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82話 ゲームは一日、一時間です

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 いつのまにか背後に立つエイブルさん。いい感じでTVモニターの灯りが彼女の顔を照らしあげてーーコワイコワイ!! 怖いから! マジで美人がやるとゾンビやスプラッタとかの衝撃的な恐怖と違って、そういうのは怪談のような背すじを凍らせるような恐怖を内の方から湧き上がらせるんだよ!

「な、なんでエイブルさんが……ここに?」
「『なんで』は、こちらのセリフです! メリーさんに言われて来てみれば……」
「やほー♪」

 ぐっ、メリーさん、何エイブルさんにチクってんだよ。恨みがましくメリーさんを見上げると、ニヤニヤしてやがる。コイツはアレだ確信犯だ。

「……確かにメイド隊のみんなのオーバーワークを牽制する意味で、見張れとは言ったけどなあ、俺はそれに含まれていないぞ。そもそも俺に報告しろとは言ったけど、エイブルさんに言えとは言っていないはずだよな」
「そうよねー、だからこそ、おっさんの事はエイブルちゃんに報告したワケ」

 ちい、コイツの思考回路って俺に近いもんがあるよな。お陰で考えが読まれやすいというか……ホント、動きを止める神聖魔法とかお札が無いものか……なまじっか高位の、しかも英霊とか大概の事では効き目がなさそうだし。

「それで、こんな夜中に何をしていたんです?」
「う、え? それは……」

 TVモニターを覗き込むエイブルさん。そのまま怪訝そうな顔つきで俺を見つめる。ヤバイ、じっと見つめられると後ろめたさもあって目が合わせられない。

「ブレイブクエスト……ひよこちゃんのお勉強ですよね? でも、ひよこちゃんは眠ってますよ。 どういう理由でこんな夜更けにお一人で大霊廟にこもっておられるのでしょう?」
「そ、それは明日の予習をしておこうかな~って……」
「とにかく、言い出しっぺの義雄様がこれでは皆にしめしがつきません! えいっ!」

 プチっとTVのスイッチを切るエイブルさん。ああ~そんな殺生な~。

「さあ、お部屋に戻りますよ! お部屋までちゃんと送りますからね」
「はい……」
「まったく、夜中に乙女の寝室に忍び込むのが悪いのよ!ふ、『我が眠りを妨げるものに災いあれ』よ」

 腰に手を当て、したり顔のメリーさん。大霊廟はオマエの寝室と違うわ! だいたいどこのファラオだよ? つか、寝るんかい!?

 翌日。

「ゲームは一日、一時間です」
「……」
「ゲームは一日、一時間です」
「はい……」

 大霊廟執務室。定位置の俺の膝へと座り、ブレイブクエストの再開を待つひよこ。俺の背後では笑顔のエイブルさんが尋常じゃない圧をかけて来る。昨日までは『お勉強』と言っていたエイブルさんが『ゲーム』と言っている。誰だ、エイブルさんに入れ知恵したやつは……アイツか。

「えー、諸般の事情で俺とのお勉強時間はこうなった。ごめんな、ひよこ」
「だいじょうぶだよ! ひよこもおしごととか、おべんきょうとかすることたくさんあるもん。おとうさん、はやくきのうのつづきをしよ?」
「それなんだけどゴメン!」
「ん~?」

 俺は事態のわかっていないひよこにパスワードの入力を見せる。16文字のパスワード《ひぬてねーけこぐろーめぢさわーたるらん》を入力し、続けてスタートを押す。当然のように例の《じゅもんがちがいます》の画面が映る。

「おとうさん、昨日の復活の呪文を書き間違えたみたいなんだ……また、最初からやらなくちゃーー」
「『こ』だよ」
「ん?」
「『て』じゃなくて『こ』」

 そういうと入力画面に打ち込んだ俺のパスワードの三番目の文字を指差すひよこ。

「お、覚えているのか?」
「ん。おとうさん、だいじなじゅもんていってたもん。やられてもふっかつできるって」

 ひよこの言うままに三番目の文字を『て』に置き換える。《ひぬこねーけこぐろーめぢさわーたるらん》でスタートを押すと、おお!

 ♪~

 少ない音階で構成された電子音がブレイブクエストのオープニングを奏でると、昨日のフィールドへと画面が移動する。スゲーぜひよこ!

「よーし、続きだ! 今日もガンガンいこうぜ!」
「ゲームは一日、一時間。ですからね」
「うっ、……はい」

 エイブルかあさんは厳しいです。とほほ。



「ひよこちゃんを魔獣討伐ハイキングにつれていくんですか?」
「うん。そろそろ次の段階ーーひよこの中に生まれただろうイメージを具体化させようと思ってさ」
「イメージを具体化……新しい神聖魔法、ひよこ魔法ですか?」
「そうだよ。魔獣討伐ハイキングに怪我はつきものだろ? そういうシチュエーションが必要なんだよ」

 ブレイブクエストをプレイし始めて二週間。ゲームそのものはまだ終わっていないが、最近はコントローラーをひよこに渡し、俺はピンポイントでのアドバイスをするに留めている。いまエイブルさんと話している時もひよこはモンスターとの戦闘をそつなくこなしている。

 そろそろ実際の現場を経験させる事でブレイブクエストで身についた感覚を現実に反映させれば、これまでのひよこ魔法の習得の流れを考えるに、新魔法の生まれる可能性は高い。

「はあ……」

 あれ? エイブルさん、あんまり乗り気じゃなさそうだなあ。

「わざと怪我をさせるとかじゃ無いよ、それじゃあひよこの教育に良く無いと思うし……」
「いえ、そういう理由では無いのです。今のメイド隊の実力では、魔獣に傷を負わされる事自体がありえないので……」
「へ?」
「その、メイド隊のメンバーは持ち回りで魔獣討伐ハイキングに参加しています。最近では基本の討伐チームはツーマンセル、二人一組での編成で十分で……」
「どこの特殊部隊だよ!」

 俺がへらへらと日がな過ごしていた間も彼女たちは切磋琢磨し続けていたんだそうで。仕方がない、他をあたるしかないか。適当なメンツ……あ、いるわ。

「エイブルさん、ベイカーを呼んできてくれる?」
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