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第7話(前篇):屋上

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     偽妹(ぎもうと)
―憎い男に身体を開かれていく―



■第7話(前篇):屋上





――学校




「あ、うんうん・・・」


ミカからサトシのことを聞かれると、
最近のフミはどうしてもぞんざいになっていた。



「ねぇ?ちゃんと教えなさいよぉ~
お兄ちゃん情報知りたいんだから!」


ミカが一人っ子だからそう言うが、本来はフミもそうなのだ。
兄弟もいなければ姉妹もいない。



なるべくサトシのことを話そうとするが、
「兄妹」を超えるエピソードが多くて話せない。


そのため、兄に対するイメージで補うしかなかった。
それは小さなウソとも言える。

フミのなかに少しずつウソが積もっていった。



もうひとつ、フミには絶対にミカに言えない変化がある。



・・・サトシにされている悪戯いたずらのことだった。


とくに、ローターを仕込んで1日を過した経験によって、
フミはミカとは別の次元に行ってしまったような気になっていた。



フミは陰部が自分のなかで明らかにウエートが
変わってきたことを認めざるを得なくなっていた。


これまで、あまり意識しないようにしていたことが、
サトシの所為せいで毎日のように意識するようになっていた。


ミカに対する秘密は決定的に増えてしまっていた。






(・・・このまま秘密にしておかないと・・・)



ミカと話しているときは楽しい。
それがサトシの話題になると、別の自分が冷たい目を向けている気がした。

友達に平気でウソを言っている自分が自分でも怖くなっていた。


フミは放課後、すぐには帰らなくなった。
塾に向かうミカを見送ったあと、校内をぶらぶら歩いた。


演劇部にも行ってみようかと思ったが、
練習中にお邪魔するのは、どうにも場違いに思えた。



どこか落ち着けるところを探して、
図書室に行ったり、自習室に行ったりした。


どちらをのぞいても、たくさん人がいてけっこうザワついていた。
フミがゆっくり落ち着けるような雰囲気ふんいきではなかった。



当てもなく廊下を歩いていると、窓の向こうの校舎がふと目にまった。




(・・・屋上か・・・)



これまで一度も行ったことはなかった。


クラスメイトから聞いた話では、自由に上がれるらしい。
その話を思い出して、フミは行ってみることにした。







屋上に続く階段は暗くて、気味が悪かった。
最後のドアから差し込む光を目指して、足早に登っていった。



・・・ギギギギギギ・・・


ドアは重たかった。
ゆっくり開けると、目の前に青空が広がっていた。




風が髪の毛をなびかせる。

フミは髪の毛を押さえながら、屋上を見渡した。


コンクリートは古びていて、黒ずんでいる。
一面は平らではなく、彼女の背丈を超える機械が所々にある。


空調の室外機だろうか、同じ形をした大きな箱型が立ち並んでいる。
その並びからは金属パイプが階下に伸びているようだった。

空とは対照的に、屋上の様子は殺風景だった。



階段のある出入口のドアから、屋上を一回りしてみると、
機械にさえぎられて見渡せないところも少なくなかった。

やはり息抜きという役割があるのだろうか、ベンチも複数設置されていた。


フミはドアから近いベンチに腰掛けて、ぼんやりと空を見上げた。
ゆっくりと雲が流れていく。風が時折かすかに吹いている。

幾分気持ちが楽になったような気がした。


誰もいない屋上は居心地が良かった。





・・・この日から、フミはよく屋上を訪れるようになった。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





――数日後











今日もフミは屋上に上がって、ベンチでうつむいていた。




「何だよー?お前、調~子悪いのか~?」



どこからともなく女子の声がした。
誰もいないと思っていたフミはキョロキョロ見回した。




「おーい、上だよ、ここだよ~」



そう言われて、ようやく上に顔を向けた。
意外なところから声が聞こえた。

階段のある出入口からだった。



「登ってくる?」


「・・・うん」


知らない声だったが、フミはその誘いに応じた。


出入口をぐるりと回ってみたが、登れるようにはなっていなかった。
どうすればいいのか戸惑っていると、上から梯子はしごが下ろされてきた。

フミは用意がいいものだと感心しながら、その梯子を登った。
一段ごとに視界が変わっていく。意外に高さがあった。

もう視界のほとんどが空になる。


登りきると、白いパラソルのもとに女の子が座っていた。
パラソルが作りだす影が風に揺れている。

出入口の上は、数人が寝転がれるくらいのスペースがあった。
そこにブラウンのラグがかれていた。




「よっ、アタシたち屋上フレンズだね」



初めて見る人だった。クラスが違うと初対面の人が少なくない。
見た目は派手で、制服も着崩していた。




「ふふっ」


思いがけない言葉にフミは笑った。

本来、彼女は初対面の人が苦手だった。
以前の彼女なら、強張こわばった表情になっていただろう。




(人と話すときはちょっとでも笑うことを心掛けな・・・)



サトシに言われた言葉が浮かんできた。
年上の教訓だった。


フミの部屋を訪れては悪戯をする彼だったが、
映画や動画を観ていると、たまに年上なことを言った。

言われたときはおもしろくないのだが、
後になって思い出してしまうのが不思議だった。



「アタシ、アイカってんだ。お前は?」


にっこり笑って、人懐ひとなつっくいてきた。
その顔に、言葉にきつけられた。



「・・・わたし、フミ」



アイカは「ギャル系」と呼ばれる格好をしていた。

フミはそういう人たちを苦手に感じていたが、
彼女の話し方や、同じように屋上にいることに惹かれた。



「最近ちょくちょく見かけるようになって、
今日思い切ってナンパしてみたってワケ」


「ナ、ナンパ!?」


その言葉にちょっと驚いた。それに急に恥ずかしくなってきた。
誰もいないと思っていたのを、上から眺めていた人がいた。




「ワケあり?よかったら話してみなよ」


さっきより落ち着いたトーンだった。
思わず引き込まれそうになる。



「・・・ちょっと・・・悩んでることがあって・・・」



「空を見てると落ち着くんだよね~」


アイカは落ち着いたトーンで、
脈絡みゃくらくの無いことを言った。


空を見上げた彼女の顔をまじまじと見つめた。


日焼けした肌、少し派手なメイク、
切れ長の目は美しく、瑞々みずみずしい瞳をしていた。


脇のラグをぽんぽんして、フミにすすめた。
不思議と次の言葉を誘われる気がした。



「うん・・・」



フミは悩み事を人に話した経験が無い。それも異性の悩み事である。

とてもデリケートな事柄であるにもかかわらず、
フミは初対面のアイカに話してみたくなってしまった。






・・・ふたりのいる出入口の遥か上空を
雲が静かに通り過ぎていく。






・・・光が雲に遮られては、また差す。







アパートの隣りに暮らすサトシとのこと・・・

一番の友達のミカに彼の関係でウソをついたこと・・・

人には言えないような悪戯をする彼とのこと・・・



自分でも思い切ったことを話していると思った。


アイカにとっても初対面のはずだった。
相槌あいづちを打ちながら、その時々の気持ちをたずねてきた。


言葉でつむぐ、通り過ぎていった少し前までの出来事。
そのときの気持ちを思い出していると、光景が鮮明によみがえってきた。



「男がからむと大変だよね・・・」


アイカが呟いた。


話が終わって、アイカは背伸びしながら後ろに倒れ込む。
それを見てフミも同じようにしてみた。


小さくぼこぼこしているラグを背に、
パラソルの裏から空が少し透けて見える。


ふわりと風が吹き抜けていく。
ふたりは仰向あおむけになったまま、ぼんやりした。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





――1週間後












屋上でアイカと出会ってから、
ふたりはよく話すようになった。


彼女は放課後をほとんど毎日、
出入口の上でくつろいでいるという。


無味乾燥な学校に、屋上の存在は貴重だった。
あの場所だけ雰囲気が違っていた。



フミにとって、アイカは出会ったことのないタイプだった。

見た目は少し派手だが、とくに目が印象的だった。
どこか優しくて、それに惹き付けられた。


フミの話をじっくり聞いてくれるのがうれしかった。
他の女子なら、サトシのことは絶対に話さなかった。


一般的な女子の常識では、サトシのことなど
冷やかされ、陰で悪口をささやかれることは明らかだった。



人との関係が、ある基準をもとにした絶対的なものか、
相対的なものか、これに決定的な違いがあるようだった。


グループ内や一般的な常識で物事を判断するか、
相手の事情を気遣きづかいながら話を聞いて物事を判断するか。



アイカは明らかに後者だった。



フミは彼女を初めて見たとき、
瞬間的に前者のほうだと思い込んでいた。


それでも、彼女の印象的な目に感じることがあって、
話そうと思ってしまった。



今から思えば、その決断は危ないものだったかもしれない。


クラスメイトであったならば、
陰口が広まっていたかもしれない。




幸いにして、そうはならなかった。
うわさ話に通じているミカからも聞いたことが無い。





フミは言葉にこそしなかったが、
「アイカは口が堅い」という評価が自分のなかに出来上がった。



彼女に対する勝手な思い込みは消えていった。








「彼氏とかいる・・・の?」





フミはアイカがどんな恋愛をしているのか気になっていた。


仲良くなってきてはいるものの、彼氏の有無をたずねるのは気が引けたが、
どうしてもいておきたかった。



「うん、付き合ってるよ・・・」



堂々とした言葉にフミは胸がけた。そのような予感はしていた。
恋愛にせよ、人付き合いにせよ、自分よりも進んでいる気がしていた。



「違う学校なんだけどね。」


放課後は夜遅くまで一緒にいることが多いらしい。

屋上の出入口にいるのは寛ぐことばかりが理由ではなかった。
放課後に彼氏と会うまでの時間つぶしというのも大きいようだ。



そして、話はサトシとの関係になった。


「はぁ?お前、まだヤッてねぇのかよ!?」


アイカは呆れた。

これまでにフミが話していた内容から、
彼女はもう済ませていると思っていた。



「不思議な男だな?フツーはすぐヤルけどなぁ・・・」



否定的な感想が出てないことがフミには意外だった。

「ヒドイ男だ」といった言葉を期待していたが、
彼女の表情に含みは感じられなかった。



「アイカはもう経験あるの?」



「うん、会うときはけっこうヤッてるよ」


当然のような口ぶりだった。
それを聞いて、フミは動揺してしまう。



「フミはいつ処女あげんだよ?」


「・・・分からない・・・というか、絶対あげたくない」


後半の言葉は思ったより、強く言ってしまった。



「・・・・・・・・・」


フミの言葉に少し驚いたのか、
何も言わずに顔を見るばかりだった。




「アイカはサトシのことどう思う?」

フミは何か言ってほしくて、言葉を継いだ。
つかみどころの無いサトシについて、アイカはどう思うのか。



「・・・ヤリたいだけの男とは違うんだよね・・・
フミの話を聞いてるとさ・・・」



ちょっと困ったような顔をした。

男性の様々なタイプと見比べるようだった。






「アタシが知らない男だな・・・」


アイカがにっこりする意味が分からなかった。













(つづく)
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