異世界人と竜の姫

アデュスタム

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第2章 それぞれの望み

01 シオンベールの決意

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・・・12日目・・・


 あれから五日が立ちフェンリルの破壊の爪痕が露わになった。
 死者は64人。重軽傷者は128人。中には身体の一部が欠損した者も多くいた。そして一般の者からも多数被害者がでている。功助やシオンベールをはじめ少しでも治癒魔法を使える者は負傷者をできるだけ手当しかなりの人々を助けたが、施しようのない人たちも多かったことは確かだった。
 青の騎士団は精鋭の騎士が8人も亡くなり再編制も余儀なくされた。緑の騎士団も半数が死亡、魔法師隊も3分の1が亡くなった。
 建造物への被害も存代で復興には半年はかかるだろうとのことだ。
 功助が保護したフログス伯爵はシャリーナたち魔法師隊のおかげで解呪は成功した。
 シャリーナによるとかなり強い契約の呪縛だったようで、フログス伯爵の望んだ契約ではなかったようだ。
 もし自ら望んでいたならマピツ山で魔族が死んだ時にフログス伯爵も死んでいたのだということだ。
 今はまだ目覚めてなく、解呪後におこる回復期のようでいつ目覚めるかはわからないらしい。
 そしてマピツ山の調査報告もあがっている。
 東側の山肌に直径2メートルほどの洞穴が隠蔽されており、そこから中に入ると奥に高さ10メートルほどのドーム型の開けた場所があったそうだ。その地面と壁には魔法陣が描かれていたらしい。
 2日後調査団を派遣してしらべたところ、地面の魔法陣は移動の魔法陣、壁の魔法陣は移動の魔法陣への魔力を供給するためのものだったとのことだ。そしてその移動の魔法陣は魔界との移動に使われたようであの魔族たちはここを通って来たのだろうと。今はその魔法陣も魔法師隊のおかげで魔力供給も絶つことができて使用不能にしたのだと金の騎士カーロが報告していた。

「それにしてもコースケ様」
「なんだミュゼ」
 朝食も済ませ食後のお茶を飲んでる時にいきなりミュゼリアが功助に尋ねる。
「コースケ様の魔力量はどれだけあるのですか?」
「へ?」
 いきなりそんな質問してきても答えられないぞと功助。
「な、なんだ急に」
「いえ、この間のコースケ様の魔力の使用頻度を考えるとあまりにも常識からかけ離れた量なので」
「そうなのか」
 と首をひねる。
「そうですよぉ。まずは姫様への魔力移植です。陛下のお言葉によると魔力を移植したものは死ぬか記憶がなくなると言っておられたのですよね。それなのに…。それからその後にあろうことかフェンリルを倒したんですよ。一発にかなりの魔力を使うコースケ砲を何発も使って。それからマピツ山の魔族にもコースケ砲を使ったのですよね。ほんともう信じられません。あんなに魔力を使ったのにピンピンしてるんですから。私も姫様ももうびっくりですよ。普通の者なら何回死んでいることか」
 と両手を拡げて力説している。
「しかしなあ。俺にもわからないんだよなあ。なんであんなに魔力がもったのか」
「そうですよねえ」
 と二人で首をひねる。
「魔力量を測定できる魔法具とかないの?」
「そんな便利なものはないんじゃないでしょうか。でも魔力が強い者は相手の魔力量がなんとなくわかります。でも、魔力量なんかは体調にも左右されますからね。それに、いくら魔力量が大きくてもそれを使えなければ大きさなんて関係ないですから。そうそう、コースケ様もお会いになった私の友人のフィルですけど、彼女も浅在的な魔力量は多いんです。でも訓練してもうまく使えるようにはならなかったんです。彼女本当は魔法師隊に入りたかったんですが訓練してもうまく使えないのであきらめたんですよ」
「そうか。魔力量が客観的にでもわかっても意味ないか」
「そうです。でも」
「でも。なんだ」
 ちょっと思案して口を開いた。
「シャリーナ隊長なら私よりももっと詳細にわかるかもしれません。          みてもらいますかコースケ様」
「シャリーナさんが…。でも今のは何?」
「あはは。シャリーナ隊長にコースケ様を近づけるとコースケ様がちょっと危険になるかなあって」
 ミュゼリアは少し顔を赤らめて笑う。
「ははは、そうかも。でも、みてもらおうかな。シャリーナさんに聞きたいこともあるし。どうだろミュゼ」
 ミュゼリアは少し苦笑すると頷く。
「そうですか。ではシャリーナ隊長に連絡をとってみましょうか。ちょっと行ってきます。しばらくお待ちいただけますかコースケ様」
「今からか?」
「そうですよ。早い方がよろしいでしょう。それに」
「それに?」
「暇ですから」
 えへへと笑うミュゼリア。
「ああ。そうだな。頼む」
と功助も苦笑した。
「はい」
といって部屋を出て行った。
 それからほんの十数秒。ミュゼリアと入れ替わるようにドアを叩く音がした。
「は、はい」
 功助が返事をすると元気な声が聞こえてきた。
「シオンベールでございます。よろしいでしょうかコースケ様」
 シオンベールが功助の部屋にやってきたのだった。

「シオン?あ、ああ。どうぞ」
 功助はソファーを竜とドアを開けた。そこには上目遣いで立つシオンベールがいた。
「失礼いたします」
 といってゆっくりと入室する。
 シオンベールの後ろには副侍女長のライラもついてきていた。がシオンベールがライラに言う。
「ライラ。少し部屋の外で待っていてください。コースケ様と大切な話がありますので」
「はい」
 とうやうやしく一礼をする。
 シオンベールに少し心配そうな目を向けていたがゆっくりとドアを閉じた。閉じる瞬間功助に寂しそうな目を向けていた。
「座ってくれシオン。どうぞ」
 とソファーを薦めるとゆっくりと腰掛けるシオンベール。
 功助もシオンベールの前にゆっくりと座った。
「どうしたんだシオン。連絡くれたらこっちから行ったのに」
「あ、はい。あの、コースケ様」
「ん、なんだ?」
「あの、改めてお礼を言わせてください。私を、私たちを助けてくださりありがとうございました」
 シオンベールはその場で立つと頭を深々と下げる。
「…シオン。も、もういいって。そんなに改まって言われると恥ずかしいぞ」
 と功助は頭をかく。
「いえ。どんなに感謝しても感謝しきれません。コースケ様に助けていただいたご恩は一生、いえ死んでも忘れることはありません」
 とまた笑顔で頭を下げた。
「おいおい、一国の王女様が一般人の俺に頭なんか下げなくていいんだよ。な、シオン」
 功助はソファーから立つとシオンベールの頭を優しく撫でた。
「おっと、今俺自信が言ったとこなのに王女様の頭を撫でてしまった。悪い悪い」
 と言ってまた頭をかいた。
「うふふふ。ほんとコースケ様は素敵なお方です」
「おい、照れるだろ」
 はははと功助。シオンベールもうふふと笑顔だ。
「さシオン、座ってくれ。俺に何か話があるんだろ?さっきそう言ってたし」
「は、はい」
 シオンベールはまたゆっくりと座ると功助の目を見た。
 しかし、なかなか言いにくいことなのかシオンベールは口を開いては閉じ、開いてはまた閉じと何回か続けたあと大きく頷くと話はじめた。
「コースケ様。父上からお聞きしました」
「国王陛下から?」
「はい。コースケ様の元の世界への帰還方法を」
「……」
「申し訳ございませんが、帰還方法を行うのは2ヶ月、いえ、1ヶ月お待ち願えませんでしょうか?」
「…えっ…」
「今私の竜化時の牙を引き抜かれると、私はたぶん耐えられないと思います。それでも私はコースケ様に私の牙を使い元の世界に戻っていただきたいのですが。でも、お優しいコースケ様にはそれを許していただけないと思います。それで、今から1ヶ月、1ヶ月の間私は体力と魔力を最高の状帯にまで上昇させます。そうすれば牙を引き抜かれても私は耐えられます。二度と竜化はできなくなりますがコースケ様が元の世界に戻れるなら私は頭を下げてでも牙を使っていただきたいのです」
「……シオン……。お、俺は……」
 功助は何かを言おうとしたがシオンベールはそれを許してはくれなかった。
「コースケ様。元の世界にはご家族もいらっしゃるのでしょう。ご友人も多いのでしょう。もしかすると心に決めたお方がおられるのかもしれません。そんな元の世界にどうかお戻りになってください。ここはコースケ様がいた世界ではありません。どうか、どうか元の、コースケ様の世界にお戻りになってください。お願いいたします」
 功助に深々と頭を下げるシオンベール。
「お願いいたします、お願いいたします」
 そう何度も繰り返すと突然立ち上がりドアに向かって走った。
「シオンっ!」
「1ヶ月お待ちください。コースケ様に喜んでいただけるくらい体力と魔力を上げてみせます」
 ドアの取っ手を握ったシオンベールは功助に顔を向けることなくそう言うと取っ手をひいた。その時のシオンベールの声は震えていた。そう、震えていた。
 シオンベールの出て行ったドアを見つめる功助。あとを追いかけることもできずただ彼女が出て行ったドアをじっと見つめた。
 ソファーに戻り頭をかかえる功助。そしてシオンベールの座っていたソファーの前のテーブルを何気なく見ると濡れていた。小さな滴がいくつもいくつもついていた。
「……シオン……」
 功助は小さく息を吐いた。

   コンコンコン。
 小さくドアを叩く音がした。
「は、はい」
「…ミュゼリアです。…」
「あ、ああ、ミュゼ。入って」
「はい」
 ドアをゆっくり開けて入ってきたミュゼリアの目は少し赤くなっていた。不思議に思った功助がそれを尋ねる。
「ん?どうしたんだミュゼ。目が赤いぞ」
「……は、はい…。少し前に戻ってきたのですが…。部屋の前にライラ副侍女長がおられて…、お部屋に入るのを止められました。中から姫様の声が…。そしたら姫様が…」
「そっか。聞いてたんだな」
「聞くつもりはなかったのですが。申し訳ございません。侍女としてあるまじき行為をしてしまいました。どうか、どうかお許しくださいコースケ様」
 といってミュゼリアは深々と頭を下げた。その手は強く握りしめられていて小さく震えていた。
 それを見て功助はソファーから立つとミュゼリアの前に立ちいまだに頭を下げているその小さな背中をポンポンと叩いた。
 びっくりしたように頭を上げるミュゼリア。
「はっ。コ、…コースケ様……」
 今度は顔を上げたその頭をポンポンと叩いた。
「ミュゼ……。ミュゼを責めたりなんてしないよ。だからそんな顔をしてくれるな。ミュゼはいつも笑ってくれている方がいい。ミュゼの笑顔は癒されるんだよ俺」
 と言ってミュゼリアに笑いかけた。
「コ、コースケ様」
 ミュゼリアはそう言って俯くと鼻をすすっているようだ。
「あ、ありがとうございます。やっぱりコースケ様はお優しいお方です。姫様のお気持ちが痛いほどわかります」
 顔を上げたミュゼリアは涙を流しながら笑顔を向けた。同じように笑う功助。しかしその笑いはぎこちなかった。

「で、ミュゼ。シャリーナさんはどうだった?」
「は、はい。とてもお喜びになられてました。ダーリンが来るダーリンが来るって言われてピョンピョン跳ねておられましたよ」
 その時のことを思い出したのだろうクスクスと笑っている。
「そっか。でもダーリンねえ……」
 と少し苦笑する。
「で、いつ行けばいい?」
「1時間後に来てほしいって言っておられました」
「そっか。んじゃそれくらいの時間に行くことにしよう。ミュゼ案内頼むよ」
「はい、おまかせください」
 ミュゼリアは元気に返事をした。
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