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第18話 エルフ国にて
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数日後、ヴァイスとリリカは馬車でエルフ国の首都へと向かっていた。獣人国をずっと南に進み、国境を通ってエルフ国へ入るとさらに南へと向かう。エルフ国はそこまで大きくないので国境から首都まではそれほど時間はかからなかった。しかし、情報屋の言う通り、獣人族の侵攻を予想済みなのか、エルフの戦士団と思われる連中がひっきりなしに街道を行ったり来たりしていた。
エルフ国の首都は事前に聞いていた通り、大きくはないが緑に溢れた美しい街だった。街のところどころに小さな川が流れていて、その上の橋に立って聞くせせらぎはとても心地よいものがあった。街の奥にはエルフの女王が住む白い王宮があって、それは街の多くの建造物の中でも一際輝いて見えた。エルフ国の首都の雰囲気は、全体的に荒っぽさが漂っていた獣人国の首都の雰囲気とは違っていて、全く正反対と言ってもいいほどだった。
「きれいな……ところ……」
リリカがそう呟いた。
「……そういえば、今まで聞いたことがなかったが、リリカはエルフ国の出身だったか?」
ヴァイスがそう聞くと、リリカはふるふると首を横に振る。
「わから……ない……。でも孤児院は……王国にあった」
「……そうか」
ヴァイスはリリカの言葉を聞いて、リリカの両親はエルフ国から王国へとやってきたのではないかと思った。
(エルフ国から王国へ来たのはいいが、色々と事情があって幼いリリカを孤児院へと預けざるを得なかったというのはありうる話だな……。ただ、その後リリカを全く引き取りに来なかったところを見ると、多分リリカの両親はリリカを完全に捨てたのだろう……)
ヴァイスはそう考えつつ、エルフ国の首都に興味津々で少し楽しそうなリリカを見た。
その後、ヴァイスは賃貸物件を扱う店に寄り、これから滞在するための物件を一つ借りた。ヴァイスが借りた物件は一軒家の独立した二階部分で部屋は全部で二部屋あり、キッチンが付いていて費用も手頃であった。
ヴァイスは戦が起こるまでの間、いつものようにポーションを販売して資金を稼ぐことにした。ヴァイスが作ったポーションは戦が近いということもあってよく売れたのだった。
「それじゃあ行ってくる」
「いって……らっしゃい……ませ……ごしゅじん……さま」
ヴァイスはいつものようにそう言って部屋を出ていった。リリカはヴァイスが出ていくと、いそいそとヴァイスの部屋の掃除をしたり、洗濯をしたり、その日の夕食の材料を買ってきたりした。さらには色々な情報を得るために用もなく街をうろつき、周囲の会話に聞き耳を立てたりもした。
エルフ国の首都は獣人国の首都と違って治安は非常によく、リリカのような女の子が一人で街を歩いていても特に問題はなかった。さらに言えばリリカはエルフなので、エルフの街では周りによく溶け込んでいた。
ある日の昼下がり、リリカが洗濯物をベランダに干していると、突然の発作がリリカを襲った。
「う……ぐ……」
リリカは左手を押さえてその場にへたり込んだ。左手の指先がとても熱く、内側から何かが出てくる感触がした。
「う……あ……ああ!!」
リリカが思わず叫ぶと、リリカの左手の指先が全て裂け、中から鋭い刃のような爪がずりゅっと生えてきた。リリカはそれを見て絶句した。手のひらにある口に加えてさらに爪……。自分の身体は一体どうなっているのだろうとリリカは思った。
(……どうしよう……これじゃ……何もできない……)
こんな手では手袋もできないし外へも行けないし、洗濯物もろくに干せないとリリカは思った。リリカは必死に「戻れ~」と心の中で念じた。それぐらいしかリリカにできることはなかった。しかし、リリカが強く念じると、徐々に爪は引っ込み、リリカの手は元の状態へと戻ったのだった。
(あれ……もしかして……操れる……?)
リリカは今度は、爪が出てくるように意識してみた。すると、意識したように爪が出てくる。逆に出てこないように意識すると爪は引っ込んだ。身体の変異を予知することはできないが、リリカはある程度自身の変異をコントロールできるようになっていたのだった。
リリカはほっとすると元の洗濯物を干す作業へと戻った。リリカはそれほど自覚はなかったが、リリカの身体は着実に寄生生物のそれへと近づいていた。
それからしばらくして、情報屋からヴァイスの元に一通の手紙が届いた。手紙には一週間後に獣人国がエルフ国に宣戦布告する予定だということが書かれていた。
(いよいよか……)
ヴァイスは作戦遂行のため、最後の準備に取り掛かった。戦闘で役立つ様々なポーションの精製、作戦が失敗したときのための仮宿の手配、予備の寄生体の作成などだ。材料調達のため、街の中心部に向かうとエルフの女王が広場で壇上に立ち、何やら演説をしていた。
(あれがエルフの女王……名前は確かディアナだったか。実際に見るのは初めてだな)
エルフの女王は年齢こそ数百歳はいっているが、見た目は若く、人間でいうところの三十歳前後ぐらいの女性に見えた。豊満な身体をしており、背も高めでスタイルもよかった。
「憎き獣人族がわらわたちの神聖な領域を侵そうとしている!」
「わらわたちは全力でこの国を守らなければならない!」
「絶対に獣人族などに負けるわけにはいかないのじゃ!」
エルフの女王はそう言って民衆を鼓舞していた。ヴァイスはそんなエルフの女王を見てニヤリと笑った。
その後、ヴァイスはリリカを安全のため地方の小さな村へと疎開させた。リリカは嫌がったが、最後には納得してくれた。ヴァイスはリリカにもし万が一自分が戻らなかったら、そのときは自分で好きなように生きるようにと伝えた。そしてそれから一週間後、獣人国は遂にエルフ国へ宣戦布告し、ここに両国の戦いの幕が切って落とされた。
エルフ国の首都は事前に聞いていた通り、大きくはないが緑に溢れた美しい街だった。街のところどころに小さな川が流れていて、その上の橋に立って聞くせせらぎはとても心地よいものがあった。街の奥にはエルフの女王が住む白い王宮があって、それは街の多くの建造物の中でも一際輝いて見えた。エルフ国の首都の雰囲気は、全体的に荒っぽさが漂っていた獣人国の首都の雰囲気とは違っていて、全く正反対と言ってもいいほどだった。
「きれいな……ところ……」
リリカがそう呟いた。
「……そういえば、今まで聞いたことがなかったが、リリカはエルフ国の出身だったか?」
ヴァイスがそう聞くと、リリカはふるふると首を横に振る。
「わから……ない……。でも孤児院は……王国にあった」
「……そうか」
ヴァイスはリリカの言葉を聞いて、リリカの両親はエルフ国から王国へとやってきたのではないかと思った。
(エルフ国から王国へ来たのはいいが、色々と事情があって幼いリリカを孤児院へと預けざるを得なかったというのはありうる話だな……。ただ、その後リリカを全く引き取りに来なかったところを見ると、多分リリカの両親はリリカを完全に捨てたのだろう……)
ヴァイスはそう考えつつ、エルフ国の首都に興味津々で少し楽しそうなリリカを見た。
その後、ヴァイスは賃貸物件を扱う店に寄り、これから滞在するための物件を一つ借りた。ヴァイスが借りた物件は一軒家の独立した二階部分で部屋は全部で二部屋あり、キッチンが付いていて費用も手頃であった。
ヴァイスは戦が起こるまでの間、いつものようにポーションを販売して資金を稼ぐことにした。ヴァイスが作ったポーションは戦が近いということもあってよく売れたのだった。
「それじゃあ行ってくる」
「いって……らっしゃい……ませ……ごしゅじん……さま」
ヴァイスはいつものようにそう言って部屋を出ていった。リリカはヴァイスが出ていくと、いそいそとヴァイスの部屋の掃除をしたり、洗濯をしたり、その日の夕食の材料を買ってきたりした。さらには色々な情報を得るために用もなく街をうろつき、周囲の会話に聞き耳を立てたりもした。
エルフ国の首都は獣人国の首都と違って治安は非常によく、リリカのような女の子が一人で街を歩いていても特に問題はなかった。さらに言えばリリカはエルフなので、エルフの街では周りによく溶け込んでいた。
ある日の昼下がり、リリカが洗濯物をベランダに干していると、突然の発作がリリカを襲った。
「う……ぐ……」
リリカは左手を押さえてその場にへたり込んだ。左手の指先がとても熱く、内側から何かが出てくる感触がした。
「う……あ……ああ!!」
リリカが思わず叫ぶと、リリカの左手の指先が全て裂け、中から鋭い刃のような爪がずりゅっと生えてきた。リリカはそれを見て絶句した。手のひらにある口に加えてさらに爪……。自分の身体は一体どうなっているのだろうとリリカは思った。
(……どうしよう……これじゃ……何もできない……)
こんな手では手袋もできないし外へも行けないし、洗濯物もろくに干せないとリリカは思った。リリカは必死に「戻れ~」と心の中で念じた。それぐらいしかリリカにできることはなかった。しかし、リリカが強く念じると、徐々に爪は引っ込み、リリカの手は元の状態へと戻ったのだった。
(あれ……もしかして……操れる……?)
リリカは今度は、爪が出てくるように意識してみた。すると、意識したように爪が出てくる。逆に出てこないように意識すると爪は引っ込んだ。身体の変異を予知することはできないが、リリカはある程度自身の変異をコントロールできるようになっていたのだった。
リリカはほっとすると元の洗濯物を干す作業へと戻った。リリカはそれほど自覚はなかったが、リリカの身体は着実に寄生生物のそれへと近づいていた。
それからしばらくして、情報屋からヴァイスの元に一通の手紙が届いた。手紙には一週間後に獣人国がエルフ国に宣戦布告する予定だということが書かれていた。
(いよいよか……)
ヴァイスは作戦遂行のため、最後の準備に取り掛かった。戦闘で役立つ様々なポーションの精製、作戦が失敗したときのための仮宿の手配、予備の寄生体の作成などだ。材料調達のため、街の中心部に向かうとエルフの女王が広場で壇上に立ち、何やら演説をしていた。
(あれがエルフの女王……名前は確かディアナだったか。実際に見るのは初めてだな)
エルフの女王は年齢こそ数百歳はいっているが、見た目は若く、人間でいうところの三十歳前後ぐらいの女性に見えた。豊満な身体をしており、背も高めでスタイルもよかった。
「憎き獣人族がわらわたちの神聖な領域を侵そうとしている!」
「わらわたちは全力でこの国を守らなければならない!」
「絶対に獣人族などに負けるわけにはいかないのじゃ!」
エルフの女王はそう言って民衆を鼓舞していた。ヴァイスはそんなエルフの女王を見てニヤリと笑った。
その後、ヴァイスはリリカを安全のため地方の小さな村へと疎開させた。リリカは嫌がったが、最後には納得してくれた。ヴァイスはリリカにもし万が一自分が戻らなかったら、そのときは自分で好きなように生きるようにと伝えた。そしてそれから一週間後、獣人国は遂にエルフ国へ宣戦布告し、ここに両国の戦いの幕が切って落とされた。
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