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94話 「このべんべんと」ベンベン♪ 「このべんべんは」ベンベン♩ 「違うんだぞ~」

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 廃兵院に関わって一週間が経った。

「ーー以上が廃兵院の経過報告となります」

 ルイスの診察の報告はなかなか良好な内容だった。日々の診察でのメンタルカウンセリングに合わせて『ガンバー』と『オテアテ』を併用し患者自身に身体の変化を実感させる事で彼らの心身に希望の芽を植え付ける事に成功しているようだ。

 これにより、『ガンバー』で基礎体力を底上げした患者の中からは積極的にリハビリに取り組む者が増えたそうだ。加えてミニシアターを観るという目的を持ったことで日々の生活に主体性を持つものが増えたという。積極性が出てきたのはいいことだよな。

 今日の上映を熱く語り、明日の上映に期待を膨らませる患者達。主人公に感化され不屈の闘志に涙し、なにかを掴んだ者。

 結果、廃兵院の中に漂いがちな陰鬱な空気が消え、それがさらに周りに良い影響を与えているそうだ。うん。予想以上の効果だと思う。

 さらに、ヴィラールとペロサの出店した屋台も好評だ。らーめんやカレーの新食感、味覚への強烈な刺激は、病院食よって鈍らされた味覚を呼び覚まし、入院時に陥りがちな『楽』の喪失から患者達を立ち直させるのに大きく貢献していると確信している。

「食事の効果も侮れませんね」
「だろうねー」

 大体俺の前世でもそうなんだけど、病院食ってある種に拷問だよ。俺目線で言わせてもらうが入院した患者のための食事が皮肉な事に患者の生きる気力を奪うのだよ! 栄養バランスという名で極限まで減らされた肉、優しい~味とか言うけど、どこに行った塩! これは病気に限らず怪我で入院しても同じなんだよ。病院食のカレースープ? 違うね、あれはカレー出汁のお湯だね!

「なんか思いつめた顔してますよ義雄様……? 概ね患者の皆さんの気力が回復しています。義雄様、これは魔法ですか?」
「魔法じゃないよ。魔法に例える人もいるけどね、人の本来持つ力だよ」
「奇跡の力ですね!」
「あはは」

 ルイス、フツーに廃兵院での上映会にハマっているなあ。まあ廃兵院に毎日詰めているからそうなるよね。

「そういやあコンサートの方なんだけどさ……」

 最近、通常業務中にふと気づくと、メイド達の口ずさんでいるのがZやトップのオープニングや劇中歌だったり、毎回見てるから大概覚えた? リフレッシュタイム導入以来、メイド隊も少なからずも影響受けてるよなあ。



 で、準備が進む『ひよこちゃん♪』のレッスンは大慰霊祭の特訓を彷彿させるものだった。つか、カオスと化していた。そう、印象はオーケストラとロックバンドがコラボしてセッションしたら新感覚。みたいな。うーん……なんか異様な音楽ブームがメイド隊で巻き起こっていた。楽器を嗜んでいるのは一部の者だと聞いていたが、最近では皆がなにがしかの楽器を手にしている。アーティファクトの楽器にこだわるというわけでは無いようで、皆がそれぞれに好みの楽器を奏でている。これがまた日に日に上手くなっているのだ。メイドの加護? マルチサポートが発動してんのか?

 こっちの世界の楽器は、ハープっぽいのやリュートっぽいのがあって、まあそんなもんじゃね? って感じの物だった、他も竪琴や横笛などの舞踏会なんかで演奏されているやつ。トランペットなどの金管楽器は……こっちには無いのな。

 へえ……ノボはシンセサイザー使うんだ。サイガ、エレキギターを振り上げて何をするつもりだ? まさかと思うけどそれは床に叩きつけるもんじゃないぞ。あと、ダイブ禁止な。患者さんにボディプレス決めてどうしようと?  怪我をふやすんじゃないよ。私そんなに重くありません? そう言う問題じゃありません!

 ダメ出しをくらったサイガは頬を膨らませながら傍のバイオリンに手を伸ばすとそれを咥えて……いや、齧ってる?

 ~♪

 弾いてるし! 狼獣人の特徴でもある犬歯を小器用に弦に当ててちゃんと(いや、ちゃんとじゃ無いか)弾いているのだ。

よふぃおはま! ひへはいひは、ほのよほなひひははほはるのふぇふへ!義雄様! 異世界にはこのような弾き方もあるのですね!
「よしなさい」

 だからサイガ……歯で弾くのは、パフォーマンスであって、音楽性があるかは微妙だと思うぞ。あとそれ、ストラディなんちゃらって言う凄いお高いバイオリンだからな。

 しかし、音楽ってすごいよな。一部のとがった連中、主にサイガを軌道修正すれば、俺の見る限りでも完成度は十分なレベルだと思う。

「うーん……」

 そんな場の空気に少し感化されてしまったようだ。俺は大霊廟で見つけた三味線を手に取ると、レッスンを終えて一息ついているひよこのところへ行く。

「ひよこ~」
「なあに?おとうさん?」
「このべんべんと」 

 ベンベン♪

「このべんべんは」 

 ベンベン♩

「違うんだぞ~」
「??」

 ん~? と小さく首をかしげるひよこ。まあ意味はないよ、たまたま見つけたからやらずにはおれなかった。すいません。ちょっとしたネタです。いや、異世界どころか元のの世界でもマイナー過ぎて分からんかも。

「義雄様も演奏が出来るのなら、演奏に加わられては……」

 そんなやりとりを傍で見ていたエイブルがとんでもない事を言いだした。いや、無理だから。

 ひよこちゃん♪奇跡ミラクルコンサートまで残すところ一週間です。





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待っていてくださった皆様。お待たせしましたm(_ _)m
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