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第一章:僕らに慣れるまで

第一章:第三話【掃除予定】

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 ただの単語だけを言われて、それで何か行動をしろと言われても大抵の人はどうしたらいいのか全く分からないだろう。もしくはどうにか分かろうと頭を悩ませるくらいだろう。
 そして、今そんな状況に陥っている俺は必死に理解しようと思考を巡らせていた。


「部屋ってだけ言われてもだな......なにを伝えたかったんだ?」


 ついさっき、扉越しで菜美なみが『部屋』とだけ言い残して自室に戻っていったことに理解が追いつかず、部屋の中でウロウロしながら考えていた。
 しかし、幾ら考えても根拠がちゃんとした結論を出せない。どうしようか、と内心諦めかけていたところで、部屋の中に三回ほどノック音が響く。
 何だと思いつつ返事をすると、聞き慣れた声が耳に入ってくる。


「入るわよー?」
「え? ちょっ!」


 智美紀ちみきは何の躊躇もなく扉を開けて俺の部屋に入ってこようとする。その行動に思わず防御姿勢を取り、扉のドアノブを掴んで加えられている力とは反対方向に力を入れる。
 男女の力の差はしっかりとあり、男である俺の力が勝つと、バタンと音を立てて扉が閉まる。即座に鍵を掛けると、扉の向こうから文句を飛ばしてくる智美紀の声。


「何かやましいことでもあるのー??」
「断じてそんなことはない。ただ思春期真っ盛りの男子高校生の部屋に躊躇もなく入ってくるな」
「もーそんなこと言って、本当はあるんじゃないの? あんな本やこんな本の一冊ぐらい」
「そんなの俺が買う訳がない。それに最近は書籍じゃなくて電子の方が多いってこと知っとけ」


 決してそんな如何わしいものなんて持っていない。思春期の子供というのはあまり親や家族を自室に淹れたくない。それが如何わしいものがあるかどうかは別でもだ。
 そんなこと気にしてないかのように智美紀は無理矢理にも入ってこようとする。それに反抗するように俺も付き返すように扉を押す。そんな攻防が数分続いた末。結局智美紀が折れて、一階へと戻っていった。


「俺もまだ、子供だなあ」


 少しは成長したかと思ったものの、そういう訳ではなかったらしく、子供さが残っている自分に嫌気が差す。だが、今はそんなことより菜美に関してのことだ。
 とは言ってもどうすべきか、どういうことだったのか全く分からない。何とかしても理解をするために強硬手段に出るべきかどうか、頭の中でディベートを繰り返し、結論を出そうとする。
 だが、菜美がどう思うかと考えると、強硬手段が最適な選択なのか分からない。しかし、このようなするかしないかの状況で、菜美の要求にしっかりと応えるため。そんな理由だけで俺は強硬手段に出ることにした。
 思い立ったが吉日のように、俺は直ぐに自室を飛び出して、菜美の部屋の前に立つ。一回、二回と深く深呼吸をすると、ゆっくりとノックをする。


「......いいか?」


 俺の声が菜美の扉に向かって発せられてから数十秒後。諦めかけて部屋の前から立ち去ろうと踵を返したところで、服が引っ張られる。
 咄嗟に振り返ると、そこには俺の服の裾を掴んで、上目遣いで見上げる菜美の姿があった。菜美と俺との身長の差は案外あり、俺が少し屈めば同じくらいの視線になる。
 そのため、膝に両手を置きながら菜美の方を向いたまま屈み、質問をする。


「え~っと、別に......菜美が気に病まなくてもいいんだが、さっきの『部屋』ってどういう意味なんだ?」
「...........」


 返事は無い。ただ、視線を菜美の部屋に飛ばしていたため、釣られるように菜美の部屋へ視線を飛ばす。そこには廊下の明かりで辛うじて見える部屋の先は色んなゴミで散乱しているようだった。
 その光景からまさかと思いつつ、菜美に確認を取る。


「......部屋を掃除したいって訳か?」


 コクと小さく、申し訳なさそうに頷く菜美。そんな姿を見せられては断るにも断れない。......まあ元から断るつもりなんてなかったが。しかし、部屋の先だけでも見えるゴミの量から考えると、部屋の中には相当な量のゴミがありそうで少し先が思いやられる。だが、菜美の為と考えると苦ではない。


「取り敢えず、今日は忙しいから、明日でもいいか? 明日俺休みだし」


 菜美が首を縦に頷いて了承を得たので、取り敢えず課題が何とか達成したことに安堵する。そして明日忙しくなりそうだなと考えながら、俺の服の裾から手を離さない菜美をどうすべきか考えるのだった。
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