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第14話 隣国へ
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日暮れ時、ヴァイスがポーションを売って戻ってくるとリリカがヴァイスを出迎えた。
「おかえり……なさい……。ご……しゅじん……さま……」
リリカの表情はあまりパッとしていなかったが、そこまで沈んでいる様子もなかった。ヴァイスは意外だなと思いつつ、部屋へ入る。
「気分はどうだ?」
「へい……き……」
「そうか、それはよかった」
ヴァイスはそう言って、ローブを脱ぎ、外套掛けへと掛けてテーブルの椅子へと座る。
「もう気づいていると思うが、リリカの手足はもう再生を始めている。多分あと一週間ぐらいで元に戻るだろう。リリカの病も同様にすぐ治る」
「…………」
リリカはそれを聞いてもあまり嬉しい顔をしなかった。
「どうした? あまり嬉しくないか?」
「うれ……しい、けど……」
そう言ってリリカは言い淀んだ。ヴァイスもリリカの気持ちはわからなくもなかった。きっといきなりよくわからない生物に寄生された昨日のことが頭に残っているのだろう。
「昨日のあれが気になるのか?」
ヴァイスがそう言うとリリカはこくんと頷く。
「ふむ、昨日も言った気がするが、もう一度簡単に説明するとだな。あれは他の生物に寄生して、その生物を寄生生物へと変えてしまうものなんだ。つまりお前は既に寄生されてるから、徐々に寄生生物へと変わってしまう。しかし、その代わりに再生能力とか変異能力みたいなものを手に入れることができる。お前の手足が再生しているのもそのおかげってわけだ」
ヴァイスは得意げに説明した。するとリリカはそんなヴァイスを見ておずおずと言った。
「きせい……せいぶつって……まもの……ってこと……?」
「いや、魔物ではない。全然違う生き物だ。まぁ変異時の見た目は魔物に似てなくもないがな……。ただ、普段の見た目はエルフのままだ。安心するがいい」
ヴァイスはそう言った。
「なかみは……かわってしまう……の?」
リリカが悲しそうな顔をして尋ねた。
「それはよくわからない。寄生生物になっても人格や記憶はもとのままだ。ただ気持ち的に変わることはあるかもしれん。でもそれを言ったら普通の人間だって生活をしてるうちに気持ちは変わるし、性格だって変化している」
ヴァイスはそう言って肩をすくめる。寄生生物になると、マスターであるヴァイスを崇拝するようになるという面についてはヴァイスは黙っていた。言わなくていいことは言わないのがヴァイスの信条なのだ。
「………………」
リリカはそれを聞いて複雑そうな顔をしていた。
「何か身体に変化があったらすぐに報告してくれ。それからリリカの手足が再生して動けるようになり次第、この街を出発する。もう結構稼いだしな。それと、この実験が終わったらお前を解放するつもりだが、それは当分あとになるかな。それまでは俺に付き合ってもらおう」
「……わか……り……まし……た……。ご……しゅじん……さま……」
リリカはそう言った。リリカには現状ではヴァイスに付いていく以外の選択肢はなかった。
その後、一週間も立たないうちにリリカの手足は再生した。初めて杖なしで自分の両足で立った時には、リリカは感極まったのか涙を流して喜んだ。
「ぐすっ……ぐすっ……ごしゅじん……さま……これ……」
「……ふふ、もう完全に再生したようだな」
ヴァイスはそう言いながらリリカの再生した手足を見た。普通の手足だったが、ヴァイスはそれが明らかに寄生生物を宿しているのを感じた。
「歩けるようになったら今後はお使いにも行ってもらうぞ。それからたまには食事なんかも作ってもらう。いいな、リリ――うおっ」
ヴァイスが自身の台詞を言い終わる前に、リリカがヴァイスへと抱きついた。ヴァイスは「!? お、おい、どうした……」と困惑しつつも、リリカはしばらくヴァイスにくっつくことをやめなかったのだった。
それからリリカはヴァイスの手伝いとしてたびたびヴァイスと一緒に外に出るようになった。表情も明るくなり、奴隷市場で虚ろな目をしていた時のような暗さは全くなくなった。これが本来のリリカなのだろうかとヴァイスは思った。
いや、あるいはリリカと同化している寄生体がリリカの精神を安定させているのか……。いずれにせよ、ヴァイスにとってはリリカが元気なのは都合がよかった。
リリカが歩けるようになり、ポーション販売で得た資金も相当貯まったので、ヴァイスはエスティナが滞在している隣国を目指して出発することにした。ヴァイスはリリカには自身の境遇や目的は伝えていなかったが、基本的には『巨悪を倒すための旅』をしているということにしていた。リリカは半信半疑であったが、それ以上詮索することはなかった。
国境は現在いる街からはそう遠くはなかった。国境を超えたらそこはいよいよエスティナが滞在している国だ。あとは現地で情報を集めて、エスティナの滞在先を突き止め『復讐』を遂行するのみ。
(くくく、エスティナよ、すぐにそっちまで行くから待っていろ……)
ヴァイスは心の中でそう呟き、ニヤリと笑った。リリカは一人で笑っているヴァイスを見て、少し困惑した顔をしていた。
「おかえり……なさい……。ご……しゅじん……さま……」
リリカの表情はあまりパッとしていなかったが、そこまで沈んでいる様子もなかった。ヴァイスは意外だなと思いつつ、部屋へ入る。
「気分はどうだ?」
「へい……き……」
「そうか、それはよかった」
ヴァイスはそう言って、ローブを脱ぎ、外套掛けへと掛けてテーブルの椅子へと座る。
「もう気づいていると思うが、リリカの手足はもう再生を始めている。多分あと一週間ぐらいで元に戻るだろう。リリカの病も同様にすぐ治る」
「…………」
リリカはそれを聞いてもあまり嬉しい顔をしなかった。
「どうした? あまり嬉しくないか?」
「うれ……しい、けど……」
そう言ってリリカは言い淀んだ。ヴァイスもリリカの気持ちはわからなくもなかった。きっといきなりよくわからない生物に寄生された昨日のことが頭に残っているのだろう。
「昨日のあれが気になるのか?」
ヴァイスがそう言うとリリカはこくんと頷く。
「ふむ、昨日も言った気がするが、もう一度簡単に説明するとだな。あれは他の生物に寄生して、その生物を寄生生物へと変えてしまうものなんだ。つまりお前は既に寄生されてるから、徐々に寄生生物へと変わってしまう。しかし、その代わりに再生能力とか変異能力みたいなものを手に入れることができる。お前の手足が再生しているのもそのおかげってわけだ」
ヴァイスは得意げに説明した。するとリリカはそんなヴァイスを見ておずおずと言った。
「きせい……せいぶつって……まもの……ってこと……?」
「いや、魔物ではない。全然違う生き物だ。まぁ変異時の見た目は魔物に似てなくもないがな……。ただ、普段の見た目はエルフのままだ。安心するがいい」
ヴァイスはそう言った。
「なかみは……かわってしまう……の?」
リリカが悲しそうな顔をして尋ねた。
「それはよくわからない。寄生生物になっても人格や記憶はもとのままだ。ただ気持ち的に変わることはあるかもしれん。でもそれを言ったら普通の人間だって生活をしてるうちに気持ちは変わるし、性格だって変化している」
ヴァイスはそう言って肩をすくめる。寄生生物になると、マスターであるヴァイスを崇拝するようになるという面についてはヴァイスは黙っていた。言わなくていいことは言わないのがヴァイスの信条なのだ。
「………………」
リリカはそれを聞いて複雑そうな顔をしていた。
「何か身体に変化があったらすぐに報告してくれ。それからリリカの手足が再生して動けるようになり次第、この街を出発する。もう結構稼いだしな。それと、この実験が終わったらお前を解放するつもりだが、それは当分あとになるかな。それまでは俺に付き合ってもらおう」
「……わか……り……まし……た……。ご……しゅじん……さま……」
リリカはそう言った。リリカには現状ではヴァイスに付いていく以外の選択肢はなかった。
その後、一週間も立たないうちにリリカの手足は再生した。初めて杖なしで自分の両足で立った時には、リリカは感極まったのか涙を流して喜んだ。
「ぐすっ……ぐすっ……ごしゅじん……さま……これ……」
「……ふふ、もう完全に再生したようだな」
ヴァイスはそう言いながらリリカの再生した手足を見た。普通の手足だったが、ヴァイスはそれが明らかに寄生生物を宿しているのを感じた。
「歩けるようになったら今後はお使いにも行ってもらうぞ。それからたまには食事なんかも作ってもらう。いいな、リリ――うおっ」
ヴァイスが自身の台詞を言い終わる前に、リリカがヴァイスへと抱きついた。ヴァイスは「!? お、おい、どうした……」と困惑しつつも、リリカはしばらくヴァイスにくっつくことをやめなかったのだった。
それからリリカはヴァイスの手伝いとしてたびたびヴァイスと一緒に外に出るようになった。表情も明るくなり、奴隷市場で虚ろな目をしていた時のような暗さは全くなくなった。これが本来のリリカなのだろうかとヴァイスは思った。
いや、あるいはリリカと同化している寄生体がリリカの精神を安定させているのか……。いずれにせよ、ヴァイスにとってはリリカが元気なのは都合がよかった。
リリカが歩けるようになり、ポーション販売で得た資金も相当貯まったので、ヴァイスはエスティナが滞在している隣国を目指して出発することにした。ヴァイスはリリカには自身の境遇や目的は伝えていなかったが、基本的には『巨悪を倒すための旅』をしているということにしていた。リリカは半信半疑であったが、それ以上詮索することはなかった。
国境は現在いる街からはそう遠くはなかった。国境を超えたらそこはいよいよエスティナが滞在している国だ。あとは現地で情報を集めて、エスティナの滞在先を突き止め『復讐』を遂行するのみ。
(くくく、エスティナよ、すぐにそっちまで行くから待っていろ……)
ヴァイスは心の中でそう呟き、ニヤリと笑った。リリカは一人で笑っているヴァイスを見て、少し困惑した顔をしていた。
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