あっ、そうそう。ちょっと用事頼まれてくれない?魔法師隊控室まで行ってちょうだい。今の控室にはラナーシアがいるから捕獲容器をもらってきて。四角い透明な箱。えーと、魔物ホイホイって言ったらラナーシアが出してきてくれるから。急いで!」
「ふぁ、ふぁい!わかりまちた!魔物ホイホイですねっ。それじゃイリス行きます!」
イリスが風に魔力を注いだ。そして勢いよく前に進むと…。
ボテッ!
「あ痛っ!」
飛ばずにただ前に倒れた。
「なあにやってんのあんた。もっとゆっくりと魔力を注ぎなさい!」
「は、はいぃ!しゅみません」
血のにじんだ額を摩りながら再びイリスは風を纏い空に浮かんだ。
「行ってきます!」
イリスは魔法師隊の控室に向かい飛び立った。
「うわあ、イリスかっこいい!」
「我も飛びたいもんじゃのう」
「わたくしも飛んでみたいですわ。ほんとうらやましいですわ」
三人の見習い魔法師はイリスに羨望のまなざしを送っていた。
「へえ。イリスにあんなことができたとは」
と感心する功助。
「うふふ。やろうと思ったらたぶんダーリンにもできるわよ。教えてあげよっか?」
「ほんとですか?うーん、いいかも」
「うふふ。手を取り足を取、ムフフをイヒヒしてグフフなことも。デヘヘヘ」
「……あの…シャリーナさん、妄想が暴走してますよ」
「おっ、うまいこというわねダーリン」
功助の腕にしがみつくシャリーナ。なんだかなあと功助。
「と、ところでシャリーナさん。あれってなんなんでしょうね。どう見ても目玉ですよね」
「そうよね。瞳はほんのり光ってるしけどあとは真っ黒。見た目は気持ち悪いけど戦闘力はほとんどないみたいだし」
「はい。本体もあまり頑丈じゃないみたいだし」
加勢しようかと思う二人だが、今またモーザの水矢が黒い一つ目を爆散させた。
「あの娘たちと緑の騎士団で殲滅できるでしょうけど…。でもあの数がねえ。どんどん出て来るわねあれ」
「はい。あの空間の裂け目…、あの中に攻撃したらどうなるんでしょう?」
「そうよねえ。あたしもそれ考えてた…。それで裂け目が閉じてくれればいいんだけど…」
見習い魔法師の三人と緑の騎士団の攻撃を見ながら話し合いをする功助とシャリーナ。そうしている間にも裂けめからはどんどんと黒い一つ目は出てきている。その時、誰も気付かないほんの一瞬。大きな黒い一つ目の後ろにゴルフボールほどの小さな黒い一つ目が一緒に出てきていたのを気付いた者は誰もいなかった。そしてそれは素早くコロコロと転がるとその場から離れた木の影に潜んだのだった。
「持ってきましたぁ~!」
功助とシャリーナが声の方を向くと透明な箱を持って駆け足で戻ってくるイリスの姿があった。
そう、イリスは足を前後させて走って戻って来た。だがちゃんと浮遊魔法を使っているのは確かだ。なんとイリスは地上一メートルほどのところをその足を前後に動かして空中を走るように戻って来たのだった。
「「ヘ?」」
功助もシャリーナも空中を走るイリスを見てあっけにとられている。それはそうだ。さっきはまるで地球を助けに来た銀色の巨大ヒーローのように、まるで青いコスチュームで赤いマントをひるがえす異星人のように両手を前に出してそれこそ飛んで行ったのが、今は空中を走って戻ってきたのだから。
「ただいま戻りましたっ!隊長、これですよね魔物ホイホイ!」
イリスは地上に降りるとシャリーナの目の前に魔物ホイホイを差し出しニコニコとしている。
「え、ええ。これよ…、ありがとう…。……ねえ、イリス…。なんで宙を走ってたの?」
「ふぇ?あっ、はい。こっちの方が速く移動できたんでしゅ!さっきビューンって手を前にして飛んだんですけど、あまり早く飛べなくて。それで途中から走った方が速いかもって思って空中を走ったらこれがもう早い早い。で、宙を走ってきまちた!」
とドヤ顔のイリス。
「ま、まあ、手段はどうであれ早く持って来てくれて感謝するわ。あはは。ありがとうイリス」
「いえいえ!いつでも行ってくだしゃい!」
とガッツポーズをするイリス。
「イリス。ご苦労さん。ちょっと休んでていいよ」
「へ?あ、ありがとうございますコーシュケ隊長。でも私またみんなとあの黒い目ん玉をバーンってしたいのでみんなのところに行きます。ではしちゅれいします!」
イリスは元気よく黒い一つ目を攻撃している三人の仲間のところに走っていった。
「なんか不思議な娘ねイリスって」
「そうですね。でも、将来が楽しみじゃないんですかシャリーナさん」
「うふふ」
ニコリとするシャリーナ。
「さあ、これにあのへんてこりんを捕獲しましょう。はい」
シャリーナは功助に魔物ホイホイをほいっと手渡した。思わず受け取る功助。
「へ?俺がするんですか?」
「そうよ。あんな気持ち悪いもんにあたし近づきたくないもん。だからお願いねダーリン。うふっ」
なんだかなあと功助。
そして数分後。
「これでいいですかシャリーナさん」
透明な魔物ホイホイの中には光る目玉をギョロギョロさせ中から出ようとガンガン壁に当たっている魔物らしきものが閉じ込められている。
「オッケーよ。って近くで見るとほんっと気持ち悪いわねえこれ」
「あのシャリーナさん。この箱大丈夫なんですか?こいつ、中から出てきません?」
「だぁいじょうぶ。安心して。この箱はねあたしとラナーシアとで一緒に作ったのよ。あたしの風塊を百回ぶつけても壊れなかったしラナーシアの|火炎矢《ファイヤーアロー)を百発打ち込んでも大丈夫だったしさ」
「ま、まあ。それなら大丈夫か。で、あの裂け目どうしましょう?」
いまだに黒い一つ目を吐き出している空間の穴。
「やっぱり中にあれをぶちこみましょう。ということでダーリン、ダーリンのコースケ砲をぶち込んでみて」
「やっぱり、そうですか。まあそうですよね。それじゃやってみます」
「お願い。ダーリンからピューッって出たのを穴の中にグニューって入れてグチュグチュにしてやって!ぐふふ」
内股を擦り合わせて上目遣いのシャリーナ。
「……シャリーナさん。めっちゃ卑猥に聞こえますよ。わざと言ってるでしょう」
功助がシャリーナを見るとニタリと笑っていた。
「ふう。それじゃ行ってきます」
功助は黒い一つ目を駆逐している四人娘と緑の騎士団のところに向かった。
「みなさん、今からあの空間の裂け目に魔力砲を一発ぶち込むので少し俺の前を空けてください」
それを聞くと緑の騎士団は敬礼をし功助に道をあけた。
「もしかしてもしかして、コースケ隊長の撃つ魔力砲ってコースケ砲よね!」
うれしそうなモーザ。
「おそらくそうじゃろうな。この目でコースケ砲が拝めるとはなんと運がいいのじゃ!」
フランサも興奮を隠しきれないようだ。
「なんかドキドキしますわ。噂ではものすごい威力のようですわよ」
いつも冷静なメリアもそわそわしている。
「ね、ねえねえ、そのコースケ砲って何?」
「へ?」
イリスのその言葉に驚く三人。
「へ?私変なこといった?」
「あんたねえ…。コースケ砲も知らないの?ほんと情報不足ねえあんたって」
と溜息をつくモーザ。
「まあまあモーザよ、そこまで言わんでもいいではないか。知らないことは誰にでもあるのじゃから。なあ」
「えっ、う、うん。酷いこと言ってごめんイリス」
「ううん。気にしてないよ。で、コースケ砲って何?」
と三人を見て首を傾げる。
「いいですかイリスさん。コースケ砲とはですね、あの神殺しと呼ばれるフェンリルを、そして魔族の一人であるダンニンをも倒したコースケ隊長最強の魔力砲なのですわ。空気を切り裂きまるで神の息吹のように白く輝くその魔力砲に逆らえるものなどありはしません」
メリアは胸の前で手を組むと功助を見つめた。
「へえ。そうなんだあ。すっごおい。それを今からみらりぇりゅんだね私たち!」
メリアの説明を聞いてわくわくするイリス。
「あっ、コースケ隊長が右手を突き出して構えたわ!」
興奮する魔法師見習いの四人。
功助は空間の裂け目から約十メートルほど離れた位置に立つとその右手を握り真っ直ぐに裂け目の穴に向け腕を突き出した。
功助は突き出した拳に意識を集中させる。体内の魔力が徐々に突き出した拳に集まってくるのを認識するとその拳がだんだんと光を放ってきている。白い光に包まれる功助の拳。
「よし、いいだろう」
功助はもう一度伸ばした腕の先にあるポッカリとあいた空間の穴を見ると光る自分の拳に意識を向けた。
「行くぞっ!コースケ砲発射!!」
瞬く間に膨張し爆発的な威力の光の束は功助の狙いどおり裂け目に向かい一直線に射出された。
空気を裂き紫電を纏ったその光の束は出てこようとしていた黒い目玉とともに空間の裂け目に吸い込まれるように入っていった。
グゴゴゴゴォォォ!
中からは何かがいくつも爆発する音が聞こえ裂け目からは黒く淀んだ煙が出てきた。するとその空間の裂け目は徐々にその大きさが小さくしぼんでいった。そして最後に細い一本の煙を立のボラスと何もなかったように消えたのだった。
「よし。終わった」
構えを解き後ろを見ると全員うれしそうに功助を見ていた。
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