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第32話 当たってる!当たってるから!

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「ありがとうございます義雄様! 世界が、世界がこんなに広いだなんて! こんなに綺麗だなんて!」
「今見えてる世界は全部お前のものだ。もう怖がる事も立ち止まる事も無いぞ。おもいっきり、お前の思うままに駆け抜けろ」
「よじおざぶぁああぁぁっっ!!」
「ふぉおっ!」

 俺にがっつり抱きついてぐりぐりと俺を締め上げるノボリト。さ、さすがドワーフなんという膂力! え、ちょノボリト! お前の大きい胸がピンポイントで俺の……当たってる!当たってるから! 揉むなあ! 揺らすなぁ!

「ずびぃいぃぃぃぃっ!!」

 んん?

「ノボリト! ……お、お前! 今、俺で鼻かんだだろ!」
「ずびぃびびー!」
「やめえええぇれぇぇぇっ!」

 ☆

「えへへ」
「えへへじゃねーよ、全く。鼻の頭が真っ赤だぞ」

 ノボリトの赤くなった鼻の上にはデザインこそ無骨だが俺のかけてやったメガネが乗っかっている。なんか、昔漫画で見たマッドサイエンティストみたいにも見える。
 くせっ毛のある栗毛の髪、丸みをおびた少女顔にはコレは似合わないかなぁ。いやいやメガネ補正をなめたらアカン。それに大霊廟にあるアーティファクトを使えば、いずれはもう少し可愛いメガネも作れるように……!

「ハッ!」

 俺は気づいた。

 この世界に今、真祖メガネっ娘が誕生した事に! もちろん異世界転送されてきた連中はノーカンで。
 ネックはこれが今のところノボリトしかいない事だが、量産化できれば革命が起きる! かも。

「メガネ革命…… って、勇者のする事ではないわなあ」

 あ、そうだ。コレもノボリトに渡しておこう。メガネが見つからなかった時の保険程度にと思っていたヤツだ。俺はポケットから懐中電灯を取り出した。

「ノボリト、これもやるよ」
「コレはなんですか義雄様?」
「ああ、メガネ探すときに見つけたんだ。魔法陣が小さいと大きな魔法は発動出来ないって言ってたろ? でも目が悪くて大きい魔法陣が組めないって」
「はい。そうです。魔法の威力上昇、高位魔法の発動は魔法陣の大きさと精度が関わります。でも今の私なら既存の魔法陣の半分くらい、いえ、2割くらいの大きさで組めます!」
「あっちゃ~。じゃあもう役に立たないかな」

 俺が手にしていたのは普通の懐中電灯だ。ノボリトの前でスイッチを押して灯りをつけた。その光景に驚き、すぐさま興奮気味に食いつくノボリト。

「光りました! コレは義雄様の世界の光魔法を発動させるアーティファクトですか?」
「うーん、そうなるかなあ。俺のいた世界は魔法が使えないって言ったろ。コレは魔法の、いや、魔力の代わりに電気の力を使うんだけどさ」

 説明をしながら、俺は懐中電灯を分解していく。中から単一電池が二本出てきた。
 ノボリトが興味津々に身を乗り出して俺の手の先を見つめる。

「この中から出てきた棒はなんですか?」
「これは電池だ。ある意味、俺の世界の魔法陣? かな。魔力の代わりに電力ーー電気の力があらかじめ、込められている」
「ほえええ~」

 さらに発光部のカバーを外し電球を取り出す。

「これは?」
「これはこの世界で言うところの光魔法の発動部分だ。魔法の杖とかについてるだろ? アレみたいなものかな。ただし光る事にしか使えないけどな」
「ふむふむ……魔核コアかな? 用途は色々ありますが素材次第でしょうか」

 俺は手にした銅線を電池と繋ぎ電球を光らせる。

「ああっ! 光った!」
「魔法は使ってないけど魔法と同じことが出来るんだ。ただし俺が見せたいのはこれそのものじゃ無くてこれだ」

 ノボリトの前で電球につないだ電池を一つから二つにする。電球はより強く光り輝いた。

「これは……」
「電池を二つに重ねた事で光が強くなったろ?」

 理科の授業で言うところの直列繋ぎだ。

「魔法の使えない俺たちの世界がこれを作った。でも、魔法にはこれ以上のことが出来る。だからこそ……ノボリト、さっきのメダル貸してくれ」
「は、はい! どうぞ」

 俺はノボリトから先程の光魔法陣と火魔法陣の刻まれたメダルを電池のように重ねて見せる。当たり前だが何も起きない。いや、起きる可能性が無いわけじゃあない。

 だけど

 ノボリトの瞳がメガネ越しに大きく見開かれるのを俺は見逃さない。

「魔法陣の直列配置……」

 何かを得たのだろう、呟くノボリトに俺は手にした魔法陣メダルを返した。

「ノボリトに俺からやれるもう一つの贈り物だよ」
「あ、ありがとうございます!! 私、私頑張ります!!」

 ☆

「ズルイです………」
「ヒェ!」

 背後でボソッと呟く声に振り返った俺は正直言ってビビった。
 大霊廟内の書棚の陰から半身でこちらを見つめるエルフメイドのナカノ。コワイ! 綺麗系のお姉さんがやると心底コワイから!!

「ど、どうしたナカノ? お前そんなキャラじゃないだろ!?」
「だって……エイブル様はいつも義雄様と御一緒だし、ヴィラールとペロサはお料理で大活躍……ノボリトまであんなに構ってもらって……」

 涙目でウルウルされても今のお前がやるとホラー映画のタイトルしか思い浮かばないだろ! そんな姿、他の娘が見たら気絶するぞ。

『ナ カ ノ』

 うわぁー 名前だけでフツーにコワイよ。どうにかしなければ!

「そ、そうだ! コレ、お前にやろう!」
「えっ?」

 ノボリトのアーティファクトを探しているときに見つけて、何気にポケットに入れてたものだ。
 俺はソレをナカノにかけてやる。途端にナカノのテンションが跳ね上がる。

「ウフフ♡ 義雄様から手ずからいただきました!」
「そ、そうか、そんなに喜んでくれて俺も嬉しい……ぞ」
「みんなに、みんなに見せてきますね!」

 えっ?

 止める間もなくスキップしながら駆け出すナカノ。

「どうしてくれるんですか……」
「ヒェ! え、エイブルさん?」

 背後にはいつの間にやらエイブルが半目で立っていた。なんだよメイド隊! 隠密スキルでも標準装備してるのかよ!?

「あの子、すごい素直なんですよ……あとでどれだけ落ち込むか。責任とって下さいね」
「……」
「ところで、アレなんですか?」

 嬉しそうにみなのもとに駆け寄るナカノの顔には【鼻メガネ】。一応アーティファクトだけど……なんなんだろうね。

【鼻メガネ】
 そのインパクトから装着者の正体を完璧に隠蔽するが、知り合いには逆効果。
 以後、俺はソレをつけたナカノを見るたびに身を苛まれる事になった。
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