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第24話 ぬののふくとひのきのぼう。

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「うおっ!」
「良かった、お気づきになられましたか?」

 やべえ、川向こうに(神の)爺さんが見えたわ……なんで正座してたんだろう?
 見上げると、俺を囲んで、生暖かい目で見つめるエイブル、ベイカー、メイドの皆さん。

「ふう、まさかこんなところで呪いの兜をかぶる事になるとは……」
「いえ、普通のオーバーヘルムです」
「……くそ、なぜだ?」
「なぜって……その」

 気まずそうに言葉を濁すエイブルに代わりベイカーが口を開く。

「おそらくレベルでしょうねえ」
「レベル?」
「義雄様、ここに来てなにもしてないでしょ? 多分勇者レベルは1のままですよ」
「いやいや! 俺勇者だよね!? 装備できないってどういう事?」
「勇者専用の物とかなら勇者補正で装備出来るでしょうけど、普通の装備の場合は別ですよ。出来るとか出来ない以前に、基本体力が無いからじゃないですか」

 ガガーン!!

 10年を超える社畜生活。体力的に衰える一方のリアルの俺を考えれば鎧なんて付けて動けるわけもないが、勇者補正とかで……いや、それ以前の問題という訳か、だがしかし……レベル1というのは納得がいかん。

「いや、俺色々やったじゃん!」
「ラーメン作ってレベルが上がりますか?」
「日がな遊んでレベルが上がりますか?」
「……」

 ハイソーデスネ。スイマセンジブンチョーシコイテマシタ

「となると、今の義雄様に似合う勇者らしい衣装といえば……ベイカーおねがいできますか?」
「ふっ、お任せを、ひとっ走りして揃えて来ます!」

 ーーそうしてこうしてこーなったーー

「おい君達、これはいったいどういう事だね?」

 渡された装備を身につけて皆の前に立つと、おーっと感嘆の声が上がる。なるほど、これはアレだ、勇者の定番コーデとして有名なやつだ。

【ぬののふくとひのきのぼう】

「なんだよこれ! は◯かの大将かよ! いや古っ! ええ歳こいたおっさんだぞ俺、それがぬののふく?  ひのきのぼう? ぼ、ぼくはゆうしゃなんだなって言わすな!!」
「義雄様、言ってる意味がわからないです。はだかの○将って義雄様の世界の将軍ですか?」
「あ、いやゴメン興奮してしまった。でもこれは……無いんじゃない?」
「だ、大丈夫です! レベルさえ上がれば……」
「よ、義雄様、ドンマイ!!」×メイド達

 うう、なぐさめになってねー

「装備は決まりましたから、次は勇者としての実力です」
「えっ? まだやるの?」
「ご安心ください義雄様! 我々が全力フォロー致します!!」
「よろしくお願いします……」
「それでは時間もありませんから、手っ取り早くレベルとやらを上げちゃいましょう!」
「ええっ!?」

 一体何をやらされるんだろう。ドキドキが止まらない。



「ヤッホ~♪」
 口元に手を添え、サイガが元気よく叫ぶ。
「ヤッホー♪」
 続けてナカノが良く通る澄んだ声で叫ぶ。

「何やってんだよ……」

 そんな二人を半目で睨む俺。

「しいっ! 義雄様、耳を澄ましてください。ほら、聞こえるでしょう?」

 イマイチどころか全然乗りきれない俺をたしなめるサイガ。でもな、二人の掛け声に返ってくるやまびこはここには無いぞ。返ってくるのはーー

『Gyaooooooooon!!』

 得体の知れない化け物の咆哮。
 ここは見晴らしの良い山の頂でもなければ、新緑に覆われた丘の上でもない。
 大森林地帯、深奥部。周囲を鬱蒼と生い茂る大木に囲まれた、緑の魔境に俺たちはいる。そう、ここは魔獣の跋扈するデンジャーゾーン。

「ふふっ、相手の力量も掴みきれないおバカな魔獣達が、まんまと私達の挑発に引っかかりましたね」
「そうだねえ~♪」

 ニヤリと口角を上げる二人。ナカノさん、サイガさん、スッゲー悪い顔に見えるんですけど?

「聞いてないぞ! ここで一体何をする気だ? それに、その格好はなんだ?」
「え? 義雄様のパワーレベリングです。ここは最強のパワースポットですから」

 パワースポットの意味が違う。キルゾーンじゃねーか。

「手っ取り早く勇者パーティーを組んで経験値を稼ぐんですよー」
「いや、だったらそのメイド服はなんだよ?」
「勇者パーティーで私達はメイドですよ。メイドといえばメイド服。ほかにあります?」

 ええ? そんな理由? それしか装備出来ないのか?

「まあ、メイドの武器は規定されていませんから、それぞれ得意なものを持ってきましたけどね♡」
「……」

 メイドが武器持って戦うなんて誰が考えるんだよ……
 ナカノはショートボウとショートソード。密林での取り回しを考え、小回りの効く装備にしたそうだ。

「その考えはプロ? プロだよね?」
「普通です。ええ、普通、プロなら誰でもそうします」

 サイガは大ぶりのナイフを二丁。俺の世界でグルカナイフとかいうチベット傭兵が好んで使うやつに似ている。魔獣相手に接近戦前提とかマジですか? 
 おれの杞憂を察したのだろう、サイガが笑顔で答える。

「大丈夫ですよお。遠かったら投げますから」

 エイブルはバスタードソードを腰に吊るしている。一見、常識的に見えるけど、それ、メイドさんの持つものでは無いよね?

「ご安心を、武技も一通り嗜んでおります」
「そんなものを『嗜んでおります』とか普通のメイドさんは言わないだろ? いや、そこじゃない。元は姫だよな?」
「ええ、姫ですから……ね♪」

 あれ? 姫ってソレ嗜むの? 当たり前なの?

 なんか物騒な得物を当たり前のように手にしたメイド達。まあ、不思議と違和感を感じないのは、俺もだいぶ『クールジャパン』に毒されているってところは否めない。武装メイドのレイヤーさんとかアリだもんなあ。

 それにひきかえ俺の得物はひのきのぼう。これでどうしろと? さすがにぬののふくはありえないので、大霊廟にあった戦闘服を着込んできたが、迷彩柄の服に棒を手にしたおっさんとか、元の世界ならまんま『いきったおっさん』だよ。通報されるレベルで痛々しい。街で会ったら回れ右して逃げるわ。

「盾役がいないねえ~、どうする?」
「瞬殺です。必要ないでしょう」

 なに言ってんだろうね、この子達。言っていることがおかしいよね。相手は魔獣だよね? 君たちメイドだよね。

「あなた達、何を言っているんですか。ここに何しに来たのですか?」

 エイブルが軽口を叩く二人をたしなめる。おおう! さすがメイド達の良心回路! 言ってやって、言ってやって!!

「トドメは義雄様ですよ! 私たちが倒したら意味がないでしょう?」

 え~っ? 良心回路が壊れてる?

「そうですね。なるべく瀕死のところで止めましょう」
「がんばって半殺しにしまーす!」
「ほらほら、来ましたよ。二人とも」

 メキメキと音を立てて左右にへし折られた木々の間から姿を現したのは、大きさがバス並みの巨大なトカゲだ。いやここまでデカイと普通に恐竜だよな! いや、まさかのドラゴンか!

「ええっ!? なんで、いきなりコイツ~?」

 その姿に驚いたように声を上げるサイガ。

「ついてませんね……」

 ナカノ? なに悲壮感漂わせてんだよ! ヤバイのか? コイツ、そんなにヤバイのか!?
 エイブルがバスタードソードを構えて俺の前に進みでると、振り向きざまに気まずそうに微笑む。

「すいません。こうなる事も考えない訳ではなかったのですが……」

 なんだよ! いきなり死亡フラグか? 『いのちをだいじに』で行こうよ!

「無理するな! 撤退しよう!」
「そうはいきません。アレを放っておくわけにはいきませんから」
「え……」

 このシチュはあれだ、中堅冒険者が不幸にも格上の魔獣に出くわして、それが森から出るのを防ぐために、最悪、時間稼ぎをする為に死を覚悟して戦いを挑むって、ファンタジーラノベの前フリ、真打ち登場前の前座、怪人に最初に殺される警備員の立ち位置だ!!

「行きます」
「ま、待」

 止める間も無く突撃するエイブル、ナカノ、サイガ。ヤメレヤメレ~!!

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