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95話ー1 ひ、一人で行けるもん!!
しおりを挟む「ん~?」
「どうしました?」
「うん。そういえば最近ベイカーを見ないなあって」
いつもなら、この状況でのボケにツッコミにとマルチに対応するベイカーをこのところ見ない気がする。まあ、最近はひよこ親衛隊つーか、近衛騎士団の技量向上やらにも携わっているようだし、メイド隊がほぼほぼコンサート準備にかかりっきりな分そっちの方に回っているのかな。
なんて思っていたら。
「ベイカーならこの一週間ずっと廃兵院です。毎日、慰労チームに同行していますよ」とグリセンティ。
なんと、まさかのサボリというわけか。
「ははあ~ん、さてはアイツも上映会にハマったか」
まあ、アイツも基本的には俺の同類ーー職業『遊び人』だしなあ。ってコッチの勇者の仲間にそんな職業は無いのかな? それじゃあどうやって『賢者』になるんだよ……つか、誘えよな!
などと、勝手に決めつけて一人納得していると、グリセンティから意外な言葉が返ってきた。
「違います!」
え、グリさん、ちょっとムキになってないか?
「廃兵院の患者さんの介助とか、リハビリの補助に勤しんでます。それはもう大霊廟での義雄様とつるんでのダメっぷりが嘘のように!」
なにそのいい子ぶりっ子! ちゅうか、俺、遠回しにディスられてない?
「なんでまた……」
乱高下する俺の中のベイカー株価。むう、らしくない! らしくないぞ!
「廃兵院の患者さんには知り合いも多いみたいです。ベイカーは本来の所属は近衛騎士ですし、患者さんの多くが魔獣討伐や公務中の負傷で引退を余儀なくされた騎士や兵士の方達ですから、少しでも助けになりたいと」
「好感度アップです!」
「なんか、印象変わったよね~」
「べ、彼はやる時にはやるんです!」
「グリちゃんの」
「言う通り」
グリセンティ、普段なら目が曇っただの、ノロケかよといじるところだが、この場ではベイカーの好感度に見事なバフをかけている。ふん、ベイカーの事をよくご存知ですねぇ、なんて言ったら……うん、言わない。
とはいえ、チィ! 『不良が雨の中、子猫を拾っちゃった効果』も相まって皆の中のベイカー株がストップ高だ! いかん、これでは対比される俺の評価がダダ下がり、いや、すでにこの場の空気が針のむしろだよ!
で、とどめの一言。
「おとうさんはおしごといかないの?」
や、やめて、ピュアなひよこの眼差しが刺さるから! 素直な言葉が抉るから!!
「さ、さて、俺もそろそろ廃兵院の様子を見に行こうかな……」
「義雄様、お伴しましょうか?」
「ダメですよエイブル様、退路は残しておくべきです」
エイブルさんや、ええ、わかってますともってな顔で追い討ちをかけないで下さいな。グリさんも言ってる事はフォローっぽいけど十分に追い込みかけてるからね!
「ひ、一人で行けるもん!!」
こうして俺は不利な戦況から、華麗に転進。ベイカーのいる廃兵院へと逃げ出ーー向かったのである! 決して逃げ出した訳では無いのである。
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