異世界人と竜の姫

アデュスタム

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第2章 それぞれの望み

07 トリシアの涙

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・・・37日目・・・

 フログス伯爵が目覚めて三日がたった。
 体力も少しずつ回復してきていてリハビリとして庭を散歩したりしているようだ。でも、あまり他人には会わないようにしているらしく見かけた者はあまりいないのだとミュゼリアは言う。
「フログス伯爵はたくさんの人たちから嫌われてたみたいだったし、嫌味や暴言をはいたりしていたからなあ。あまり他人とは接触したくないよな。で、いつ散歩してるんだミュゼ」
「はい。私も侍女たちの噂からなのではっきりしたことは言えませんが、どうやら日の出の前か真夜中に散歩しておられるみたいです。そのような時間だと見回りの者しかいませんし。ただしちゃんと治癒術師の方が同行しているようですよ」
「そっか。この十年、長い間に失った信頼はそう簡単には取り戻せないだろうし、これからが大変だなフログス伯爵は」
「そうだと思います」
と苦笑するミュゼ。
「ごちそうさん」
 功助はカップに残った紅茶を飲み干すとソーサーに戻した。
「はい。ではお下げいたします」
「ゆっくり戻ってくればいいからなミュゼ」
「はい。ありがとうございます」
 ミュゼリアはテーブルの食器をワゴンに乗せるとそれを押して廊下に出て行った。
 功助はグッと伸びをするとソファーから立ち上がり窓際に行き外を見た。
 ふと視線を下に降ろすと元気にボールで遊ぶ子供たちがいた。
「どこの世界でも子供は元気だなあ」
 有翼人に獣人、見た目だけではわからないが竜族や精霊族、それになんと人族もいるようだ。種族関係なく仲良く遊んでいる。
「城の中の人たちの子供かな?でも、人種差別がないのはいいよな」
 ドッジボールほどの大きさのボールを投げ合っている。たまに有翼の子供が数メートル飛び上がり下にいる相手に投げたりと元の世界ではできっこない方法を使っている。
 しばらく子供たちが遊んでいるのを見ていると誰かが近づいてくるのが見えた。よく見るとそれは二人連れだった。
「あっ、あれはフログス伯爵。それともう一人は治療師かな」
 フログス伯爵は杖をついてゆっくりと歩きその後ろには治療師が寄り添い歩行のリハビリをしているようだ。その二人が子供たちの方に向かっている。
 一人の子供がボールを投げようとしたちょうどその時、フログス伯爵たちに気付き「あっ」と声を出した。子供たちもフログス伯爵のことは知っていたようで一瞬にして驚いたような恐怖したような顔になり数歩後退った。
 ボールを投げた子供はその瞬間、変な力が入ったのだろうそのボールは真っ直ぐにフログス伯爵に向かって跳んでいった。
 投げた子供は真っ青な顔をし、それを見て怯える子供たち。
 フログス伯爵はあわてることなくその跳んできたボールを持っていた杖で真上に跳ね上げた。そして落ちてきたボールを構えた両手でキャッチするとニコッと笑った。
「へえ、うまいもんだなフログス伯爵」
 と感心していた功助だが子供たちの方を見て少しため息をつく。
「まあ…、まだ仕方ないよな…」
 子供たちは蛇に睨まれた蛙のように微動だにせずフログス伯爵を見ている。いや、何かされるのではと身動き一つできなかったようだ。
 それを見たフログス伯爵は苦笑しキャッチしたボールを治療師に渡すと何やら話かけている。それを聞いて頷いた治療師はそのボールを持って子供たちのところまで歩いていった。
 フログス伯爵も治療師の後をついていったが途中から治療師と子供たちを大きく回り込み向こう側へと進んだ。
 そして治療師は近くにいた子供にボールを手渡すと頭を数回撫でてフログス伯爵を追いかけて行った。
 子供たちは何があったのかいまだに理解できていないようだった。
 それもそのはずだ、以前のフログス伯爵を子供たちも知っていたのだろう。あのミミズの這ったような冷ややかな目、ギトギトと脂ぎった顔。醜悪なオーラを纏っていたのだ。
 そんなフログス伯爵を見たことある子供たちもいただろう。親や大人たちからも見聞きしたりもしただろう。
 そんな恐怖の対象でしかないフログス伯爵が杖で跳ね上げたボールをキャッチしニコッと笑ったのだ。
 おそらく以前ならあんな芸当はできずまともに顔面でボールを受け、子供たちに酷い罵声と暴力をふるってただろう。そんなフログス伯爵が何もせず立ち去ったのだ。驚くなという方が無理である。
 子供たちはその場を動かずフログス伯爵たちが見えなくなるまでたたずんでいた。そして誰かが「ふぅ…」と大きなため息をついたのがここまで聞こえてきた。それからもう遊ぶ気力を失ったようで一人また一人と帰っていった。
 功助はもう見えなくなったフログス伯爵が歩いていった法を見ると小さく嘆息した。

「遅くなり申し訳ありません。ただいま戻りました」
 コンコンとドアをノックしてミュゼリアが戻ってきた。
 そう言えばゆっくりだったなと入ってきたミュゼリアを見るとペコッと頭を下げている。
「あ、お帰り。いや、いいよ。ゆっくり戻っといでって言ったのは俺だから」
「はい。ありがとうございます」
 と窓際にいる功助を見てどうしたんですかとミュゼリア。
「あ、ああ。ちょっと外を見てたんだ。そしたらさ、さっきフログス伯爵がこの下通ったよ」
「え、こんな時間にですか?」
 と壁を見る。時計は午前の9時を回っていた。
「ああ」
 功助はさっきの出来事をミュゼリアに話した。
「そうなんですか。そんなことが…。そうですよねえ、仕方ないですよねえ今は。まだフログス伯爵が魔族に操られていたのはほとんどの方は知らないのですから」
「そうなんだよな。あの寂しそうな苦笑いを見ると可哀想に思えたよ」
 と功助はまた嘆息した。そして誰もいなくなった窓の下を見た。

 魔法師隊の午前の訓練も終えた功助。
「そうだミュゼ」
「はい、なんでしょうか」
 と小首を傾げる。
「あのフログス領からきていたトリシアさんたち、どうしてるかなと思って」
「そうですね。確か十日の宿泊予定を女将さんに行ってましたから、たぶんまだ滞在中じゃないのかと思いますよ」
「そうか、それなら今から会いに行こうと思うんだけど、どうだろ」
「はい、いいと思いますが……。でも、午後からの魔法師隊の訓練はどうされるんですか?」
「まあ、まだ時間もあるし午後には間に合うと思うんだけど」
「そうですね。ではこれから行きましょう。午後には戻るとラナーシア副隊長に私が連絡してきます。それとですね、フィルも誘ってもよろしいですかコースケ様」
「うん、いいよ。悪いなミュゼ」
「いえいえ。それでは今からラナーシア副隊長とフィルに連絡してきます。ちょっと行ってきます」
「ああ、頼んだよ。でもあわてずにね」
「はい。ありがとうございます。では行ってきます」
 ミュゼリアは頭を下げると部屋を飛び出していった。そして…、
  フギャッ!   ドシン
 何事かと功助はあわててドアを開けるとそこには廊下で手を突きお尻をさすっているミュゼリアがいた。
「…ミュゼ」
「あっ…、はは、ははははは。い、行ってきま~す」
 と目にもとまらぬ速さで立ち上がると脱兎のごとく走っていった。
「大丈夫かな」
 腕を組んでミュゼリアを見送った。

「こんにちはお婆ちゃん!」
 カモメの図柄の暖簾をかき分けてフィリシアが元気よく岬のカモメ亭に入っていった。そして彼女に続いて功助とミュゼリアが暖簾をくぐった。
「おや、いらっしゃいフィル。急に来たらびっくりするやんかいさ」
 とここ岬のカモメ亭の女将ことマギーが満面の笑顔でフィリシアたちを出迎えた。
「えへへ。だって急にここに来たいってコースケ様がおっしゃって」
「すみませんマギーさん。急におじゃまして」
 と功助が軽く頭を下げる。
「そんなん気にせんといてやコースケさん。さ、入ってや。ってもう入ってたんやな。ほな、座っといてくれはるか。お茶出すさかいに」
「ありがとうございます」
 功助たち三人はこの間と同じテーブルについた。
 三人の前に熱い湯呑をコトンと置くマギー。
「はい。熱いさかい気ぃつけて飲んでや」
「はい。いただきます」
 と言って湯呑に口をつけるとズズッとお茶を啜る。
「ふう。熱いけどおいしいです」
「そっかそっか。ゆっくりして行きぃや」
「あっ、それとお婆ちゃん。今日はお昼食べるから三人分作ってくれる?」
「ほんまか。それはうれしいやないの。腕によりかけて作るさかいなちょっと待っててや」
「はい。ありがとうございます。ところで」
 と、ここでマギーにトリシア母子のことを尋ねた。
「あの、トリシアさんたちはまだおられますか?」
「トリシアさんらか?まだいはるで。もうすぐお昼やさかい降りて来はるさかい待ってたらええよ」
 と話をしていると階段をトントンと軽やかに降りて来る音が聞こえた。
「マギーお婆ちゃん。お腹すいた。お昼まだぁ?」
 と元気な男の子の声がした。
「ちょうどええとこにきたなテト。もうお昼できるさかいお母さんら呼んどいで」
「はーい」
 と嬉しそうな返事をして階段を上っていった。
「あの子ってトリシアさんの子供だったよねお婆ちゃん」
 階段の上を見つめてフィリシアが尋ねた。
「そやで。すっかりなついてくれてなあ。孫がもう一人できたみたいや」
 と顔の皺をいっそう深めて嬉しそうに目を細めるマギー。
 そして間もなくトリシアとその息子テトが降りてきた。
「お久しぶりですコースケ様。先日はありがとうございました」
 トリシアが深く頭を下げるとテトもそれに倣い頭を下げた。
「お久しぶりですトリシアさん。その後大丈夫でしたか?」
「はい。あれから何度も出かけておりますがあれ以来もめごとには合っていません」
「そうですか。それはよかった。それでですね…」
 と今日ここへきた目的を言おうとしたがその時、階段からドタドタと降りて来る音が響いてきた。
 何事かと階段を見ると、桃色が目に飛び込んできた。
「うわぁっ、コースケ様じゃないですかぁ。お久しぶりですぅ」
と言って功助に抱きつくピンク娘。今日もピンク色の髪にピンクのワンピースを着ていた。
「うわっ、リ、リンリンさん。ちょ、ちょ、ちょっと」
「コースケ様ぁ、リンリンですぅ。リンリンですぅ」
 と控えめな胸を腕に押し付ける。
「…コースケ様ぁ。今失礼なこと考えませんでしたかぁ?」
 と功助の顔を覗き込むリンリン。
「うっ…」
 するどい。思わず目をそらしてしまう功助。
「ちょっとリンリンさん。コースケ様がお困りです。離れてくださいっ!」
 と横からミュゼリアがリンリンを引っ張るがなかなか功助から離れない。
「そ、そうよリンリン。コースケ様から離れなさいっ!」
 フィリシアもリンリンを離そうと引っ張るがなかなか離れない。それどころか、
「もう、久しぶりの再会なんですからぁ。もっとスキンシップさせてくださいぃ」
 と今度は功助の頬に自分の頬をくっつける。
「リリリリリリンリン!」
 ミュゼリアは驚いた拍子にリンリンから手を離してしまった。しかしフィリシアはまだ冷静だった。
「こらっ離せっ!!!このピンク娘ぇ!」
 フィリシアがリンリンの後ろからヘッドロックをかけた。
「うぐぐぐぐ。く、苦しいですぅフィルぅ」
 とようやく功助から離れるリンリン。
「ふ、ふう。た、助かった」
 と功助は額の汗を手で拭った。
「大丈夫ですかコースケ様!」
 ミュゼリアが功助の腕と背中を摩る。
「あ、ああ。大丈夫大丈夫」
「ふう、よかった。一時はどうなるかとおもいましたよ」
 とようやくヘッドロックから解放されたリンリンを見た。
「もう、せっかくのスキンシップがぁ」
 とリンリン。
「こ、今度このようなことをされたなら黒焦げになっていただきますよっ!」
 とミュゼリアが手のひらに火炎球ファイヤーボールを乗せて威嚇している。
「だ、だだだ大丈夫ですう。も、もうしませんからぁ」
 と冷や汗を流し壁際まで非難するリンリン。
「す、すごい。お姉ちゃん魔法使い?」
 とその時真ん丸の目をミュゼリアに向ける少年テト。
「えっ。あっ。私は魔法使いじゃなくてここにおられるコースケ様の専属侍女なんですよ」
 と少しうろたえてテトに説明するミュゼリア。
「ふーん。でも今の魔法すごかったなあ。火が手の上でボワッて燃えてて。熱くないのお姉ちゃん」
「大丈夫なんですよ。魔法の火はね、出した本人にはあまり熱くないんですよ。わかりましたかテトくん」
「うん。でもすごいなあお姉ちゃん」
 と目をキラキラさせてミュゼリアを見るテト。
「ふふふ。ありがとうございますテトくん」
 目線を合わせるためにしゃがんだミュゼリアはテトに微笑むとその頭を撫でた。
「お姉ちゃん。また魔法見せてくれる?」
「はい。いいですよ。また見せてあげますねテトくん」
 ミュゼリアがそう言うとテトはやった!と言ってガッツポーズをとって喜んでいる。
「あんたら店の中であんまりほたえんといてや。壊したら弁償やで弁償。わかってんのんか、特にリンリン」
「ギクッ」
 リンリンの方を見るとあさっての方に目を向けていた。
「ねえフィル」
「なにミュゼ」
「マギーさんのおっしゃった’ほたえんといて’ってどういう意味なの?」
「ああ、あれね。あれはね’暴れないでちょうだい’って異味よ。’ほたえる’っていうのは暴れるとかふざけるっていう意味があるのよ」
「ということはリンリンさんはほたえて壊したことがあるみたいね」
「そうね。やりそうよねリンリン」
 ひそひそ話をしているようだがたぶんリンリンには聞こえているようでまだあさっての方を見ていた。
「さあ。お昼食べてや。テトも早よ座りいや。トリシアさんも。ほらほら。ついでにリンリンも。ご飯覚めてまうで」
「あ、あたしはついでなのぉマギーさん~」
「文句言わんと早よ食べや。早よ食べへんねんやったら片づけるで」
「うわあ、食べます食べますぅ。いただきま~すぅ」
 と勢いよくリンリンたちは食事を始めた。
「ほら、フィルたちも食べてや。こないだは全然食べてもらえへんかったんやから今日はようけ食べてってや。おかわりもあるでコースケさん」
「はい。ありがとうございます」
 カモメ亭で初めて食べる食事は素朴でなんともおいしい料理ばかりだった。城内での食事は元の世界で言うとファミレスという感じだがここカモメ亭の料理は、そう、家庭の味だ。
 マギーの作るその料理は功助の舌に母の料理を思い出させる味だった。
 功助は懐かしさを表情に出さないようにしたがミュゼリアは何か感じたのだろう、功助を心配そうに見つめていた。

「あの、それでコースケ様。私に何かご用だったのですか?」
 食後のお茶を呑んでる時にトリシアが尋ねてきた。
「あっ、そうそう。リンリンのことですっかり忘れてしまってました。すみません」
 と頭をかく。
「いえ。それで、どのようなご用件なのでしょうか?」
「はい。用件とかというのではないんですけど、フログス伯爵のことです」
「フログス様の…」
「はい。あまり公にはなっていないのですが、トリシアさんたち、えーと、トリー村の方々の予想どおり、フログス伯爵は魔族にあやつられていました」
「えっ!ま、魔族に……!」
「ギョッ!」
 トリシアは口に手を当て、リンリンは口を大きく開けて驚いた。
「はい」
 功助はお茶を一口呑むと話を続けた。
「十年前フログス伯爵は白竜城に登城したときに魔族にだまされて契約させられてしまったんです。それで操られてしまい醜い心を持ってしまったんです。しかし、その契約も解呪できました。今は体力を回復させるのに運動とかしてますよ」
「そ、そうなんですか。そんなことがフログス様に…」
「はい。でももう安心してください。俺もフログス伯爵にお会いしましたが温和でお優しいお方になっていましたよ」
「そ、そうですか。よかった、本当によかった。これでフログス領も以前のようににぎやかでたのしい町に戻ります。ありがとうございます、ありがとうございます」
 トリシアは大粒の涙をポロポロ流しとてもうれしそうに笑っていた。
「それでぇコースケ様ぁ。いつぅフログス様はぁ自領にお戻りになられるのですかぁ?」
 とリンリン。
「うーん。今のところわからないけど、な、ミュゼ」
「そうですね」
 と頷く。
「ことが事ですからまだしばらくはフログス伯爵様の聴取が続くでしょうね。それから処罰が決まると思います」
 とミュゼリア。
「処罰…ですか…」
 とトリシアは少し俯き加減になる。
「はい。いくら魔族に操られていたとはいえやはりいろいろと凶事をおこされたので無罪放免とはいかないと思います」
「……そうですか…」
「仕方ないよぉトリシアぁ。でもぉ、死刑とかにはならないんじゃないかなとあたしはぁ思うんだけどぉ」
「そうですよトリシアさん。極刑にはならないですよ。もしなりそうなら俺が一言言いますよ国王に」
 と功助が力強く言う。
「は、はい」
 それを聞いて微笑むトリシア。
「大丈夫大丈夫ぅ。コースケ様がぁついてるんだからぁ。大丈夫なんじゃないかなあ。トリシアぁ」
 トリシアさんの肩をパンパン叩くリンリン。
「そうですよトリシアさん。何かあればコースケ様になんとかしていただけますよ。お城を護った英雄ですから」
 とミュゼリア。
「そうそう。コースケ様にお任せしておけば大丈夫ですよ」
 微笑しながらフィリシアもミュゼリアに続く。
「は、はい。よろしくお願いいたします」
 今度は微笑むと頭を深く下げるトリシア。
「まかしといてください」
 と功助。
「それじゃあトリシア、あたしたちいつまでここにいるのぉ?」
「はい?」
 首を捻るトリシア。
「フログス様のご乱心の原因はわかったけどぉ、まだフログス様の処遇がわからないしぃ。やっぱりわかってから帰るのぉ?」
 とリンリンも首を捻る。
「そうですね。今トリー村に戻ってもフログス様のことが村に伝わるまでかなり日にちがかかるでしょうし。そうですねえ。まだ一月は滞在できるだけのお金はありますから。あとひと月待ちましょう。どうですリンリン」
「うん。それがいいと思うよあたしもぉ」
 とうれしそうだ。
「それではトリシアさん、フログス伯爵様の処遇がわかりましたらすぐにお知らせいたしますね」
 とミュゼリア。
「えっ!よろしいんでしょうか…?」
「大丈夫ですよトリシアさん。ここにコースケ様もおられるんですから。心配いりませんよ」
 とフィリシア。
「連絡しますよトリシアさん」
 と功助。
「そ、それではお願いします。あ、あの…」
「はい?」
「本当にいろいろとありがとうございます」
 トリシアとリンリン、そしてテトまでもが椅子から立つと功助たちに頭を下げる。
「あは、あはは。そんな、いいですよ」
 と頭をかく功助。
「それからお婆ちゃん」
 とカウンターの中で洗い物をしているマギーに声をかけるフィリシア。
「ん?なんやフィル」
「トリシアさんたちまだまだここに宿泊されるからさ、宿代勉強してあげてね」
 と顔の前で両手を合わせる。
「ふふふ。わかってるってフィル。トリシアさん、勉強しまっせ!」
 ニカッと笑うマギー。
「ありがとうございますマギーさん」
「ありがとうマギーお婆ちゃん」
「かまへんって。その代り、フィル」
「なあにお婆ちゃん」
「しょっちゅうここにご飯食べにいや。わかってるやろ」
「あ、…、はい」
 フィリシアの目は、言わなければよかったかなと宙をキョロキョロしていた。

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