1 / 15
第一部 ライアス編
序章
しおりを挟む
幾年の歳月が経ったのだろうか。この世界に安息は来るのだろうか。
人間と魔族の戦いは続いているのだった。
今日も明日も世界のどこかで戦いは繰り広げられている。
時代は移り変わり、人も国も、新しい国王が治め時は過ぎてゆくのに…終わりの無い戦い…
この辺境にあるのどかな山間。緑は美しく川の流れも穏やかである。
魔族と言っても軍が動く程ではない。戦場とは遠くかけ離れた場所にある小さな村に一人の青年がいた。
彼は今年で19歳になる優しい性格の好青年だ。
「ライアス~」彼を呼ぶ声が山にこだまして聞こえる。呼んでいるのは、彼の幼なじみで同い年のマリアだ。
「ライアス、今日はどうだった?」黒い髪のまだ少女のような、いや幼さはあるが大人の美しい女性に変貌するであろうマリアがライアスにいつものように話し掛ける。
「今日はこれだけだったよ…」ライアスは少し恥ずかし気に苦笑いしながら答えた。彼は朝から山菜取りに出掛けていた。
「これだけかぁ…やっぱりババ様が言ってた事と関係しているのかな?」不安そうな声でライアスを見つめている。
「…さっき山菜を取りに山に行った時に煙を見たんだ。もう近くまで戦火が来てるんだなって。」ライアスは遠くを見るように悲しい声でマリアに伝えた。
「いよいよ戦いになるのか…父さんも母さんも村のみんなも、私も頑張らないとだね。」
「!?何を言ってるんだマリア!君まで戦うなんて!」慌ててライアスは言った。「確かにマリアはババ様に習って魔法が使える。だけど…君には殺し合いは向いて無い!」ライアスは必死に説得した。
だけどマリアは首をゆっくり横に振って「だって、そうしたら村のみんながライアスが…優しいみんながいなくなるなんて…」
「マリア…」
二人で村に帰る足取りが重かった。張り詰めた空気が重たい。無言のまま村を目指す。僕だっていつかは戦わなければいけない時が来る。それは分かっている。
しかしマリアもなんて…彼女は優しい、いや優し過ぎる。いつも笑顔で人は勿論、動物だって傷つくのが悲しむ子なんだ。そんな彼女を戦いに向かわせてはいけないんだ!ライアスは胸の内に強い想いを決意し村に戻ろうとした。
「!?」ライアスが異変に気付く。
「ライアス?どうしたの?」急に歩くのを止めたライアスを後ろからついてきたマリアが顔を覗き込んだ。
「村の様子が変なんだ。みんなの動きが…慌てているようだ。何かあったのかな、急ごうマリア。」「うん。」二人は村に急いだ。
バタバタと村では慌てて準備をしている。若い男達は村の広場に集まっていた。年老いた人達も村の周囲に作ってある柵の点検をしている。縄の緩んでいる所は締め直し補強している。
女達は炊き出しを行っている。子供達も荷車を使って物質を運ぶのを手伝っている。
広場の中央で男達に指示をしている屈強な男を見つけた。髭をたくわえ、全身がまるで筋肉の鎧で覆われているようだ。一目で「歴戦の戦士」と分かるだろう。
「お父さん!一体何があったの?」マリアは屈強な男に駆け寄って尋ねた。
この屈強な男はマリアの父ダムザであり、村のリーダー的存在である。かつてはこのエルド王国の騎士団長を勤めていたこともあり、マリアが生まれてからは第一線を退いた。
「マリア!ライアスも!無事だったか。」ダムザは二人が戻って来たことを安心しホッとしたが、すぐに表情が険しくなった。
「二人とも落ち着いて聞くんだ。ここから南東にあるラングル砦が魔族の手によって落ちた。」
「なっ!?」
「そんな…本当なの?お父さん!」マリアは震えている。
「昨晩、砦は襲撃されたそうだ。守備隊は全滅、生き延びた兵士が命と引き換えに伝えてくれた。」怒りと悔しさを込み上げながらダムザは言った。
がく然とする二人の所へ、いや指揮を採るダムザの所へ、一人の村人が走って来た。
「ダムザさん!大変だ!魔族が来るだぞ!もうミーニャのリンゴ畑まで迫ってるだ!」慌ててイル爺さんが息を切らして来た。
「みんな!武器を取れ!戦えない者はババ様の所へ行くんだ!」ダムザは村中に聞こえるくらいの威勢のある声で叫んだ!
ラングル砦に程近いこのエルローズの村はエルド王国の外れにある。ダムザは王国の元騎士団長だ、すでに王都に援軍の要請はしたのであろう。みんなで逃げても魔族に追いつかれてしまう。
ここエルローズの村はエルド王国の外れにあり、国境に近く魔族が来ても村のみんなが戦って食い止める。昔からその役割を果たしてきた。
ライアスとマリアも武器を持った。ライアスは一般の兵士が身に付けているのと同じロングソードだ。一方のマリアは先端に赤い色の魔力結晶が装飾されている魔導の杖。そしてダムザは両手剣を装備した。
村のみんなも剣に槍、弓等さすがに国境を守っていた村だけあり、装備は充実している。防具もプレートアーマーに鎖かたびらに盾を身に付けた。こちらの数は350人だ。
持ち場に着いた所で林の奥から気味の悪い叫び声や笑い声が聞こえてくる。
魔族だ……。
ゴブリンにオーガ、魔獣もいる。魔獣とはクマやイノシン、虎等の動物が魔障を浴び魔族化したものだ。続々と林から出てくる…
「数は1,000いや…2,000近くか」ダムザが呟く。予想以上の数だ…
村人達からは動揺の声が漏れてくる。
魔族の中に一体異なる個体がいる巨大な羽に真っ赤な目、そして鋭い爪。おそらくこの魔族の軍を束ねるリーダーだ。
そして…
その魔族の合図とともに一斉に村に襲いかかってくるのであった。
人間と魔族の戦いは続いているのだった。
今日も明日も世界のどこかで戦いは繰り広げられている。
時代は移り変わり、人も国も、新しい国王が治め時は過ぎてゆくのに…終わりの無い戦い…
この辺境にあるのどかな山間。緑は美しく川の流れも穏やかである。
魔族と言っても軍が動く程ではない。戦場とは遠くかけ離れた場所にある小さな村に一人の青年がいた。
彼は今年で19歳になる優しい性格の好青年だ。
「ライアス~」彼を呼ぶ声が山にこだまして聞こえる。呼んでいるのは、彼の幼なじみで同い年のマリアだ。
「ライアス、今日はどうだった?」黒い髪のまだ少女のような、いや幼さはあるが大人の美しい女性に変貌するであろうマリアがライアスにいつものように話し掛ける。
「今日はこれだけだったよ…」ライアスは少し恥ずかし気に苦笑いしながら答えた。彼は朝から山菜取りに出掛けていた。
「これだけかぁ…やっぱりババ様が言ってた事と関係しているのかな?」不安そうな声でライアスを見つめている。
「…さっき山菜を取りに山に行った時に煙を見たんだ。もう近くまで戦火が来てるんだなって。」ライアスは遠くを見るように悲しい声でマリアに伝えた。
「いよいよ戦いになるのか…父さんも母さんも村のみんなも、私も頑張らないとだね。」
「!?何を言ってるんだマリア!君まで戦うなんて!」慌ててライアスは言った。「確かにマリアはババ様に習って魔法が使える。だけど…君には殺し合いは向いて無い!」ライアスは必死に説得した。
だけどマリアは首をゆっくり横に振って「だって、そうしたら村のみんながライアスが…優しいみんながいなくなるなんて…」
「マリア…」
二人で村に帰る足取りが重かった。張り詰めた空気が重たい。無言のまま村を目指す。僕だっていつかは戦わなければいけない時が来る。それは分かっている。
しかしマリアもなんて…彼女は優しい、いや優し過ぎる。いつも笑顔で人は勿論、動物だって傷つくのが悲しむ子なんだ。そんな彼女を戦いに向かわせてはいけないんだ!ライアスは胸の内に強い想いを決意し村に戻ろうとした。
「!?」ライアスが異変に気付く。
「ライアス?どうしたの?」急に歩くのを止めたライアスを後ろからついてきたマリアが顔を覗き込んだ。
「村の様子が変なんだ。みんなの動きが…慌てているようだ。何かあったのかな、急ごうマリア。」「うん。」二人は村に急いだ。
バタバタと村では慌てて準備をしている。若い男達は村の広場に集まっていた。年老いた人達も村の周囲に作ってある柵の点検をしている。縄の緩んでいる所は締め直し補強している。
女達は炊き出しを行っている。子供達も荷車を使って物質を運ぶのを手伝っている。
広場の中央で男達に指示をしている屈強な男を見つけた。髭をたくわえ、全身がまるで筋肉の鎧で覆われているようだ。一目で「歴戦の戦士」と分かるだろう。
「お父さん!一体何があったの?」マリアは屈強な男に駆け寄って尋ねた。
この屈強な男はマリアの父ダムザであり、村のリーダー的存在である。かつてはこのエルド王国の騎士団長を勤めていたこともあり、マリアが生まれてからは第一線を退いた。
「マリア!ライアスも!無事だったか。」ダムザは二人が戻って来たことを安心しホッとしたが、すぐに表情が険しくなった。
「二人とも落ち着いて聞くんだ。ここから南東にあるラングル砦が魔族の手によって落ちた。」
「なっ!?」
「そんな…本当なの?お父さん!」マリアは震えている。
「昨晩、砦は襲撃されたそうだ。守備隊は全滅、生き延びた兵士が命と引き換えに伝えてくれた。」怒りと悔しさを込み上げながらダムザは言った。
がく然とする二人の所へ、いや指揮を採るダムザの所へ、一人の村人が走って来た。
「ダムザさん!大変だ!魔族が来るだぞ!もうミーニャのリンゴ畑まで迫ってるだ!」慌ててイル爺さんが息を切らして来た。
「みんな!武器を取れ!戦えない者はババ様の所へ行くんだ!」ダムザは村中に聞こえるくらいの威勢のある声で叫んだ!
ラングル砦に程近いこのエルローズの村はエルド王国の外れにある。ダムザは王国の元騎士団長だ、すでに王都に援軍の要請はしたのであろう。みんなで逃げても魔族に追いつかれてしまう。
ここエルローズの村はエルド王国の外れにあり、国境に近く魔族が来ても村のみんなが戦って食い止める。昔からその役割を果たしてきた。
ライアスとマリアも武器を持った。ライアスは一般の兵士が身に付けているのと同じロングソードだ。一方のマリアは先端に赤い色の魔力結晶が装飾されている魔導の杖。そしてダムザは両手剣を装備した。
村のみんなも剣に槍、弓等さすがに国境を守っていた村だけあり、装備は充実している。防具もプレートアーマーに鎖かたびらに盾を身に付けた。こちらの数は350人だ。
持ち場に着いた所で林の奥から気味の悪い叫び声や笑い声が聞こえてくる。
魔族だ……。
ゴブリンにオーガ、魔獣もいる。魔獣とはクマやイノシン、虎等の動物が魔障を浴び魔族化したものだ。続々と林から出てくる…
「数は1,000いや…2,000近くか」ダムザが呟く。予想以上の数だ…
村人達からは動揺の声が漏れてくる。
魔族の中に一体異なる個体がいる巨大な羽に真っ赤な目、そして鋭い爪。おそらくこの魔族の軍を束ねるリーダーだ。
そして…
その魔族の合図とともに一斉に村に襲いかかってくるのであった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる