28 / 74
第3章 婚姻承諾の儀
02 気持ち
しおりを挟む
功助とミュゼリアやトリシアたち三人を含め青の騎士の面々は今城下にある緑の騎士の詰所の休憩室にいる。
あれからここ城下の詰所に移動し一応の事情聴取を受けたのだ。
コンコン
ドアをノックし入ってきたのはベルクリットだった。
「待たせたな。もう帰っていいそうだ」
「そうか。では帰るとしようか」
とハンス。
「少しお待ちください兄上」
とミュゼリア。
「なんだミュゼリア」
「ちょっとお聞きしたいことがあるのですが」
と不機嫌そうな声のミュゼリア。
「な、なんだ?」
「今日のあの中央公園での出来事なのですが、落ち着いて考えてみればなんとも奇妙なのです」
「な、何が奇妙だと言うのかなミュゼリア」
ハンスはミュゼリアの鋭い指摘にドキッとしたようだ。
「いろいろとです。まず、兄上とベルクリット様はなぜあの公園に来られたのですか?それとテトくんを助けてくれたのは青の騎士団の方々ですよね。それも民が着るような服を着て。なんか変じゃありませんか兄上」
「うっ…」
と半歩後退るハンス。
「そうだぞハンス。俺も聞きたいんだがなぜ俺をあの公園に誘った?」
「あ、い、いや、その…」
とますますうろたえるハンス。
「それとコースケ様」
「はっ、はい!」
腰かけてる功助のそばに数歩で近づいて来るとミュゼリアはその薄紫の瞳で探るように功助の目をじっと見つめた。
「私をなぜあの公園に誘われたのですか?コースケ様のご用だとお聞きしていたのですが、どういう御用だったのでしょうか。差し支えなければお教え願えませんでしょうか」
とミュゼリアに見つめられ功助はおろおろしてしまう。
「ふむ」
ミュゼリアに見つめられている功助と目が泳いでるハンスを見て顎に手をやるベルクリット。
「どうやらなにかその二人で企んでいたようだな」
ベルクリットの目がギョロッと功助とハンスを順番に見る。
このやり取りを見ていたトリシアとリンリンは座ったまま俯いていたがその時テトがトリシアの服の裾を引っ張った。
「ねえねえ母さん。母さんもなんであの公園に行ったらお姉ちゃんがいるって知ってたの?」
それを聞いたベルクリット。
「ほお、ハンスとコースケだけではなかったようだな。で、そこの二人にも聞かないといけないようだが」
それを聞いたトリシアとリンリンは同時に功助とハンスを見ておろおろ。
「さあ白状してくださいコースケ様、兄上」
と腰に両手を当てるミュゼリア。なんとも迫力がある。
「い、いや、あ、あのな…」
「え、えーと、あのですね…」
しどろもどろのハンスと功助。
「コースケ」
「ハンスさん」
二人は互いに頷くと並んで立っているベルクリットとミュゼリアを真っ直ぐに見つめた。そしてハンスが話だした。
「ふう。仕方ないな。なあ、ベルク」
「なんだハンス」
「お前さ、昨日コースケに何か頼み事しただろ?」
「えっ、あ、い、う、な、な何かなハンスくん。ななななんの話をしてるのきゃな」
ベルクリットは顔を赤くして少し挙動不審。
「すみませんベルクリットさん。俺一人の力ではなんともできなさそうだったのでハンスさんに相談したんです。すみません」
と頭を下げる功助。
「ななな何を言っているのきゃなキョースケ君は。ははは、い、いやあ、ははは」
ますます挙動不審なベルクリット。ポケットからハンカチを取り出して流れ出る汗を拭きとる。
ミュゼリアはそれを見て首を傾げている。
「なにかあったのですかベルクリット様。コースケ様、ベルクリット様から何をお頼みされたのですか?」
と頭の上に疑問符を浮かべたミュゼリアが功助に尋ねた。
「そそそそそんなことはいいいいじゃないかミュゼリア。な、ももももういいからそろそろ城に帰らないきゃっ!」
ベルクリットはミュゼリアの顔をまともに見ずにドアに向かいノブに手をかけようとしている。
「ちょっと待てベルク!」
「な、なんだ!?」
ノブに手を伸ばしたまま固まるベルクリット。
「いいのかそれで!」
「なな何を言っているのかなハンスくんっ!」
「だから、それでいいのかと聞いている。このままでいいのかと聞いてるんだベルク!」
ハンスは睨むようにベルクリットを見る。
その目に威圧されたように身動き一つできないベルクリット。
「……」
数秒そのまま見つめあっていた二人。
「もうわかってるだろ?俺たちが仕組んだことの意味を。なあベルク、いつまでも放ってていいのか?ずっとこのままでいいのか、待たせていいのか?」
といまだ睨むようにベルクリットを見るハンス。
「そろそろ俺にも楽をさせてくれないか。両親もすでに他界し二人きりの兄妹なんだ。お前の言葉を待ってるんだぞこいつは。このままだとやはり不憫だぞ、そう思わないか?」
さっきとは違い少し寂しげにベルクリットを見る。
「…ハンス…」
ベルクリットもさっきとは違い挙動不審なところは微塵もない。
そしてミュゼリアの方に身体を向ける。
ミュゼリアはベルクリットのただならぬ雰囲気を身体に感じたのだろう。胸の前で手を組み心細そうにたった一人の兄、そして功助の方を見てから自分を見つめているベルクリットを見た。
すると、ベルクリットは一歩一歩ゆっくりとゆっくりとミュゼリアに近づく。
そしてミュゼリアの目の前に立つとしっかりと薄紫の瞳を見つめた。
ミュゼリアは何が何やらわからない様子だ。その目は目の前に立ったベルクリットの真紅の瞳を見つめているがその薄紫の瞳はベルクリットに何を言われるのかと不安そうにしている。
「ミュゼリア」
「は…、はい…」
互いの目を見つめる二人。
「…あ、あの…」
ミュゼリアが何か言おうとしたがそれをベルクリットは制する。
「ミュゼリア」
胸の前で組んでいたミュゼリアの手をその大きな手で包み込んだ。
「…えっ……!?」
ミュゼリアは驚き、大きな手で包まれた自分の手と、ベルクリットの顔を順番に見る。
「 ミュゼリア。ごたごたと細かいことは言わん。はっきりと言わせてもらう」
「…は、は…い…」
小さく頷くミュゼリア。
「俺は…、俺はお前のことが…」
「…はい…」
一度目を瞑り深呼吸を一つ。そして目を開きミュゼリアの薄紫の瞳を見てはっきりとこう言った。
「俺はお前のことが好きだ。俺と夫婦になってくれ」
「…え……」
薄紫の目を見開いて驚くミュゼリア。
突然のことで思考がついてこないのだろう。その小さな唇は微かに震えている。
「ミュゼリア、俺の嫁さんになってくれないか?!」
微笑むベルクリット。
「…ベ、ベルクリット様…」
少し垂れ目気味のその大きな目がだんだんと潤んでいく。
「私も…、私もベルクリット様をお慕い申し上げておりました」
ミュゼリアも微かに微笑みを返す。
「ミュゼリア。では…」
「はい。不束者ですがよろしくお願いいたします」
潤んだ瞳から、ついに涙がその大きな垂れ目気味の目からこぼれ落ちた。頬を伝う大粒の涙。
「ミュゼリア」
「ベルクリット様」
ベルクリットの大きな胸の中に飛び込んで行くミュゼリア。その華奢な身体をその力強い腕で優しく抱きしめるベルクリット。
とても感動的なシーンだったが…。
ギシッ ギシギシッ
何やら妙な音がドアの方から聞こえたかと思うと、
メリメリッ バキッ
いきなりドアが倒れてきた。
「キャッ!」
「うおっ!」
ドア付近にいたベルクリットとミュゼリアだったがさすがはベルクリット。とっさにミュゼリアをお姫様抱っこするとドアとは反対の壁に一瞬で飛びのいた。
「うわっ」「いでででで」「お、押すなつったろがっ」「だ、だまれ、うげっ」
廊下から次々にむさくるしい男たちが室内に倒れこんできた。
「お、重いっ、ど、どけっ」「や、やかましい、俺も動けん」「ぐるじい、吐くぅ」
なだれ込んできたのは一般の人が着るような服を来た青の騎士団の面々だった。
「お前ら!何をしとるかあ!」
鬼の形相のベルクリットが乱入してきた男たちを一喝する。
「わわわわ!」「すすすすすみません!」
「男たちは一瞬のうちに立ち上がるとペコペコと頭を下げた。
「何をしとるかと聞いている!」
「ひゃ、は、はいっ!」
「あ、あの…」
「そ、それが…」
「だ、だから…」
としどろもどろのむさくるしい男たち。
ギロッ!
ベルクリットが睨むと一人の男が恐々声を出した。
「だ、団長。おめでとうございます!」
と少しニヤニヤ。すると他の男たちも、
「団長おめでとございます!」「よかったっすね団長」「ミュゼリアさん団長をよろしくっす」「これで少しは優しくなってくれたらいいんっすけどね団長」「やりましたね団長」「城に帰ったら宴会っすね」「早く二人の子供が見たいっす、がんばってくださいミュゼリアさん」
と口々に祝いの言葉が飛んできた。
「お、お前ら…」
とほんの少し顔を赤らめるベルクリット。ミュゼリアの顔はもうトマトみたいに真っ赤だ。
「ははははは!」
大笑いをするハンス。
功助も笑う。トリシアもリンリンも。なんとテトもニコニコしている。
「コホン。ま、まあ、そ、そういうことだ。だが、お前ら盗み見てたな。帰城したら覚えてろよ」
と青の騎士団団員を睨むベルクリット。
「ひぇぇぇぇぇぇっ!」
騎士団団員たちの悲壮な絶叫が響いた。
「ちっ!」
ベルクリットは舌を鳴らすと抱き上げていたミュゼリアを降ろし頭を下げた。
「ミュゼリアすまない。団員たちが失礼なことをした」
「あ、いえ。大丈夫ですベルクリット様。それに皆様も祝福してくださっているようなので」
まだ真っ赤な顔で両手をパタパタしている。が、深呼吸を一つすると団員達に向かい、
「あの…、皆様、ご祝福ありがとうございます」
と直立してうなだれている団員たちにペコッと頭を下げる。
「あ、いえ。お幸せにミュゼリアさん」
「よかったっすねミュゼリアさん。これで副団長も肩の荷が降りたってもんですよ」
「団長に何か言われたら俺たちに相談してください。俺たちはミュゼリアさんの味方ですぜ」
「そうだそうだ」
「ミュゼリアさんにひどいことしたら俺たちが全員でボコボコにしてやるっす」
みんなワイワイ言っている。ミュゼリアは笑いながら礼を言っている。
「貴様ら、いい加減にしろっ!早く帰城の準備してこいっ!」
ベルクリットは真っ赤な顔で怒鳴った。
「は、はっ!了解」
と青の騎士団たちはドタドタと部屋を出て行った。
「ほんと、くそっ。あいつら覚えてろよ」
ぶつぶつとベルクリットは言っていたが目は笑っていた。
「よかったなミュゼリア。おめでとう」
ハンスはニコニコ笑うミュゼリアに近づくと愛妹の水色の髪を優しく撫でた。
「兄上」
ミュゼリアはそんなハンスに、たった一人の兄に抱き付いた。
「おいおい。ベルクの前だぞ。しょうがないヤツだなお前は」
とハンスはミュゼの頭をポンポンと叩く。
「兄上。ありがとうございます」
「よかったなミュゼリア。ようやく気持ちが届いて」
「ほんと」
苦笑するミュゼリア。
「あとはあれをするだけだな。ベルクと話し合ってちゃんと決めるんだぞ」
「はい、兄上」
「その時は俺が父上と母上の代わりだ。ちゃんと見届けてやるからな」
「うん。ありがとうお兄ちゃん」
とまた涙が頬を流れた。
「コースケ様。ありがとうございました」
ハンスから離れると今度は功助の前に来て深々と頭を下げた。
「よかったなミュゼ。待ってた甲斐があったな」
「はい」
とまた頭を下げた。
「でもごめんなミュゼ。三文芝居なんかしてさ。ミュゼに危ないめに合わせてしまって」
「いえ。私は大丈夫です」
「そうか。それとごめんなテト。怖い思いさせてしまって。すみませんでしたトリシアさん」
功助はホッとした顔のトリシアとニコニコわらってるテトに近づくと頭を下げた。
「あ、いえ。お気になさらないでください。ミュゼリアさんと団長様がお幸せになっていただければ私たちもうれしいですので」
と両手をパタパタしている。
「僕も大丈夫だよ。お姉ちゃんの魔法見られてうれしかったし。ねえお姉ちゃん」
とミュゼリアを見て笑うテト。
「そうですねテトくん。また一緒に遊びましょうね」
と笑顔でテトの頭を撫でるミュゼリア。それに大きく頷くテト。
「ところでコースケ様」
「なんだ?」
ミュゼリアは功助の耳元に口を近づけると小さな声で尋ねてきた。
「昨日ベルクリット様はコースケ様に何と頼まれたのですか?」
「ん?それはな」
今度は功助がミュゼリアの耳に口を寄せた。
「『ミュゼリアに俺のことをどう思っているか聞いてくれないかっ』って頼まれたんだ」
「は…、はあ…」
ミュゼリアはそれを聞くとハンスにバシバシ叩かれているベルクリットを見た。
「人に頼まず自分で聞いてくださればいいのに」
とぼそっと呟いた。
「まあまあ。ああ見えてもシャイなんだよベルクリットさんは」
と功助は苦笑した。
あれからここ城下の詰所に移動し一応の事情聴取を受けたのだ。
コンコン
ドアをノックし入ってきたのはベルクリットだった。
「待たせたな。もう帰っていいそうだ」
「そうか。では帰るとしようか」
とハンス。
「少しお待ちください兄上」
とミュゼリア。
「なんだミュゼリア」
「ちょっとお聞きしたいことがあるのですが」
と不機嫌そうな声のミュゼリア。
「な、なんだ?」
「今日のあの中央公園での出来事なのですが、落ち着いて考えてみればなんとも奇妙なのです」
「な、何が奇妙だと言うのかなミュゼリア」
ハンスはミュゼリアの鋭い指摘にドキッとしたようだ。
「いろいろとです。まず、兄上とベルクリット様はなぜあの公園に来られたのですか?それとテトくんを助けてくれたのは青の騎士団の方々ですよね。それも民が着るような服を着て。なんか変じゃありませんか兄上」
「うっ…」
と半歩後退るハンス。
「そうだぞハンス。俺も聞きたいんだがなぜ俺をあの公園に誘った?」
「あ、い、いや、その…」
とますますうろたえるハンス。
「それとコースケ様」
「はっ、はい!」
腰かけてる功助のそばに数歩で近づいて来るとミュゼリアはその薄紫の瞳で探るように功助の目をじっと見つめた。
「私をなぜあの公園に誘われたのですか?コースケ様のご用だとお聞きしていたのですが、どういう御用だったのでしょうか。差し支えなければお教え願えませんでしょうか」
とミュゼリアに見つめられ功助はおろおろしてしまう。
「ふむ」
ミュゼリアに見つめられている功助と目が泳いでるハンスを見て顎に手をやるベルクリット。
「どうやらなにかその二人で企んでいたようだな」
ベルクリットの目がギョロッと功助とハンスを順番に見る。
このやり取りを見ていたトリシアとリンリンは座ったまま俯いていたがその時テトがトリシアの服の裾を引っ張った。
「ねえねえ母さん。母さんもなんであの公園に行ったらお姉ちゃんがいるって知ってたの?」
それを聞いたベルクリット。
「ほお、ハンスとコースケだけではなかったようだな。で、そこの二人にも聞かないといけないようだが」
それを聞いたトリシアとリンリンは同時に功助とハンスを見ておろおろ。
「さあ白状してくださいコースケ様、兄上」
と腰に両手を当てるミュゼリア。なんとも迫力がある。
「い、いや、あ、あのな…」
「え、えーと、あのですね…」
しどろもどろのハンスと功助。
「コースケ」
「ハンスさん」
二人は互いに頷くと並んで立っているベルクリットとミュゼリアを真っ直ぐに見つめた。そしてハンスが話だした。
「ふう。仕方ないな。なあ、ベルク」
「なんだハンス」
「お前さ、昨日コースケに何か頼み事しただろ?」
「えっ、あ、い、う、な、な何かなハンスくん。ななななんの話をしてるのきゃな」
ベルクリットは顔を赤くして少し挙動不審。
「すみませんベルクリットさん。俺一人の力ではなんともできなさそうだったのでハンスさんに相談したんです。すみません」
と頭を下げる功助。
「ななな何を言っているのきゃなキョースケ君は。ははは、い、いやあ、ははは」
ますます挙動不審なベルクリット。ポケットからハンカチを取り出して流れ出る汗を拭きとる。
ミュゼリアはそれを見て首を傾げている。
「なにかあったのですかベルクリット様。コースケ様、ベルクリット様から何をお頼みされたのですか?」
と頭の上に疑問符を浮かべたミュゼリアが功助に尋ねた。
「そそそそそんなことはいいいいじゃないかミュゼリア。な、ももももういいからそろそろ城に帰らないきゃっ!」
ベルクリットはミュゼリアの顔をまともに見ずにドアに向かいノブに手をかけようとしている。
「ちょっと待てベルク!」
「な、なんだ!?」
ノブに手を伸ばしたまま固まるベルクリット。
「いいのかそれで!」
「なな何を言っているのかなハンスくんっ!」
「だから、それでいいのかと聞いている。このままでいいのかと聞いてるんだベルク!」
ハンスは睨むようにベルクリットを見る。
その目に威圧されたように身動き一つできないベルクリット。
「……」
数秒そのまま見つめあっていた二人。
「もうわかってるだろ?俺たちが仕組んだことの意味を。なあベルク、いつまでも放ってていいのか?ずっとこのままでいいのか、待たせていいのか?」
といまだ睨むようにベルクリットを見るハンス。
「そろそろ俺にも楽をさせてくれないか。両親もすでに他界し二人きりの兄妹なんだ。お前の言葉を待ってるんだぞこいつは。このままだとやはり不憫だぞ、そう思わないか?」
さっきとは違い少し寂しげにベルクリットを見る。
「…ハンス…」
ベルクリットもさっきとは違い挙動不審なところは微塵もない。
そしてミュゼリアの方に身体を向ける。
ミュゼリアはベルクリットのただならぬ雰囲気を身体に感じたのだろう。胸の前で手を組み心細そうにたった一人の兄、そして功助の方を見てから自分を見つめているベルクリットを見た。
すると、ベルクリットは一歩一歩ゆっくりとゆっくりとミュゼリアに近づく。
そしてミュゼリアの目の前に立つとしっかりと薄紫の瞳を見つめた。
ミュゼリアは何が何やらわからない様子だ。その目は目の前に立ったベルクリットの真紅の瞳を見つめているがその薄紫の瞳はベルクリットに何を言われるのかと不安そうにしている。
「ミュゼリア」
「は…、はい…」
互いの目を見つめる二人。
「…あ、あの…」
ミュゼリアが何か言おうとしたがそれをベルクリットは制する。
「ミュゼリア」
胸の前で組んでいたミュゼリアの手をその大きな手で包み込んだ。
「…えっ……!?」
ミュゼリアは驚き、大きな手で包まれた自分の手と、ベルクリットの顔を順番に見る。
「 ミュゼリア。ごたごたと細かいことは言わん。はっきりと言わせてもらう」
「…は、は…い…」
小さく頷くミュゼリア。
「俺は…、俺はお前のことが…」
「…はい…」
一度目を瞑り深呼吸を一つ。そして目を開きミュゼリアの薄紫の瞳を見てはっきりとこう言った。
「俺はお前のことが好きだ。俺と夫婦になってくれ」
「…え……」
薄紫の目を見開いて驚くミュゼリア。
突然のことで思考がついてこないのだろう。その小さな唇は微かに震えている。
「ミュゼリア、俺の嫁さんになってくれないか?!」
微笑むベルクリット。
「…ベ、ベルクリット様…」
少し垂れ目気味のその大きな目がだんだんと潤んでいく。
「私も…、私もベルクリット様をお慕い申し上げておりました」
ミュゼリアも微かに微笑みを返す。
「ミュゼリア。では…」
「はい。不束者ですがよろしくお願いいたします」
潤んだ瞳から、ついに涙がその大きな垂れ目気味の目からこぼれ落ちた。頬を伝う大粒の涙。
「ミュゼリア」
「ベルクリット様」
ベルクリットの大きな胸の中に飛び込んで行くミュゼリア。その華奢な身体をその力強い腕で優しく抱きしめるベルクリット。
とても感動的なシーンだったが…。
ギシッ ギシギシッ
何やら妙な音がドアの方から聞こえたかと思うと、
メリメリッ バキッ
いきなりドアが倒れてきた。
「キャッ!」
「うおっ!」
ドア付近にいたベルクリットとミュゼリアだったがさすがはベルクリット。とっさにミュゼリアをお姫様抱っこするとドアとは反対の壁に一瞬で飛びのいた。
「うわっ」「いでででで」「お、押すなつったろがっ」「だ、だまれ、うげっ」
廊下から次々にむさくるしい男たちが室内に倒れこんできた。
「お、重いっ、ど、どけっ」「や、やかましい、俺も動けん」「ぐるじい、吐くぅ」
なだれ込んできたのは一般の人が着るような服を来た青の騎士団の面々だった。
「お前ら!何をしとるかあ!」
鬼の形相のベルクリットが乱入してきた男たちを一喝する。
「わわわわ!」「すすすすすみません!」
「男たちは一瞬のうちに立ち上がるとペコペコと頭を下げた。
「何をしとるかと聞いている!」
「ひゃ、は、はいっ!」
「あ、あの…」
「そ、それが…」
「だ、だから…」
としどろもどろのむさくるしい男たち。
ギロッ!
ベルクリットが睨むと一人の男が恐々声を出した。
「だ、団長。おめでとうございます!」
と少しニヤニヤ。すると他の男たちも、
「団長おめでとございます!」「よかったっすね団長」「ミュゼリアさん団長をよろしくっす」「これで少しは優しくなってくれたらいいんっすけどね団長」「やりましたね団長」「城に帰ったら宴会っすね」「早く二人の子供が見たいっす、がんばってくださいミュゼリアさん」
と口々に祝いの言葉が飛んできた。
「お、お前ら…」
とほんの少し顔を赤らめるベルクリット。ミュゼリアの顔はもうトマトみたいに真っ赤だ。
「ははははは!」
大笑いをするハンス。
功助も笑う。トリシアもリンリンも。なんとテトもニコニコしている。
「コホン。ま、まあ、そ、そういうことだ。だが、お前ら盗み見てたな。帰城したら覚えてろよ」
と青の騎士団団員を睨むベルクリット。
「ひぇぇぇぇぇぇっ!」
騎士団団員たちの悲壮な絶叫が響いた。
「ちっ!」
ベルクリットは舌を鳴らすと抱き上げていたミュゼリアを降ろし頭を下げた。
「ミュゼリアすまない。団員たちが失礼なことをした」
「あ、いえ。大丈夫ですベルクリット様。それに皆様も祝福してくださっているようなので」
まだ真っ赤な顔で両手をパタパタしている。が、深呼吸を一つすると団員達に向かい、
「あの…、皆様、ご祝福ありがとうございます」
と直立してうなだれている団員たちにペコッと頭を下げる。
「あ、いえ。お幸せにミュゼリアさん」
「よかったっすねミュゼリアさん。これで副団長も肩の荷が降りたってもんですよ」
「団長に何か言われたら俺たちに相談してください。俺たちはミュゼリアさんの味方ですぜ」
「そうだそうだ」
「ミュゼリアさんにひどいことしたら俺たちが全員でボコボコにしてやるっす」
みんなワイワイ言っている。ミュゼリアは笑いながら礼を言っている。
「貴様ら、いい加減にしろっ!早く帰城の準備してこいっ!」
ベルクリットは真っ赤な顔で怒鳴った。
「は、はっ!了解」
と青の騎士団たちはドタドタと部屋を出て行った。
「ほんと、くそっ。あいつら覚えてろよ」
ぶつぶつとベルクリットは言っていたが目は笑っていた。
「よかったなミュゼリア。おめでとう」
ハンスはニコニコ笑うミュゼリアに近づくと愛妹の水色の髪を優しく撫でた。
「兄上」
ミュゼリアはそんなハンスに、たった一人の兄に抱き付いた。
「おいおい。ベルクの前だぞ。しょうがないヤツだなお前は」
とハンスはミュゼの頭をポンポンと叩く。
「兄上。ありがとうございます」
「よかったなミュゼリア。ようやく気持ちが届いて」
「ほんと」
苦笑するミュゼリア。
「あとはあれをするだけだな。ベルクと話し合ってちゃんと決めるんだぞ」
「はい、兄上」
「その時は俺が父上と母上の代わりだ。ちゃんと見届けてやるからな」
「うん。ありがとうお兄ちゃん」
とまた涙が頬を流れた。
「コースケ様。ありがとうございました」
ハンスから離れると今度は功助の前に来て深々と頭を下げた。
「よかったなミュゼ。待ってた甲斐があったな」
「はい」
とまた頭を下げた。
「でもごめんなミュゼ。三文芝居なんかしてさ。ミュゼに危ないめに合わせてしまって」
「いえ。私は大丈夫です」
「そうか。それとごめんなテト。怖い思いさせてしまって。すみませんでしたトリシアさん」
功助はホッとした顔のトリシアとニコニコわらってるテトに近づくと頭を下げた。
「あ、いえ。お気になさらないでください。ミュゼリアさんと団長様がお幸せになっていただければ私たちもうれしいですので」
と両手をパタパタしている。
「僕も大丈夫だよ。お姉ちゃんの魔法見られてうれしかったし。ねえお姉ちゃん」
とミュゼリアを見て笑うテト。
「そうですねテトくん。また一緒に遊びましょうね」
と笑顔でテトの頭を撫でるミュゼリア。それに大きく頷くテト。
「ところでコースケ様」
「なんだ?」
ミュゼリアは功助の耳元に口を近づけると小さな声で尋ねてきた。
「昨日ベルクリット様はコースケ様に何と頼まれたのですか?」
「ん?それはな」
今度は功助がミュゼリアの耳に口を寄せた。
「『ミュゼリアに俺のことをどう思っているか聞いてくれないかっ』って頼まれたんだ」
「は…、はあ…」
ミュゼリアはそれを聞くとハンスにバシバシ叩かれているベルクリットを見た。
「人に頼まず自分で聞いてくださればいいのに」
とぼそっと呟いた。
「まあまあ。ああ見えてもシャイなんだよベルクリットさんは」
と功助は苦笑した。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる