1 / 11
第一章:僕らに慣れるまで
第一章:プロローグ【始めは名前から】
しおりを挟む
俺には幼馴染がいる。そいつは男女構わず魅了するほどの美貌の持ち主で、誰にも優しく、誰からも慕われていた奴だった。陰とは真反対の存在で、陰キャと関わることなんてないはずだった。
そして幼馴染の俺とも関わることなんてもうないと思っていた。
だがある日、その幼馴染はボロボロになった姿で俺の家を訪れてきた。その姿は普段の様子からでは全く想像ができない程で、例えるなら何十回も使い回したボロ雑巾のようで。そんな幼馴染をそのまま追い返すなんてこと、俺にはできず、そのまま受け入れてしまった。
幸いにも両親は快く受け入れて、幼馴染の両親にも事情を話し、条件付けで俺の家に同居の関係となった。
それから幼馴染は部屋に引き込まり、学校を休み続け、気付けば高校二年生の二学期を迎えていた。
「じゃあな~」
「おう、また明日」
夕陽が差し込む教室で親しい男友達に別れの言葉を交わして俺は教室を後にする。放課後に関しては特に学校ですることは無いので、そのまま昇降口へ降りて外靴を履き、帰路を辿る。
変わり映えのないいつもの帰路を無心で歩くと、いつの間にか自宅に着いていた。そして、一度深呼吸をして肺の中の空気を新しくしてから玄関扉を開ける。
そして家の中に足を入れて、扉を閉めたところで背中に視線を向けられているのが分かる。疑問に思ってゆっくり背後に視線を向けると、そこには少し怯えるように立つ成長した幼馴染の姿があった。
「......どうかしたのか?」
「............」
「......部屋から出れたことはすごいことだと思うぞ」
久しぶりに姿を見た幼馴染にどんな言葉を掛けてよいものなのか分からず、取り敢えず今まで引きこもっていたのにも関わらず、今日は部屋から出てきていたので素直に褒めてみることにした。だが違ったらしい。幼馴染は無表情ながらも怒ったように部屋へ戻ろうとするので急いで腕を掴み引き留める。
そんな俺の行動に驚いたのか、幼馴染は勢いよく振り返る。しかし、顔は合わせようとせず、水色の水のような瞳は震えていて、怯えているようだった。
勇気を出して出てきてくれたのに怯えせてしまったらこれからも閉じ籠ってしまうのではないかと考え、瞬時に白い、華奢な腕を掴んでいた手の力を抜く。
すると幼馴染は目で追えないほどの速さで腕を体へ寄せると、二階へと通ずる階段と廊下を隔てる壁の陰に隠れてこちらの様子を伺うように顔を覗き込ませる。
取り敢えず久しぶりの印象は最悪になってしまったらしい。そんな風に困ったように後頭部をポリポリと掻いていると、リビングへ通ずるドアがキィという音を立てて開く。
「あれ? 帰ってきてたの?」
「あ、うん、ただいま」
「はいお帰りなさい......って突っ立ってどうしたの? 手を洗ってないなら洗ってほしいんだけど」
「いや、まあ、アイツが部屋から出てきたんだよ」
「...嘘!? 本当!?」
「本当だよ、ほらそこにいるぞ」
「わ~! 出てきてくれたのね~! ささ、そんなとこに居ちゃ寒いでしょ、リビングに行こ、ね?」
声を高くして壁の陰に隠れていた幼馴染に遠慮なしに近づくのは俺の母の相沢 智美紀で、智美紀は幼馴染の横に立つと、幼馴染の右腰へ手を添えてゆっくりと歩き出す。
内心一気に詰めすぎなのではと思っていたら案の定、幼馴染は困ったように智美紀を見上げていて、次に俺に対し助けを求めるような視線を向けてきた。......こんな時にも絶対に目を合わせないようにしていた。
ただ流石に人に慣れていない幼馴染に詰めすぎなので、何とか抵抗する智美紀を幼馴染の体から引き離すと、優しい声音で囁くように告げる。
「......まあ、俺らの久しい印象は悪いかもしれんが、この家の中なら仲間しかいないから、少しくらい気を休めても大丈夫だと思うぞ。あと、母さんのためにもリビングに来てやってくれ、ただ無理はしなくていいからな」
「...............」
コク、と頭を少し縦に振った幼馴染を見て慣れない笑みを浮かべると、そそくさと洗面所で手洗いうがいを済まし、また幼馴染に構ってる智美紀を引き離してからリビングへ足を運ぶ。
リビングに着くと、智美紀はリビングを後にした用事を思い出したらしく『じゃ、母さんは二階にいるから』とそれだけ残して姿を消す。
幼馴染はソファに座る俺をドアの近くで見てるだけで、決して近づいて来ようとしてこない。俺は適当にスマホを突いていたのだが、誰かに見られながらスマホを突くというのは少なからずも気まずさがあり、電源を落として制服のポケットに入れると、ソファの空いている部分をポンポンと叩いて幼馴染に言葉を飛ばす。
「え~っと、そこに立ったままは辛いだろ、空いてるから座ったらどうだ? 俺に退いてほしかったら退くから」
「...............」
何も反応しないが、静かにこちらへ近づいて来たので、俺はなるべく多くのスペースを渡すために、ソファのギリギリまで寄る。ソファの前に立つと、プルプルと震えた手でソファのシートを撫でてからゆっくりと身を預ける。
横目で幼馴染の姿を確認したが、ソファに座る幼馴染は肩を窄めて弱弱しく小さくなっていた。
どんな言葉を掛けて、どう会話を続けていけばいいのか分からず、思いついたことを片っ端からいってみることにする。
「家の中、というかリビングとか、風呂とか、そういうところには自由に行っていいからな? その行動が間違っていたとしても強く怒ることはないから......」
「............」
「え~っと......あ、そうだ、呼び名はどんなのがいいとかあるか? なかったら木村か、菜美って呼ぶが......」
特に反応がない。そのため、俺は少し躊躇いはあるものの、仲を深めるためにも幼馴染の名前で呼ぶことにする。まあほぼ同居の状態で苗字というのはどこか他人行儀のようなものがあるからな。
「じゃあ、菜美。......あと、改めて、これから同居人同士よろしくな」
始めは名前から、そこから徐々に、一歩一歩進んで行けばいい。そう考えて、ソファに深く身を預けるのだった。
そして幼馴染の俺とも関わることなんてもうないと思っていた。
だがある日、その幼馴染はボロボロになった姿で俺の家を訪れてきた。その姿は普段の様子からでは全く想像ができない程で、例えるなら何十回も使い回したボロ雑巾のようで。そんな幼馴染をそのまま追い返すなんてこと、俺にはできず、そのまま受け入れてしまった。
幸いにも両親は快く受け入れて、幼馴染の両親にも事情を話し、条件付けで俺の家に同居の関係となった。
それから幼馴染は部屋に引き込まり、学校を休み続け、気付けば高校二年生の二学期を迎えていた。
「じゃあな~」
「おう、また明日」
夕陽が差し込む教室で親しい男友達に別れの言葉を交わして俺は教室を後にする。放課後に関しては特に学校ですることは無いので、そのまま昇降口へ降りて外靴を履き、帰路を辿る。
変わり映えのないいつもの帰路を無心で歩くと、いつの間にか自宅に着いていた。そして、一度深呼吸をして肺の中の空気を新しくしてから玄関扉を開ける。
そして家の中に足を入れて、扉を閉めたところで背中に視線を向けられているのが分かる。疑問に思ってゆっくり背後に視線を向けると、そこには少し怯えるように立つ成長した幼馴染の姿があった。
「......どうかしたのか?」
「............」
「......部屋から出れたことはすごいことだと思うぞ」
久しぶりに姿を見た幼馴染にどんな言葉を掛けてよいものなのか分からず、取り敢えず今まで引きこもっていたのにも関わらず、今日は部屋から出てきていたので素直に褒めてみることにした。だが違ったらしい。幼馴染は無表情ながらも怒ったように部屋へ戻ろうとするので急いで腕を掴み引き留める。
そんな俺の行動に驚いたのか、幼馴染は勢いよく振り返る。しかし、顔は合わせようとせず、水色の水のような瞳は震えていて、怯えているようだった。
勇気を出して出てきてくれたのに怯えせてしまったらこれからも閉じ籠ってしまうのではないかと考え、瞬時に白い、華奢な腕を掴んでいた手の力を抜く。
すると幼馴染は目で追えないほどの速さで腕を体へ寄せると、二階へと通ずる階段と廊下を隔てる壁の陰に隠れてこちらの様子を伺うように顔を覗き込ませる。
取り敢えず久しぶりの印象は最悪になってしまったらしい。そんな風に困ったように後頭部をポリポリと掻いていると、リビングへ通ずるドアがキィという音を立てて開く。
「あれ? 帰ってきてたの?」
「あ、うん、ただいま」
「はいお帰りなさい......って突っ立ってどうしたの? 手を洗ってないなら洗ってほしいんだけど」
「いや、まあ、アイツが部屋から出てきたんだよ」
「...嘘!? 本当!?」
「本当だよ、ほらそこにいるぞ」
「わ~! 出てきてくれたのね~! ささ、そんなとこに居ちゃ寒いでしょ、リビングに行こ、ね?」
声を高くして壁の陰に隠れていた幼馴染に遠慮なしに近づくのは俺の母の相沢 智美紀で、智美紀は幼馴染の横に立つと、幼馴染の右腰へ手を添えてゆっくりと歩き出す。
内心一気に詰めすぎなのではと思っていたら案の定、幼馴染は困ったように智美紀を見上げていて、次に俺に対し助けを求めるような視線を向けてきた。......こんな時にも絶対に目を合わせないようにしていた。
ただ流石に人に慣れていない幼馴染に詰めすぎなので、何とか抵抗する智美紀を幼馴染の体から引き離すと、優しい声音で囁くように告げる。
「......まあ、俺らの久しい印象は悪いかもしれんが、この家の中なら仲間しかいないから、少しくらい気を休めても大丈夫だと思うぞ。あと、母さんのためにもリビングに来てやってくれ、ただ無理はしなくていいからな」
「...............」
コク、と頭を少し縦に振った幼馴染を見て慣れない笑みを浮かべると、そそくさと洗面所で手洗いうがいを済まし、また幼馴染に構ってる智美紀を引き離してからリビングへ足を運ぶ。
リビングに着くと、智美紀はリビングを後にした用事を思い出したらしく『じゃ、母さんは二階にいるから』とそれだけ残して姿を消す。
幼馴染はソファに座る俺をドアの近くで見てるだけで、決して近づいて来ようとしてこない。俺は適当にスマホを突いていたのだが、誰かに見られながらスマホを突くというのは少なからずも気まずさがあり、電源を落として制服のポケットに入れると、ソファの空いている部分をポンポンと叩いて幼馴染に言葉を飛ばす。
「え~っと、そこに立ったままは辛いだろ、空いてるから座ったらどうだ? 俺に退いてほしかったら退くから」
「...............」
何も反応しないが、静かにこちらへ近づいて来たので、俺はなるべく多くのスペースを渡すために、ソファのギリギリまで寄る。ソファの前に立つと、プルプルと震えた手でソファのシートを撫でてからゆっくりと身を預ける。
横目で幼馴染の姿を確認したが、ソファに座る幼馴染は肩を窄めて弱弱しく小さくなっていた。
どんな言葉を掛けて、どう会話を続けていけばいいのか分からず、思いついたことを片っ端からいってみることにする。
「家の中、というかリビングとか、風呂とか、そういうところには自由に行っていいからな? その行動が間違っていたとしても強く怒ることはないから......」
「............」
「え~っと......あ、そうだ、呼び名はどんなのがいいとかあるか? なかったら木村か、菜美って呼ぶが......」
特に反応がない。そのため、俺は少し躊躇いはあるものの、仲を深めるためにも幼馴染の名前で呼ぶことにする。まあほぼ同居の状態で苗字というのはどこか他人行儀のようなものがあるからな。
「じゃあ、菜美。......あと、改めて、これから同居人同士よろしくな」
始めは名前から、そこから徐々に、一歩一歩進んで行けばいい。そう考えて、ソファに深く身を預けるのだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~
メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」
俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。
学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。
その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。
少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。
……どうやら彼は鈍感なようです。
――――――――――――――――――――――――――――――
【作者より】
九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。
また、R15は保険です。
毎朝20時投稿!
【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
新しい派遣先の上司が私のことを好きすぎた件 他
rpmカンパニー
恋愛
新しい派遣先の上司が私のことを好きすぎた件
新しい派遣先の上司は、いつも私の面倒を見てくれる。でも他の人に言われて挙動の一つ一つを見てみると私のこと好きだよね。というか好きすぎるよね!?そんな状態でお別れになったらどうなるの?(食べられます)(ムーンライトノベルズに投稿したものから一部文言を修正しています)
人には人の考え方がある
みんなに怒鳴られて上手くいかない。
仕事が嫌になり始めた時に助けてくれたのは彼だった。
彼と一緒に仕事をこなすうちに大事なことに気づいていく。
受け取り方の違い
奈美は部下に熱心に教育をしていたが、
当の部下から教育内容を全否定される。
ショックを受けてやけ酒を煽っていた時、
昔教えていた後輩がやってきた。
「先輩は愛が重すぎるんですよ」
「先輩の愛は僕一人が受け取ればいいんです」
そう言って唇を奪うと……。
元おっさんの幼馴染育成計画
みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。
だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。
※この作品は小説家になろうにも掲載しています。
※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる