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第7話 寄生生物ティート

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 数日後、ヴァイスはティート一行が村にやってきたのを確認した。小さな村だったので、中央の通りを見張っていれば誰が村にやってきたかはすぐわかった。ティートの他には神殿騎士と思われる男が三人、ティートに付き添っていた。

 ティート一行は、ヴァイスが泊まっているのと同じ宿へとやってきて今日の宿泊の予約をした。村には宿が一つしかなかったので、ヴァイスと同じ宿に泊まることになるのは必然だった。ティート一行は、宿の予約をした後は村から出てどこかへと行ってしまった。きっと薬草を取りに行ったのだろうとヴァイスは思った。

(ティートたちは今日はこの宿に泊まるだろうが、明日の夜もこの宿に泊まるかどうかはわからないんだよな。となれば、やるのは今夜か……くく、楽しみになってきた)

 ヴァイスは期待に胸を踊らせてティート一行が帰ってくるのを待った。


 日も暮れる時間になると、ティート一行は村へと帰ってきた。そのまま宿にやって来て、宿の食堂で夕食を取る。ヴァイスも同じように食堂で夕食を取り、ティートたちの会話を盗み聞きした。どうやら薬草は十分取れたらしく、明日の朝には村を出るようだった。

 夕食を取った後は、ティートと神殿騎士たちは別々の部屋へと向かった。ティートが一人部屋というのはヴァイスにとって非常に都合がよかった。ヴァイスは夜が更け、ティートたちが深い眠りへと落ちるのを待った。

「そろそろか……?」

 誰もが寝静まる時間になると、ヴァイスは行動を開始した。まず、窓を開け、ティートが泊まっている部屋の明かりを確認する。ティートの泊まっている部屋は二階にあり、ちょうどヴァイスの泊まっている部屋から三部屋ほど隣にあった。ティートの部屋は真っ暗で明かりは付いていなかった。どうやら既に就寝しているようだ。

 それを見てヴァイスはニヤリと笑うと、できるだけ音を立てずに部屋を出て、ティートの部屋へと向かった。ティートの部屋の前まで来ると、錬金術によりあらかじめ複製しておいたマスターキーを扉の鍵穴へと差し込む。キーを右に回すと、カチャリと小さな音を立てて鍵は開いた。ヴァイスは静かに扉を開け、中に入ると扉を締め鍵をかける。部屋の中ではティートがすぅすぅと穏やかな寝息を立ててベッドで寝ていた。薬草取りで疲れていたのか、かなり熟睡しているようだ。

 ヴァイスはそれを見て笑みを浮かべると、懐から寄生体の入った瓶を取り出す。ヴァイスは瓶の蓋を開け、中の寄生体をそっと床へ出した。すると、寄生体はすぐに細胞分裂を始め、どんどん大きくなっていく。やがて、寄生体は左右に三つずつの合計六つの足を持った平べったい肉塊のような姿となった。裏側には口のようなものが付いていて、さながらヒトデの裏側のようだった。ヴァイスが寄生体に合図をすると、寄生体は六つの足を使って静かにティートへと近づいていく。

――そして、寄生体はティートのすぐそばまで来ると、ティートの顔面へと飛び乗った。寄生体はすぐに六本の足をティートの後頭部へ回し、がっちりとティートの顔に取り付く。異変を感じたのか、ティートはすぐに目が覚め、起き上がった。ティートは自分の顔に張り付いている正体不明の物体を認識すると、両手で必死に引き剥がそうとする。しかし寄生体はティートの頭をしっかりと掴んでいて、全く剥がれることはなかった。そうこうしているうちに寄生体はティートの口の中に無理やり太い管のようなものを挿入し始める。

「ッ~~~~!!」

 ティートは叫ぼうとするが、寄生体に顔が覆われて口内に管が挿入されている状況では全く声を出すことはできなかった。寄生体はティートの体内まで管を通すと、その先からヌメヌメとした寄生細胞を送り込み始めた。ティートの体内へと侵入した寄生細胞は次々と周りのティートの細胞を同化させていき、急速にティートの身体を侵蝕していく。すると、ティートは身体をびくんびくんと痙攣させ、苦しそうに胸を手で引っかき始める。

「ッ~~~~!! ッ~~~~!! ッ~~~~!!」

 何度も叫ぼうとするも声が出ることはなかった。その間、寄生細胞はティートの身体に根を張り、ティートを寄生生物へと変えていく。……しばらくすると、ティートは静かになり今度は手足をだらんとさせた。役割を終えたのか、寄生体はティートの顔面から離れヴァイスのもとへと戻ってくる。ヴァイスは寄生体を再錬成し、元の小さな肉塊へと戻すとそれを筒の中へと入れ懐にしまった。ヴァイスはティートの様子を確認するためにティートへと近づく。

……ティートはだらしなく口を開けてよだれを垂らし、目は見開いて充血している状態だった。しかし、その目にはすぐに爛々とした光が宿った。寄生が成功した証だ。ティートはゆっくりと自身の身体を起こした。

「気分はどうだ?」

「……最高の気分です、マスター」

 ティートはヴァイスの方を向くと、そう言って笑みを浮かべた。寄生生物を人間に寄生させるのはこれが初めてだったが、特に問題なく寄生は成功したようだった。

「そうか、それはよかった。無事、寄生が成功して何よりだ」

「……もう、寝ているところをいきなり寄生させるんですからびっくりしましたよ!」

 ティートはそう言って頬を膨らませた。

「それは仕方ないだろう。周りに気取られる訳にはいかないからな」

 ヴァイスはそう言って肩をすくめる。ティートはそんなヴァイスを見て「もう」と小さく呟いた。

「それで、さっそくなんだが少し君の力を見せてもらってもいいか?」

「――ええ、もちろんです」

 そう言うとティートは右腕を前へと突き出す。するとティートの右腕はビキビキと変化していき、長い鋭利な刃へと変わった。

「ふふっ、どうですか、私の身体?」

 ティートはそう言ってヘビのように舌を伸ばし、刃をチロチロと舐める。

「――素晴らしい」

 ヴァイスは思わず感嘆の声を発した。基本的に寄生生物となった個体は何かしら自分の身体を変化させる能力を持つが、人間の場合でもそれは変わらないようだった。その後、ヴァイスはティートの身体を詳しく調べた。ティートの身体の組織は完全に寄生生物のそれとなっていた。もはやティートは人間ではなく、寄生生物へと生まれ変わっていたのだった。

 ヴァイスはティートと少し話をしつつ、今後のことについて話題を振った。

「それで、これからのことなんだが……」

「……わかっていますよ、マスター。ルーフィも私と同じように寄生生物にするということでしょう? だから私に最初に寄生させた」

 ティートはそう言った。ティートは寄生生物らしく、マスターであるヴァイスの意思をある程度読み取ることができた。

「その通りだ。ティートはルーフィとこれまで通り接してくれ。それて、ちょうどいい時が来たら――」

「ルーフィを襲っちゃうわけですね! ……ふふ、それは楽しみです。ルーフィもこの身体になればきっと喜ぶわ……。ああ、早くルーフィも私と同じにしたい……」

 そう言ってティートは恍惚とした表情を浮かべ、身悶えする。

「ところで、ティートは自分で寄生体を生み出せるのか?」

「はい。造作も無いことです」

 その言葉を聞いてヴァイスは喜んだ。寄生体によって寄生され、寄生生物となった個体は自身も寄生体を生み出すことができる個体とできない個体に分かれる。ヴァイスは自身で寄生体を生み出せる寄生生物をより上位の種と定義していた。

 ティートは自分で寄生体を生み出せると言ったので、彼女は上位の種で間違いなかった。寄生体によって寄生された生物が、自身も寄生生物となりさらに寄生体を生み出す――――そうやって寄生生物はどんどん増えていく。この寄生生物らしい特徴を持つ個体こそ上位の種に相応しいとヴァイスは考えていた。

「わかった。ではまた街に戻ったときに会おう。それまでは特に何もすることはなく、今までどおり自然に振る舞ってくれ」

「はいマスター、了解しました」

 ティートはそう言った。ヴァイスはティートの部屋を後にし、自分の部屋へと戻った。ヴァイスはティートを寄生生物にすることができてとても満足だった。ルーフィは自分と最も仲がいい侍女であるティートが既に寄生生物になっているなんて思いもよらないことだろう。ヴァイスは笑みを浮かべながらベッドの中で眠りへとついた。
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