キミに託す

空野そら

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キミに託す【第一部】

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 学校からの帰り道。いつも通りに歩いていると、交差点に差し掛かったところで俺はあることに気付く。

「ん? あれ......あの速度は絶対に信号無視する速さですやん」

 交差点よりおよそ100mほどの距離から止まることを知らないような速度で走る車を捉える。そんな車を見たところで俺に何かできるかと問われたら何もできない。

 だが俺は気付いてしまった。歩行者用の信号機が青色で、ちょうど横断歩道を歩いている同じ高校の制服の女子がいることに。
 あと5秒ほどで轢かれてしまいそうな、そんな感じだった。

 そんな光景を目にした瞬間、俺は考えるよりも先に体が動き、火事場の馬鹿力というものなのだろう。俺は今までに出したことのない程の速さで走り、女子に向かって叫ぶ。

「おい! 早く行け! 轢かれるぞ!」
「え......?」

 素っ頓狂な声を漏らす女子。急なことで理解ができていないのだろう。動かず、立ち止まってしまう。

(クッソ、まだ間に合うか? ......いや予想より時間ねーーーー!)

 運転席で項垂れている男性。意識を失っているようなそんな姿と、もう寸前までやってきている車。
 俺はもう間に合わないと思いながらも最後の悪あがきで女子に向かって腕を伸ばし————
 ドンッ

 そんな鈍い音と共に俺の意識はプツンと充電が切れてしまったスマートフォンの様に消えてしまい、深い闇の底へ落ちて行ってしまった。



 死んだ? 死んだら三途の川だったり、花畑だったりと何かが見れるのではと思ったが、実際はただ面白味がなく、何もない虚無の世界だったらしい。
(いや、ほんとになんもねぇな)

 どれほどの時間が経過したのか、一切分からない。ただ暇すぎて一人しりとりなどなんだか悲しいことをしていた。
 すると、何故か急に意識が戻り、体の五感が徐々に戻ってくる感覚がする。

 何が起きているのか、轢かれて生きていたのか色々と疑問が湧き出てきたためゆっくりと、思い瞼をこじ開ける。
 見える限りの情報では、白く、何か模様が施されているような天井? が見える。もちろんこんな天井にはここ最近見覚えはない。

 なぜ見知らぬ天井がそこにあるのか、理解不明で、その謎を解明すべく、体を起こして辺りを見渡そうとする。しかし、体を少し動かしたところで体全体を激しい痛みが襲った。

「あっ起きましたか!?」
「っ~~~~~~」
「あまり動かないでください、体の至る所が骨折してるんですから」
「......ぁ?」

 耳をつんざくほどの明るく、高い声が耳に届き、体の痛みも合わさって俺は声にならない声を上げる。
 その声も見知らぬ天井と同じく聞き覚えがなく、疑問混じりの小さな声を漏らす。

 しかし、聞き覚えのない声に衝撃的な「体の至る所が骨折してる」という言葉に体を動かす気力が削がれてしまった。
 そして、見知らぬ声が「先生を呼んできます」と告げると、どこかに行ってしまう。
 しばらくして、ドアが開くような音と共に、複数人が会話をする声が聞こえてくる。

三上みかみさ~ん? 大丈夫ですか? ここがどこか分かります? 少し眩しくなりますよ~」
「ぁ......分かり、ません......」
「おっけ受け答えができてるからダイジョブだね」

「それ、は、本当、に、大丈夫、なのか?」
「うんうん、ツッコめるなら大丈夫だよ、まあまたあとで来るからそれまで寝ておきな」
「は、はあ......」

 三上と、俺の苗字を呼ばれ、白衣を着た男性が視界の端に現れる。その医者であろう男性と少しコントのような会話を交わし、医者から寝ることを促され眠気もあったため素直に瞼を閉じる。



「先生、この方は......」
「ああ、三上さんは40kmぐらいの車に撥ねられたんだよ」
「それは知ってます」

「そうだったそうだった。三上さんは車に撥ねられた反動で体が高く上がっちゃって、高所から落ちたことも合わさって全身複雑骨折。リハビリも含めて全治1年ちょっとぐらいかな?」

「全身複雑骨折......」
「うん、後は少し臓器の機能が悪くなったくらいかな、でも奇跡的に意識はあってよかった」

 目の前の介護用ベッドで寝息を立てて眠りに就いている男性を眺めながら、目の前の医師の話を聞く。彼は私が車に撥ねられそうになった時に身を挺してまで私を守ってくれた、所謂命の恩人である。

 彼は2週間ほど寝たきりで、最近までずっと寝たきりだと言われていた。しかし、先ほど覚ます兆候なしに急に目を覚まして医師と会話を交わしていた。
 医師が言うには彼は体にものすごい損傷を受け、全治するには1年以上かかるとのことらしい。

「でもこの方って......」
「ん~まあそうだね、三上さんずっと健康診断行ってなかったみたいで、気付いていなかったみたいなんだけど、三上さん、癌みたいだね。しかもステージ4の深刻な状態」
「今回の事故でさらに体の状態が悪くなってしまった。そうですよね?」
「まあ、そうだね」
「あっ、このことはまだ秘密ね」

 医師から教えてもいいのか分からない情報を教えてもらう。命の恩人である彼に、私は医師から教えてもらった彼に癌である可能性が高いという情報で決意する。
(......彼が万全な状態で退院するまで、毎日お見舞いに......)
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